262 / 568
三千世界・原初(7)
第二話 「レックレス・パラサイト」
しおりを挟む
金城山 底部
シンとコンゴウシンリキは、金城山の谷の底部にいた。
「随分と切り立った崖ですね」
シンが呟く。
「ここは金城山。不知火と呼ばれる忍によって壊滅させられた、日の本の中枢部」
「日の本と言えば、中国よりも東の小国じゃないか。ここまで巨大な山があったとは……」
「海洋で断絶されているがゆえに、ブリテンやコノートと同じく独自の文化を持ち、そして永遠に続く内乱の中で疲弊している。最近は蟲や神憑りを利用した外法に手を染めているとか」
「蟲と、神憑りとは?」
「神や偶像への信仰によって、被信仰物に蓄えられたシフルを自分達に還元することで、僅かなシフルしか使えない者でもシフルを活用した戦闘を行うことが出来る。これが神憑り」
二人は谷底を進む。
「蟲は、獣の中でも、人間が動物と呼ぶ者では持ちにくい能力を持っていることが多々あるゆえ、それを量産して、兵士を強化しているのでしょう」
「ミレニアムにいるとき一度だけ遭遇したことがある。不死の呪いを受けているので助けて欲しいというこの国からやってきた者が居たが……」
「何があったのですかな?」
「いや、小さな蟲が脊椎や脳に食いついて寄生していたんだ。仕方なく、介錯して入念に焼却した」
「蟲憑きがこの国の兵士の大半を占めているのなら、ここは黄泉の領域並みに面倒な空間と言えますな」
「とにかく、バロンやエリアルを探さなければ」
会話が終わった瞬間、頭上に獣の咆哮のような音が響く。
「今のは」
シンがコンゴウシンリキの方を向く。
「僅かにメイヴの気配を感じましたが……」
と、二人の前に黒い鎧の小柄な竜人が現れる。
「君は……」
シンが背の大剣に手をかける。
「我が名は呪。不知火忍軍斥候部隊『千切雲』の隊長だ」
コンゴウシンリキが周囲に現れた竜と、人間の半分ほどの大きさの蛙の群れに気付く。
「まずいな……」
呪が腰に挿した二本の刀を抜く。
「(ここで価値があるのは私ではなくシンのはず……ならば!)」
コンゴウシンリキが獣化し、鼻でシンを掴んで投げ飛ばす。竜たちはそれに反応して追おうとするが、呪が動かないのを把握してやめる。コンゴウシンリキが威嚇するように強く地面を踏む。
「獣では苗床になれぬ。人の精神の不安定さが無ければ……」
「だが、ここでみすみす私を逃すわけにもいくまいて」
「面倒な媼だ」
呪が姿を消す。同時に蛙が煙玉をぶちまけ、周囲に白煙が漂う。
「神経毒か。力無き者は掠め手を使わねばならんようだな!」
コンゴウシンリキが上体を持ち上げ、振り下ろす。小規模の地震が起こり、白煙が一気に晴れ、逆に舞い上がった塵と雪で視界が妨害される。後隙を狙っていた呪は面食らい、飛び退く。
「竜の身でありながら我が名を知らぬこと、とくと後悔するがよい!」
コンゴウシンリキはけたたましい咆哮と共に、暴走したかのように手当たり次第に破壊し出す。あるものは衝撃波に巻き込まれ、あるものは落石に押し潰され、瞬時に呪を含めた全員が捻り潰される。
「是非も無し」
コンゴウシンリキが立ち去ろうとするが、蹴散らされた千切雲の軍団は平然と起き上がる。
「これが日の本の邪法か。竜ならばそんなものに頼らずとも、いくらでも不死となれように」
その一言に、呪が反応する。
「力あるものに、虐げられた者の痛みはわかるまい」
「弱者はこの世にはいない。自らを磨き上げる前に、安易に他者を頼るがゆえの甘えでしかない」
コンゴウシンリキは鼻から猛烈な吹雪を放ち、千切雲たちは各々高速で飛び退いて躱す。
「ふんぬぁ!」
そして噴出する猛吹雪の勢いのまま鼻を振り回し、山を破壊し尽くすほどのパワーで暴れ狂う。
「げに恐ろしき象の化け物か」
呪は攻撃を躱しつつ、一匹の竜を召し寄せる。
「玄海様にこやつのことを伝えよ」
竜は頷き、コンゴウシンリキの攻撃から逃れて山を飛び上る。
「砕けよ!」
呪めがけてコンゴウシンリキが踏みつけを放ち、呪は姿を消して瞬間移動して躱す。
「死んでも躍り続けるとしよう、巌王獣」
呪はそう言うと、千切雲たちと共にコンゴウシンリキと戦い続ける。
シンとコンゴウシンリキは、金城山の谷の底部にいた。
「随分と切り立った崖ですね」
シンが呟く。
「ここは金城山。不知火と呼ばれる忍によって壊滅させられた、日の本の中枢部」
「日の本と言えば、中国よりも東の小国じゃないか。ここまで巨大な山があったとは……」
「海洋で断絶されているがゆえに、ブリテンやコノートと同じく独自の文化を持ち、そして永遠に続く内乱の中で疲弊している。最近は蟲や神憑りを利用した外法に手を染めているとか」
「蟲と、神憑りとは?」
「神や偶像への信仰によって、被信仰物に蓄えられたシフルを自分達に還元することで、僅かなシフルしか使えない者でもシフルを活用した戦闘を行うことが出来る。これが神憑り」
二人は谷底を進む。
「蟲は、獣の中でも、人間が動物と呼ぶ者では持ちにくい能力を持っていることが多々あるゆえ、それを量産して、兵士を強化しているのでしょう」
「ミレニアムにいるとき一度だけ遭遇したことがある。不死の呪いを受けているので助けて欲しいというこの国からやってきた者が居たが……」
「何があったのですかな?」
「いや、小さな蟲が脊椎や脳に食いついて寄生していたんだ。仕方なく、介錯して入念に焼却した」
「蟲憑きがこの国の兵士の大半を占めているのなら、ここは黄泉の領域並みに面倒な空間と言えますな」
「とにかく、バロンやエリアルを探さなければ」
会話が終わった瞬間、頭上に獣の咆哮のような音が響く。
