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三千世界・時諦(6)
第三話 「日陰の隠し事」
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タイニープレーン西部・メガログレイブヤード
砕けたコンクリートの道路を歩きながら、三人は周囲を見回す。崩壊したビルは前衛的なデザインのものが多く、先進的な都市だったことが窺える。
「まさに混沌をもたらす、クソッタレ企業だな、Chaos社って」
ストラトスは愚痴を溢す。
「戦争は人間の本質よ。人間が生き続ける限り、この世から戦争は無くならない。程度が甚だしいか、小競り合いかの違いよ」
シエルが冷淡にそう告げる。
「時間を操作できるようになったら、違う時代から色々持ってきてなかったことにできるのか?」
ストラトスの疑問に、シエルが答える。
「無理ね。無かったことにはならない。そこが分岐点になって、別の世界が生まれるだけ」
「ってことは、Chaos社は何がしたいんだ?時間を支配して、全ての世界に干渉できても、この世界は元には戻らない。ってことなら、この世界をここまでボロボロにしたらどうしようもねえだろ」
「さあ、わからないわ。敵対しているなら、理由はどうだろうと叩き潰すだけ、それが戦いだから」
アポロが立ち止まる。
「二人とも、お喋りはそこまでだ」
三人の眼前の交差点に、空から巨大な二足歩行兵器が落下してくる。
「蒼龍か!」
蒼龍は上体を持ち上げ、金属の擦れ合う音で獣のような咆哮を散らす。そして頭部のプレートを開き、極大の熱線を放つ。三人は左右に避け、武器を構える。
「単純にレジスタンス狩りのために配備されているやつに見つかったようだな」
アポロが光の弓を産み出し、そこから光の矢を放つ。着弾と同時に爆発するが、蒼龍は意に介さず尻尾で薙ぎ払う。ストラトスの槍が尻尾を弾き、怯んだ蒼龍の腹にシエルが拳を叩き込む。蒼龍はジャンプして距離を離し、右のヒレから怨愛の炎で出来たブレードを噴出させて振り下ろす。シエルは頭上で腕を交差させてそれを防ぎ、あろうことかそのまま押し返す。そして怨愛ブレードをものともせずに抱え込み、空中へ放り投げる。
「ストラトス!それ貸して!」
ストラトスは咄嗟にシエルに槍を投げ渡し、飛び上がって蒼龍の頭部へそれを突き刺す。轟音を立てて蒼龍は地面に落下し、シエルは槍を引き抜いて二人のもとへ帰る。
「はい、これ」
シエルはストラトスへ槍を投げ返す。
「あー、あんたってさ、格闘技世界チャンピオンだったりする?」
「なんで?」
「いや、普通に考えて大型無人機を力業で空中に放り投げるなんてあり得ないだろ」
「そもそもあんなどでかい兵器が勝手に歩いて飛び回るんだから、兵器をぶん投げる人間が居ても全然おかしくないでしょ」
「ま、まあ……そう、なのか?」
アポロが会話に加わる。
「お二人さん、先へ進むぞ」
二人はアポロに従い、先へ進む。倒壊したビル群の中央にある噴水に空いた大穴へ飛び降りる。
タイニープレーン・ラボラトリ
大穴から飛び降りた先は、研究所らしき建物の内部だった。
「ここは?」
ストラトスの問いに、シエルが続く。
「Chaos社の研究施設のようね。尤もこんなところにあるとは思わなかったけど」
「んでアポロ。作戦って何をすんだ?」
アポロが周囲を警戒しつつ口を開く。
「ここに城金零の細胞サンプル……通称〈零血細胞〉があるらしいんだ。それを奪い取る。見ての通り、この研究所は放棄されてる。いくつかの実験動物が逃げ出してるかもしれないが、まあ大丈夫だろう」
動力が落ちたドアを力づくで抉じ開ける。
