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三千世界・永輝(9.5)
第一話 「行き場のない未来」
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※この物語はフィクションです。作中の人物、団体は実在の人物、団体と一切関係なく、また法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
新たな世界を切り開く結末の前に、先の終幕の後、曙の鎖がどういう末路を辿ったかをそなたに話すとしよう。
……。随分と長く語り続けたような気がするな。退屈はしていないか?……。そうか。なら問題はない。後少し待てば、全ては終わる。
――……――……――
「今ここに我らの願いは成就せし!〈九界浄土・三千世界〉!」
「しっかりしてください!ロータさん!」
「私を……解き放っちゃ、ダメなんです……」
「確かにロータ・コルンツにそっくりだ。君とリータ・コルンツは似ていないが」
「君ら親子には何があったのだ?」
「さあ、アルバ。君の愛しいこの子が死ぬ様を見るんだ!」
「あああああああああっ!?」
「優しいんですね……私のお母さんは……自分のためならどんなものでも平然と犠牲にする人でした……」
「だとしてもです……あなたなら……取り返しのつかないことに……なる前に立ち止まれると……思います……」
「なら余計離さねえよ!絶対連れて帰るからな!」
――……――……――
最外劫 ロストミレニアム
暗闇の中で意識が繋がり、掌と顔面が最初に感じたのは、岩場の感触だった。徐々に朧気ながら意識が暗闇から完全に帰ってきて、少女は目覚める。立ち上がると、艶やかな黒髪が踊る。きつめのコルセットで矯正された綺麗な背筋と、アンティークにすら見えるゴシックドレスが、少女のトレードマークであった。
少女の名前はアルバ。アルバ・コルンツ。異史のレイヴンとロータから生まれた、コルンツの家系の中で最も強大な呪いを持った存在である。
さて、彼女の視界は目を開いても延々と暗黒に塗り潰されており、可視光もまるでなかった。母親譲りの夜目で視界を確保しているものの、正確な造形を掴めないため、掌から火種を産み出して暗闇を晴らす。案の定、視界を確保してもただただ荒野が続くだけだったが。
ふとアルバの耳許に、何者かの声が届く。
『あー、あー、聞こえますか?』
とても可憐で透き通るような声が耳を貫く。
「聞こえ……ます……」
端から見れば滑稽ではあるが、アルバは虚空へ向かって呟く。
『よかった、無事だったんですね!』
「えっと……あなたは……?」
『私は零下太陽Chaos社のオペレーターを勤めています、ミカ・スギハラです!』
「杉原……」
アルバは人名と企業名のコンボに若干の不信感を覚えるが、それを圧し殺して話を続ける。
「どうして私はここに……?」
『わかりません!モニタリングしていたら、本当に突然そこに反応が現れて……』
「私は……元の世界に……帰りたいんです……」
『そうですね……私の居る、最始劫まで来てくれませんか?』
「最始劫……?」
『ああ、その説明が必要でしたね。今データを送ります』
どういう仕組みなのかは不明だが、突然アルバの前方に球体のホログラフが現れる。
『今、あなたが……えっと、そういえばお名前は?』
「アルバ……アルバ・コルンツです……」
『アルバさんが今居るところが、零下太陽の最も外殻に位置する最外劫ロストミレニアムです。ダイソンスフィアと呼ばれる装置そのもので、岩のような質感ですが、実質的には精密装置の塊なんです。ちなみに空が無限の闇に包まれているのは、この世界が極めて弱った影響で、全ての恒星やその他の可視光を放つ物体が、ここ太陽を除いて全滅したからですね。
そして、最外劫から一層下がったところが第七劫グレイト・クォーターです。塩湖のように延々と薄水が続いている未開発地域で、異史の地球で最後の方に開発された兵器が無造作に置かれています。
更に下に、第六劫トリアス。ここは一つの巨大な生態系を形成するジャングル地帯で、観光地として有名ですね。アルバさんみたいに非正規の場所を歩くと危険ですけど。
次は第五劫ペルム。ペルムは中世のヨーロッパをモチーフにした似たような小さな農村が大量にあります。ここから更に下層に行くには、バレルラインという巨大なディスポーザーを抜ける必要があります。
ええーっと……その先が第四劫オルドビスなんですが……生活水準は高いんですが、その……。
えっと次が第三劫カンブリアです。カンブリアは地表の殆どを海洋が覆っていて、大零塊が突き刺さっていて、その周辺だけは雪原が広がっています。
第二劫プロテロは……ただの連結部なんですが、幻覚を見たって人が多発してるんですよね……
第一劫アーケロが、ニルヴァーナをモチーフにした巨大水晶が綺麗な場所ですね。
そして最後に最始劫ハデアンです。ここにはChaos社の研究施設がたくさんあって、カンブリアと同じように大量の海水によって地表が覆われています』
「け……結構長いんですね……」
『大丈夫です!私がちゃんとサポートしますから!とりあえず、そこから真っ直ぐ進んでください』
「真っ直ぐですか……わかりました……」
声が途切れ、アルバは言われた通りに真っ直ぐ進む。無限に続く暗黒と岩の中を歩き続けると、どこからともなく青い粒子が集まって巨馬に乗った騎士の巨大な幻影が現れる。
「ひぇっ……」
アルバが小さく呻くと、騎士の瞳らしき部分に光が灯る。
「来い……」
幻影はそれだけ告げると消え去った。
「い、今のは一体……」
アルバは大きく気勢が削がれたが、また真っ直ぐ道を進み、突如として現れたドーム状の建造物に入る。
連結部 ロストミレニアム
ドームの内部は動力があるようで、人工的ながらも朗らかな光に包まれていた。アルバは手元から火を消し、ドレスについた土ぼこりを払い落とす。程なくして、また耳許にミカの声が届く。
『ちゃんと着きましたね』
「ミカさん、ここは……?」
『ここは層同士を繋ぐエレベーターですね。大昔の地球で開発された宇宙エレベーターというものを参考にしたものです。いくら収縮したとはいえ、太陽は地球の百倍以上も巨大ですからねえ』
「えっと……どうしてChaos社なら、DAAを使ったワープ装置を使わないんですか……?」
『地球が末期の頃、既に滅んだ宇宙から逃れてきた異星人たちと戦争になったんですよ。それを教訓として、防衛のためにアクセスをわざと悪くさせているんです』
「なるほど……」
『エレベーターの隔壁を閉じてしまえば、万物の霊長クラスの破壊力を持ってしても突破は困難なはずです』
「肝心のエレベーターが……見当たらないんですけど……」
『アルバさんは天象の鎖というものを呼び出せますよね?それで降下すればいいんじゃないでしょうか?』
「そう……ですね」
アルバは鎖を一本召喚し、それをドームの中央に座すシャフトに突き立て、シャフト内を降下していく。
シャフトはガラス張りになっており、遥か上空から第七劫の様子を俯瞰できた。先ほどミカが言っていた通り、塩湖のように薄い水が延々と続いており、澄み渡る偽物の青空を鏡のごとく映していた。
程なくしてシャフトの終点に到着し、鎖を消す。
「ここからは……」
『南西に進み続けてください。建設途中で放棄された、エリドゥって街の残骸がありますから、そこにエレベーターがあります』
「わかりました」
アルバはドームの出口に向かう。
第七劫 グレイト・クォーター
ドームの自動ドアが開くと、薄水がドームにさらさらと流れ込んでくる。アルバが薄水の大地へ足を踏み入れると、波紋が延々と伝わって鏡が波打つ。
「……」
アルバはただ生気の抜けた人形のごとく薄水の上を進んでいく。鏡と青空に包まれて、幻覚でも見ているように記憶がフラッシュバックする。
「ストラトスくん……」
彼から感じた温もりが身体中に古傷のように開いては痛みとなって消えていく。アルバは一歩ごとに痛みの余韻で意識を現実に引き戻す。
痛みが体を走ること以外は特に何もなく、アルバは都市の残骸まで辿り着く。崩れたビル群の向こうにドームが見え、アルバはそれに向かおうと足を踏み入れた。
都市残骸エリドゥ
同時に、ビルの残骸から黒い謎の生命体が夥しい量現れ、一斉にアルバへ襲いかかる。
「これは……!?」
咄嗟に鎖で防壁を産み出し、生命体は防壁へ雪崩れ込んで突破しようともがく。
