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三千世界・再誕(8)
第四話 「蒼き氷掲げしカーローン」
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混沌中枢ミレニアム
椅子に縛られた明人は、縄をほどくことも出来ずにかなりの長時間そのままでいた。不意に扉が開き、明人は頑張って動いて来客を確認する。その来客は、なぜか生足で、しかも異様に艶かしく、視線を上げるとそのまま色々見えそうな過激な装束をしていた。パッと見で言えば、裸にローブを纏っているだけの美幼女が、明人の眼前にいた。
「ふふ」
明人が無意識に性的な視線を送っていることに気づいたのか、幼女は微笑む。
「気になりますか?このローブの下がどうなっているのか」
「はい!気になります!でもそれより先にこの縄ほどいてくれませんか!」
「もちろんです、ふふ……」
幼女は右手から光の刃を産み出して、それで縄を斬る。やっと解放された明人は立ち上がって肩を回して音を鳴らす。
「ありがとうございます。あのー、あなたは一体?」
明人が謎にかしこまって訊ねると、幼女はフードの隙間からワインのごとき赤紫の瞳を覗かせる。
「月城燐花の願いを果たすために集められた、円卓の一人です。それだけ知っていれば十分かと」
「燐花の手下の人が何の用なんですか?」
「かしこまらなくて大丈夫ですよ、ふふ。実は一つ、してほしいことがあるんです」
「な、なんでしょう……じゃなくて、なんですか?」
「それはですね……」
幼女は見た目にそぐわぬ妖艶な動作で耳打ちし、明人は目を見開く。
「い、いやいや!流石にバレたらまずいのでは……?」
「でも、あなたは彼女を救いたいはずです。あなたがアリアさんに救われた時に決めたことは、ただ一つ。罪を、償うこと。あの子はあなたによって人生を狂わされた。例えそれがあなたを依代とした、ヴァナ・ファキナのせいだとしても」
「……。あなたは一体……」
明人が幼女から発せられる堂々たる意思に逡巡する。それに感づいたのか、幼女は朗らかな笑みを見せる。
「すみません、少し気圧してしまいましたね。鍵は開けておきますので、後は決心がついたらお行きください」
幼女は軽く礼をすると、部屋から出ていった。
「めっちゃいい匂いした……」
明人は暫し惚けた顔をしていたが、ふと我に返る。
「あれ?鍵開けっぱってことは……やらざるを得ない状況にさせられてる?」
明人はほんの少しだけ躊躇い、そして力強く部屋の外へ駆け出した。
プエルトアルムエイェス
旧Chaos社の兵士は三人の侵攻を必死に止めようと奮戦していたが、余りにも歴然とした力の前に蹂躙されていた。
「なんじゃ、雑魚ばかりじゃのう」
ゼナが放り投げた槍を手元に戻す。
「油断しないの。何が起きるかわからないんだから」
マレが指先と爪先で敵を切り裂きつつ答える。二人が前を見ると、零が一瞬で大群を葬り去っていた。
「あれを見たら油断したくなるじゃろう。わしらの主と違って、負ける心配がないしの」
「まあ、そうね……」
二人が駄弁っている間に、敵の大将らしき巨大な悪魔も秒殺され、消えてなくなる。
「あいつ一人で旧Chaos社とか余裕で壊滅させられるんじゃないの?」
マレがそう言うと、零が二人のもとへ戻ってくる。
「帰ろう」
ただ一言、零がそう告げる。
「お主はこれからどうするのじゃ。出来ればわしらが主を奪還するのに協力して欲しいものじゃが……」
ゼナの提案に、零は首を横に振る。
「残念だけど、私が干渉していいと言われたのはここまで」
零は杖を手元に召喚し、それで空間を十字に切り裂く。
「宙核のところに繋げた。杉原君に会ったら、『あなたのことなんて眼中にない』って伝えて」
マレが苦笑いする。
「お兄のただの片想いってのがよくわかったわ。ありがと、白金」
