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三千世界・黎明(11)
第五話「サッドネス・マッドネス」
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蒼空都市 南部未開発地区・廃屋
イ・ファロイは超越世界の天体の一つであるこの星において、メルカトル図法的地図の最南端に位置する都市である。その中でも更に南部にあるこの廃屋は、南国の浜辺のように真白い砂浜の上に建っていた。
廃屋の周辺は未開発地区であり、数年前に流行った不動産ブームの残骸たる作りかけの高層マンションが乱立している。舗装された幅広の道路に、シャトレが降り立つ。
「尾けられていたか。まあよい。それにしても、ホワイトライダーの気配を辿ったあの二人……」
肌寒い海風が通り過ぎて行くなかを、シャトレは廃屋を目指して進んでいく。観光客用の土産屋のような構えの廃屋の、正面の扉を開ける。無造作に並べられた商品棚の合間を抜けてバックヤードへ入ると、そこはベッドやゲーム機などが乱雑に配置されており、妙に艶々しているパジャマ姿のアリアが彼女を出迎える。
「お帰りなのです、シャトレちゃん!」
「うむ」
「あれ?鎧はどうしたのです?」
「それがじゃな……」
「とりあえず座るのです」
シャトレの言葉を遮ってアリアが強引にクッションの上に座らせ、アリアも同じように別のクッションに尻を預ける。
「中心部の辺りを探索しておったのじゃが、そこでレイヴンに出会ったのじゃ」
「お兄様に?生きてたのです?」
「ああ。妾もシャングリラでアルメールに聞いたところによればメビウス事件で死んだと聞いておったが……まあ、冷静に考えればアリア、お前もメビウス事件で死んだと見られていてもしょうがない。とすれば、奴が生きておるのも無理はない話じゃ。それはともかく、レイヴンとは小競り合いで済ませたが……つい先刻、ラータとルータと交戦した」
「その二人も……」
「うむ。三千世界の戦いで死んだはずの人間じゃな。じゃがこちらも、主が生きている時点で不自然なことではない。ラータとはかなり踏み込んだ戦いをしてしまったのじゃ。それで、鎧を砕かれた」
「じゃあ、新しいのを明人くんに作ってもらわないと、なのです」
「そうじゃなぁ……じゃが主は心配性じゃから、面倒じゃな。ところで、お前はどうしてそんな色艶がはっきりとしておるのじゃ」
「え?ついさっきまで明人くんと家族作りをしてたのですよ」
「……。まあ、健やかなのは良いことじゃな。肝心の主はどこへ行ったのじゃ?」
「さっきおばあちゃんと一緒に出掛けたのです。たぶん――」
「揃いも揃って性欲が漲りすぎじゃぞ。妾も主を婿にしようとしている以上言えた義理ではないが……セックスの途中で不意打ちを受けて死ぬなどと言う無様なことがないよう頼むぞ」
「大丈夫なのですよ、今は。お兄様たちなら、シャトレちゃんの後を尾けて私たちに攻撃を仕掛けるのだって、今すぐにでもできるはずなのです。でもそれをしない。なら、向こうも何らかの理由を持って行動していることの裏付けに他ならないのです。そして私たちがアルヴァナの手先になった以上、他の王龍は敵対する理由がないし、それ以外で私たちを倒せる人がいるとは思えないのですよ」
「ま、まあそうじゃな……すまぬ、妾はお前のことを少々間抜けじゃと思っておったが、意外にちゃんと状況を読んでおったのじゃな」
「いいのですよ。だから、シャトレちゃんも今の内に明人くんにたくさん甘えておくのですよ?」
「うむ。愛は平和な内に育むのが一番じゃ。非常事態でこそ育つものもあるが……それは気の迷いに近いからの」
シャトレが伸びをする。
「妾は寝るのじゃ。主が帰ってきたら起こしてくれ」
そう言うと、彼女は幅広のマットレスを敷いたベッドに横になり、瞬きの内に眠りについた。
「お兄様が生きていたのですか……ちょうどいいのです。お兄様と明人くん、どちらが世界の意志の尖兵に相応しいか、ちょっと確かめてみるのもいいかもしれないのです」
アリアが呟き、ヘッドホンをつけて携帯ゲーム機の電源をオンにする。
イ・ファロイは超越世界の天体の一つであるこの星において、メルカトル図法的地図の最南端に位置する都市である。その中でも更に南部にあるこの廃屋は、南国の浜辺のように真白い砂浜の上に建っていた。
廃屋の周辺は未開発地区であり、数年前に流行った不動産ブームの残骸たる作りかけの高層マンションが乱立している。舗装された幅広の道路に、シャトレが降り立つ。
「尾けられていたか。まあよい。それにしても、ホワイトライダーの気配を辿ったあの二人……」
肌寒い海風が通り過ぎて行くなかを、シャトレは廃屋を目指して進んでいく。観光客用の土産屋のような構えの廃屋の、正面の扉を開ける。無造作に並べられた商品棚の合間を抜けてバックヤードへ入ると、そこはベッドやゲーム機などが乱雑に配置されており、妙に艶々しているパジャマ姿のアリアが彼女を出迎える。
「お帰りなのです、シャトレちゃん!」
「うむ」
「あれ?鎧はどうしたのです?」
「それがじゃな……」
「とりあえず座るのです」
シャトレの言葉を遮ってアリアが強引にクッションの上に座らせ、アリアも同じように別のクッションに尻を預ける。
「中心部の辺りを探索しておったのじゃが、そこでレイヴンに出会ったのじゃ」
「お兄様に?生きてたのです?」
「ああ。妾もシャングリラでアルメールに聞いたところによればメビウス事件で死んだと聞いておったが……まあ、冷静に考えればアリア、お前もメビウス事件で死んだと見られていてもしょうがない。とすれば、奴が生きておるのも無理はない話じゃ。それはともかく、レイヴンとは小競り合いで済ませたが……つい先刻、ラータとルータと交戦した」
「その二人も……」
「うむ。三千世界の戦いで死んだはずの人間じゃな。じゃがこちらも、主が生きている時点で不自然なことではない。ラータとはかなり踏み込んだ戦いをしてしまったのじゃ。それで、鎧を砕かれた」
「じゃあ、新しいのを明人くんに作ってもらわないと、なのです」
「そうじゃなぁ……じゃが主は心配性じゃから、面倒じゃな。ところで、お前はどうしてそんな色艶がはっきりとしておるのじゃ」
「え?ついさっきまで明人くんと家族作りをしてたのですよ」
「……。まあ、健やかなのは良いことじゃな。肝心の主はどこへ行ったのじゃ?」
「さっきおばあちゃんと一緒に出掛けたのです。たぶん――」
「揃いも揃って性欲が漲りすぎじゃぞ。妾も主を婿にしようとしている以上言えた義理ではないが……セックスの途中で不意打ちを受けて死ぬなどと言う無様なことがないよう頼むぞ」
「大丈夫なのですよ、今は。お兄様たちなら、シャトレちゃんの後を尾けて私たちに攻撃を仕掛けるのだって、今すぐにでもできるはずなのです。でもそれをしない。なら、向こうも何らかの理由を持って行動していることの裏付けに他ならないのです。そして私たちがアルヴァナの手先になった以上、他の王龍は敵対する理由がないし、それ以外で私たちを倒せる人がいるとは思えないのですよ」
「ま、まあそうじゃな……すまぬ、妾はお前のことを少々間抜けじゃと思っておったが、意外にちゃんと状況を読んでおったのじゃな」
「いいのですよ。だから、シャトレちゃんも今の内に明人くんにたくさん甘えておくのですよ?」
「うむ。愛は平和な内に育むのが一番じゃ。非常事態でこそ育つものもあるが……それは気の迷いに近いからの」
シャトレが伸びをする。
「妾は寝るのじゃ。主が帰ってきたら起こしてくれ」
そう言うと、彼女は幅広のマットレスを敷いたベッドに横になり、瞬きの内に眠りについた。
「お兄様が生きていたのですか……ちょうどいいのです。お兄様と明人くん、どちらが世界の意志の尖兵に相応しいか、ちょっと確かめてみるのもいいかもしれないのです」
アリアが呟き、ヘッドホンをつけて携帯ゲーム機の電源をオンにする。
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