『彼らはラフムとラハムです!地球の最後の方の〝製品〟は、バビロニアがモチーフになっていて……神を模したものである以上、信仰こそが武器になる……でも信仰する人類自体が滅びかけていましたから、大した強さではないはずです!』
「そうですか……!」
アルバは防壁を解除し、同時に津波のような物量で押しかかるラフムとラハムへ向けて、魔法を纏わせた鎖で魔法陣を描き出す。
「私に触れていいのは、二人だけ……」
魔法陣から産み出されたのは形容しがたい黒の光輪であり、更にその内側に細かく黒い線が無数に産み出されてラフムたちを貫き、光輪は徐々に狭まっていく。
「崇め見よ、絶望の星。来たれ、沈黙の歯車」
ラフムとラハムはこの世ならざる絶叫をあげて苦しみ続ける。
『えーっとぉ……これは一体……』
「たぶん……あの人たちは死ぬほど苦しいはずです。でも私の作った魔法陣の中では……どれだけ痛くて、苦しくても、決して死ぬことはない。神には、これくらいの苦痛が相応しい……」
アルバは淡々と苦しみ続ける生命体の横を通り抜ける。
『どうして魔法なんて時代遅れなものを使うんですか?』
「どうして、ですか……単純に、消費と火力のバランスがいいからです……天象の鎖は便利ですけど、素早く致命傷を与えるには向いていませんし、シフルエネルギーはどうしても疲れますから……その点、魔法はどれだけ威力を上げても疲れませんし、大群を瞬殺できますから……」
アルバはそのままドームへ入る。
連結部 グレイト・クォーター
「彼らのような兵器が……地球の末期の防御を担っていたんですか……?」
『はい。杉原明人も、バロンも滅びた後のChaos社は急速に力を失っていき、遂には昔の愚かな人間のように神の力を借りようとしたわけです。ですが、Chaos社自らが神を信じず、そしてChaos社以外の人間などもはや存在しませんでしたから。信仰のない神など……』
「傲慢なだけの塵芥……ということですか」
『まあ、その通りですね。結局は、昔から使っていたアポカリプス・カルディナや、プロミネンス・レガリアで異星人を撃退していましたね』
アルバがシャフトへ鎖を投げ、同じように急降下する。
シャフトを貫くように巨木が生えており、アルバはその枝に着地し、割れたシャフトから外に出る。
新たな世界を切り開く結末の前に、先の終幕の後、曙の鎖がどういう末路を辿ったかをそなたに話すとしよう。
……。随分と長く語り続けたような気がするな。退屈はしていないか?……。そうか。なら問題はない。後少し待てば、全ては終わる。
――……――……――
「今ここに我らの願いは成就せし!〈九界浄土・三千世界〉!」
「しっかりしてください!ロータさん!」
「私を……解き放っちゃ、ダメなんです……」
「確かにロータ・コルンツにそっくりだ。君とリータ・コルンツは似ていないが」
「君ら親子には何があったのだ?」
「さあ、アルバ。君の愛しいこの子が死ぬ様を見るんだ!」
「あああああああああっ!?」
「優しいんですね……私のお母さんは……自分のためならどんなものでも平然と犠牲にする人でした……」
「だとしてもです……あなたなら……取り返しのつかないことに……なる前に立ち止まれると……思います……」
「なら余計離さねえよ!絶対連れて帰るからな!」
――……――……――
最外劫 ロストミレニアム
暗闇の中で意識が繋がり、掌と顔面が最初に感じたのは、岩場の感触だった。徐々に朧気ながら意識が暗闇から完全に帰ってきて、少女は目覚める。立ち上がると、艶やかな黒髪が踊る。きつめのコルセットで矯正された綺麗な背筋と、アンティークにすら見えるゴシックドレスが、少女のトレードマークであった。
少女の名前はアルバ。アルバ・コルンツ。異史のレイヴンとロータから生まれた、コルンツの家系の中で最も強大な呪いを持った存在である。
さて、彼女の視界は目を開いても延々と暗黒に塗り潰されており、可視光もまるでなかった。母親譲りの夜目で視界を確保しているものの、正確な造形を掴めないため、掌から火種を産み出して暗闇を晴らす。案の定、視界を確保してもただただ荒野が続くだけだったが。
ふとアルバの耳許に、何者かの声が届く。
『あー、あー、聞こえますか?』
とても可憐で透き通るような声が耳を貫く。
「聞こえ……ます……」
端から見れば滑稽ではあるが、アルバは虚空へ向かって呟く。
『よかった、無事だったんですね!』
「えっと……あなたは……?」
『私は零下太陽Chaos社のオペレーターを勤めています、ミカ・スギハラです!』
「杉原……」
アルバは人名と企業名のコンボに若干の不信感を覚えるが、それを圧し殺して話を続ける。
「どうして私はここに……?」
『わかりません!モニタリングしていたら、本当に突然そこに反応が現れて……』
「私は……元の世界に……帰りたいんです……」
『そうですね……私の居る、最始劫まで来てくれませんか?』
「最始劫……?」
『ああ、その説明が必要でしたね。今データを送ります』
どういう仕組みなのかは不明だが、突然アルバの前方に球体のホログラフが現れる。
『今、あなたが……えっと、そういえばお名前は?』
「アルバ……アルバ・コルンツです……」
『アルバさんが今居るところが、零下太陽の最も外殻に位置する最外劫ロストミレニアムです。ダイソンスフィアと呼ばれる装置そのもので、岩のような質感ですが、実質的には精密装置の塊なんです。ちなみに空が無限の闇に包まれているのは、この世界が極めて弱った影響で、全ての恒星やその他の可視光を放つ物体が、ここ太陽を除いて全滅したからですね。
そして、最外劫から一層下がったところが第七劫グレイト・クォーターです。塩湖のように延々と薄水が続いている未開発地域で、異史の地球で最後の方に開発された兵器が無造作に置かれています。
更に下に、第六劫トリアス。ここは一つの巨大な生態系を形成するジャングル地帯で、観光地として有名ですね。アルバさんみたいに非正規の場所を歩くと危険ですけど。
次は第五劫ペルム。ペルムは中世のヨーロッパをモチーフにした似たような小さな農村が大量にあります。ここから更に下層に行くには、バレルラインという巨大なディスポーザーを抜ける必要があります。
ええーっと……その先が第四劫オルドビスなんですが……生活水準は高いんですが、その……。
えっと次が第三劫カンブリアです。カンブリアは地表の殆どを海洋が覆っていて、大零塊が突き刺さっていて、その周辺だけは雪原が広がっています。
第二劫プロテロは……ただの連結部なんですが、幻覚を見たって人が多発してるんですよね……
第一劫アーケロが、ニルヴァーナをモチーフにした巨大水晶が綺麗な場所ですね。
そして最後に最始劫ハデアンです。ここにはChaos社の研究施設がたくさんあって、カンブリアと同じように大量の海水によって地表が覆われています』
「け……結構長いんですね……」
『大丈夫です!私がちゃんとサポートしますから!とりあえず、そこから真っ直ぐ進んでください』
「真っ直ぐですか……わかりました……」
声が途切れ、アルバは言われた通りに真っ直ぐ進む。無限に続く暗黒と岩の中を歩き続けると、どこからともなく青い粒子が集まって巨馬に乗った騎士の巨大な幻影が現れる。
「ひぇっ……」
アルバが小さく呻くと、騎士の瞳らしき部分に光が灯る。
「来い……」
幻影はそれだけ告げると消え去った。
「い、今のは一体……」
アルバは大きく気勢が削がれたが、また真っ直ぐ道を進み、突如として現れたドーム状の建造物に入る。
連結部 ロストミレニアム
ドームの内部は動力があるようで、人工的ながらも朗らかな光に包まれていた。アルバは手元から火を消し、ドレスについた土ぼこりを払い落とす。程なくして、また耳許にミカの声が届く。
『ちゃんと着きましたね』
「ミカさん、ここは……?」
『ここは層同士を繋ぐエレベーターですね。大昔の地球で開発された宇宙エレベーターというものを参考にしたものです。いくら収縮したとはいえ、太陽は地球の百倍以上も巨大ですからねえ』
「えっと……どうしてChaos社なら、DAAを使ったワープ装置を使わないんですか……?」
『地球が末期の頃、既に滅んだ宇宙から逃れてきた異星人たちと戦争になったんですよ。それを教訓として、防衛のためにアクセスをわざと悪くさせているんです』
「なるほど……」
『エレベーターの隔壁を閉じてしまえば、万物の霊長クラスの破壊力を持ってしても突破は困難なはずです』
「肝心のエレベーターが……見当たらないんですけど……」
『アルバさんは天象の鎖というものを呼び出せますよね?それで降下すればいいんじゃないでしょうか?』
「そう……ですね」
アルバは鎖を一本召喚し、それをドームの中央に座すシャフトに突き立て、シャフト内を降下していく。
シャフトはガラス張りになっており、遥か上空から第七劫の様子を俯瞰できた。先ほどミカが言っていた通り、塩湖のように薄い水が延々と続いており、澄み渡る偽物の青空を鏡のごとく映していた。
程なくしてシャフトの終点に到着し、鎖を消す。
「ここからは……」
『南西に進み続けてください。建設途中で放棄された、エリドゥって街の残骸がありますから、そこにエレベーターがあります』
「わかりました」
アルバはドームの出口に向かう。
第七劫 グレイト・クォーター
ドームの自動ドアが開くと、薄水がドームにさらさらと流れ込んでくる。アルバが薄水の大地へ足を踏み入れると、波紋が延々と伝わって鏡が波打つ。
「……」
アルバはただ生気の抜けた人形のごとく薄水の上を進んでいく。鏡と青空に包まれて、幻覚でも見ているように記憶がフラッシュバックする。
「ストラトスくん……」
彼から感じた温もりが身体中に古傷のように開いては痛みとなって消えていく。アルバは一歩ごとに痛みの余韻で意識を現実に引き戻す。
痛みが体を走ること以外は特に何もなく、アルバは都市の残骸まで辿り着く。崩れたビル群の向こうにドームが見え、アルバはそれに向かおうと足を踏み入れた。
都市残骸エリドゥ
同時に、ビルの残骸から黒い謎の生命体が夥しい量現れ、一斉にアルバへ襲いかかる。
「これは……!?」
咄嗟に鎖で防壁を産み出し、生命体は防壁へ雪崩れ込んで突破しようともがく。
『彼らはラフムとラハムです!地球の最後の方の〝製品〟は、バビロニアがモチーフになっていて……神を模したものである以上、信仰こそが武器になる……でも信仰する人類自体が滅びかけていましたから、大した強さではないはずです!』
「そうですか……!」
アルバは防壁を解除し、同時に津波のような物量で押しかかるラフムとラハムへ向けて、魔法を纏わせた鎖で魔法陣を描き出す。
「私に触れていいのは、二人だけ……」
魔法陣から産み出されたのは形容しがたい黒の光輪であり、更にその内側に細かく黒い線が無数に産み出されてラフムたちを貫き、光輪は徐々に狭まっていく。
「崇め見よ、絶望の星。来たれ、沈黙の歯車」
ラフムとラハムはこの世ならざる絶叫をあげて苦しみ続ける。
『えーっとぉ……これは一体……』
「たぶん……あの人たちは死ぬほど苦しいはずです。でも私の作った魔法陣の中では……どれだけ痛くて、苦しくても、決して死ぬことはない。神には、これくらいの苦痛が相応しい……」
アルバは淡々と苦しみ続ける生命体の横を通り抜ける。
『どうして魔法なんて時代遅れなものを使うんですか?』
「どうして、ですか……単純に、消費と火力のバランスがいいからです……天象の鎖は便利ですけど、素早く致命傷を与えるには向いていませんし、シフルエネルギーはどうしても疲れますから……その点、魔法はどれだけ威力を上げても疲れませんし、大群を瞬殺できますから……」
アルバはそのままドームへ入る。
連結部 グレイト・クォーター
「彼らのような兵器が……地球の末期の防御を担っていたんですか……?」
『はい。杉原明人も、バロンも滅びた後のChaos社は急速に力を失っていき、遂には昔の愚かな人間のように神の力を借りようとしたわけです。ですが、Chaos社自らが神を信じず、そしてChaos社以外の人間などもはや存在しませんでしたから。信仰のない神など……』
「傲慢なだけの塵芥……ということですか」
『まあ、その通りですね。結局は、昔から使っていたアポカリプス・カルディナや、プロミネンス・レガリアで異星人を撃退していましたね』
アルバがシャフトへ鎖を投げ、同じように急降下する。
シャフトを貫くように巨木が生えており、アルバはその枝に着地し、割れたシャフトから外に出る。
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