「暗いな」
ストラトスがぼやく。
「大丈夫、僕の光の矢で照らせるから」
アポロが手元に出した光の矢でぼんやりと通路が明かりで満たされる。
「どこに行けばいいんだ?」
「まあ適当に進めばあるんじゃない?」
「んなバカな」
駄弁る二人へアポロは振り返る。
「見当はついているよ。零血細胞は新人類に関わるトップシークレットだ。だから最深部にあると勝手に思っている」
「とりあえず奥に行けってか。それなら話が早いな」
三人は鋼鉄の道を進み、局長室へ入る。
「ここが局長室のようだね」
アポロが部屋の物色を始める。ストラトスとシエルも、部屋の中の資料を見る。シエルが本棚からファイルを手に取り、おもむろに開く。
「〈新人類の身体的特徴について〉……『零血細胞に適合した人間である、新人類。その身体的特徴は以下に述べる通りである。
一、体内で極微量ではあるが純粋なシフルの生成が可能である。
二、上記に起因する、零血細胞に適合しない人類(便宜上『旧人類』とする)と比較した際の、極端に高い身体能力。
三、食事・休眠・呼吸・性欲などの、生物的な欲求を発しない。』」
シエルはファイルを閉じる。
「ま、いくら日本から直接南下したところにあるといってもそこまで重要な情報があるわけでもなさそうね」
アポロが小型のレフリジェレーターから細胞片の入った試験管を取り出し、運搬用のケースに入れる。
「そうだね、ここに期待する方が無理があると言えるかもしれない。Chaos社と言えば上級幹部クラスでもカバーストーリーしか知らないような企業だ。いくら大きめの研究所の所長室でも、零血細胞の取り扱い方だけ知っていてこれがどういうものなのかわかっていないはず」
入り口を見張っていたストラトスが欠伸をする。
「ふわあーあ、探し物はあったのかー?」
アポロが笑顔で頷く。
「うっし、じゃ帰ろうぜ。蒼龍と派手にやりあったから増援とか来るかもしれないし」
シエルとアポロは頷き、三人は元来た道を戻り、大穴から外へ出る。
砕けたコンクリートの道路を歩きながら、三人は周囲を見回す。崩壊したビルは前衛的なデザインのものが多く、先進的な都市だったことが窺える。
「まさに混沌をもたらす、クソッタレ企業だな、Chaos社って」
ストラトスは愚痴を溢す。
「戦争は人間の本質よ。人間が生き続ける限り、この世から戦争は無くならない。程度が甚だしいか、小競り合いかの違いよ」
シエルが冷淡にそう告げる。
「時間を操作できるようになったら、違う時代から色々持ってきてなかったことにできるのか?」
ストラトスの疑問に、シエルが答える。
「無理ね。無かったことにはならない。そこが分岐点になって、別の世界が生まれるだけ」
「ってことは、Chaos社は何がしたいんだ?時間を支配して、全ての世界に干渉できても、この世界は元には戻らない。ってことなら、この世界をここまでボロボロにしたらどうしようもねえだろ」
「さあ、わからないわ。敵対しているなら、理由はどうだろうと叩き潰すだけ、それが戦いだから」
アポロが立ち止まる。
「二人とも、お喋りはそこまでだ」
三人の眼前の交差点に、空から巨大な二足歩行兵器が落下してくる。
「蒼龍か!」
蒼龍は上体を持ち上げ、金属の擦れ合う音で獣のような咆哮を散らす。そして頭部のプレートを開き、極大の熱線を放つ。三人は左右に避け、武器を構える。
「単純にレジスタンス狩りのために配備されているやつに見つかったようだな」
アポロが光の弓を産み出し、そこから光の矢を放つ。着弾と同時に爆発するが、蒼龍は意に介さず尻尾で薙ぎ払う。ストラトスの槍が尻尾を弾き、怯んだ蒼龍の腹にシエルが拳を叩き込む。蒼龍はジャンプして距離を離し、右のヒレから怨愛の炎で出来たブレードを噴出させて振り下ろす。シエルは頭上で腕を交差させてそれを防ぎ、あろうことかそのまま押し返す。そして怨愛ブレードをものともせずに抱え込み、空中へ放り投げる。