「今のは」
シンがコンゴウシンリキの方を向く。
「僅かにメイヴの気配を感じましたが……」
と、二人の前に黒い鎧の小柄な竜人が現れる。
「君は……」
シンが背の大剣に手をかける。
「我が名は呪。不知火忍軍斥候部隊『千切雲』の隊長だ」
コンゴウシンリキが周囲に現れた竜と、人間の半分ほどの大きさの蛙の群れに気付く。
「まずいな……」
呪が腰に挿した二本の刀を抜く。
「(ここで価値があるのは私ではなくシンのはず……ならば!)」
コンゴウシンリキが獣化し、鼻でシンを掴んで投げ飛ばす。竜たちはそれに反応して追おうとするが、呪が動かないのを把握してやめる。コンゴウシンリキが威嚇するように強く地面を踏む。
「獣では苗床になれぬ。人の精神の不安定さが無ければ……」
「だが、ここでみすみす私を逃すわけにもいくまいて」
「面倒な媼だ」
呪が姿を消す。同時に蛙が煙玉をぶちまけ、周囲に白煙が漂う。
「神経毒か。力無き者は掠め手を使わねばならんようだな!」
コンゴウシンリキが上体を持ち上げ、振り下ろす。小規模の地震が起こり、白煙が一気に晴れ、逆に舞い上がった塵と雪で視界が妨害される。後隙を狙っていた呪は面食らい、飛び退く。
「竜の身でありながら我が名を知らぬこと、とくと後悔するがよい!」
コンゴウシンリキはけたたましい咆哮と共に、暴走したかのように手当たり次第に破壊し出す。あるものは衝撃波に巻き込まれ、あるものは落石に押し潰され、瞬時に呪を含めた全員が捻り潰される。
「是非も無し」
コンゴウシンリキが立ち去ろうとするが、蹴散らされた千切雲の軍団は平然と起き上がる。
「これが日の本の邪法か。竜ならばそんなものに頼らずとも、いくらでも不死となれように」
その一言に、呪が反応する。
「力あるものに、虐げられた者の痛みはわかるまい」
「弱者はこの世にはいない。自らを磨き上げる前に、安易に他者を頼るがゆえの甘えでしかない」
コンゴウシンリキは鼻から猛烈な吹雪を放ち、千切雲たちは各々高速で飛び退いて躱す。
「ふんぬぁ!」
そして噴出する猛吹雪の勢いのまま鼻を振り回し、山を破壊し尽くすほどのパワーで暴れ狂う。
「げに恐ろしき象の化け物か」
呪は攻撃を躱しつつ、一匹の竜を召し寄せる。
「玄海様にこやつのことを伝えよ」
竜は頷き、コンゴウシンリキの攻撃から逃れて山を飛び上る。
「砕けよ!」
呪めがけてコンゴウシンリキが踏みつけを放ち、呪は姿を消して瞬間移動して躱す。
「死んでも躍り続けるとしよう、巌王獣」
呪はそう言うと、千切雲たちと共にコンゴウシンリキと戦い続ける。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。
隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。
婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。
しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした
月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。
それから程なくして――――
お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。
「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」
にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。
「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」
そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・
頭の中を、凄まじい情報が巡った。
これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね?
ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。
だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。
ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。
ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」
そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。
フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ!
うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって?
そんなの知らん。
設定はふわっと。
【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…
三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった!
次の話(グレイ視点)にて完結になります。
お読みいただきありがとうございました。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる