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三千世界・再誕(8)
二章 石の心臓(通常版)
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???・礼拝堂
黒い鎧の大柄な騎士が、眼前に並んだ十人の人間を見渡す。
「シュルツは手筈通り捕らえられたか」
豪奢な着物に身を包んだ男が、扇子で口許を隠しつつ答える。
「あの子は明らかにおバカそうだったしねえ、仕方ないんじゃなぁい?」
その右に立つフードの男が続く。
「その喋り方キモいからやめやがれ、ヤソマガツ」
その名前に男――ヤソマガツは扇子を閉じ、フードの男の首に当てる。
「この姿の時はぁ?」
「ミヤビだろ?めんどくせえ」
ヤソマガツ改め、ミヤビは扇子を開いて口許に戻す。
「ふん、下らん。大層なことを言っていながら、あのブラッドとやらはすぐ宙核に敗れたか」
黄金の鎧に身を包んだ騎士が吐き捨てる。
「それだけではなく、グワウルも敵に捕らえられましたがね」
黒い鎧に銀髪の少年が続く。
「貴様の兄だろう、マゾルフ」
マゾルフは黄金の騎士へ鋭い視線を向ける。
「単にブラッド様に仕える同士でしかありませんね。ベルガ、あなたも所詮、狂竜王の名のもとに集った同士でしかない。必要とあらば、躊躇なく斬ります」
ベルガはその言葉を一笑に付す。大柄な黒の騎士はその様を見て微笑ましく思いつつも、残りの面子へ視線を向ける。柔和な表情をした青年と、気の強そうなツインテールの黒騎士の少女、辛気臭い表情の長身の男と、無表情の男、そしてローブに身を包んだ幼女がいた。幼女が深く被ったフードの隙間から、赤紫の瞳を覗かせる。
「何か」
騎士が訊ねると、幼女はやおらに首を横に振る。
「何もございません、狂竜王。けれどあなたにはわかるはず……この胸の高鳴りが、抑えられぬほどの、生への欲望が」
狂竜王と呼ばれた騎士は、あえて何の反応も示さなかった。
「我々にはこの世界で成すべきことがある。みな、それを忘れぬようにな」
狂竜王はそれを告げると、霞のごとく消え去った。
エジプト区・オイルゲート
「ぷはぁー!」
ホシヒメが水筒の水を一気に飲み干し、満面の笑みを見せる。
「やっぱ生き返るね、これだよこれ!」
うるさくはしゃいでいると、横にいたゼロがため息をつく。
「貴様はここに何をしに来たかわかっているのか?」
「もっちろん!旅行だよね!」
ゼロは絶句する。
「まさか……はぁ……そうだな、貴様は仕事とまともに言われてもぐうたらするだけだったな。目を覚ませ、クラエス。俺たちはここに、仕事で来た」
「ほへ?」
ホシヒメはまるで理解していないようだったが、ゼロは構わず進める。
「バロンの頼みで、世界独立機構を守護する役目を負った。だが俺たちも元の世界での仕事がある。故に、僅かな期間で多くの不埒者を斬り捌く必要がある」
「そうだったんだ」
「貴様にまともに話しても意味がないと、ゼルが思ったのだろうな」
二人が無駄話をしていると、取り囲むように十人ほどの兵士が現れる。
「今のところ、何人倒したんだっけ?」
「千から先は覚えていないな」
「随分遠出しちゃったし、これを倒したら戻ろっか!」
「そうだな」
周囲の兵士は悪魔化し、腕の生えた蛇となり、剣と盾を持って一斉に襲いかかる。瞬間、ゼロが視界から消え、蛇たちの後方で納刀する。蛇たちは瞬時に細切れになり、ホシヒメはその様に拍手する。拍手を隙と勘違いした蛇たちが彼女に襲いかかるが、ホシヒメはすぐに右腕を地面に叩きつけ、強烈な衝撃波で蛇たちは焼き尽くされる。
「ふふん、雑魚ばっかりだね!」
ホシヒメが姿勢を戻し、ゼロが歩いてくる。
「俺たちが揃って、この程度に遅れは取るまい」
「それもそーだね。さっ、独立機構まで戻ろっか」
「ああ」
エジプト区・月光都カイロ
二人の帰路の途中、怪しげな雰囲気に包まれたカイロに足を踏み入れる。
「なんか、変な気配するよね」
「そうだな。俺たちと同じ、竜の臭いだ」
しかし、街の人々は特に何も違和感はなく、いつも通りの往来が見える。
「ま、いっか」
「ふん。ならば、俺が警戒しておこう」
二人は街中を歩く。
「ところでさ、世界独立機構って、なんでそういう名前なの?」
ホシヒメが訊ねる。
「バロンに聞いた話によれば、Chaos社が発展するきっかけとなった〝トーデストリープ症候群事件〟と、〝第三次世界大戦〟の後、Chaos社の支配を逃れようとしたものが作ったのが、独立機構、ということらしいな」
「とーですとりーぷしょーこーぐん?」
「トーデストリープ症候群は、死を身近に感じることで生まれる自壊衝動が無意識を支配し、常時自殺衝動がその人間を苛むという、精神病の一種らしい。簡単に言えば、死にたくて堪らなくなる、ということだ」
「ふーん」
「第三次世界大戦は、Chaos社が裏で操っていたとバロンが言っていたが、それが本当ならば……」
「あ!知ってるよ、マッチポンプってやつでしょ?」
「そういうことだな。杉原とやらがそこまで賢しいとは到底思えんが……Chaos社を隠れ蓑にしようとした人間などいくらでもいるだろう」
「ま、昔のことだしそこまで関係ないよねー」
「知識として把握しておくのは無駄ではないが」
二人は同時に、前方に怪しげな二人組をみつける。
「ねね、今のさぁ……」
「言わずともいい。流石に罠だと思いたいほどだ」
二人組は路地へ入る。ホシヒメたちもそれを追って、路地へ向かう。
複合王龍結界・五王
二人組は砂漠に出てもなお、しばらく進み続けた。
「おい」
ゼロが二人組に声をかける。二人組は振り返る。豪奢な着物に身を包んだ男と、フードを被った細身の男が顔を見せる。
「何か、御用かしらぁ?」
着物の男が扇子を開いてそう言うと、ゼロが刀の柄に手を添える。
「貴様、竜の類いだな」
その言葉で、二人組は顔を見合わせ、そしてゼロたちの方を向く。
「誰かと思えばゼロじゃなぁい。懐かしいわねえ」
ホシヒメがゼロの方を向く。
「あれ?知り合いなの?」
「会ったことはないが……貴様、ヤソマガツか」
フードの男がその言葉を遮るように答える。
「この姿の時はミヤビと呼んでやれ。クソうぜえからな。おいゼロ、てめえは俺もわかるよな」
「シュンゲキだろう。なぜ貴様らがここに……いや、聞くまでもないか。貴様ら、旧Chaos社に召喚されたな」
シュンゲキが拳を突き合わす。
「正解だ。俺たちは旧Chaos社の理想を叶えるため、王の手で呼び出された」
ゼロはホシヒメに声をかける。
「クラエス、こいつらは敵だ。無力化か、さもなくば殺せ」
「おっけー。じゃ、私はあっちの細い人と戦うね」
四人はそれぞれ向かい合い、己の得物を構える。
「ゼロ、アンタ急に居なくなっちゃうんだからぁ。そんなにユリアを失ったのが悲しかった?」
ミヤビの言葉に、ゼロは刀を抜いて返す。
「俺に悲しみはない。あるのはただ、力への欲求、それだけだ」
「ふふふ……惜しいわねぇ。ただ、人の心を解す努力さえすれば、アンタはより強くなれたのに」
「どうでもいい。情に絆されねば得られぬ力など、俺には価値などない」
ゼロの会話の横で、ホシヒメとシュンゲキが向かい合う。
「えへへ、なんかビリビリしてて楽しそうだね」
「おっ、てめえはこの力の良さがわかるか。流石はボーラスのお気に入りだな」
「ふふん、なんせ私はそのボーラスさんに力の解放の仕方を教えてもらったからね!」
「いよぉし!なら話が早ぇ!全力でぶっ飛ばし合おうぜ!」
ホシヒメの右拳とシュンゲキの左拳が激突するのを合図に、ゼロの刀とミヤビの扇子が甲高い金属音を響かせる。ゼロがミヤビを吹き飛ばし、光の刃を雨のように注がせる。ミヤビは動きを鈍化させられ、現れたゼロの分身に突進しつつ斬りつけられて吹き飛ばされる。更に本体が氷剣を突き出しつつ高速回転しながら突っ込む。斬撃の嵐から、止めの強烈な一撃でミヤビをボロ雑巾のようにかちあげ、追撃にミヤビを囲むように光の刃を産み出す。ミヤビが態勢を立て直すより早く光の刃が突き刺さり、ミヤビは気絶したように動けなくなる。ゼロは背を向け、瞬間移動しながら刀を突き出し、ミヤビの腹を貫く。
「終わりにしよう」