「ストラトス!それ貸して!」
ストラトスは咄嗟にシエルに槍を投げ渡し、飛び上がって蒼龍の頭部へそれを突き刺す。轟音を立てて蒼龍は地面に落下し、シエルは槍を引き抜いて二人のもとへ帰る。
「はい、これ」
シエルはストラトスへ槍を投げ返す。
「あー、あんたってさ、格闘技世界チャンピオンだったりする?」
「なんで?」
「いや、普通に考えて大型無人機を力業で空中に放り投げるなんてあり得ないだろ」
「そもそもあんなどでかい兵器が勝手に歩いて飛び回るんだから、兵器をぶん投げる人間が居ても全然おかしくないでしょ」
「ま、まあ……そう、なのか?」
アポロが会話に加わる。
「お二人さん、先へ進むぞ」
二人はアポロに従い、先へ進む。倒壊したビル群の中央にある噴水に空いた大穴へ飛び降りる。
タイニープレーン・ラボラトリ
大穴から飛び降りた先は、研究所らしき建物の内部だった。
「ここは?」
ストラトスの問いに、シエルが続く。
「Chaos社の研究施設のようね。尤もこんなところにあるとは思わなかったけど」
「んでアポロ。作戦って何をすんだ?」
アポロが周囲を警戒しつつ口を開く。
「ここに城金零の細胞サンプル……通称〈零血細胞〉があるらしいんだ。それを奪い取る。見ての通り、この研究所は放棄されてる。いくつかの実験動物が逃げ出してるかもしれないが、まあ大丈夫だろう」
動力が落ちたドアを力づくで抉じ開ける。
「暗いな」
ストラトスがぼやく。
「大丈夫、僕の光の矢で照らせるから」
アポロが手元に出した光の矢でぼんやりと通路が明かりで満たされる。
「どこに行けばいいんだ?」
「まあ適当に進めばあるんじゃない?」
「んなバカな」
駄弁る二人へアポロは振り返る。
「見当はついているよ。零血細胞は新人類に関わるトップシークレットだ。だから最深部にあると勝手に思っている」
「とりあえず奥に行けってか。それなら話が早いな」
三人は鋼鉄の道を進み、局長室へ入る。
「ここが局長室のようだね」
アポロが部屋の物色を始める。ストラトスとシエルも、部屋の中の資料を見る。シエルが本棚からファイルを手に取り、おもむろに開く。
「〈新人類の身体的特徴について〉……『零血細胞に適合した人間である、新人類。その身体的特徴は以下に述べる通りである。
一、体内で極微量ではあるが純粋なシフルの生成が可能である。
二、上記に起因する、零血細胞に適合しない人類(便宜上『旧人類』とする)と比較した際の、極端に高い身体能力。
三、食事・休眠・呼吸・性欲などの、生物的な欲求を発しない。』」
シエルはファイルを閉じる。
「ま、いくら日本から直接南下したところにあるといってもそこまで重要な情報があるわけでもなさそうね」
アポロが小型のレフリジェレーターから細胞片の入った試験管を取り出し、運搬用のケースに入れる。
「そうだね、ここに期待する方が無理があると言えるかもしれない。Chaos社と言えば上級幹部クラスでもカバーストーリーしか知らないような企業だ。いくら大きめの研究所の所長室でも、零血細胞の取り扱い方だけ知っていてこれがどういうものなのかわかっていないはず」
入り口を見張っていたストラトスが欠伸をする。
「ふわあーあ、探し物はあったのかー?」
アポロが笑顔で頷く。
「うっし、じゃ帰ろうぜ。蒼龍と派手にやりあったから増援とか来るかもしれないし」
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