406 / 568
三千世界・結末(10)
第三話「注ぐ星の唄」
しおりを挟む
三千世界 創世天門
「せいっ!」
ホシヒメの正拳がプロミネンス・デイを貫き焼き尽くす。表面が消滅して液状のE‐ウィルスがぶちまけられ、蛆が飛び散って悶え焼け焦げる。それが最後の敵で、ゼロと二人で一息つく。
「対処法に気付くまで、少々手間取ったな」
ゼロが刀を消す。
「そうだね。私たち二人がかりで時間かかるなんて、誉めてあげなきゃ」
ホシヒメが肩を竦めると、ゼロが続く。
「何者かが俺たちをここに釘付けにしておきたかったのだろうが……」
そこで言葉を止める。
「どしたの?」
「見ろ」
ゼロが向く方向にホシヒメも倣うと、遠くから何者かが近付いてくる。次第にシルエットは微細な形を描写し始め、彼らの前に立った時点で鮮明になった。
「ホシヒメさん……なんでここにいるッスか」
折れた槍を携えた青年――ストラトスが、ホシヒメの姿を見て驚く。
「知り合いか」
「さあ……?」
ゼロが訊ねるが、ホシヒメは首を横に振る。
「あ、そっか。ええっと、正史のホシヒメさん、ってことッスか?」
「そうっすよ」
ホシヒメはなぜか語尾を真似て返事する。
「横の人は……」
ストラトスがゼロへ視線を向ける。
「この阿呆の好敵手だ。ゼロと呼べ」
「ゼロさん……」
「貴様はなぜこんなところに居る」
ゼロの鋭い声に、ストラトスは臆することなく即答する。
「俺はこの先にいる、アルバを救うためにここまで来た」
「「アルバ……」」
ホシヒメとゼロがハモると、ホシヒメが続けて言葉を発する。
「アルバちゃんが、この先に……?」
「なるほど、コルンツの血筋か。ならば、これほど大掛かりな舞台を用意できるのも頷けるな。クラエス、貴様はこの男、どう思う」
「うーん……」
ホシヒメがストラトスを見る。
「私は別に問題ないと思うけど……うん、何があったかは知らないけど、すごく大きな哀しみを背負ってるね。それに、どこかに戻るために前へ進もうとしてる」
「俺は……」
ストラトスがふっと目を閉じ、覚悟を決めて開く。
「俺は、何を背負っても、絶対にやり遂げるって決めてるんス」
その言葉に、二人は頷く。
「クラエス、こいつと共に行け」
「ゼロ君は?」
「俺はしばらくここにいる。追手が来ないとも限らん」
「わかった。無理は駄目だからね!」
ホシヒメはストラトスの手を取り、創世天門を潜り抜けて操核に向けて駆ける。
「何にせよ、世界の危機となればバロンが来るはずだ。俺とクラエスに敵う者が多いとは思わんが……安牌を踏むことで損はしないはずだ」
ゼロは腕を組み、佇む。
三千世界 操核
球体に突入したホシヒメたちは、闇の上に降り立つ。青白い光が樹木のように集結し、幻想的な森林を形成していた。
「あの……ホシヒメさん」
ストラトスが口を開くと、ホシヒメがそれに食い気味に反応する。
「哀しかったら、ちゃんと哀しいって言わないと駄目だよ。気持ちを飲み込んで、何もなかったように振る舞える人なんて、いないからね」
「ホシヒメさん……なーんか、俺の知ってるホシヒメさんよりちょっとアホッスね」
「えへへ、そうでしょ?私、何事も深く考えないようにしてるから!」
「でも、感じる暖かさは同じッス」
談笑していると、急にホシヒメが立ち止まる。
「どうしたッスか?」
「君は先に行って」
ホシヒメの真剣な声に、ストラトスは頷き、森林の中を走り抜ける。彼の姿が見えなくなると、一本の樹木の背後からネブラが現れる。
「ホシヒメ……あの時、助けてくれたことには礼を言おう」
ネブラは腕を組んだまま、確かめるように一歩ずつ踏み込む。ホシヒメと向き合うように立ち、ため息をつく。
「開いた理想郷への扉の向こうで、私はいつの間にか終末の尖兵にさせられていた」
苛つきが諦めに変わるように、ネブラは首を振る。
「事ここに至って初めて、私たちの計画の視点の短絡さに気付いた。いかに掛け替えのない一つの世界であっても、それを救ったところで何の解決にもならない、とな」
「そう、なのかな。私には難しいことはよくわかんないよ」
「いつもお前の単細胞さには歯痒い思いをしてきた。世界のことを真に思わぬものに、なぜ計画を潰されねばならないのかと。だが、だがな。世界を守るなど、所詮は人間のエゴではないか?人間はそもそも世界の一部だ。何度世界を越えようと何度でも滅びはやってくる。終わりなどない。なぜなら、それが自然の輪転だからだ」
「そうだね。だから、君たちのやったことは、世界を守ることが本質じゃないんだ。誰が世界の先陣を切るか。世界の舵取りとなることが本質だったんだよ」
「難しいことはわからないと言いつつも、随分な考察だな。だがそれが正解だということも事実だ。私はそれに成り損ねた」
ネブラの体がふわりと浮き上がり、周囲に黒輪が現れる。
「ホシヒメ。私にはもう何も残っていない。あるのはただ、お前と決着をつけたい、それだけだ。例え――万が一にも、お前に追い縋ることさえ出来ずとも、戦わずして世界の終わりを見届ける気はない」
ホシヒメは躊躇なく頷き、屈託のない笑みを見せる。
「もっちろんだよ!辛かったことも、楽しかったことも、全部、私に見せてよ!」
「楽しかった、ことか……」
一つの黒輪からナノマシンが溢れ、瞬時に拳を形成して放つ。ホシヒメはタックルしつつ右腕を薙ぎ払って黒輪を砕き、飛び上がる。
「せいっ!」
ホシヒメの正拳がプロミネンス・デイを貫き焼き尽くす。表面が消滅して液状のE‐ウィルスがぶちまけられ、蛆が飛び散って悶え焼け焦げる。それが最後の敵で、ゼロと二人で一息つく。
「対処法に気付くまで、少々手間取ったな」
ゼロが刀を消す。
「そうだね。私たち二人がかりで時間かかるなんて、誉めてあげなきゃ」
ホシヒメが肩を竦めると、ゼロが続く。
「何者かが俺たちをここに釘付けにしておきたかったのだろうが……」
そこで言葉を止める。
「どしたの?」
「見ろ」
ゼロが向く方向にホシヒメも倣うと、遠くから何者かが近付いてくる。次第にシルエットは微細な形を描写し始め、彼らの前に立った時点で鮮明になった。
「ホシヒメさん……なんでここにいるッスか」
折れた槍を携えた青年――ストラトスが、ホシヒメの姿を見て驚く。
「知り合いか」
「さあ……?」
ゼロが訊ねるが、ホシヒメは首を横に振る。
「あ、そっか。ええっと、正史のホシヒメさん、ってことッスか?」
「そうっすよ」
ホシヒメはなぜか語尾を真似て返事する。
「横の人は……」
ストラトスがゼロへ視線を向ける。
「この阿呆の好敵手だ。ゼロと呼べ」
「ゼロさん……」
「貴様はなぜこんなところに居る」
ゼロの鋭い声に、ストラトスは臆することなく即答する。
「俺はこの先にいる、アルバを救うためにここまで来た」
「「アルバ……」」
ホシヒメとゼロがハモると、ホシヒメが続けて言葉を発する。
「アルバちゃんが、この先に……?」
「なるほど、コルンツの血筋か。ならば、これほど大掛かりな舞台を用意できるのも頷けるな。クラエス、貴様はこの男、どう思う」
「うーん……」
ホシヒメがストラトスを見る。
「私は別に問題ないと思うけど……うん、何があったかは知らないけど、すごく大きな哀しみを背負ってるね。それに、どこかに戻るために前へ進もうとしてる」
「俺は……」
ストラトスがふっと目を閉じ、覚悟を決めて開く。
「俺は、何を背負っても、絶対にやり遂げるって決めてるんス」
その言葉に、二人は頷く。
「クラエス、こいつと共に行け」
「ゼロ君は?」
「俺はしばらくここにいる。追手が来ないとも限らん」
「わかった。無理は駄目だからね!」
ホシヒメはストラトスの手を取り、創世天門を潜り抜けて操核に向けて駆ける。
「何にせよ、世界の危機となればバロンが来るはずだ。俺とクラエスに敵う者が多いとは思わんが……安牌を踏むことで損はしないはずだ」
ゼロは腕を組み、佇む。
三千世界 操核
球体に突入したホシヒメたちは、闇の上に降り立つ。青白い光が樹木のように集結し、幻想的な森林を形成していた。
「あの……ホシヒメさん」
ストラトスが口を開くと、ホシヒメがそれに食い気味に反応する。
「哀しかったら、ちゃんと哀しいって言わないと駄目だよ。気持ちを飲み込んで、何もなかったように振る舞える人なんて、いないからね」
「ホシヒメさん……なーんか、俺の知ってるホシヒメさんよりちょっとアホッスね」
「えへへ、そうでしょ?私、何事も深く考えないようにしてるから!」
「でも、感じる暖かさは同じッス」
談笑していると、急にホシヒメが立ち止まる。
「どうしたッスか?」
「君は先に行って」
ホシヒメの真剣な声に、ストラトスは頷き、森林の中を走り抜ける。彼の姿が見えなくなると、一本の樹木の背後からネブラが現れる。
「ホシヒメ……あの時、助けてくれたことには礼を言おう」
