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三千世界・終幕(5)

エピローグ

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 新生世界・万屋クロダ
 顔に乗せていた雑誌が滑り落ちて、レイヴンは外の明るさに目を開ける。事務所には、掃除をするエルデと、カードゲームで遊ぶロータとアーシャの姿があった。
「はい、アーシャの負け」
「ぬわぁぁぁぁぁ!これで百七連敗ですよ!?」
「だってアーシャは顔に出てる。姉様並みに考えが読みやすい」
「ならもう一回……って、レイヴンさん、起きてるじゃないですか」
 アーシャとロータがレイヴンの方を向く。
「おう、今起きたぜ。ったく、お前らはここに入り浸りやがって。ロータ、学校はどうした?」
 ロータは即座に返事する。
「やめた」
「やめた……!?」
 レイヴンは半笑いになる。
「だって、今回の戦いでよくわかった。実戦に勝る経験は無い。それなら、兄様と一緒にいた方が私の利益になる」
「ああそう……で、アーシャ、お前もなんでここにいる。第二王女だろうが、公務とか無いのか」
 アーシャは呆れ気味に答える。
「私たちは一心同体なんですから、近くにいないとダメでしょう?」
「質問に答えてねえぞ」
「こ、こほん。真面目な話をするなら、姉上に掛け合って休日の全てをリリュールで過ごしているんです。少しくらいありがたく思ってほしいくらいですね」
 レイヴンは鼻で笑う。
「ま、いいんじゃないか。今度は俺がグランシデアに行くか。たまにはマイケルとかエリナとか、リータとかにも会いたいしな」
 アーシャがエルデに訊ねる。
「そう言えばエルデさん。アルバさんやセレナさんがどこに行ったか知ってますか?」
「ああ、あの方たちなら……目的を果たしたとかで、元の世界に帰っていきましたよ」
 レイヴンがその名前を聞いて笑う。
「しかし、今回の旅は色々なことがあったもんだが……まさか別の世界から自分の子供が来るなんてな。ほんと、世の中なにがあるかわからねえもんだ」
 その時、卓上の電話が鳴る。レイヴンが受話器を取る。
「万屋クロダ。んあ?おう、ギルドのおっさんか。何?アクバムの森でモンスターの被害が出てる?わかった、すぐ行くぜ」
 レイヴンはエルデへ目配せする。エルデが頷き、コートを投げ渡す。受け取りつつ素早くコートを着て、レイヴンはドアへ進む。
「さてお嬢さん方。この家で遊んでる以上、仕事は手伝ってもらうぜ?」
「当然……」
「まあ、他ならぬレイヴンさんの頼みですからね。あなたの仕事は私の仕事です」
 レイヴンはドアを蹴破る。
「さあ、仕事を始めようぜ!」

 WorldA・政府首都アルマ 行政ビル
「ふわぁーあ……眠たいよ……」
 ホシヒメが執務室でデスクに突っ伏していると、扉を丁寧に開けてゼロが入ってくる。
「おい、客間に通されてから三時間も何を……」
 ゼロは爆睡するホシヒメを見て大きくため息をつき、ホシヒメの腕を掴んで引きずりながら客間へと運ぶ。客間にはゼルとノウンが座っており、ゼロが引きずってきたホシヒメを椅子に座らせる。ゼロも椅子に座り、ゼルが口を開く。
「えーっと、あの……客人にこんなことをさせて本当に申し訳な……」
「いい。気にするな。こいつが政府竜神になった時点でこうなることは予想がついていた。クラエスは役に立たんが人望は厚い。そこを貴様らが支える。それで十分だ。それに、今さら畏まる程見知らぬ関係でもあるまい」
「それは、まあそうだな。ゼロ、今日お前を呼んだのは……」
「わかっている。凶竜の保護政策についてだろう」
「その通りだ。現状、俺たちが発見して保護できているのはあくまでも竜神が管轄している地域だけだ」
「そうだな……あの戦い以降、竜王種と竜神種の格差は無くなりつつあるが、まだ完全ではない。ふむ……では、貴様らのところから調査団を出してくれ。帝都も保護施設等で協力する」
 ゼロはノウンが渡してきた資料に目を通す。
「ところでゼロ。ルクレツィアは今どんな感じ?」
 ノウンが訊ねる。
「ん、いつも通りだ。俺が暇になる度に勝負を挑んできて、負けては修行に行く」
「なるほど……」
「ネロとかいうやつも居るが、奴は仕事以外では風俗街にいるようだな。個人の趣味に干渉する気はないからそれ以上は知らんが」
「な、なるほど……?」
 目を通し終わり、署名をして資料をノウンへ返す。
「俺は帝都に帰る。その馬鹿には後でお灸を据えておけ」
 ゼロは立ち上がり、客間を去る。
「つくづくホシヒメとは真逆の男だな」
「でも……ちょっとだけ、優しくなってるよ」
 二人に挟まれて、ホシヒメはよだれを垂らしながら爆睡し続けていた。

 古代世界 セレスティアル・アーク
「明人様、こちらが今月の報告書となります」
 トラツグミから送られてきたデータが、明人の視覚情報とリンクして、デスク上に仮想文書を作り出す。
「ヨーロッパの砂漠化はだいぶ収まったみたいだな」
「ええ、そうですね。独立機構も多少は協力の意思を見せてくれているようで」
「まあ仕方ないよな。俺たちから攻撃してたのに、今さら協力しようなんて、虫がいいにもほどがあるからな」
 明人は椅子から立ち上がる。
「でもやらなくちゃ。罪を償うなんておこがましいけど、それが俺のしなきゃいけないことなんだ」
 と、その時執務室のドアが勢いよく開け放たれる。
「明人くん!ご飯が出来たのですよ!」
 アリアが満面の笑みを明人に向ける。そしてその後ろの廊下をゼナとマレが我先にと走っている。
「わかった。すぐ行く」
「早く来ないとなくなっちゃうのですよー?」
 アリアは踵を返して駆け出す。
「行こうぜ、トラツグミ。ちょうど仕事も一段落したし」
「御心のままに」
 二人は執務室を後にした。

 WorldB・ニブルヘイム ガルガンチュア
「乾杯!」
 食堂に声が響き渡る。杯を交わしていたのはラーフ、ヴァーユ、ヴァルナだった。
「バロンがやってくれたみてえだな」
 ヴァーユが酒を流し込みつつ呟く。
「そのようだな。まさか、パラミナで畑が耕せるようになるとは」
 ヴァルナが外を眺める。
「どんな壮絶な戦いがあったのか、私たちには知る由も無いけれど……だがいつの日か、彼が帰ってきたときに、私たちの世界を実りあるものだと証明したいところですね、将軍」
 ラーフの言葉に、ヴァルナは頷く。
「三千世界は、今やっと始まったのだ」

 ニルヴァーナ エラン・ヴィタール
 花畑で白いテーブルを囲み、灰色の蝶が飛ぶ最中でバロンとエリアルは紅茶を飲んでいた。
「……世界は元通りになったということでいいのか、エリアル」
「ええ、ニルヴァーナで戦った、奈野花の影響を受けてない人たちを復活させて、全ての世界を正常に戻したわ」
「……エリアル。僕たちはこれから何をすればいいんだ」
「そうね……あなたは、何がしたい?」
「……僕は……」
 バロンはカップをテーブルに置き、エリアルを見つめる。
「……僕は君と、共に居たい」
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