「相も変わらず余裕のない攻めねぇ。少しくらい、ゆっくり生きてみたらぁ?」
ミヤビの姿が水になって消え、背後から放たれた攻撃をゼロは腕で弾く。
「馬鹿め」
強烈な突進斬りで数多切り裂かれ、そのまま上空へ打ち上げられ、三段斬りで怯まされ、止めに兜割りでミヤビは吹き飛ばされる。
「貴様ごときに遅れを取る俺ではない」
受け身を取ったミヤビが、扇子を開いて微笑む。
「ちょぉっとムカついて来たわぁ……?」
「そうか。ではそのまま死ね」
ミヤビの周囲から、巨大な泡がいくつか生まれる。
「行くわよぉ!」
泡がゼロへ飛び、そして爆発する。ゼロは軽く横に動くだけで衝撃を往なし、分身をミヤビへ攻撃させる。泡を全て処理し、分身に気を取られたミヤビへ空間の歪みを連射し、更に一閃で時空を引き裂いてミヤビとの空間を縮め、引き裂いた空間に歪みを撃ち放ち、十字に瞬速で抜刀し、動きの鈍ったミヤビに容赦のない連撃を叩き込む。
「貴様が俺の刃から逃れて躱すつもりならば、決して逃がさん」
ゼロの分身が二体に増え、全員で空間の歪みを連発する。そして空間の歪みが限界に達した瞬間、ゼロは抜刀し、切り取られた空間の中で刃が乱れ飛ぶ。ミヤビはずたぼろにされて砂の地面に投げ出される。
「貴様など、クラエスの足元にも及ばん」
「うぐ……アンタ……」
ミヤビは猛然と起き上がり、凄まじい形相で怒りを露にする。
「自らの無力が原因で怒るか。愚かな蜥蜴だ」
「絶対にぶっ殺したるわ!」
ミヤビは竜化し、狐面の長大な竜の姿へと変貌する。
「我が名は天王龍ヤソマガツ!きさんを八つ裂いて、魚の餌んしたるわぁ!」
ヤソマガツは鋭い水流を口から放ち、ゼロは当然のごとく躱す。しかし、ヤソマガツは先ほどとは比べ物にならない素早さで飛び退き、泡を飛ばす。ゼロが切り落とすと、泡は爆発し、その影からヤソマガツが高速回転しながら前足を突き出して突っ込んでくる。着地の隙を狙ったゼロの攻撃を地上で回転して弾き、勢い良く飛び上がって背面を叩きつけ、防御したゼロを怯ませ、その場で軽く跳躍して大量の砂を巻き上げ、更に回転してゼロを高く打ち上げ、空中目掛けて回転突進を放つ。惜しくも躱されるが、追撃に大量の泡を産み出して一気に爆発させ、ゼロを吹き飛ばす。ヤソマガツはゆるりと着地する。
「死ね言うたんは貴様やろが!はよ起きて殺し来んかいわれぇ!」
ヤソマガツは吼え猛り、全身の毛のようなパーツが赤く染まる。
「ふん」
ゼロは左手で砂煙を払い、刀の柄に手をかける。
「すぐに冷静さを欠くのはどれだけの宇宙を隔てても同じようだな」
ヤソマガツはゼロの言葉を遮るように右前足を叩きつける。すると、小型の無数の泡が地面を走り、導火線のように次々に爆裂する。ゼロは横に逸れて躱す。
「貴様ごとき、本気を出すにも値しないが……仕事である以上、手を抜くわけにはいかん」
ゼロは青く膨大な闘気を放ち、翼を生やす。
「俺が手にしたこの力、王龍を消し去れるか否か、貴様で試してやる!」
瞬時にヤソマガツに光の刃を降り注がせると同時に自分の周囲にも光の刃を産み出し、斬撃で距離を一気に詰め、ヤソマガツが反応するよりも早く強烈な二連斬りを頭へ叩き込んで怯ませ、神速の突進斬りですり抜け、幾度も切り裂く。ヤソマガツは反撃に尾を振るいながら身を翻し、泡を飛ばして軌道を炸裂させ、更に前足を叩きつけてゼロの移動範囲を潰し、体を大きく使って前方を薙ぎ払いながら爆撃する。その衝撃で自身を囲っていた光の刃は消え、ゼロ目掛けて更に口から水流を放つ。ゼロは刀で水流を斬り捌き、その場で力を溜める。
「終わりだ」
襲いかかるヤソマガツを光の刃の雨で止め、分身と共に無数の斬撃を飛ばし、空間がガラスのように切断される。ゼロが納刀した瞬間、空間は元に戻り、ヤソマガツは地面に転がる。
「時間の無駄だ」
ゼロがそう吐き捨てると、ヤソマガツは傷ついた体を起こす。
「ちょづくなよ、坊主が……!次はぼてくりこかしたるけんな!」
捨て台詞を吐いて、ヤソマガツは去った。
「せいっ!」
「甘いわァ!」
ホシヒメと竜化したシュンゲキは拳と、翼を幾度もぶつけ合い、その度に電撃が地面に走る。ホシヒメが爆炎を右腕から放つと、シュンゲキは身を翻して尾を突き出す。放たれた青い電撃が大地を吹き飛ばし、両者は再び激突する。
「いいねいいね!最高にビリビリするよ!」
「まさかてめえとここまでノリが合うたぁなぁ!」
シュンゲキはホシヒメを突き飛ばし、頭部に巨大な電撃の刃を産み出して振り下ろす。ホシヒメは右腕で電撃を防ぎきり、渾身の正拳突きでシュンゲキを大きく仰け反らせる。
「かぁーっ!やるじゃねえか!本当ならどっちかが消えてなくなるまでやりてえところだが……」
シュンゲキはゼロの方を見る。
「ヤソマガツのアホの面倒を見ねえといけねえ。じゃあな!」
翼で空を切り裂き、作り出した時空の狭間にシュンゲキは消えた。
エジプト区・南部砂漠
結界が消える感覚と共に、二人は戦闘状態を解除する。
「急になんだったんだろうねー」
ホシヒメがそう言うと、ゼロは冷静に答える。
「王から呼び出されたと言っていたが」
「誰だろうね?ボーラスさんとか?」
「まさか。奴が動くほど終局が近いとも思えん。確率が高いのは、狂竜王の方だろう」
「狂竜王って……あの黒い鎧の大きい人?」
「だいたいの外見はそれで合っているな。奴は全ての始まりと言っても過言ではない。王龍が王と呼ぶのはそれくらいしか思い付かん」
「ま、別に気にしなくていいよね!」
「貴様はいつもそれだな……実際、黒幕のことを考えてもしょうがないのは確かだが」
二人は独立機構を目指して歩く。
「お仕事でも、久しぶりにゼロ君と一緒に居られるから楽しいね!」
ホシヒメが屈託のない笑みを見せつつそう言うと、ゼロは鼻で笑う。
「貴様がきちんと仕事をやればいつでも会える」
「えー!だってお仕事の内容全然意味わかんないんだもん!やっぱ私はこういうのが一番!」
そう言ってホシヒメはシャドーで拳を放つ。
「ふん。貴様は仲間に恵まれている。ゼルやノウンが助けてくれるのなら、それで十分だろう。俺は臣下しか居ないのでな」
「えへへ、仲間なら、ここにいるよ?」
「貴様は好敵手《とも》だ。仲間になった覚えはない」
「ん?んーっとぉ……?何がどう違うの?」
「俺が理解していればそれでいい」
「そっか。なんかよくわかんないけど、それでいいならいいや!」
ゼロは歩きながら笑む。
「やはり、貴様といると調子が狂う」
世界独立機構アフリカ
陽が大して傾かぬ内に二人は南アフリカに位置する独立機構の本部まで戻ってきた。
「んー?誰だろ、すごく綺麗な人がいるよー?」
ホシヒメが指差す方向には、独立機構を囲む巨大な壁の前に立つ、黒髪の少女――月城燐花――が立っていた。
「クラエス。やつはバロンからの資料に記載されていた、旧Chaos社の指導者と外見が一致する」
「えっ、ほんと!?じゃあ半殺しにぶっ叩かないと!」
「待て!独立機構は新生Chaos社はともかく、旧Chaos社へは当然恨みが晴れていない。大将首がここに居るということは、相応に警戒した方がいい」
「じゃ、じゃあどうしよっか?」
「俺が一人で奴に攻撃を仕掛ける。貴様は、奴らにもし予備戦力があれば加勢してこい。俺より貴様の方が勘が鋭いからな」
「わかった」
二人は頷き合い、ゼロは燐花の真正面へ瞬間移動する。
「ひゃっ……!」
燐花は突然現れたゼロに驚くが、それほど取り乱さず旗槍を手に取る。
「やっと来ましたか」
ゼロは燐花の言葉に即座に反応する。
「俺たちを待っていたのか。独立機構が目障りなら、既に滅ぼせていたはずだが」
「必要な手筈を整えてから一気に叩き潰す。それがChaos社のやり方でしてね」
「世界の滅亡が貴様らの目的だったか。独立機構が居なければ新生Chaos社は今の形を失うとでも思っているのか?」
「ふふっ、そんなことはどうでもいいんですよ。明人くんさえ元に戻れば、Chaos社は何度でも蘇りますから」
「……」
ゼロは鋭い視線を向ける。
「貴様、Chaos社など本当はどうでもいいのだろう。杉原のことしか見えていない風に見えるぞ」
「え、えへへ。そうですか……?やっぱり、明人くんは私にこそ相応しいですよね!」
「色狂いが。下らん情愛は技も、人生も曇らせるぞ」
「色狂い?違いますよ。私は、陽の当たる場所でしか生きられない、ただそれだけですよ?」
「陽の当たる、場所か……」
ゼロは僅かにその言葉に反応する。
「わかりますよ、あなたの気持ち。あなたも私と同じように、太陽のように輝く大切な人のお陰で、ここにいるんですよね。だとしたら、わかるはずです。いつもの笑顔で迎えてくれるはずの大切な人が、ある日突然、私を全否定するように変貌しているんですよ?そんなの……絶対に許せませんよね!」
「貴様は杉原のことなど思っていない。ただ自分が愛しいだけだ」
「そうですか。ま、明人くん以外の生物なんて全部どうでもいいんですけど」
「こちらは仕事で来ているのでな。貴様を捕らえ、事情を聞かせてもらおう」
ゼロが刀を産み出す。燐花は旗槍を構え、空いたもう片方の手で腰に佩いた光輝く剣を抜く。
「ほう、それが件の騎士王の聖剣とやらか。アルメールからは折られたと聞いていたが……」
「……?」
燐花はゼロの言葉を理解できていないようだったが、両者はそれ以上何を言うでもなく、互いの得物を叩きつけ合う。ゼロは急速に後退し、突進しつつ抜刀する。燐花は聖剣から闘気をブースターのように産み出して躱し、旗槍を片手で振り下ろして地面を爆発させる。ゼロが爆風を十字に切り裂き、空間の歪みを放つ。燐花は咄嗟に防御するが、その攻撃の性質を理解した守りで無いために連続で真空刃を受ける。容赦なく攻撃を重ねられるが、往なし、反撃しようとした瞬間、圧倒的な速度で抜刀攻撃を放たれ、裂かれた空間に飲まれた燐花の動きは一瞬止まる。ゼロは氷剣と刀を同時に構え、力む。
「打ち砕け!〈ギガマキシマムドライバー〉!」
そう叫ぶと同時に、ゼロは凄まじい速度で回転しつつ怒涛の斬撃を燐花へ叩き込み、止めと言わんばかりの凄絶な氷剣の一閃で吹き飛ばす。氷剣を砕き、刀を消す。受け身を取った燐花がゼロへ視線を向ける。
「余裕の無い攻めですね」
「戦いに余裕など要らん。俺が戦いを楽しむのは、好敵手との死合いのみ」
「ふん」
燐花が武器を構え直す。
「とも、ですか……私には、そういう人はいませんでしたね」
「女。貴様が杉原を望むなら、どんな障害をも越えてみせろ。自らの道を、自分で切り開け」
ゼロは焔を纏った籠手を装着する。
「俺に愛や友情を理解することはできない。だが、貴様の意志の強さはよくわかる。ならば……その意志の強さを、より強く、気高く磨き上げてみせろ!」
そして、蒼い闘気が辺りを包む。
「くっ……」
燐花が逡巡する。
「腑抜けたか」
「ふふ、ふふふ……」
不気味な笑みを燐花が見せると、上空から鎧に身を包んだ絶世の美男が落下し、着地する。
「やはり伏兵がいたか」
ゼロがそう言うと、美男は立ち上がり、その端正な顔を見せる。
「ん……?貴様、アルメ――」
「僕は月城亮。燐花の兄だよ」
亮はゼロの言葉を遮るように告げる。そして、腰から肉厚の長剣を抜き、それが閃光を放つ。
「妹だけで君の相手は少々荷が重いようだからね」
「そんなにお望みなら、もう一度地獄に送ってやろう、アルメール!」
両者の得物が激突すると、先ほどとは比較にならぬほどの衝撃が生まれる。
「(まずいな……)」
危機感を覚えたゼロは、全身から力を放つ。
王龍結界 ディーペスト・アーマゲドン
周囲の雰囲気が一気に変わり、蒼く輝く黄金の破片が舞い散る空間へと変貌する。
「おやおや……」
亮がゼロの拳を弾き返し、肘を突き出して押し込みつつ、閃光を纏った薙ぎ払いを放つ。ゼロは刀の腹でそれを受け、大きく後退する。
「貴様は何がしたいんだ、アルメール……!」
「誰のことかな。僕には全くわからないが。僕はあくまで、燐花の人生を応援したいだけさ」
「貴様がそんな理由で意味もなく来るわけがない……」
「さっきから君は誰のことを言ってるんだい」
ゼロが亮から僅かに目を離すと、いつの間にか燐花の姿は無かった。
「どうなっている……」
「おや、意外と言いつけは守るんだね、燐花」
「なぜ貴様はここにいる」
「まだ聞くのかい?……ああ、お前になら喋ってもいいか。どうせ目的に関係ないことに首を突っ込まないからな」
亮は放つ気配を一気に変える。
「意図的に全力が出せないとは言え、ヤソマガツをほぼ一方的に仕留めたその強さ、見事だった。その功を称えて、なぜここにあの女と俺が来たか教えてやろう。燐花は、改心するまえの杉原の理想を叶えるために、様々な世界から次々と力を集めている。お前も王龍なら聞いたことがあるはずだ、虚無の王龍、アーリマンの名を」
「ニヒロの盟友と呼ばれるあの竜か。というより、そいつは貴様の友だろう、アルメール」
「こほん。アルメールじゃなく?」
「……。月城亮。そいつは貴様の友だったはずだ」
ゼロが呆れ気味に訂正すると、亮は続ける。
「まあ、僕にとってアーリマンがどうかはどうでもいい。並みの宇宙なら作り替えるほどの力を持つものを始源世界から呼び起こすには、その世界に見合うローカライズが必要になる。それが、原初世界での九竜であり、竜王種の皇子として生まれたお前でもある」
「それが、貴様たちがこの世界の各地で暴れている理由か」
「そう。アーリマンを呼び起こすには、この世界を大いに歪ませ、淀みで満たす必要がある」
「……。俺がその情報を、バロンに伝えるとわかった上での言葉か」
「さあ?僕が本当のことを言っているという保証もない。全ては君次第と言うことだが」
「ふん……俺は公務で竜世界に帰る。これ以上、この動乱で貴様と戦うこともない。貴様の目的に対する真摯な姿勢は信じている」
ゼロが結界を解く。
世界独立機構アフリカ
「見逃してやる。どこへなりとも逃げるがいい」
「いいのかい?」
「貴様は敵を作りすぎだ。俺が手を下さずとも、いずれ死ぬ」
ゼロの言葉に亮は微笑み、すぐに姿を消す。そこへ、ホシヒメが駆け寄ってくる。
「クラエス。なぜ加勢してこなかった」
ホシヒメはゼロの方を見る。
「それがね!ずっと邪魔が入ってたから、その人たちを倒して回ってたの!」
「わかった。何か変わったことはあったか」
「指揮官クラスの人が何人か……えっと、四人?いたかな。ちょっと逃げられちゃったんだけどね」
「追うぞ、クラエス」
「おっけー!」
「それで、逃げた方向はわかるか」
「そうだねぇー……東の方、かな」
「東……」
ゼロが顎に手を当てる。
「確か、先の戦いで狂竜王が放った槍の爆心地が、アフリカ東部だったはずだ。独立機構やバロンが言うには、星骨焦土と呼ばれる危険地帯らしい」
「なるほどぉ……で、どういうこと?」
「浄化しきれぬほど無明の闇に侵食されていたということだろうな。俺たちのような、純粋な竜にはさほど関係の無いことだ。行くぞ」
「うん!」
ホシヒメの大変元気のよい返事に、ゼロは少々ノイローゼになりつつも道を急ぐ。
アフリカ東部 星骨焦土
一面の焼け野が延々と続く区間を歩き続ける二人は、特に話すこともなく黙々と先を急いでいた。
「そう言えば、さっきの女の子から何か聞き出せた?」
ホシヒメが話題を持ち出すと、ゼロは頷く。
「ああ。旧Chaos社は、王龍アーリマンを降ろし、この世界を無に帰すつもりのようだ」
「それって……」
「貴様たちが阻止した、かつてのChaos社の野望と一致する」
「そー言えばさー、結局黄金の卵ってなんだったんだろうね?ゼロ君知ってる?」
「あれはヴァナ・ファキナが復活のための力を溜め込むための装置だったらしい。だが、杉原に憑依していた奴はアリアという娘の凶弾に抑え込まれ、肝心の卵は奈野花に使われ、存在意義を失った」
「ほぇー」
気の抜けた返事をホシヒメがした瞬間、彼女は立ち止まる。
「ゼロ君」
「わかっている」
二人は立ち止まり、周囲の雰囲気が変わったことに気付く。風と共に白砂が運ばれてきて、焼け焦げていた大地は瞬く間に白亜の海に変わる。
茫漠の墓場
「王龍結界か……?」
ゼロが緊張した面持ちでそう言うが、ホシヒメが否定する。
「いや、そんなに強い気配じゃないよ。寧ろ、今にも消えそうなのに頑張ってこの空間を維持してる感じ」
ホシヒメは徐に籠手を左腕に付け、ゼロは刀の柄に手をかける。そしてホシヒメは後方からの急襲を弾き、右腕の暴力的な出力で反撃し、攻撃してきた大柄な骸骨騎士を遥か彼方に吹き飛ばす。
「あれ?」
アフリカ東部 星骨焦土