ネブラは腕を組んだまま、確かめるように一歩ずつ踏み込む。ホシヒメと向き合うように立ち、ため息をつく。
「開いた理想郷への扉の向こうで、私はいつの間にか終末の尖兵にさせられていた」
苛つきが諦めに変わるように、ネブラは首を振る。
「事ここに至って初めて、私たちの計画の視点の短絡さに気付いた。いかに掛け替えのない一つの世界であっても、それを救ったところで何の解決にもならない、とな」
「そう、なのかな。私には難しいことはよくわかんないよ」
「いつもお前の単細胞さには歯痒い思いをしてきた。世界のことを真に思わぬものに、なぜ計画を潰されねばならないのかと。だが、だがな。世界を守るなど、所詮は人間のエゴではないか?人間はそもそも世界の一部だ。何度世界を越えようと何度でも滅びはやってくる。終わりなどない。なぜなら、それが自然の輪転だからだ」
「そうだね。だから、君たちのやったことは、世界を守ることが本質じゃないんだ。誰が世界の先陣を切るか。世界の舵取りとなることが本質だったんだよ」
「難しいことはわからないと言いつつも、随分な考察だな。だがそれが正解だということも事実だ。私はそれに成り損ねた」
ネブラの体がふわりと浮き上がり、周囲に黒輪が現れる。
「ホシヒメ。私にはもう何も残っていない。あるのはただ、お前と決着をつけたい、それだけだ。例え――万が一にも、お前に追い縋ることさえ出来ずとも、戦わずして世界の終わりを見届ける気はない」
ホシヒメは躊躇なく頷き、屈託のない笑みを見せる。
「もっちろんだよ!辛かったことも、楽しかったことも、全部、私に見せてよ!」
「楽しかった、ことか……」
一つの黒輪からナノマシンが溢れ、瞬時に拳を形成して放つ。ホシヒメはタックルしつつ右腕を薙ぎ払って黒輪を砕き、飛び上がる。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました
ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。
王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。
しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした
月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。
それから程なくして――――
お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。
「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」
にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。
「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」
そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・
頭の中を、凄まじい情報が巡った。
これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね?
ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。
だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。
ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。
ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」
そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。
フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ!
うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって?
そんなの知らん。
設定はふわっと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる