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三千世界・再誕(8)
第四話 「クルーエル・ホロウポイント」
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アフリカ東部 星骨焦土
一面の焼け野が延々と続く区間を歩き続ける二人は、特に話すこともなく黙々と先を急いでいた。
「そう言えば、さっきの女の子から何か聞き出せた?」
ホシヒメが話題を持ち出すと、ゼロは頷く。
「ああ。旧Chaos社は、王龍アーリマンを降ろし、この世界を無に帰すつもりのようだ」
「それって……」
「貴様たちが阻止した、かつてのChaos社の野望と一致する」
「そー言えばさー、結局黄金の卵ってなんだったんだろうね?ゼロ君知ってる?」
「あれはヴァナ・ファキナが復活のための力を溜め込むための装置だったらしい。だが、杉原に憑依していた奴はアリアという娘の凶弾に抑え込まれ、肝心の卵は奈野花に使われ、存在意義を失った」
「ほぇー」
気の抜けた返事をホシヒメがした瞬間、彼女は立ち止まる。
「ゼロ君」
「わかっている」
二人は立ち止まり、周囲の雰囲気が変わったことに気付く。風と共に白砂が運ばれてきて、焼け焦げていた大地は瞬く間に白亜の海に変わる。
茫漠の墓場
「王龍結界か……?」
ゼロが緊張した面持ちでそう言うが、ホシヒメが否定する。
「いや、そんなに強い気配じゃないよ。寧ろ、今にも消えそうなのに頑張ってこの空間を維持してる感じ」
ホシヒメは徐に籠手を左腕に付け、ゼロは刀の柄に手をかける。そしてホシヒメは後方からの急襲を弾き、右腕の暴力的な出力で反撃し、攻撃してきた大柄な骸骨騎士を遥か彼方に吹き飛ばす。
「あれ?」
アフリカ東部 星骨焦土
周囲の景色は元に戻る。
「クラエス、今のは……」
ゼロが警戒を解く。
「よくわかんないけど、ちょっと力入れすぎた?」
ホシヒメが困惑した表情を見せる。
「わからん……だが、今の一撃だけで撃退できるのなら取るに足らん」
「うーん、それもそっか!じゃ、先へゴーゴー!」
ホシヒメが元気よく駆け出し、ゼロもそれに従う。
アフリカ区・焦土タンザニア
しばらく同じような焦土を進み続け、ようやく人の住んでいた気配の残る場所へ辿り着く。溶けかけた建造物がいくつも並び、その奥に急拵えで作られた砦が見える。
「ん」
ホシヒメが鼻をすんすんと動かし、それを見たゼロが頷き、二人は物陰に隠れる。
「さっきの人たちと同じ気配を感じたよ」
「流石だな、クラエス。どちらからだ」
「砦の方。まあ、当然っちゃ当然だよね」
「さして重要な拠点でも無いだろうからな。特に警戒する必要もあるまい」
「うん!じゃあ突撃ー!」
二人は物陰から飛び出て、砦へ一直線に突っ込む。周囲を警戒していた黒い鎧に身を包んだ騎士達を一瞬で蹴散らしながら、砦に殴り込む。当然のように、騒ぎを聞き付けた黒騎士たちが奥からぞろぞろと現れ、瞬く間に二人を囲む。
「力の差と言うものを教えてやらねばな、クラエス」
「えへへ、戦いっていつでもわくわくするよね!」
ゼロが騎士たちの視界から消え、次の瞬間には彼らの後方で納刀する。無数の騎士たちが細切れになり、遅れて他の騎士たちがゼロへ向かう。それを見たホシヒメは微笑み、右腕から凄絶な竜闘気を産み出す。
「さっきゼロ君が新技出してたし、私もやってみよーっと!」
余りに強烈な力の渦が右腕から放たれ、周囲の騎士は怯むばかりで動けずにいた。
「〈スーパーウルトラハイパーエレガント超絶〉……ええーっとパンチ!」
台詞を考えるのが面倒だったのか、ホシヒメは口上を途中で切り上げて渾身の拳を地面に叩きつける。同時にゼロが空間を切り裂き、ホシヒメの攻撃の余波で世界が崩れぬように補強する。拳から解き放たれた力はその場にいた騎士達を一瞬で蒸発させ、消滅させた。ゼロが納刀すると同時に空間が元に戻り、ホシヒメが笑顔で振り向く。
「どうかな!今の〈なんかすごいパンチ〉!」
「無理に技名を付けずともいいだろう。動作に名前をつけても、特にアドバンテージにはならんからな」
「でも、さっきゼロ君が私の技使ってたよ」
「それは貴様からヒントを得たからだ。貴様へのリスペクト以外の理由はない」
「尊敬してくれてるんだー!嬉しいなぁ!」
ゼロはホシヒメの屈託の無い笑みにまたため息をつき、砦の奥へ視線を向ける。
「無駄話をしている暇はない。今は貴様の嗅覚が頼りだ。行くぞ」
「うん!」
ホシヒメは全力で頷き、二人は通路を進む。そしてその最奥の部屋の扉を拳でぶち抜き、中へ入ると、気の強そうなツインテールの黒騎士の少女がいた。
「あの数の精鋭を破ってここまで来るとは……流石は、真性の竜、ということでしょうか」
少女は極めて落ち着き払った態度で、二人と相対する。
「えっと、あれ?さっき戦ったのは君じゃなかったんだけど……」
ホシヒメが困惑していると、ゼロが俄に舌打ちする。
「臭いがするのにいないということは、可能性は一つだ」
そう言い放ち、瞬時に全力の抜刀攻撃を抜き放ち、空間を引き裂く。砦が倒壊し、隠れていた四体の姿が露になる。典型的な死神の姿をした者、犬を模した機械、骸のような見た目の少女、そして大斧を携えた怪物。
「私の名はタルトゥ。旧Chaos社、円卓の一人」
ツインテールの少女がそう名乗ると、機械が続く。
「俺の名はハットトリッカー。滅四星との戦争のために作られた、虚皇帝が一なり」
死神が浅く頭を下げる。
「我が名はシャドウルイン。同じく、虚皇帝の一人。アーシアを滅ぼすため、作られた」
骸の少女は閉じていた瞳を開き、眼球のない空洞を見せる。
「私の名はクロム・クローン。ディクテイターを滅するため、作られました」
最後に怪物が口を開く。
「俺の名前はガーベージ・ヒュペリオン。シュバルツシルトを討ち滅ぼすために、ここにある」
ホシヒメが四体の虚皇帝に指差しつつ叫ぶ。
「この人たちだよ!私が戦ったのは!」
「叫ばずともわかる。貴様を疑ったことはそれほどない」
二人は互いの得物を構える。
「さて、どうする。タルトゥ、我らはお前の指示待ちだが」
ヒュペリオンが尋ねると、タルトゥは白く輝くエネルギーの剣を抜いて答える。
「無論、戦う他ありません。どちらが死んでも、計画が進むことに変わりありませんので」
「わかった」
虚皇帝たちは砂地に降り立つ。
「二対五か。数的不利はどうだ、クラエス」
「さっき一対四でもよゆーだったし大丈夫!」
二人はそれぞれに分かれ、まず初めにゼロの刀とシャドウルインの鎌が火花を散らす。ゼロが打ち返すと、隙を潰すようにハットトリッカーが電撃を放つ。空間が切り裂かれて電撃が消え、視界を潰した瞬間にゼロが籠手を付けた左腕に蒼い闘気を溜め、渾身の一打を地面に叩きつけ、二人を吹き飛ばす。二人は難なく受け身を取り、両者は距離を取る。
「これが正史の力か」
ハットトリッカーがぼやくと、シャドウルインが頷く。
「どうにも勝ち目が薄いな」
「我々は元々捨て駒……いまさら何を悔やむこともない」
ハットトリッカーは装甲を展開し、背に浮かんだ輪から極大の電磁砲を放つ。ゼロは腕でそれを弾き、鎌を高速回転させつつ突っ込んできたシャドウルインの攻撃を躱し、突進しつつ斬り付けて吹き飛ばす。更に続けて空間の歪みを放ち、二人を回避で釘付けにし、膨大な空間の歪みを作り出して抜刀し、空間をガラスのように切り刻む。
「下らん」
ゼロが納刀し、そう吐き捨てると共に空間が元に戻り、ハットトリッカーとシャドウルインは消えてなくなっていた。
「ふんぬぁ!」
「せーい!」
ヒュペリオンとホシヒメが力任せに攻撃をぶつけ合い、ホシヒメがよろけた瞬間にタルトゥが滑り込んで攻撃を加える。が、ホシヒメは尋常ならざる筋力で蹴りを合わせ、吹き飛ばし、そのままクロムにタルトゥをぶつけてしばしの時を稼ぎ、合わせて振り下ろしてきたヒュペリオンの斧を右腕で受け止める。
「まだまだぁ!」
ホシヒメが斧をへし折り、右腕でヒュペリオンの首を抱え込み、そのまま地面に押し倒し、頭を掴んでぐるぐると豪快に振り回す。そして力任せに放り投げ、右腕から闘気の激流を解き放ってヒュペリオンを破壊する。
「さぁて、次はどっちかな!」
ホシヒメはタルトゥとクロムを順番に指差す。
「まさか戦力差がこれほどとは……」
タルトゥがそう言うと、クロムがため息混じりに答える。
「虚皇帝はいつも貧乏クジを引いてる気がしますね」
そして懐から個人用の次元門を取り出して起動し、その中にタルトゥを蹴り入れる。ほどなく次元門は消え、クロムとホシヒメが相対する。
「ふんふん、君が相手でいいんだね?」
「まあ、相手になるかは甚だ疑問ですが」
クロムは自分の体に突き刺さっていたマチェーテを引き抜き、構える。ホシヒメが喜び勇んで踏み込み攻撃を加えると、クロムは渾身の力でガードする。その軽いステップからは想像も付かぬほどの激甚な衝撃が伝わり、色の抜けたクロムの手がプルプルと震える。
「……?」
ホシヒメは余りにも手応えがないため、躊躇しつつも素早く足を払い、防御の崩れた腹に右腕を捩じ込み、そのままクロムを滅殺する。
「おっかしいなー」
ホシヒメがゼロの方を向く。
「どうした」
「いや、感じた力に対して実力が低すぎるな、って」
「そうだな、俺もそれは感じた」
「何かあったのかな?」
「……」
ゼロはしばし思考を巡らせる。
「奴らは滅四星との戦争のために作られたと言っていた。滅四星が何なのかは知らんが、本来のやるべきことを成した以上は、もはや全力を使い果たしているのかもしれんな」
「えっと、つまり燃え尽き症候群?」
「俺の推測はな。まあいい。敵は倒した。帰るぞ」
「うん」
二人は倒壊した砦を後にした。
エジプト区・オイルゲート
消え得ぬ者はその名に反して今にも崩れ落ちそうな体を引きずり、砂漠を歩いていた。何を隠そう、先ほど奇襲をかけたホシヒメに受けた手痛い傷が、バロンとの交戦で受けた傷と相俟って彼を瀕死に追い込んでいたのである。
「おのれ、我がこんなところで滅びるなど……力だ、今は何よりも、異史で受けた屈辱を晴らすまでは……」
消え得ぬ者は砂漠を暫し、進み続けた。
一面の焼け野が延々と続く区間を歩き続ける二人は、特に話すこともなく黙々と先を急いでいた。
「そう言えば、さっきの女の子から何か聞き出せた?」
ホシヒメが話題を持ち出すと、ゼロは頷く。
「ああ。旧Chaos社は、王龍アーリマンを降ろし、この世界を無に帰すつもりのようだ」
「それって……」
「貴様たちが阻止した、かつてのChaos社の野望と一致する」
「そー言えばさー、結局黄金の卵ってなんだったんだろうね?ゼロ君知ってる?」
「あれはヴァナ・ファキナが復活のための力を溜め込むための装置だったらしい。だが、杉原に憑依していた奴はアリアという娘の凶弾に抑え込まれ、肝心の卵は奈野花に使われ、存在意義を失った」
「ほぇー」
気の抜けた返事をホシヒメがした瞬間、彼女は立ち止まる。
「ゼロ君」
「わかっている」
二人は立ち止まり、周囲の雰囲気が変わったことに気付く。風と共に白砂が運ばれてきて、焼け焦げていた大地は瞬く間に白亜の海に変わる。
茫漠の墓場
「王龍結界か……?」
ゼロが緊張した面持ちでそう言うが、ホシヒメが否定する。
「いや、そんなに強い気配じゃないよ。寧ろ、今にも消えそうなのに頑張ってこの空間を維持してる感じ」
ホシヒメは徐に籠手を左腕に付け、ゼロは刀の柄に手をかける。そしてホシヒメは後方からの急襲を弾き、右腕の暴力的な出力で反撃し、攻撃してきた大柄な骸骨騎士を遥か彼方に吹き飛ばす。
「あれ?」
アフリカ東部 星骨焦土
周囲の景色は元に戻る。
「クラエス、今のは……」
ゼロが警戒を解く。
「よくわかんないけど、ちょっと力入れすぎた?」
ホシヒメが困惑した表情を見せる。
「わからん……だが、今の一撃だけで撃退できるのなら取るに足らん」
「うーん、それもそっか!じゃ、先へゴーゴー!」
ホシヒメが元気よく駆け出し、ゼロもそれに従う。
アフリカ区・焦土タンザニア
しばらく同じような焦土を進み続け、ようやく人の住んでいた気配の残る場所へ辿り着く。溶けかけた建造物がいくつも並び、その奥に急拵えで作られた砦が見える。
「ん」
ホシヒメが鼻をすんすんと動かし、それを見たゼロが頷き、二人は物陰に隠れる。
「さっきの人たちと同じ気配を感じたよ」
「流石だな、クラエス。どちらからだ」
「砦の方。まあ、当然っちゃ当然だよね」
「さして重要な拠点でも無いだろうからな。特に警戒する必要もあるまい」
「うん!じゃあ突撃ー!」
二人は物陰から飛び出て、砦へ一直線に突っ込む。周囲を警戒していた黒い鎧に身を包んだ騎士達を一瞬で蹴散らしながら、砦に殴り込む。当然のように、騒ぎを聞き付けた黒騎士たちが奥からぞろぞろと現れ、瞬く間に二人を囲む。
「力の差と言うものを教えてやらねばな、クラエス」
「えへへ、戦いっていつでもわくわくするよね!」
ゼロが騎士たちの視界から消え、次の瞬間には彼らの後方で納刀する。無数の騎士たちが細切れになり、遅れて他の騎士たちがゼロへ向かう。それを見たホシヒメは微笑み、右腕から凄絶な竜闘気を産み出す。
「さっきゼロ君が新技出してたし、私もやってみよーっと!」
余りに強烈な力の渦が右腕から放たれ、周囲の騎士は怯むばかりで動けずにいた。
「〈スーパーウルトラハイパーエレガント超絶〉……ええーっとパンチ!」
台詞を考えるのが面倒だったのか、ホシヒメは口上を途中で切り上げて渾身の拳を地面に叩きつける。同時にゼロが空間を切り裂き、ホシヒメの攻撃の余波で世界が崩れぬように補強する。拳から解き放たれた力はその場にいた騎士達を一瞬で蒸発させ、消滅させた。ゼロが納刀すると同時に空間が元に戻り、ホシヒメが笑顔で振り向く。
「どうかな!今の〈なんかすごいパンチ〉!」
「無理に技名を付けずともいいだろう。動作に名前をつけても、特にアドバンテージにはならんからな」
「でも、さっきゼロ君が私の技使ってたよ」
「それは貴様からヒントを得たからだ。貴様へのリスペクト以外の理由はない」
「尊敬してくれてるんだー!嬉しいなぁ!」
ゼロはホシヒメの屈託の無い笑みにまたため息をつき、砦の奥へ視線を向ける。
「無駄話をしている暇はない。今は貴様の嗅覚が頼りだ。行くぞ」
「うん!」
ホシヒメは全力で頷き、二人は通路を進む。そしてその最奥の部屋の扉を拳でぶち抜き、中へ入ると、気の強そうなツインテールの黒騎士の少女がいた。
「あの数の精鋭を破ってここまで来るとは……流石は、真性の竜、ということでしょうか」
少女は極めて落ち着き払った態度で、二人と相対する。
「えっと、あれ?さっき戦ったのは君じゃなかったんだけど……」
ホシヒメが困惑していると、ゼロが俄に舌打ちする。
「臭いがするのにいないということは、可能性は一つだ」
そう言い放ち、瞬時に全力の抜刀攻撃を抜き放ち、空間を引き裂く。砦が倒壊し、隠れていた四体の姿が露になる。典型的な死神の姿をした者、犬を模した機械、骸のような見た目の少女、そして大斧を携えた怪物。
「私の名はタルトゥ。旧Chaos社、円卓の一人」
ツインテールの少女がそう名乗ると、機械が続く。
「俺の名はハットトリッカー。滅四星との戦争のために作られた、虚皇帝が一なり」
死神が浅く頭を下げる。
「我が名はシャドウルイン。同じく、虚皇帝の一人。アーシアを滅ぼすため、作られた」
骸の少女は閉じていた瞳を開き、眼球のない空洞を見せる。
「私の名はクロム・クローン。ディクテイターを滅するため、作られました」
最後に怪物が口を開く。
「俺の名前はガーベージ・ヒュペリオン。シュバルツシルトを討ち滅ぼすために、ここにある」
ホシヒメが四体の虚皇帝に指差しつつ叫ぶ。
「この人たちだよ!私が戦ったのは!」
「叫ばずともわかる。貴様を疑ったことはそれほどない」
二人は互いの得物を構える。
「さて、どうする。タルトゥ、我らはお前の指示待ちだが」
ヒュペリオンが尋ねると、タルトゥは白く輝くエネルギーの剣を抜いて答える。
「無論、戦う他ありません。どちらが死んでも、計画が進むことに変わりありませんので」
「わかった」
虚皇帝たちは砂地に降り立つ。
「二対五か。数的不利はどうだ、クラエス」
「さっき一対四でもよゆーだったし大丈夫!」
二人はそれぞれに分かれ、まず初めにゼロの刀とシャドウルインの鎌が火花を散らす。ゼロが打ち返すと、隙を潰すようにハットトリッカーが電撃を放つ。空間が切り裂かれて電撃が消え、視界を潰した瞬間にゼロが籠手を付けた左腕に蒼い闘気を溜め、渾身の一打を地面に叩きつけ、二人を吹き飛ばす。二人は難なく受け身を取り、両者は距離を取る。
「これが正史の力か」
ハットトリッカーがぼやくと、シャドウルインが頷く。
「どうにも勝ち目が薄いな」
「我々は元々捨て駒……いまさら何を悔やむこともない」
ハットトリッカーは装甲を展開し、背に浮かんだ輪から極大の電磁砲を放つ。ゼロは腕でそれを弾き、鎌を高速回転させつつ突っ込んできたシャドウルインの攻撃を躱し、突進しつつ斬り付けて吹き飛ばす。更に続けて空間の歪みを放ち、二人を回避で釘付けにし、膨大な空間の歪みを作り出して抜刀し、空間をガラスのように切り刻む。
「下らん」
ゼロが納刀し、そう吐き捨てると共に空間が元に戻り、ハットトリッカーとシャドウルインは消えてなくなっていた。
「ふんぬぁ!」
「せーい!」
ヒュペリオンとホシヒメが力任せに攻撃をぶつけ合い、ホシヒメがよろけた瞬間にタルトゥが滑り込んで攻撃を加える。が、ホシヒメは尋常ならざる筋力で蹴りを合わせ、吹き飛ばし、そのままクロムにタルトゥをぶつけてしばしの時を稼ぎ、合わせて振り下ろしてきたヒュペリオンの斧を右腕で受け止める。
「まだまだぁ!」
ホシヒメが斧をへし折り、右腕でヒュペリオンの首を抱え込み、そのまま地面に押し倒し、頭を掴んでぐるぐると豪快に振り回す。そして力任せに放り投げ、右腕から闘気の激流を解き放ってヒュペリオンを破壊する。
「さぁて、次はどっちかな!」
ホシヒメはタルトゥとクロムを順番に指差す。
「まさか戦力差がこれほどとは……」
タルトゥがそう言うと、クロムがため息混じりに答える。
「虚皇帝はいつも貧乏クジを引いてる気がしますね」
そして懐から個人用の次元門を取り出して起動し、その中にタルトゥを蹴り入れる。ほどなく次元門は消え、クロムとホシヒメが相対する。
「ふんふん、君が相手でいいんだね?」
「まあ、相手になるかは甚だ疑問ですが」
クロムは自分の体に突き刺さっていたマチェーテを引き抜き、構える。ホシヒメが喜び勇んで踏み込み攻撃を加えると、クロムは渾身の力でガードする。その軽いステップからは想像も付かぬほどの激甚な衝撃が伝わり、色の抜けたクロムの手がプルプルと震える。
「……?」
ホシヒメは余りにも手応えがないため、躊躇しつつも素早く足を払い、防御の崩れた腹に右腕を捩じ込み、そのままクロムを滅殺する。
「おっかしいなー」
ホシヒメがゼロの方を向く。
「どうした」
「いや、感じた力に対して実力が低すぎるな、って」
「そうだな、俺もそれは感じた」
「何かあったのかな?」
「……」
ゼロはしばし思考を巡らせる。
「奴らは滅四星との戦争のために作られたと言っていた。滅四星が何なのかは知らんが、本来のやるべきことを成した以上は、もはや全力を使い果たしているのかもしれんな」
「えっと、つまり燃え尽き症候群?」
「俺の推測はな。まあいい。敵は倒した。帰るぞ」
「うん」
二人は倒壊した砦を後にした。
エジプト区・オイルゲート
消え得ぬ者はその名に反して今にも崩れ落ちそうな体を引きずり、砂漠を歩いていた。何を隠そう、先ほど奇襲をかけたホシヒメに受けた手痛い傷が、バロンとの交戦で受けた傷と相俟って彼を瀕死に追い込んでいたのである。
「おのれ、我がこんなところで滅びるなど……力だ、今は何よりも、異史で受けた屈辱を晴らすまでは……」
消え得ぬ者は砂漠を暫し、進み続けた。
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