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三千世界・原初(7)
第三話 「美人局の世迷い言」
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カテドラル最上層部・アポカリプスカルディナ
静寂に包まれた内部庭園の中に、オオアマナの花畑があった。その中央には、十字の角材が突き刺さっており、それに磔にされた死体があり、その麓で跪く男がいた。アグニはゆっくりとその男に近づく。
「教皇、壁の補強に時間がかかっております。砂漠の警備に出ている信者を壁の補強へ回して頂けませんか」
教皇は、その言葉にしばしの沈黙を返す。アグニがしびれを切らして重心を変えたとき、教皇が口を開く。
「アグニ、クシナガラの状況は?」
「巨大樹でシャーキヤが殺害されたまま、何も」
「そうか」
教皇は立ち上がる。白と赤の甲冑に、金の装飾が施されたマントを翻し、アグニへ向き直る。
「日に日に救世主の亡骸から感じる力が膨れ上がっている。我らの信仰が主に届いているのだろう」
「ところで、今日タンガロアの生き残りを保護しました。男が一人と、女が二人です。女の片割れは、アヴァロンの九竜から逃れた女王で、そして男の名はバロンです」
「バロン……異教の祖、宙核の名前か。何か不穏なことの前触れでなければいいが」
「彼らには十分な戦闘能力があると見受けられましたので、明日からは壁の補強用の魔物を狩ってきてもらう予定です」
「ふむ……だが西側からは亡霊騎士やコンバットスフィンクス、東からは大国からの逃亡者を掃討する部隊も来ている。たった三人でスフィンクスを殺し、その霊力だけを奪うなどできるのか?」
「彼らは所詮一時的に我々を頼ったに過ぎません。使い捨ての駒としては便利がいいかと」
「ふむ……人員の使い方は君に任せる。私はみなの様子を見回る」
「はっ」
アグニがお辞儀をし、教皇は部屋から出ていった。
――……――……――
バロンがベッドの中央に仰向けで寝ていると、右からメイヴが体を擦り付けてくる。
「……何かあったか」
「あら、まだ寝てなかったの?」
布団の中でバロンの体のあちらこちらをまさぐるメイヴの手をバロンは掴む。
「……やめろ」
「もうエリアルは寝てるでしょ?一回気持ち良くなるくらいならバレないわよ」
「……僕が嫌なんだ。もう寝ろ」
「えー……ほんとにつれないわね、アンタ」
メイヴはバロンの耳元に顔を寄せ、囁く。
「エリアルにバレるのは嫌でしょ?少しだけでいいからアタシに体を使わせなさいよ」
「……寝ろ」
バロンはメイヴの手を離し、目を閉じる。
「……それでなくても疲れてるんだ、僕もエリアルも」
メイヴは悪辣な笑みを浮かべる。
「いつか絶対アタシ専用の竿に堕としてやるわ……守りの堅い純情な男ほど、尊厳も何もかも崩れたときが……んふふ……」
「……はぁ」
三人は健全に夜を明かした。エリアルが最初に目覚め、上体を起こす。バロンの肩を揺すり、バロンも目覚める。
「……ん……おはよう、エリアル」
バロンがそう言うと、エリアルも笑顔で答える。
「おはよう。お腹減ったんだけど、どこでごはん食べられるか知ってる?」
「……アグニに聞いてみよう。メイヴ、起きろ」
バロンがメイヴへ手を伸ばすと、メイヴはそれを躱すようにするりとベッドから出る。
「もう起きてるわ。体力には自信あるもの」
「……そりゃよかった」
ベッドから出て、手早く支度を終え、三人は部屋から出る。すると、廊下の壁にアグニが寄りかかっていた。
「起きたか。てめえらが早起きで助かったぜ。時間が惜しい、歩きながら話すぞ」
アグニが歩き出し、三人はそれについていく。
「てめえら、リーダーは誰だ」
エリアルが手を上げる。
「名前は」
「エリアル」
「わかった。エリアル、今日俺たちがてめえらにやってほしいことは、西の砂漠から四足重量魔獣……いわゆるスフィンクスが何体か現れている。他の国からここへ助けを求めてやってきた人間や、そいつらを助けるために向かったうちの信徒が食われるっていう事件が多発してる。だが、スフィンクスは様々な動物を魔力で繋ぎ合わせた化け物だ。その力を使えば、壁の補強材が作れるんだ」
「つまり、砂漠へ出てスフィンクスを倒してくればいいってこと?」
「その通りだ。死体は俺らが回収する」
「わかったわ。ところで、ごはんはどこで食べられるの?」
「こっちだ」
一行は第一層へ降り、アグニに続いて歩いていく。アグニが扉を開けると、そこは食堂だった。
「そこに座れ。俺が持ってきてやる」
三人は言われるまま椅子に座り、アグニが三つプレートを持ってくる。
「好きなだけ食え。他にいるもんがあるなら俺が持ってきてやる」
アグニがそういうより早く、エリアルはプレートに乗ったごはんを食べ出す。バロンはゆっくりパンを口へ運び、メイヴは特に急ぐでもないが、一口が大きいがゆえにすぐに食べ終わる。