周囲の景色は元に戻る。
「クラエス、今のは……」
ゼロが警戒を解く。
「よくわかんないけど、ちょっと力入れすぎた?」
ホシヒメが困惑した表情を見せる。
「わからん……だが、今の一撃だけで撃退できるのなら取るに足らん」
「うーん、それもそっか!じゃ、先へゴーゴー!」
ホシヒメが元気よく駆け出し、ゼロもそれに従う。
アフリカ区・焦土タンザニア
しばらく同じような焦土を進み続け、ようやく人の住んでいた気配の残る場所へ辿り着く。溶けかけた建造物がいくつも並び、その奥に急拵えで作られた砦が見える。
「ん」
ホシヒメが鼻をすんすんと動かし、それを見たゼロが頷き、二人は物陰に隠れる。
「さっきの人たちと同じ気配を感じたよ」
「流石だな、クラエス。どちらからだ」
「砦の方。まあ、当然っちゃ当然だよね」
「さして重要な拠点でも無いだろうからな。特に警戒する必要もあるまい」
「うん!じゃあ突撃ー!」
二人は物陰から飛び出て、砦へ一直線に突っ込む。周囲を警戒していた黒い鎧に身を包んだ騎士達を一瞬で蹴散らしながら、砦に殴り込む。当然のように、騒ぎを聞き付けた黒騎士たちが奥からぞろぞろと現れ、瞬く間に二人を囲む。
「力の差と言うものを教えてやらねばな、クラエス」
「えへへ、戦いっていつでもわくわくするよね!」
ゼロが騎士たちの視界から消え、次の瞬間には彼らの後方で納刀する。無数の騎士たちが細切れになり、遅れて他の騎士たちがゼロへ向かう。それを見たホシヒメは微笑み、右腕から凄絶な竜闘気を産み出す。
「さっきゼロ君が新技出してたし、私もやってみよーっと!」
余りに強烈な力の渦が右腕から放たれ、周囲の騎士は怯むばかりで動けずにいた。
「〈スーパーウルトラハイパーエレガント超絶〉……ええーっとパンチ!」
台詞を考えるのが面倒だったのか、ホシヒメは口上を途中で切り上げて渾身の拳を地面に叩きつける。同時にゼロが空間を切り裂き、ホシヒメの攻撃の余波で世界が崩れぬように補強する。拳から解き放たれた力はその場にいた騎士達を一瞬で蒸発させ、消滅させた。ゼロが納刀すると同時に空間が元に戻り、ホシヒメが笑顔で振り向く。
「どうかな!今の〈なんかすごいパンチ〉!」
「無理に技名を付けずともいいだろう。動作に名前をつけても、特にアドバンテージにはならんからな」
「でも、さっきゼロ君が私の技使ってたよ」
「それは貴様からヒントを得たからだ。貴様へのリスペクト以外の理由はない」
「尊敬してくれてるんだー!嬉しいなぁ!」
ゼロはホシヒメの屈託の無い笑みにまたため息をつき、砦の奥へ視線を向ける。
「無駄話をしている暇はない。今は貴様の嗅覚が頼りだ。行くぞ」
「うん!」
ホシヒメは全力で頷き、二人は通路を進む。そしてその最奥の部屋の扉を拳でぶち抜き、中へ入ると、気の強そうなツインテールの黒騎士の少女がいた。
「あの数の精鋭を破ってここまで来るとは……流石は、真性の竜、ということでしょうか」
少女は極めて落ち着き払った態度で、二人と相対する。
「えっと、あれ?さっき戦ったのは君じゃなかったんだけど……」
ホシヒメが困惑していると、ゼロが俄に舌打ちする。
「臭いがするのにいないということは、可能性は一つだ」
そう言い放ち、瞬時に全力の抜刀攻撃を抜き放ち、空間を引き裂く。砦が倒壊し、隠れていた四体の姿が露になる。典型的な死神の姿をした者、犬を模した機械、骸のような見た目の少女、そして大斧を携えた怪物。
「私の名はタルトゥ。旧Chaos社、円卓の一人」
ツインテールの少女がそう名乗ると、機械が続く。
「俺の名はハットトリッカー。滅四星との戦争のために作られた、虚皇帝が一なり」
死神が浅く頭を下げる。
「我が名はシャドウルイン。同じく、虚皇帝の一人。アーシアを滅ぼすため、作られた」
骸の少女は閉じていた瞳を開き、眼球のない空洞を見せる。
「私の名はクロム・クローン。ディクテイターを滅するため、作られました」
最後に怪物が口を開く。
「俺の名前はガーベージ・ヒュペリオン。シュバルツシルトを討ち滅ぼすために、ここにある」
ホシヒメが四体の虚皇帝に指差しつつ叫ぶ。
「この人たちだよ!私が戦ったのは!」
「叫ばずともわかる。貴様を疑ったことはそれほどない」
二人は互いの得物を構える。
「さて、どうする。タルトゥ、我らはお前の指示待ちだが」
ヒュペリオンが尋ねると、タルトゥは白く輝くエネルギーの剣を抜いて答える。
「無論、戦う他ありません。どちらが死んでも、計画が進むことに変わりありませんので」
「わかった」
虚皇帝たちは砂地に降り立つ。
「二対五か。数的不利はどうだ、クラエス」
「さっき一対四でもよゆーだったし大丈夫!」
二人はそれぞれに分かれ、まず初めにゼロの刀とシャドウルインの鎌が火花を散らす。ゼロが打ち返すと、隙を潰すようにハットトリッカーが電撃を放つ。空間が切り裂かれて電撃が消え、視界を潰した瞬間にゼロが籠手を付けた左腕に蒼い闘気を溜め、渾身の一打を地面に叩きつけ、二人を吹き飛ばす。二人は難なく受け身を取り、両者は距離を取る。
「これが正史の力か」
ハットトリッカーがぼやくと、シャドウルインが頷く。
「どうにも勝ち目が薄いな」
「我々は元々捨て駒……いまさら何を悔やむこともない」
ハットトリッカーは装甲を展開し、背に浮かんだ輪から極大の電磁砲を放つ。ゼロは腕でそれを弾き、鎌を高速回転させつつ突っ込んできたシャドウルインの攻撃を躱し、突進しつつ斬り付けて吹き飛ばす。更に続けて空間の歪みを放ち、二人を回避で釘付けにし、膨大な空間の歪みを作り出して抜刀し、空間をガラスのように切り刻む。
「下らん」
ゼロが納刀し、そう吐き捨てると共に空間が元に戻り、ハットトリッカーとシャドウルインは消えてなくなっていた。
「ふんぬぁ!」
「せーい!」
ヒュペリオンとホシヒメが力任せに攻撃をぶつけ合い、ホシヒメがよろけた瞬間にタルトゥが滑り込んで攻撃を加える。が、ホシヒメは尋常ならざる筋力で蹴りを合わせ、吹き飛ばし、そのままクロムにタルトゥをぶつけてしばしの時を稼ぎ、合わせて振り下ろしてきたヒュペリオンの斧を右腕で受け止める。
「まだまだぁ!」
ホシヒメが斧をへし折り、右腕でヒュペリオンの首を抱え込み、そのまま地面に押し倒し、頭を掴んでぐるぐると豪快に振り回す。そして力任せに放り投げ、右腕から闘気の激流を解き放ってヒュペリオンを破壊する。
「さぁて、次はどっちかな!」
ホシヒメはタルトゥとクロムを順番に指差す。
「まさか戦力差がこれほどとは……」
タルトゥがそう言うと、クロムがため息混じりに答える。
「虚皇帝はいつも貧乏クジを引いてる気がしますね」
そして懐から個人用の次元門を取り出して起動し、その中にタルトゥを蹴り入れる。ほどなく次元門は消え、クロムとホシヒメが相対する。
「ふんふん、君が相手でいいんだね?」
「まあ、相手になるかは甚だ疑問ですが」
クロムは自分の体に突き刺さっていたマチェーテを引き抜き、構える。ホシヒメが喜び勇んで踏み込み攻撃を加えると、クロムは渾身の力でガードする。その軽いステップからは想像も付かぬほどの激甚な衝撃が伝わり、色の抜けたクロムの手がプルプルと震える。
「……?」
ホシヒメは余りにも手応えがないため、躊躇しつつも素早く足を払い、防御の崩れた腹に右腕を捩じ込み、そのままクロムを滅殺する。
「おっかしいなー」
ホシヒメがゼロの方を向く。
「どうした」
「いや、感じた力に対して実力が低すぎるな、って」
「そうだな、俺もそれは感じた」
「何かあったのかな?」
「……」
ゼロはしばし思考を巡らせる。
「奴らは滅四星との戦争のために作られたと言っていた。滅四星が何なのかは知らんが、本来のやるべきことを成した以上は、もはや全力を使い果たしているのかもしれんな」
「えっと、つまり燃え尽き症候群?」
「俺の推測はな。まあいい。敵は倒した。帰るぞ」
「うん」
二人は倒壊した砦を後にした。
エジプト区・オイルゲート
消え得ぬ者はその名に反して今にも崩れ落ちそうな体を引きずり、砂漠を歩いていた。何を隠そう、先ほど奇襲をかけたホシヒメに受けた手痛い傷が、バロンとの交戦で受けた傷と相俟って彼を瀕死に追い込んでいたのである。
「おのれ、我がこんなところで滅びるなど……力だ、今は何よりも、異史で受けた屈辱を晴らすまでは……」