そして次元の裂け目へ入る。
「今だけはお主が味方で本当に良かったと思っておるぞ。いずれ、決着をつけねばならぬとしてもな」
ゼナはそう告げて、マレに続く。零は二人を見届けたあと、裂け目を閉じる。背後に感じた強大な気配で、零は振り向く。そこには、ノアが立っていた。
「偽りの王龍から産まれし、真の王龍……」
零がノアへ視線を向けると、ノアは嘶き、蹄を大地に穿つ。
「強者……」
ノアは呟く。
「哀れな。自らを龍と騙る者は竜になれず、立場に媚びず力を追い求めるものは真の龍となる」
零は竜化し、寂滅の姿へと変貌する。
「ならば私はあなたの力を測ろう。純然たる力が、どれだけの魂を発するのかを」
寂滅が地面を叩くと、激甚な氷の波濤がノアへ襲いかかる。ノアは槍を手に氷を打ち砕き、重いエネルギーの刃を振り下ろす。左腕で槍を迎え撃ち、鴻大の衝撃が響き渡る。
「ふむ」
寂滅は槍を押し返し、素早く身を翻して鉄山靠を決めてノアを吹き飛ばす。更に右手で地面を掴み、振り上げて氷の連峰を隆起させる。そのままの勢いで咆哮し、上空から巨大な雹をいくつも降り注がせる。ノアは躊躇い無く力を解放し、雹を破壊して、寂滅へ突進する。牽制に、その役割を負うには過剰すぎる闘気を放ち、全く怯まぬ寂滅と再び得物をぶつけ合う。空いている片腕でノアの腹に強烈な拳を叩き込み、槍を弾き返し、寂滅は大きく構える。そして右拳を振り下ろし、衝突するともに地面から水が溢れ出し、そして瞬時に氷結する。更に左拳で殴り付け、また凍る水が溢れ、口から凍る水の塊を吐きつけ、最後に衝撃を伴うほどの咆哮で氷結したノアを破砕しつつ吹き飛ばす。ノアは受け身で着地し、自分の破損した体を見る。
「まだ、足りぬか……」
寂滅はノアを見やる。
「あなたは若い。強さを求めるのなら、もっと突き詰め、生き急ぐべき」
「より強きを求め、魂を込めて覇道に堕ちよう」
ノアは傷を修復すると、先程より外見が刺々しく変化する。
「ふっ……なら、少しくらい付き合おうか」
寂滅は体から放つ冰気を増やし、辺りが凍りついていく。そして暫しの間、両者は戦い続けるのだった。
椅子に縛られた明人は、縄をほどくことも出来ずにかなりの長時間そのままでいた。不意に扉が開き、明人は頑張って動いて来客を確認する。その来客は、なぜか生足で、しかも異様に艶かしく、視線を上げるとそのまま色々見えそうな過激な装束をしていた。パッと見で言えば、裸にローブを纏っているだけの美幼女が、明人の眼前にいた。
「ふふ」
明人が無意識に性的な視線を送っていることに気づいたのか、幼女は微笑む。
「気になりますか?このローブの下がどうなっているのか」
「はい!気になります!でもそれより先にこの縄ほどいてくれませんか!」
「もちろんです、ふふ……」
幼女は右手から光の刃を産み出して、それで縄を斬る。やっと解放された明人は立ち上がって肩を回して音を鳴らす。
「ありがとうございます。あのー、あなたは一体?」
明人が謎にかしこまって訊ねると、幼女はフードの隙間からワインのごとき赤紫の瞳を覗かせる。
「月城燐花の願いを果たすために集められた、円卓の一人です。それだけ知っていれば十分かと」
「燐花の手下の人が何の用なんですか?」
「かしこまらなくて大丈夫ですよ、ふふ。実は一つ、してほしいことがあるんです」
「な、なんでしょう……じゃなくて、なんですか?」
「それはですね……」
幼女は見た目にそぐわぬ妖艶な動作で耳打ちし、明人は目を見開く。
「い、いやいや!流石にバレたらまずいのでは……?」
「でも、あなたは彼女を救いたいはずです。あなたがアリアさんに救われた時に決めたことは、ただ一つ。罪を、償うこと。あの子はあなたによって人生を狂わされた。例えそれがあなたを依代とした、ヴァナ・ファキナのせいだとしても」
「……。あなたは一体……」
明人が幼女から発せられる堂々たる意思に逡巡する。それに感づいたのか、幼女は朗らかな笑みを見せる。
