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三千世界・原初(7)

第二話 「レックレス・パラサイト」

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 金城山 底部
 シンとコンゴウシンリキは、金城山の谷の底部にいた。
「随分と切り立った崖ですね」
 シンが呟く。
「ここは金城山。不知火と呼ばれる忍によって壊滅させられた、日の本の中枢部」
「日の本と言えば、中国よりも東の小国じゃないか。ここまで巨大な山があったとは……」
「海洋で断絶されているがゆえに、ブリテンやコノートと同じく独自の文化を持ち、そして永遠に続く内乱の中で疲弊している。最近は蟲や神憑りを利用した外法に手を染めているとか」
「蟲と、神憑りとは?」
「神や偶像への信仰によって、被信仰物に蓄えられたシフルを自分達に還元することで、僅かなシフルしか使えない者でもシフルを活用した戦闘を行うことが出来る。これが神憑り」
 二人は谷底を進む。
「蟲は、獣の中でも、人間が動物と呼ぶ者では持ちにくい能力を持っていることが多々あるゆえ、それを量産して、兵士を強化しているのでしょう」
「ミレニアムにいるとき一度だけ遭遇したことがある。不死の呪いを受けているので助けて欲しいというこの国からやってきた者が居たが……」
「何があったのですかな?」
「いや、小さな蟲が脊椎や脳に食いついて寄生していたんだ。仕方なく、介錯して入念に焼却した」
「蟲憑きがこの国の兵士の大半を占めているのなら、ここは黄泉の領域並みに面倒な空間と言えますな」
「とにかく、バロンやエリアルを探さなければ」
 会話が終わった瞬間、頭上に獣の咆哮のような音が響く。
「今のは」
 シンがコンゴウシンリキの方を向く。
「僅かにメイヴの気配を感じましたが……」
 と、二人の前に黒い鎧の小柄な竜人が現れる。
「君は……」
 シンが背の大剣に手をかける。
「我が名は呪。不知火忍軍斥候部隊『千切雲』の隊長だ」
 コンゴウシンリキが周囲に現れた竜と、人間の半分ほどの大きさの蛙の群れに気付く。
「まずいな……」
 呪が腰に挿した二本の刀を抜く。
「(ここで価値があるのは私ではなくシンのはず……ならば!)」
 コンゴウシンリキが獣化し、鼻でシンを掴んで投げ飛ばす。竜たちはそれに反応して追おうとするが、呪が動かないのを把握してやめる。コンゴウシンリキが威嚇するように強く地面を踏む。
「獣では苗床になれぬ。人の精神の不安定さが無ければ……」
「だが、ここでみすみす私を逃すわけにもいくまいて」
「面倒な媼だ」
 呪が姿を消す。同時に蛙が煙玉をぶちまけ、周囲に白煙が漂う。
「神経毒か。力無き者は掠め手を使わねばならんようだな!」
 コンゴウシンリキが上体を持ち上げ、振り下ろす。小規模の地震が起こり、白煙が一気に晴れ、逆に舞い上がった塵と雪で視界が妨害される。後隙を狙っていた呪は面食らい、飛び退く。
「竜の身でありながら我が名を知らぬこと、とくと後悔するがよい!」
 コンゴウシンリキはけたたましい咆哮と共に、暴走したかのように手当たり次第に破壊し出す。あるものは衝撃波に巻き込まれ、あるものは落石に押し潰され、瞬時に呪を含めた全員が捻り潰される。
「是非も無し」
 コンゴウシンリキが立ち去ろうとするが、蹴散らされた千切雲の軍団は平然と起き上がる。
「これが日の本の邪法か。竜ならばそんなものに頼らずとも、いくらでも不死となれように」
 その一言に、呪が反応する。
「力あるものに、虐げられた者の痛みはわかるまい」
「弱者はこの世にはいない。自らを磨き上げる前に、安易に他者を頼るがゆえの甘えでしかない」
 コンゴウシンリキは鼻から猛烈な吹雪を放ち、千切雲たちは各々高速で飛び退いて躱す。
「ふんぬぁ!」
 そして噴出する猛吹雪の勢いのまま鼻を振り回し、山を破壊し尽くすほどのパワーで暴れ狂う。
「げに恐ろしき象の化け物か」
 呪は攻撃を躱しつつ、一匹の竜を召し寄せる。
「玄海様にこやつのことを伝えよ」
 竜は頷き、コンゴウシンリキの攻撃から逃れて山を飛び上る。
「砕けよ!」
 呪めがけてコンゴウシンリキが踏みつけを放ち、呪は姿を消して瞬間移動して躱す。
「死んでも躍り続けるとしよう、巌王獣」
 呪はそう言うと、千切雲たちと共にコンゴウシンリキと戦い続ける。
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