消え得ぬ者は砂漠を暫し、進み続けた。
黒い鎧の大柄な騎士が、眼前に並んだ十人の人間を見渡す。
「シュルツは手筈通り捕らえられたか」
豪奢な着物に身を包んだ男が、扇子で口許を隠しつつ答える。
「あの子は明らかにおバカそうだったしねえ、仕方ないんじゃなぁい?」
その右に立つフードの男が続く。
「その喋り方キモいからやめやがれ、ヤソマガツ」
その名前に男――ヤソマガツは扇子を閉じ、フードの男の首に当てる。
「この姿の時はぁ?」
「ミヤビだろ?めんどくせえ」
ヤソマガツ改め、ミヤビは扇子を開いて口許に戻す。
「ふん、下らん。大層なことを言っていながら、あのブラッドとやらはすぐ宙核に敗れたか」
黄金の鎧に身を包んだ騎士が吐き捨てる。
「それだけではなく、グワウルも敵に捕らえられましたがね」
黒い鎧に銀髪の少年が続く。
「貴様の兄だろう、マゾルフ」
マゾルフは黄金の騎士へ鋭い視線を向ける。
「単にブラッド様に仕える同士でしかありませんね。ベルガ、あなたも所詮、狂竜王の名のもとに集った同士でしかない。必要とあらば、躊躇なく斬ります」
ベルガはその言葉を一笑に付す。大柄な黒の騎士はその様を見て微笑ましく思いつつも、残りの面子へ視線を向ける。柔和な表情をした青年と、気の強そうなツインテールの黒騎士の少女、辛気臭い表情の長身の男と、無表情の男、そしてローブに身を包んだ幼女がいた。幼女が深く被ったフードの隙間から、赤紫の瞳を覗かせる。
「何か」
騎士が訊ねると、幼女はやおらに首を横に振る。
「何もございません、狂竜王。けれどあなたにはわかるはず……この胸の高鳴りが、抑えられぬほどの、生への欲望が」
狂竜王と呼ばれた騎士は、あえて何の反応も示さなかった。
「我々にはこの世界で成すべきことがある。みな、それを忘れぬようにな」
狂竜王はそれを告げると、霞のごとく消え去った。
エジプト区・オイルゲート
「ぷはぁー!」
ホシヒメが水筒の水を一気に飲み干し、満面の笑みを見せる。
「やっぱ生き返るね、これだよこれ!」
うるさくはしゃいでいると、横にいたゼロがため息をつく。
「貴様はここに何をしに来たかわかっているのか?」
「もっちろん!旅行だよね!」
ゼロは絶句する。
「まさか……はぁ……そうだな、貴様は仕事とまともに言われてもぐうたらするだけだったな。目を覚ませ、クラエス。俺たちはここに、仕事で来た」
「ほへ?」
ホシヒメはまるで理解していないようだったが、ゼロは構わず進める。
「バロンの頼みで、世界独立機構を守護する役目を負った。だが俺たちも元の世界での仕事がある。故に、僅かな期間で多くの不埒者を斬り捌く必要がある」
「そうだったんだ」
「貴様にまともに話しても意味がないと、ゼルが思ったのだろうな」
二人が無駄話をしていると、取り囲むように十人ほどの兵士が現れる。
「今のところ、何人倒したんだっけ?」
「千から先は覚えていないな」
「随分遠出しちゃったし、これを倒したら戻ろっか!」
「そうだな」
周囲の兵士は悪魔化し、腕の生えた蛇となり、剣と盾を持って一斉に襲いかかる。瞬間、ゼロが視界から消え、蛇たちの後方で納刀する。蛇たちは瞬時に細切れになり、ホシヒメはその様に拍手する。拍手を隙と勘違いした蛇たちが彼女に襲いかかるが、ホシヒメはすぐに右腕を地面に叩きつけ、強烈な衝撃波で蛇たちは焼き尽くされる。
「ふふん、雑魚ばっかりだね!」
ホシヒメが姿勢を戻し、ゼロが歩いてくる。
「俺たちが揃って、この程度に遅れは取るまい」
「それもそーだね。さっ、独立機構まで戻ろっか」
「ああ」
エジプト区・月光都カイロ
二人の帰路の途中、怪しげな雰囲気に包まれたカイロに足を踏み入れる。
「なんか、変な気配するよね」
「そうだな。俺たちと同じ、竜の臭いだ」
しかし、街の人々は特に何も違和感はなく、いつも通りの往来が見える。
「ま、いっか」
「ふん。ならば、俺が警戒しておこう」
二人は街中を歩く。
「ところでさ、世界独立機構って、なんでそういう名前なの?」
ホシヒメが訊ねる。
「バロンに聞いた話によれば、Chaos社が発展するきっかけとなった〝トーデストリープ症候群事件〟と、〝第三次世界大戦〟の後、Chaos社の支配を逃れようとしたものが作ったのが、独立機構、ということらしいな」
「とーですとりーぷしょーこーぐん?」
「トーデストリープ症候群は、死を身近に感じることで生まれる自壊衝動が無意識を支配し、常時自殺衝動がその人間を苛むという、精神病の一種らしい。簡単に言えば、死にたくて堪らなくなる、ということだ」
「ふーん」
「第三次世界大戦は、Chaos社が裏で操っていたとバロンが言っていたが、それが本当ならば……」
「あ!知ってるよ、マッチポンプってやつでしょ?」
「そういうことだな。杉原とやらがそこまで賢しいとは到底思えんが……Chaos社を隠れ蓑にしようとした人間などいくらでもいるだろう」
「ま、昔のことだしそこまで関係ないよねー」
「知識として把握しておくのは無駄ではないが」
二人は同時に、前方に怪しげな二人組をみつける。
「ねね、今のさぁ……」
「言わずともいい。流石に罠だと思いたいほどだ」
二人組は路地へ入る。ホシヒメたちもそれを追って、路地へ向かう。
複合王龍結界・五王
二人組は砂漠に出てもなお、しばらく進み続けた。
「おい」
ゼロが二人組に声をかける。二人組は振り返る。豪奢な着物に身を包んだ男と、フードを被った細身の男が顔を見せる。
「何か、御用かしらぁ?」
着物の男が扇子を開いてそう言うと、ゼロが刀の柄に手を添える。
「貴様、竜の類いだな」
その言葉で、二人組は顔を見合わせ、そしてゼロたちの方を向く。
「誰かと思えばゼロじゃなぁい。懐かしいわねえ」
ホシヒメがゼロの方を向く。
「あれ?知り合いなの?」
「会ったことはないが……貴様、ヤソマガツか」
フードの男がその言葉を遮るように答える。
「この姿の時はミヤビと呼んでやれ。クソうぜえからな。おいゼロ、てめえは俺もわかるよな」
「シュンゲキだろう。なぜ貴様らがここに……いや、聞くまでもないか。貴様ら、旧Chaos社に召喚されたな」
シュンゲキが拳を突き合わす。
「正解だ。俺たちは旧Chaos社の理想を叶えるため、王の手で呼び出された」
ゼロはホシヒメに声をかける。
「クラエス、こいつらは敵だ。無力化か、さもなくば殺せ」
「おっけー。じゃ、私はあっちの細い人と戦うね」
四人はそれぞれ向かい合い、己の得物を構える。
「ゼロ、アンタ急に居なくなっちゃうんだからぁ。そんなにユリアを失ったのが悲しかった?」
ミヤビの言葉に、ゼロは刀を抜いて返す。
「俺に悲しみはない。あるのはただ、力への欲求、それだけだ」
「ふふふ……惜しいわねぇ。ただ、人の心を解す努力さえすれば、アンタはより強くなれたのに」
「どうでもいい。情に絆されねば得られぬ力など、俺には価値などない」
ゼロの会話の横で、ホシヒメとシュンゲキが向かい合う。
「えへへ、なんかビリビリしてて楽しそうだね」
「おっ、てめえはこの力の良さがわかるか。流石はボーラスのお気に入りだな」
「ふふん、なんせ私はそのボーラスさんに力の解放の仕方を教えてもらったからね!」
「いよぉし!なら話が早ぇ!全力でぶっ飛ばし合おうぜ!」
ホシヒメの右拳とシュンゲキの左拳が激突するのを合図に、ゼロの刀とミヤビの扇子が甲高い金属音を響かせる。ゼロがミヤビを吹き飛ばし、光の刃を雨のように注がせる。ミヤビは動きを鈍化させられ、現れたゼロの分身に突進しつつ斬りつけられて吹き飛ばされる。更に本体が氷剣を突き出しつつ高速回転しながら突っ込む。斬撃の嵐から、止めの強烈な一撃でミヤビをボロ雑巾のようにかちあげ、追撃にミヤビを囲むように光の刃を産み出す。ミヤビが態勢を立て直すより早く光の刃が突き刺さり、ミヤビは気絶したように動けなくなる。ゼロは背を向け、瞬間移動しながら刀を突き出し、ミヤビの腹を貫く。
「終わりにしよう」
「相も変わらず余裕のない攻めねぇ。少しくらい、ゆっくり生きてみたらぁ?」
ミヤビの姿が水になって消え、背後から放たれた攻撃をゼロは腕で弾く。
「馬鹿め」
強烈な突進斬りで数多切り裂かれ、そのまま上空へ打ち上げられ、三段斬りで怯まされ、止めに兜割りでミヤビは吹き飛ばされる。
「貴様ごときに遅れを取る俺ではない」
受け身を取ったミヤビが、扇子を開いて微笑む。
「ちょぉっとムカついて来たわぁ……?」
「そうか。ではそのまま死ね」
ミヤビの周囲から、巨大な泡がいくつか生まれる。
「行くわよぉ!」
泡がゼロへ飛び、そして爆発する。ゼロは軽く横に動くだけで衝撃を往なし、分身をミヤビへ攻撃させる。泡を全て処理し、分身に気を取られたミヤビへ空間の歪みを連射し、更に一閃で時空を引き裂いてミヤビとの空間を縮め、引き裂いた空間に歪みを撃ち放ち、十字に瞬速で抜刀し、動きの鈍ったミヤビに容赦のない連撃を叩き込む。
「貴様が俺の刃から逃れて躱すつもりならば、決して逃がさん」
ゼロの分身が二体に増え、全員で空間の歪みを連発する。そして空間の歪みが限界に達した瞬間、ゼロは抜刀し、切り取られた空間の中で刃が乱れ飛ぶ。ミヤビはずたぼろにされて砂の地面に投げ出される。
「貴様など、クラエスの足元にも及ばん」
「うぐ……アンタ……」
ミヤビは猛然と起き上がり、凄まじい形相で怒りを露にする。
「自らの無力が原因で怒るか。愚かな蜥蜴だ」
「絶対にぶっ殺したるわ!」
ミヤビは竜化し、狐面の長大な竜の姿へと変貌する。
「我が名は天王龍ヤソマガツ!きさんを八つ裂いて、魚の餌んしたるわぁ!」
ヤソマガツは鋭い水流を口から放ち、ゼロは当然のごとく躱す。しかし、ヤソマガツは先ほどとは比べ物にならない素早さで飛び退き、泡を飛ばす。ゼロが切り落とすと、泡は爆発し、その影からヤソマガツが高速回転しながら前足を突き出して突っ込んでくる。着地の隙を狙ったゼロの攻撃を地上で回転して弾き、勢い良く飛び上がって背面を叩きつけ、防御したゼロを怯ませ、その場で軽く跳躍して大量の砂を巻き上げ、更に回転してゼロを高く打ち上げ、空中目掛けて回転突進を放つ。惜しくも躱されるが、追撃に大量の泡を産み出して一気に爆発させ、ゼロを吹き飛ばす。ヤソマガツはゆるりと着地する。
「死ね言うたんは貴様やろが!はよ起きて殺し来んかいわれぇ!」
ヤソマガツは吼え猛り、全身の毛のようなパーツが赤く染まる。
「ふん」
ゼロは左手で砂煙を払い、刀の柄に手をかける。
「すぐに冷静さを欠くのはどれだけの宇宙を隔てても同じようだな」
ヤソマガツはゼロの言葉を遮るように右前足を叩きつける。すると、小型の無数の泡が地面を走り、導火線のように次々に爆裂する。ゼロは横に逸れて躱す。
「貴様ごとき、本気を出すにも値しないが……仕事である以上、手を抜くわけにはいかん」
ゼロは青く膨大な闘気を放ち、翼を生やす。
「俺が手にしたこの力、王龍を消し去れるか否か、貴様で試してやる!」
瞬時にヤソマガツに光の刃を降り注がせると同時に自分の周囲にも光の刃を産み出し、斬撃で距離を一気に詰め、ヤソマガツが反応するよりも早く強烈な二連斬りを頭へ叩き込んで怯ませ、神速の突進斬りですり抜け、幾度も切り裂く。ヤソマガツは反撃に尾を振るいながら身を翻し、泡を飛ばして軌道を炸裂させ、更に前足を叩きつけてゼロの移動範囲を潰し、体を大きく使って前方を薙ぎ払いながら爆撃する。その衝撃で自身を囲っていた光の刃は消え、ゼロ目掛けて更に口から水流を放つ。ゼロは刀で水流を斬り捌き、その場で力を溜める。
「終わりだ」
襲いかかるヤソマガツを光の刃の雨で止め、分身と共に無数の斬撃を飛ばし、空間がガラスのように切断される。ゼロが納刀した瞬間、空間は元に戻り、ヤソマガツは地面に転がる。
「時間の無駄だ」
ゼロがそう吐き捨てると、ヤソマガツは傷ついた体を起こす。
「ちょづくなよ、坊主が……!次はぼてくりこかしたるけんな!」
捨て台詞を吐いて、ヤソマガツは去った。
「せいっ!」
「甘いわァ!」
ホシヒメと竜化したシュンゲキは拳と、翼を幾度もぶつけ合い、その度に電撃が地面に走る。ホシヒメが爆炎を右腕から放つと、シュンゲキは身を翻して尾を突き出す。放たれた青い電撃が大地を吹き飛ばし、両者は再び激突する。
「いいねいいね!最高にビリビリするよ!」
「まさかてめえとここまでノリが合うたぁなぁ!」
シュンゲキはホシヒメを突き飛ばし、頭部に巨大な電撃の刃を産み出して振り下ろす。ホシヒメは右腕で電撃を防ぎきり、渾身の正拳突きでシュンゲキを大きく仰け反らせる。
「かぁーっ!やるじゃねえか!本当ならどっちかが消えてなくなるまでやりてえところだが……」
シュンゲキはゼロの方を見る。
「ヤソマガツのアホの面倒を見ねえといけねえ。じゃあな!」
翼で空を切り裂き、作り出した時空の狭間にシュンゲキは消えた。
エジプト区・南部砂漠
結界が消える感覚と共に、二人は戦闘状態を解除する。
「急になんだったんだろうねー」
ホシヒメがそう言うと、ゼロは冷静に答える。
「王から呼び出されたと言っていたが」
「誰だろうね?ボーラスさんとか?」
「まさか。奴が動くほど終局が近いとも思えん。確率が高いのは、狂竜王の方だろう」
「狂竜王って……あの黒い鎧の大きい人?」
「だいたいの外見はそれで合っているな。奴は全ての始まりと言っても過言ではない。王龍が王と呼ぶのはそれくらいしか思い付かん」
「ま、別に気にしなくていいよね!」
「貴様はいつもそれだな……実際、黒幕のことを考えてもしょうがないのは確かだが」
二人は独立機構を目指して歩く。
「お仕事でも、久しぶりにゼロ君と一緒に居られるから楽しいね!」
ホシヒメが屈託のない笑みを見せつつそう言うと、ゼロは鼻で笑う。
「貴様がきちんと仕事をやればいつでも会える」
「えー!だってお仕事の内容全然意味わかんないんだもん!やっぱ私はこういうのが一番!」
そう言ってホシヒメはシャドーで拳を放つ。
「ふん。貴様は仲間に恵まれている。ゼルやノウンが助けてくれるのなら、それで十分だろう。俺は臣下しか居ないのでな」
「えへへ、仲間なら、ここにいるよ?」
「貴様は好敵手《とも》だ。仲間になった覚えはない」
「ん?んーっとぉ……?何がどう違うの?」
「俺が理解していればそれでいい」
「そっか。なんかよくわかんないけど、それでいいならいいや!」
ゼロは歩きながら笑む。
「やはり、貴様といると調子が狂う」
世界独立機構アフリカ
陽が大して傾かぬ内に二人は南アフリカに位置する独立機構の本部まで戻ってきた。
「んー?誰だろ、すごく綺麗な人がいるよー?」
ホシヒメが指差す方向には、独立機構を囲む巨大な壁の前に立つ、黒髪の少女――月城燐花――が立っていた。
「クラエス。やつはバロンからの資料に記載されていた、旧Chaos社の指導者と外見が一致する」
「えっ、ほんと!?じゃあ半殺しにぶっ叩かないと!」
「待て!独立機構は新生Chaos社はともかく、旧Chaos社へは当然恨みが晴れていない。大将首がここに居るということは、相応に警戒した方がいい」
「じゃ、じゃあどうしよっか?」
「俺が一人で奴に攻撃を仕掛ける。貴様は、奴らにもし予備戦力があれば加勢してこい。俺より貴様の方が勘が鋭いからな」
「わかった」
二人は頷き合い、ゼロは燐花の真正面へ瞬間移動する。
「ひゃっ……!」
燐花は突然現れたゼロに驚くが、それほど取り乱さず旗槍を手に取る。
「やっと来ましたか」
ゼロは燐花の言葉に即座に反応する。
「俺たちを待っていたのか。独立機構が目障りなら、既に滅ぼせていたはずだが」
「必要な手筈を整えてから一気に叩き潰す。それがChaos社のやり方でしてね」
「世界の滅亡が貴様らの目的だったか。独立機構が居なければ新生Chaos社は今の形を失うとでも思っているのか?」
「ふふっ、そんなことはどうでもいいんですよ。明人くんさえ元に戻れば、Chaos社は何度でも蘇りますから」
「……」
ゼロは鋭い視線を向ける。
「貴様、Chaos社など本当はどうでもいいのだろう。杉原のことしか見えていない風に見えるぞ」
「え、えへへ。そうですか……?やっぱり、明人くんは私にこそ相応しいですよね!」
「色狂いが。下らん情愛は技も、人生も曇らせるぞ」
「色狂い?違いますよ。私は、陽の当たる場所でしか生きられない、ただそれだけですよ?」
「陽の当たる、場所か……」
ゼロは僅かにその言葉に反応する。
「わかりますよ、あなたの気持ち。あなたも私と同じように、太陽のように輝く大切な人のお陰で、ここにいるんですよね。だとしたら、わかるはずです。いつもの笑顔で迎えてくれるはずの大切な人が、ある日突然、私を全否定するように変貌しているんですよ?そんなの……絶対に許せませんよね!」
「貴様は杉原のことなど思っていない。ただ自分が愛しいだけだ」
「そうですか。ま、明人くん以外の生物なんて全部どうでもいいんですけど」
「こちらは仕事で来ているのでな。貴様を捕らえ、事情を聞かせてもらおう」
ゼロが刀を産み出す。燐花は旗槍を構え、空いたもう片方の手で腰に佩いた光輝く剣を抜く。
「ほう、それが件の騎士王の聖剣とやらか。アルメールからは折られたと聞いていたが……」
「……?」
燐花はゼロの言葉を理解できていないようだったが、両者はそれ以上何を言うでもなく、互いの得物を叩きつけ合う。ゼロは急速に後退し、突進しつつ抜刀する。燐花は聖剣から闘気をブースターのように産み出して躱し、旗槍を片手で振り下ろして地面を爆発させる。ゼロが爆風を十字に切り裂き、空間の歪みを放つ。燐花は咄嗟に防御するが、その攻撃の性質を理解した守りで無いために連続で真空刃を受ける。容赦なく攻撃を重ねられるが、往なし、反撃しようとした瞬間、圧倒的な速度で抜刀攻撃を放たれ、裂かれた空間に飲まれた燐花の動きは一瞬止まる。ゼロは氷剣と刀を同時に構え、力む。
「打ち砕け!〈ギガマキシマムドライバー〉!」
そう叫ぶと同時に、ゼロは凄まじい速度で回転しつつ怒涛の斬撃を燐花へ叩き込み、止めと言わんばかりの凄絶な氷剣の一閃で吹き飛ばす。氷剣を砕き、刀を消す。受け身を取った燐花がゼロへ視線を向ける。
「余裕の無い攻めですね」
「戦いに余裕など要らん。俺が戦いを楽しむのは、好敵手との死合いのみ」
「ふん」
燐花が武器を構え直す。
「とも、ですか……私には、そういう人はいませんでしたね」
「女。貴様が杉原を望むなら、どんな障害をも越えてみせろ。自らの道を、自分で切り開け」
ゼロは焔を纏った籠手を装着する。
「俺に愛や友情を理解することはできない。だが、貴様の意志の強さはよくわかる。ならば……その意志の強さを、より強く、気高く磨き上げてみせろ!」
そして、蒼い闘気が辺りを包む。
「くっ……」
燐花が逡巡する。
「腑抜けたか」
「ふふ、ふふふ……」
不気味な笑みを燐花が見せると、上空から鎧に身を包んだ絶世の美男が落下し、着地する。
「やはり伏兵がいたか」
ゼロがそう言うと、美男は立ち上がり、その端正な顔を見せる。
「ん……?貴様、アルメ――」
「僕は月城亮。燐花の兄だよ」
亮はゼロの言葉を遮るように告げる。そして、腰から肉厚の長剣を抜き、それが閃光を放つ。
「妹だけで君の相手は少々荷が重いようだからね」
「そんなにお望みなら、もう一度地獄に送ってやろう、アルメール!」
両者の得物が激突すると、先ほどとは比較にならぬほどの衝撃が生まれる。
「(まずいな……)」
危機感を覚えたゼロは、全身から力を放つ。
王龍結界 ディーペスト・アーマゲドン
周囲の雰囲気が一気に変わり、蒼く輝く黄金の破片が舞い散る空間へと変貌する。
「おやおや……」
亮がゼロの拳を弾き返し、肘を突き出して押し込みつつ、閃光を纏った薙ぎ払いを放つ。ゼロは刀の腹でそれを受け、大きく後退する。
「貴様は何がしたいんだ、アルメール……!」
「誰のことかな。僕には全くわからないが。僕はあくまで、燐花の人生を応援したいだけさ」
「貴様がそんな理由で意味もなく来るわけがない……」
「さっきから君は誰のことを言ってるんだい」
ゼロが亮から僅かに目を離すと、いつの間にか燐花の姿は無かった。
「どうなっている……」
「おや、意外と言いつけは守るんだね、燐花」
「なぜ貴様はここにいる」
「まだ聞くのかい?……ああ、お前になら喋ってもいいか。どうせ目的に関係ないことに首を突っ込まないからな」
亮は放つ気配を一気に変える。
「意図的に全力が出せないとは言え、ヤソマガツをほぼ一方的に仕留めたその強さ、見事だった。その功を称えて、なぜここにあの女と俺が来たか教えてやろう。燐花は、改心するまえの杉原の理想を叶えるために、様々な世界から次々と力を集めている。お前も王龍なら聞いたことがあるはずだ、虚無の王龍、アーリマンの名を」
「ニヒロの盟友と呼ばれるあの竜か。というより、そいつは貴様の友だろう、アルメール」
「こほん。アルメールじゃなく?」
「……。月城亮。そいつは貴様の友だったはずだ」
ゼロが呆れ気味に訂正すると、亮は続ける。
「まあ、僕にとってアーリマンがどうかはどうでもいい。並みの宇宙なら作り替えるほどの力を持つものを始源世界から呼び起こすには、その世界に見合うローカライズが必要になる。それが、原初世界での九竜であり、竜王種の皇子として生まれたお前でもある」
「それが、貴様たちがこの世界の各地で暴れている理由か」
「そう。アーリマンを呼び起こすには、この世界を大いに歪ませ、淀みで満たす必要がある」
「……。俺がその情報を、バロンに伝えるとわかった上での言葉か」
「さあ?僕が本当のことを言っているという保証もない。全ては君次第と言うことだが」
「ふん……俺は公務で竜世界に帰る。これ以上、この動乱で貴様と戦うこともない。貴様の目的に対する真摯な姿勢は信じている」
ゼロが結界を解く。
世界独立機構アフリカ
「見逃してやる。どこへなりとも逃げるがいい」
「いいのかい?」
「貴様は敵を作りすぎだ。俺が手を下さずとも、いずれ死ぬ」
ゼロの言葉に亮は微笑み、すぐに姿を消す。そこへ、ホシヒメが駆け寄ってくる。
「クラエス。なぜ加勢してこなかった」
ホシヒメはゼロの方を見る。
「それがね!ずっと邪魔が入ってたから、その人たちを倒して回ってたの!」
「わかった。何か変わったことはあったか」
「指揮官クラスの人が何人か……えっと、四人?いたかな。ちょっと逃げられちゃったんだけどね」
「追うぞ、クラエス」
「おっけー!」
「それで、逃げた方向はわかるか」
「そうだねぇー……東の方、かな」
「東……」
ゼロが顎に手を当てる。
「確か、先の戦いで狂竜王が放った槍の爆心地が、アフリカ東部だったはずだ。独立機構やバロンが言うには、星骨焦土と呼ばれる危険地帯らしい」
「なるほどぉ……で、どういうこと?」
「浄化しきれぬほど無明の闇に侵食されていたということだろうな。俺たちのような、純粋な竜にはさほど関係の無いことだ。行くぞ」
「うん!」
ホシヒメの大変元気のよい返事に、ゼロは少々ノイローゼになりつつも道を急ぐ。
アフリカ東部 星骨焦土
一面の焼け野が延々と続く区間を歩き続ける二人は、特に話すこともなく黙々と先を急いでいた。
「そう言えば、さっきの女の子から何か聞き出せた?」
ホシヒメが話題を持ち出すと、ゼロは頷く。
「ああ。旧Chaos社は、王龍アーリマンを降ろし、この世界を無に帰すつもりのようだ」
「それって……」
「貴様たちが阻止した、かつてのChaos社の野望と一致する」
「そー言えばさー、結局黄金の卵ってなんだったんだろうね?ゼロ君知ってる?」
「あれはヴァナ・ファキナが復活のための力を溜め込むための装置だったらしい。だが、杉原に憑依していた奴はアリアという娘の凶弾に抑え込まれ、肝心の卵は奈野花に使われ、存在意義を失った」
「ほぇー」
気の抜けた返事をホシヒメがした瞬間、彼女は立ち止まる。
「ゼロ君」
「わかっている」
二人は立ち止まり、周囲の雰囲気が変わったことに気付く。風と共に白砂が運ばれてきて、焼け焦げていた大地は瞬く間に白亜の海に変わる。
茫漠の墓場
「王龍結界か……?」
ゼロが緊張した面持ちでそう言うが、ホシヒメが否定する。
「いや、そんなに強い気配じゃないよ。寧ろ、今にも消えそうなのに頑張ってこの空間を維持してる感じ」
ホシヒメは徐に籠手を左腕に付け、ゼロは刀の柄に手をかける。そしてホシヒメは後方からの急襲を弾き、右腕の暴力的な出力で反撃し、攻撃してきた大柄な骸骨騎士を遥か彼方に吹き飛ばす。
「あれ?」
アフリカ東部 星骨焦土
周囲の景色は元に戻る。
「クラエス、今のは……」
ゼロが警戒を解く。
「よくわかんないけど、ちょっと力入れすぎた?」
ホシヒメが困惑した表情を見せる。
「わからん……だが、今の一撃だけで撃退できるのなら取るに足らん」
「うーん、それもそっか!じゃ、先へゴーゴー!」
ホシヒメが元気よく駆け出し、ゼロもそれに従う。
アフリカ区・焦土タンザニア
しばらく同じような焦土を進み続け、ようやく人の住んでいた気配の残る場所へ辿り着く。溶けかけた建造物がいくつも並び、その奥に急拵えで作られた砦が見える。
「ん」
ホシヒメが鼻をすんすんと動かし、それを見たゼロが頷き、二人は物陰に隠れる。
「さっきの人たちと同じ気配を感じたよ」
「流石だな、クラエス。どちらからだ」
「砦の方。まあ、当然っちゃ当然だよね」
「さして重要な拠点でも無いだろうからな。特に警戒する必要もあるまい」
「うん!じゃあ突撃ー!」
二人は物陰から飛び出て、砦へ一直線に突っ込む。周囲を警戒していた黒い鎧に身を包んだ騎士達を一瞬で蹴散らしながら、砦に殴り込む。当然のように、騒ぎを聞き付けた黒騎士たちが奥からぞろぞろと現れ、瞬く間に二人を囲む。
「力の差と言うものを教えてやらねばな、クラエス」
「えへへ、戦いっていつでもわくわくするよね!」
ゼロが騎士たちの視界から消え、次の瞬間には彼らの後方で納刀する。無数の騎士たちが細切れになり、遅れて他の騎士たちがゼロへ向かう。それを見たホシヒメは微笑み、右腕から凄絶な竜闘気を産み出す。
「さっきゼロ君が新技出してたし、私もやってみよーっと!」
余りに強烈な力の渦が右腕から放たれ、周囲の騎士は怯むばかりで動けずにいた。
「〈スーパーウルトラハイパーエレガント超絶〉……ええーっとパンチ!」
台詞を考えるのが面倒だったのか、ホシヒメは口上を途中で切り上げて渾身の拳を地面に叩きつける。同時にゼロが空間を切り裂き、ホシヒメの攻撃の余波で世界が崩れぬように補強する。拳から解き放たれた力はその場にいた騎士達を一瞬で蒸発させ、消滅させた。ゼロが納刀すると同時に空間が元に戻り、ホシヒメが笑顔で振り向く。
「どうかな!今の〈なんかすごいパンチ〉!」
「無理に技名を付けずともいいだろう。動作に名前をつけても、特にアドバンテージにはならんからな」
「でも、さっきゼロ君が私の技使ってたよ」
「それは貴様からヒントを得たからだ。貴様へのリスペクト以外の理由はない」
「尊敬してくれてるんだー!嬉しいなぁ!」
ゼロはホシヒメの屈託の無い笑みにまたため息をつき、砦の奥へ視線を向ける。
「無駄話をしている暇はない。今は貴様の嗅覚が頼りだ。行くぞ」
「うん!」
ホシヒメは全力で頷き、二人は通路を進む。そしてその最奥の部屋の扉を拳でぶち抜き、中へ入ると、気の強そうなツインテールの黒騎士の少女がいた。
「あの数の精鋭を破ってここまで来るとは……流石は、真性の竜、ということでしょうか」
少女は極めて落ち着き払った態度で、二人と相対する。
「えっと、あれ?さっき戦ったのは君じゃなかったんだけど……」
ホシヒメが困惑していると、ゼロが俄に舌打ちする。
「臭いがするのにいないということは、可能性は一つだ」
そう言い放ち、瞬時に全力の抜刀攻撃を抜き放ち、空間を引き裂く。砦が倒壊し、隠れていた四体の姿が露になる。典型的な死神の姿をした者、犬を模した機械、骸のような見た目の少女、そして大斧を携えた怪物。
「私の名はタルトゥ。旧Chaos社、円卓の一人」
ツインテールの少女がそう名乗ると、機械が続く。
「俺の名はハットトリッカー。滅四星との戦争のために作られた、虚皇帝が一なり」
死神が浅く頭を下げる。
「我が名はシャドウルイン。同じく、虚皇帝の一人。アーシアを滅ぼすため、作られた」
骸の少女は閉じていた瞳を開き、眼球のない空洞を見せる。
「私の名はクロム・クローン。ディクテイターを滅するため、作られました」
最後に怪物が口を開く。
「俺の名前はガーベージ・ヒュペリオン。シュバルツシルトを討ち滅ぼすために、ここにある」
ホシヒメが四体の虚皇帝に指差しつつ叫ぶ。
「この人たちだよ!私が戦ったのは!」
「叫ばずともわかる。貴様を疑ったことはそれほどない」
二人は互いの得物を構える。
「さて、どうする。タルトゥ、我らはお前の指示待ちだが」
ヒュペリオンが尋ねると、タルトゥは白く輝くエネルギーの剣を抜いて答える。
「無論、戦う他ありません。どちらが死んでも、計画が進むことに変わりありませんので」
「わかった」
虚皇帝たちは砂地に降り立つ。
「二対五か。数的不利はどうだ、クラエス」
「さっき一対四でもよゆーだったし大丈夫!」
二人はそれぞれに分かれ、まず初めにゼロの刀とシャドウルインの鎌が火花を散らす。ゼロが打ち返すと、隙を潰すようにハットトリッカーが電撃を放つ。空間が切り裂かれて電撃が消え、視界を潰した瞬間にゼロが籠手を付けた左腕に蒼い闘気を溜め、渾身の一打を地面に叩きつけ、二人を吹き飛ばす。二人は難なく受け身を取り、両者は距離を取る。
「これが正史の力か」
ハットトリッカーがぼやくと、シャドウルインが頷く。
「どうにも勝ち目が薄いな」
「我々は元々捨て駒……いまさら何を悔やむこともない」
ハットトリッカーは装甲を展開し、背に浮かんだ輪から極大の電磁砲を放つ。ゼロは腕でそれを弾き、鎌を高速回転させつつ突っ込んできたシャドウルインの攻撃を躱し、突進しつつ斬り付けて吹き飛ばす。更に続けて空間の歪みを放ち、二人を回避で釘付けにし、膨大な空間の歪みを作り出して抜刀し、空間をガラスのように切り刻む。
「下らん」
ゼロが納刀し、そう吐き捨てると共に空間が元に戻り、ハットトリッカーとシャドウルインは消えてなくなっていた。
「ふんぬぁ!」
「せーい!」
ヒュペリオンとホシヒメが力任せに攻撃をぶつけ合い、ホシヒメがよろけた瞬間にタルトゥが滑り込んで攻撃を加える。が、ホシヒメは尋常ならざる筋力で蹴りを合わせ、吹き飛ばし、そのままクロムにタルトゥをぶつけてしばしの時を稼ぎ、合わせて振り下ろしてきたヒュペリオンの斧を右腕で受け止める。
「まだまだぁ!」
ホシヒメが斧をへし折り、右腕でヒュペリオンの首を抱え込み、そのまま地面に押し倒し、頭を掴んでぐるぐると豪快に振り回す。そして力任せに放り投げ、右腕から闘気の激流を解き放ってヒュペリオンを破壊する。
「さぁて、次はどっちかな!」
ホシヒメはタルトゥとクロムを順番に指差す。
「まさか戦力差がこれほどとは……」
タルトゥがそう言うと、クロムがため息混じりに答える。
「虚皇帝はいつも貧乏クジを引いてる気がしますね」
そして懐から個人用の次元門を取り出して起動し、その中にタルトゥを蹴り入れる。ほどなく次元門は消え、クロムとホシヒメが相対する。
「ふんふん、君が相手でいいんだね?」
「まあ、相手になるかは甚だ疑問ですが」
クロムは自分の体に突き刺さっていたマチェーテを引き抜き、構える。ホシヒメが喜び勇んで踏み込み攻撃を加えると、クロムは渾身の力でガードする。その軽いステップからは想像も付かぬほどの激甚な衝撃が伝わり、色の抜けたクロムの手がプルプルと震える。
「……?」
ホシヒメは余りにも手応えがないため、躊躇しつつも素早く足を払い、防御の崩れた腹に右腕を捩じ込み、そのままクロムを滅殺する。
「おっかしいなー」
ホシヒメがゼロの方を向く。
「どうした」
「いや、感じた力に対して実力が低すぎるな、って」
「そうだな、俺もそれは感じた」
「何かあったのかな?」
「……」
ゼロはしばし思考を巡らせる。
「奴らは滅四星との戦争のために作られたと言っていた。滅四星が何なのかは知らんが、本来のやるべきことを成した以上は、もはや全力を使い果たしているのかもしれんな」
「えっと、つまり燃え尽き症候群?」
「俺の推測はな。まあいい。敵は倒した。帰るぞ」
「うん」
二人は倒壊した砦を後にした。
エジプト区・オイルゲート
消え得ぬ者はその名に反して今にも崩れ落ちそうな体を引きずり、砂漠を歩いていた。何を隠そう、先ほど奇襲をかけたホシヒメに受けた手痛い傷が、バロンとの交戦で受けた傷と相俟って彼を瀕死に追い込んでいたのである。
「おのれ、我がこんなところで滅びるなど……力だ、今は何よりも、異史で受けた屈辱を晴らすまでは……」
消え得ぬ者は砂漠を暫し、進み続けた。
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