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三千世界・終幕(5)

終章 第六話

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 ニルヴァーナ サティヤ・ユガ
 光を抜けると、夜と昼がちょうど半分ずつ空を占める空間に出た。
「……ここがニルヴァーナか」
「ええ、そうよ」
「……ここまで長かったが、まだ一仕事残っているな」
「おそらくクロザキの方のバロンは最深部にいるはずよ。進みましょ」
 ガラスのような透明な足場の左右には薄く水が張られており、全面から差し込む月光と陽光が、視界を著しく喧しく彩っている。細い足場を通って広い足場まで辿り着くと、そこには剣を足場へ突き立てた、人の形をした鮫がいた。
「……カルブルム」
 剣を握った鮫は、二人を見据える。
「久しいな、バロン、エリアル。ここまで来た……ということは、私がお前たちの相手をせねばならない」
「……なぜだ。お前は娘に……エリアルに会うためにあの世界で戦っていたのなら、僕たちと戦う必要がどこにある」
「ある意味で言えば、私はエリアルと再び出会う望みを叶えた。ならば気に食わんが、あの女に従うしかあるまい」
「……黒崎奈野花か」
「あの女が何を考えているかはわからない。だが、私たちでは絶対に届かない遥かな高みにいることだけは理解できる。バロン、共にworldBに生きたもの同士、相対したということは……」
 バロンは頷き、構える。カルブルムは剣を持ち上げ、バロンへ向ける。光速で突っ込むバロンの攻撃を剣の腹で受け止め、両腕で闘気を込めつつ素早く切り上げる。上体を逸らしたバロンの顎を掠め、その勢いで下半身全体を使って勢いをつけて蹴りを放つ。剣を逆手に持って弾き、順手に持ち直して距離を瞬時に詰めて斬りつける。バロンは左腕で弾き、右腕で素早く突きを入れる。カルブルムはガードから闘気の光で剣を巨大化させて薙ぎ払う。バロンは後方に大きく飛び退き、一度距離を取る。
「……流石だな」
「そうか?お前に比べれば私など所詮、古代世界の一般人でしかないと思っていたが、随分と買われているようだ」
「……買い被りだったか?まあいい」
 カルブルムの持つ剣が黄金の光を放つ。
「続けよう」
「……望むところだ」
 カルブルムが剣を構え急速に距離を詰め、光で加速させて切り下ろす。バロンはそれを受け流し、腹目掛けて激掌を狙う。
「何度も同じ技が通じると思うか!」
 身を捩ったカルブルムの尻尾でバロンは吹き飛ばされ、更に剣で加速したカルブルムが空中で剣を突き出すが、右腕に防がれ、蹴りを放ちながら一回転して着地する。カルブルムも蹴りをガードして高空で一回転し着地する。同時に両者は急接近して剣と拳で突き合う。その衝撃で二人は吹き飛ばされ、同時に受け身を取る。
「……エクスカリバーではないな」
「ああ、この剣はシマエナガという女から貰った。エクスカリバーは生憎、バンギに折られたからな」
「……シマエナガ……」
 二人の会話を外野から聞いていたエリアルは、その名前に思考を巡らせる。
「(あいつの回りくどい嫌がらせってこと……?わざわざ父さんをこのタイミングで蘇らせるなんて、趣味悪いわね)」
 そんなエリアルを余所に、二人は尚も向かい合う。
「……そいつは他に何か言っていたか」
「バロンと戦え。あの女はそう言った。言われずとも、お前と戦うつもりだったがな」
「……そうか」
「シマエナガもお前の知り合いか?」
「……あっちは僕のことを知っているようだがな。この戦いには関係の無いことだ。続けよう」
 両者はまた構える。重い闘気を乗せたバロンの拳が凄まじい光を放つ剣とぶつかり合い、激しい衝撃波が周囲を包み込む。カルブルムが高速の連続突きを放ち、バロンも同じように猛ラッシュで応戦する。次第に両者が光を纏って高速移動し始め、そして幾度も擦れ違って衝撃をぶつけ合う。
「(確かにニルヴァーナは入る度に場所が切り替わるけど……それを黒崎奈野花がある程度コントロールしているとしたら、他のみんなも足止め……いやむしろ、嫌がらせを受けてるかも……)」
 エリアルが光速でぶつかり合う二人を見ながら、心の中で思う。
「……ハァッ!」
 バロンの拳がカルブルムの剣を弾き、もう片方の拳でカルブルムの腹を全力で殴り付ける。両者が地につくが、バロンは足から、カルブルムは背から落ちた。
「くっ……流石に厳しいか……」
 剣を支えにカルブルムが立ち上がる。
「……カルブルム、お前……」
 体が塩へと変わっていくカルブルムを見て、バロンは思わず戦闘の構えを解く。
「構わん……まだやれる……!」
「……だが、蘇ったお前の体、元々そう長くは無いんだろう」
「だからこそだ……短い命だからこそ、目の前の敵と全てを賭けて戦う……!」
「……わかった」
 両者は再び構え、そして光速で擦れ違う。カルブルムの腕が塩となって崩れ落ち、剣が足場に突き刺さる。
「また……負けか……」
「……カルブルム……」
 バロンとエリアルがカルブルムへ駆け寄る。
「バロン……エリアル……随分と……大人らしい顔つきになったな……」
「父さん……」
 エリアルがカルブルムの体を支える。
「エリアル……奈野花は、こちらの世界のバロンを使って何かするつもりだ……」
「何を……?」
「わからん……だが……あの女の考えることだ、凄まじく恐ろしいはずだ……バロン、この子を……頼むぞ……」
 カルブルムは塩となって砕け散る。
「……わかっている。エリアルは僕が守る」
 二人は立ち上がり、先へ進む。
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