「てめえらは食べてすぐ運動できるタイプなんだな。安心したぜ」
完食したプレートをアグニが片付ける。三人は立ち上がり、再び廊下へ出たアグニについていく。
静寂に包まれた内部庭園の中に、オオアマナの花畑があった。その中央には、十字の角材が突き刺さっており、それに磔にされた死体があり、その麓で跪く男がいた。アグニはゆっくりとその男に近づく。
「教皇、壁の補強に時間がかかっております。砂漠の警備に出ている信者を壁の補強へ回して頂けませんか」
教皇は、その言葉にしばしの沈黙を返す。アグニがしびれを切らして重心を変えたとき、教皇が口を開く。
「アグニ、クシナガラの状況は?」
「巨大樹でシャーキヤが殺害されたまま、何も」
「そうか」
教皇は立ち上がる。白と赤の甲冑に、金の装飾が施されたマントを翻し、アグニへ向き直る。
「日に日に救世主の亡骸から感じる力が膨れ上がっている。我らの信仰が主に届いているのだろう」
「ところで、今日タンガロアの生き残りを保護しました。男が一人と、女が二人です。女の片割れは、アヴァロンの九竜から逃れた女王で、そして男の名はバロンです」
「バロン……異教の祖、宙核の名前か。何か不穏なことの前触れでなければいいが」
「彼らには十分な戦闘能力があると見受けられましたので、明日からは壁の補強用の魔物を狩ってきてもらう予定です」
「ふむ……だが西側からは亡霊騎士やコンバットスフィンクス、東からは大国からの逃亡者を掃討する部隊も来ている。たった三人でスフィンクスを殺し、その霊力だけを奪うなどできるのか?」
「彼らは所詮一時的に我々を頼ったに過ぎません。使い捨ての駒としては便利がいいかと」
「ふむ……人員の使い方は君に任せる。私はみなの様子を見回る」
「はっ」
アグニがお辞儀をし、教皇は部屋から出ていった。
――……――……――
バロンがベッドの中央に仰向けで寝ていると、右からメイヴが体を擦り付けてくる。
「……何かあったか」
「あら、まだ寝てなかったの?」
布団の中でバロンの体のあちらこちらをまさぐるメイヴの手をバロンは掴む。
「……やめろ」
「もうエリアルは寝てるでしょ?一回気持ち良くなるくらいならバレないわよ」
「……僕が嫌なんだ。もう寝ろ」
「えー……ほんとにつれないわね、アンタ」
メイヴはバロンの耳元に顔を寄せ、囁く。
「エリアルにバレるのは嫌でしょ?少しだけでいいからアタシに体を使わせなさいよ」
「……寝ろ」
バロンはメイヴの手を離し、目を閉じる。
「……それでなくても疲れてるんだ、僕もエリアルも」
メイヴは悪辣な笑みを浮かべる。
「いつか絶対アタシ専用の竿に堕としてやるわ……守りの堅い純情な男ほど、尊厳も何もかも崩れたときが……んふふ……」
「……はぁ」
三人は健全に夜を明かした。エリアルが最初に目覚め、上体を起こす。バロンの肩を揺すり、バロンも目覚める。
「……ん……おはよう、エリアル」
バロンがそう言うと、エリアルも笑顔で答える。
「おはよう。お腹減ったんだけど、どこでごはん食べられるか知ってる?」
「……アグニに聞いてみよう。メイヴ、起きろ」
バロンがメイヴへ手を伸ばすと、メイヴはそれを躱すようにするりとベッドから出る。
「もう起きてるわ。体力には自信あるもの」
「……そりゃよかった」
ベッドから出て、手早く支度を終え、三人は部屋から出る。すると、廊下の壁にアグニが寄りかかっていた。
「起きたか。てめえらが早起きで助かったぜ。時間が惜しい、歩きながら話すぞ」
アグニが歩き出し、三人はそれについていく。
「てめえら、リーダーは誰だ」
エリアルが手を上げる。
「名前は」
「エリアル」
「わかった。エリアル、今日俺たちがてめえらにやってほしいことは、西の砂漠から四足重量魔獣……いわゆるスフィンクスが何体か現れている。他の国からここへ助けを求めてやってきた人間や、そいつらを助けるために向かったうちの信徒が食われるっていう事件が多発してる。だが、スフィンクスは様々な動物を魔力で繋ぎ合わせた化け物だ。その力を使えば、壁の補強材が作れるんだ」
「つまり、砂漠へ出てスフィンクスを倒してくればいいってこと?」
「その通りだ。死体は俺らが回収する」
「わかったわ。ところで、ごはんはどこで食べられるの?」
「こっちだ」
一行は第一層へ降り、アグニに続いて歩いていく。アグニが扉を開けると、そこは食堂だった。
「そこに座れ。俺が持ってきてやる」
三人は言われるまま椅子に座り、アグニが三つプレートを持ってくる。
「好きなだけ食え。他にいるもんがあるなら俺が持ってきてやる」
アグニがそういうより早く、エリアルはプレートに乗ったごはんを食べ出す。バロンはゆっくりパンを口へ運び、メイヴは特に急ぐでもないが、一口が大きいがゆえにすぐに食べ終わる。
「てめえらは食べてすぐ運動できるタイプなんだな。安心したぜ」
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