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三千世界・結末(10)
第七話「メトロノーム・ハイブ」
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三千世界 要塞残骸グロズニィ
砕けたフォルメタリア鋼の破片を通り抜けて、動力炉の跡地に足を踏み入れる。佇んでいたパラワンが顔を上げ、二人は視線を合わす。
「二十分お仕置きされたの?」
「貴様が知る必要はない。死んで貰おう」
「メイヴが母親なんて苦労しそうね」
「だが奴が私に二度目の生を与えた存在であることに変わりはない。恩は返す主義だ」
パラワンがゆるりと二本のマチェーテを引き抜く。
「バロンには申し訳ないけど、私が引導を渡してあげるわ」
エリアルが杖を二つ、左右にそれぞれ持つ。その瞬間、体表を青い光の線が覆う。
「神子など勲章程度にしか見ていなかったが……その纏う覇気。流石はバロンの伴侶と言ったところか。行くぞ!」
パラワンが甘く踏み込み、大振りにマチェーテを振るい、エリアルは右の杖を振るって風の壁を産み出しつつ浮き上がり、真空刃を弱めつつ追尾を躱す。水を纏った左の杖を頭上から振り下ろすが、振るう速度が甘く、容易に弾き返され、素早く切り返される。エリアルはマチェーテが振るわれた地点には既に居らず、背後から右の杖から真空刃を放ち、左の杖を振るって水の刃で薙ぎ払う。パラワンの強烈な振り下ろしが水を断ち切り、エリアルの体を内蔵まで斬り捌く。瞬間、彼女は杖を両方を手放し、水を纏わせながら両手をパラワンの体に当て、飛び退く。
「バロンの猿真似をしても意味など無いぞ」
「それはどうかな?」
パラワンの腹が内部から弾け飛び、蒸気が上がる。
「ほう」
「バロンのおまけだと思って油断したわね」
「いや、違う。なんだ貴様は……」
パラワンの腹が即座に修復される。杖がエリアルの手元に戻り、二人が再び距離を詰めんとした時、遠方から急速に近寄ってくる足音に気を取られる。
「なんだ……!」
青い蝶が一頭現れ、パラワンのマチェーテの切っ先に着地する。
「ちっ、承知した、母上」
パラワンはマチェーテを納め、飛び去る。足音が間近に接近したと同時に壁が破砕され、見慣れた竜人が現れる。
「……逃がさ……ない……エリ……アルゥ……」
「バロン……」
黒鋼は明らかに正気を失っているようで、躊躇無くエリアルに拳を振り下ろす。回避するが、完璧な予測から放たれた追撃に叩き落とされ、地面に叩きつけられる。エリアルが立ち上がるより前に攻撃を重ねられ続け、その場に釘付けにされ続ける。
「……あ、あ……」
黒鋼の動きが鈍り、竜化を解く。エリアルはようやくふらつきつつ立ち上がるが、バロンはなおも距離を詰めて拳を振るう。技の精度と速度自体は落ちているが、それでもエリアルには防御が精一杯であり、杖でギリギリ弾き続ける。
「……」
「そう言えば、今までちゃんとお互いに慈しみ合いながらイチャイチャはよくしたけどさ……こうしてマジで殺し合うのは流石に初めてよね……!」
バロンの剛拳を素手で受け止める。パワー不足を補うように体表の青の輝きが増す。
「バロンと殺り合うなら……素手じゃないと失礼よね……!」
拳を押し返すが、バロンは流石と言うべきか隙の無い連打を放ち、エリアルは変わらず反射神経による寸前の防御に専心し続ける。
「……抵抗……するな……」
「なるほどね。普段は気を使ってくれてるけど、バロンって意外と強引に行きたいタイプなんだ……覚えとこ」
軽口を叩いても余裕はまるでなく、バロンの拳の一撃が余りにも重すぎるゆえに防御した際の硬直で、強制的に防御一択にさせられている。
「(流石はバロン。パワーもスピードも精密性も、全てが高水準で纏まってる……)」
エリアルは強引に姿勢を崩して防御一辺倒から逃れる。即座に追撃が放たれるが、紙一重で躱し、無謀とはわかっていても真正面から互いに正拳突きを放つ。もちろん、エリアルの腕がひしゃげ、衝撃で大きく後方に吹き飛ばされるが、それで距離を取り、杖を手元に戻し、地面に魔法陣を産み出す。
「やっぱさっきの発言ナシ!」
「……ガアアアアッ!」
バロンは瞬間、竜化し、殺意を放ちつつ距離を詰める。黒鋼が拳を放った瞬間、それに反応して魔法陣が作動し、地面をくりぬいて二人は黄昏に放り出される。
三千世界 空中
エリアルは空中に散らばる大地の破片に死に物狂いで瞬間移動し、黒鋼が一瞬だけ遅れて攻撃し、破片を粉々にする。
「(一撃でも貰えばシャングリラまで真っ逆さま。そうなったら恐らく……アルヴァナがこの世界を処分する。この世界が積み上げてきたものが全て無に還るのは、流石に作った側としては避けたいわね)」
ギリギリの攻防を繰り広げながら先へ進み続けると、浮かぶ大樹が見えた。
三千世界 クシナガラ
焼け焦げた大樹の頂上にエリアルは転がり込み、黒鋼が仕留めんと攻撃を放ちつつ着地する。エリアルが即座に飛び退くと、黒鋼が攻撃を重ねてくる。回避できずにそれを受け、縁に叩きつけられる。エリアルは全く動けないほどのダメージを受けるが、黒鋼は追撃してこず、膝をついて竜化が解ける。
「今しかない……!」
エリアルは体を全て作り替えて自分の杖を持ち、助走をつけてバロンの胸に突き刺す。
「……う……ぐ……!」
バロンはエリアルを突き飛ばし、光となってその場から飛び去る。
「はぁ……っ……」
エリアルはため息をつき、シマエナガの杖を支えに両足で立つ。
「たぶんメイヴのせいだけど……あの状態のバロンは何がどうなってるの……?」
体力の消耗に抗えず、その場に座り込む。
「私一人でこれ以上戦うのは、無理があるわね……」
意を決して、エリアルは立ち上がる。
「ま、何のために不死身になったのかって話よね。こうなったら、とことん行くわよ……!」
縁から飛び立ち、破片を飛び継いでいく。
砕けたフォルメタリア鋼の破片を通り抜けて、動力炉の跡地に足を踏み入れる。佇んでいたパラワンが顔を上げ、二人は視線を合わす。
「二十分お仕置きされたの?」
「貴様が知る必要はない。死んで貰おう」
「メイヴが母親なんて苦労しそうね」
「だが奴が私に二度目の生を与えた存在であることに変わりはない。恩は返す主義だ」
パラワンがゆるりと二本のマチェーテを引き抜く。
「バロンには申し訳ないけど、私が引導を渡してあげるわ」
エリアルが杖を二つ、左右にそれぞれ持つ。その瞬間、体表を青い光の線が覆う。
「神子など勲章程度にしか見ていなかったが……その纏う覇気。流石はバロンの伴侶と言ったところか。行くぞ!」
パラワンが甘く踏み込み、大振りにマチェーテを振るい、エリアルは右の杖を振るって風の壁を産み出しつつ浮き上がり、真空刃を弱めつつ追尾を躱す。水を纏った左の杖を頭上から振り下ろすが、振るう速度が甘く、容易に弾き返され、素早く切り返される。エリアルはマチェーテが振るわれた地点には既に居らず、背後から右の杖から真空刃を放ち、左の杖を振るって水の刃で薙ぎ払う。パラワンの強烈な振り下ろしが水を断ち切り、エリアルの体を内蔵まで斬り捌く。瞬間、彼女は杖を両方を手放し、水を纏わせながら両手をパラワンの体に当て、飛び退く。
「バロンの猿真似をしても意味など無いぞ」
「それはどうかな?」
パラワンの腹が内部から弾け飛び、蒸気が上がる。
「ほう」
「バロンのおまけだと思って油断したわね」
「いや、違う。なんだ貴様は……」
パラワンの腹が即座に修復される。杖がエリアルの手元に戻り、二人が再び距離を詰めんとした時、遠方から急速に近寄ってくる足音に気を取られる。
「なんだ……!」
青い蝶が一頭現れ、パラワンのマチェーテの切っ先に着地する。
「ちっ、承知した、母上」
パラワンはマチェーテを納め、飛び去る。足音が間近に接近したと同時に壁が破砕され、見慣れた竜人が現れる。
「……逃がさ……ない……エリ……アルゥ……」
「バロン……」
黒鋼は明らかに正気を失っているようで、躊躇無くエリアルに拳を振り下ろす。回避するが、完璧な予測から放たれた追撃に叩き落とされ、地面に叩きつけられる。エリアルが立ち上がるより前に攻撃を重ねられ続け、その場に釘付けにされ続ける。
「……あ、あ……」
黒鋼の動きが鈍り、竜化を解く。エリアルはようやくふらつきつつ立ち上がるが、バロンはなおも距離を詰めて拳を振るう。技の精度と速度自体は落ちているが、それでもエリアルには防御が精一杯であり、杖でギリギリ弾き続ける。
「……」
「そう言えば、今までちゃんとお互いに慈しみ合いながらイチャイチャはよくしたけどさ……こうしてマジで殺し合うのは流石に初めてよね……!」
バロンの剛拳を素手で受け止める。パワー不足を補うように体表の青の輝きが増す。
「バロンと殺り合うなら……素手じゃないと失礼よね……!」
拳を押し返すが、バロンは流石と言うべきか隙の無い連打を放ち、エリアルは変わらず反射神経による寸前の防御に専心し続ける。
「……抵抗……するな……」
「なるほどね。普段は気を使ってくれてるけど、バロンって意外と強引に行きたいタイプなんだ……覚えとこ」
軽口を叩いても余裕はまるでなく、バロンの拳の一撃が余りにも重すぎるゆえに防御した際の硬直で、強制的に防御一択にさせられている。
「(流石はバロン。パワーもスピードも精密性も、全てが高水準で纏まってる……)」
エリアルは強引に姿勢を崩して防御一辺倒から逃れる。即座に追撃が放たれるが、紙一重で躱し、無謀とはわかっていても真正面から互いに正拳突きを放つ。もちろん、エリアルの腕がひしゃげ、衝撃で大きく後方に吹き飛ばされるが、それで距離を取り、杖を手元に戻し、地面に魔法陣を産み出す。
「やっぱさっきの発言ナシ!」
「……ガアアアアッ!」
バロンは瞬間、竜化し、殺意を放ちつつ距離を詰める。黒鋼が拳を放った瞬間、それに反応して魔法陣が作動し、地面をくりぬいて二人は黄昏に放り出される。
三千世界 空中
エリアルは空中に散らばる大地の破片に死に物狂いで瞬間移動し、黒鋼が一瞬だけ遅れて攻撃し、破片を粉々にする。
「(一撃でも貰えばシャングリラまで真っ逆さま。そうなったら恐らく……アルヴァナがこの世界を処分する。この世界が積み上げてきたものが全て無に還るのは、流石に作った側としては避けたいわね)」
ギリギリの攻防を繰り広げながら先へ進み続けると、浮かぶ大樹が見えた。
三千世界 クシナガラ
焼け焦げた大樹の頂上にエリアルは転がり込み、黒鋼が仕留めんと攻撃を放ちつつ着地する。エリアルが即座に飛び退くと、黒鋼が攻撃を重ねてくる。回避できずにそれを受け、縁に叩きつけられる。エリアルは全く動けないほどのダメージを受けるが、黒鋼は追撃してこず、膝をついて竜化が解ける。
「今しかない……!」
エリアルは体を全て作り替えて自分の杖を持ち、助走をつけてバロンの胸に突き刺す。
「……う……ぐ……!」
バロンはエリアルを突き飛ばし、光となってその場から飛び去る。
「はぁ……っ……」
エリアルはため息をつき、シマエナガの杖を支えに両足で立つ。
「たぶんメイヴのせいだけど……あの状態のバロンは何がどうなってるの……?」
体力の消耗に抗えず、その場に座り込む。
「私一人でこれ以上戦うのは、無理があるわね……」
意を決して、エリアルは立ち上がる。
「ま、何のために不死身になったのかって話よね。こうなったら、とことん行くわよ……!」
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