「すみません、少し気圧してしまいましたね。鍵は開けておきますので、後は決心がついたらお行きください」
幼女は軽く礼をすると、部屋から出ていった。
「めっちゃいい匂いした……」
明人は暫し惚けた顔をしていたが、ふと我に返る。
「あれ?鍵開けっぱってことは……やらざるを得ない状況にさせられてる?」
明人はほんの少しだけ躊躇い、そして力強く部屋の外へ駆け出した。
プエルトアルムエイェス
旧Chaos社の兵士は三人の侵攻を必死に止めようと奮戦していたが、余りにも歴然とした力の前に蹂躙されていた。
「なんじゃ、雑魚ばかりじゃのう」
ゼナが放り投げた槍を手元に戻す。
「油断しないの。何が起きるかわからないんだから」
マレが指先と爪先で敵を切り裂きつつ答える。二人が前を見ると、零が一瞬で大群を葬り去っていた。
「あれを見たら油断したくなるじゃろう。わしらの主と違って、負ける心配がないしの」
「まあ、そうね……」
二人が駄弁っている間に、敵の大将らしき巨大な悪魔も秒殺され、消えてなくなる。
「あいつ一人で旧Chaos社とか余裕で壊滅させられるんじゃないの?」
マレがそう言うと、零が二人のもとへ戻ってくる。
「帰ろう」
ただ一言、零がそう告げる。
「お主はこれからどうするのじゃ。出来ればわしらが主を奪還するのに協力して欲しいものじゃが……」
ゼナの提案に、零は首を横に振る。
「残念だけど、私が干渉していいと言われたのはここまで」
零は杖を手元に召喚し、それで空間を十字に切り裂く。
「宙核のところに繋げた。杉原君に会ったら、『あなたのことなんて眼中にない』って伝えて」
マレが苦笑いする。
「お兄のただの片想いってのがよくわかったわ。ありがと、白金」
そして次元の裂け目へ入る。
「今だけはお主が味方で本当に良かったと思っておるぞ。いずれ、決着をつけねばならぬとしてもな」
ゼナはそう告げて、マレに続く。零は二人を見届けたあと、裂け目を閉じる。背後に感じた強大な気配で、零は振り向く。そこには、ノアが立っていた。
「偽りの王龍から産まれし、真の王龍……」
零がノアへ視線を向けると、ノアは嘶き、蹄を大地に穿つ。
「強者……」
ノアは呟く。
「哀れな。自らを龍と騙る者は竜になれず、立場に媚びず力を追い求めるものは真の龍となる」
零は竜化し、寂滅の姿へと変貌する。
「ならば私はあなたの力を測ろう。純然たる力が、どれだけの魂を発するのかを」
寂滅が地面を叩くと、激甚な氷の波濤がノアへ襲いかかる。ノアは槍を手に氷を打ち砕き、重いエネルギーの刃を振り下ろす。左腕で槍を迎え撃ち、鴻大の衝撃が響き渡る。
「ふむ」
寂滅は槍を押し返し、素早く身を翻して鉄山靠を決めてノアを吹き飛ばす。更に右手で地面を掴み、振り上げて氷の連峰を隆起させる。そのままの勢いで咆哮し、上空から巨大な雹をいくつも降り注がせる。ノアは躊躇い無く力を解放し、雹を破壊して、寂滅へ突進する。牽制に、その役割を負うには過剰すぎる闘気を放ち、全く怯まぬ寂滅と再び得物をぶつけ合う。空いている片腕でノアの腹に強烈な拳を叩き込み、槍を弾き返し、寂滅は大きく構える。そして右拳を振り下ろし、衝突するともに地面から水が溢れ出し、そして瞬時に氷結する。更に左拳で殴り付け、また凍る水が溢れ、口から凍る水の塊を吐きつけ、最後に衝撃を伴うほどの咆哮で氷結したノアを破砕しつつ吹き飛ばす。ノアは受け身で着地し、自分の破損した体を見る。
「まだ、足りぬか……」
寂滅はノアを見やる。
「あなたは若い。強さを求めるのなら、もっと突き詰め、生き急ぐべき」
「より強きを求め、魂を込めて覇道に堕ちよう」
ノアは傷を修復すると、先程より外見が刺々しく変化する。
「ふっ……なら、少しくらい付き合おうか」
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