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三千世界・終幕(5)

終章 第四話

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 折那医科大学
 車用門を抜け、駐車場横の通路を進んでいくと、巨大な大学病院へ辿り着く。アカツキたちは自動ドアを手で抉じ開け、中に入る。電気はついているが、人の姿はない。
「なんか気味悪ぃな」
 アカツキがそう呟くと、ネロとルクレツィアが同時にアカツキを小突く。
「もしかして怖い?」
 二人が同時にそう言うと、アカツキは二人の顔面に拳をぶつける。
「ぶっ殺すぞアホが。ノウン、どこに行けばいいとかわかるか?」
 ノウンは地図を見る。
「いや……街の地図だからここの構造まではわからない。でもここは正面の受付みたいだし、案内板はどこかにあるはずだよ」
 一行は待ち合い席の近くにある案内板を確認する。
「この中庭っちゅうところが怪しいとちゃうんか?」
 ルクレツィアが指差したのは、左右に分かれた病棟のちょうど中央に作られた中庭だった。
「そうだな、そこは戦闘に向いてそうだ」
 ゼルも頷き、一行は中庭へ足を踏み入れる。一本の木があり、その傍のベンチにブラックライダーが座っていた。
「来たか……これも我が王のためとはいえ、汝らのような下等な蜥蜴の紛い物の相手をせねばならんとはな」
 ブラックライダーは天秤を取り出し、兜のフェイスガードを下げる。
「〝空は鳥、海は魚のためにあるごとく 下劣な者には軽蔑を〟」
 そして本を閉じ、懐に納める。
「蜥蜴の集団にはお似合いか……感謝しろ、加減してやる……」
 その言葉に、アカツキとルクレツィアは即座に言い返す。
「随分と舐められたもんだ」
「その言葉覚えときぃや!」
 ルクレツィアは飛び出し、高速で抜刀する。ブラックライダーは斬られるが、その体は霧散し、ルクレツィアの背後を取っていた。
「調子に……乗るな……蜥蜴共……」
 ブラックライダーはそのままキックでルクレツィアを吹き飛ばし、続くアカツキの攻撃を受け止める。しかし、そこに続けて放たれたゼルの一撃で、兜が欠ける。アカツキは投げ飛ばされ、ゼルのガンブレードも弾き飛ばされる。しかし、ネロが頭上から急降下し、ブラックライダーは咄嗟に飛び退く。
「小賢しい……本気を出せれば全員塵にしてやるところだが……既に役目は果たした」
 ブラックライダーはルクレツィアをつまみ上げ、アカツキの方へ放り投げる。
「汝らがここまで来た時点でもう私はこの世界での役目を終えている。去らばだ」
 そして消滅した。
「なんだ、あいつ。どっかに行きやがったか」
 アカツキが呟くと、ネロが応える。
「まあいいじゃねえか。とにかく戻ろうぜ」
 一行は中庭を後にした。

 学術私立市・自由が丘
 医科大学を抜け、丁字路を進んでいくと、そこには巨大な学術都市があった。
「ロータ、ここにペイルライダーがいるのか?」
 レイヴンの言葉に、ロータは頷く。
「地図によればそう……」
「じゃあ、進むしかないよねっ!」
 駆け出したリータは側溝の蓋に躓いて盛大に転ける。アーシャはため息をつき、レイヴンは爆笑し、ロータは無表情だった。すぐに近寄ったレイヴンの手を借り、リータは立ち上がる。
「えへへ、ごめんねお兄ちゃん」
「どういたしまして」
 二人のやりとりをスルーしてロータとアーシャは進み、学園の入り口から広場に出る。遅れてレイヴンとリータが合流し、一行の眼前には、ペイルライダーが生気を失った裸の少女を眺めている様が広がっていた。
「キモい」
「うえー……」
 ロータとリータが率直に拒否反応を示し、アーシャは目を背け、レイヴンは若干笑みを溢している。そしてレイヴンは構わずペイルライダーへ近づく。
「ようペイルライダー。お楽しみのところ悪いが、俺たちの相手をしてもらおうか」
 ペイルライダーは少女を虚空へ消し、鎌を持って一行へ向き直る。
「待っていたぞ、レイヴン。お前たちは我々が見た多くのお前たちの中で、最も誠実で、清純だ。もっとわかりやすく言えば、お前たちは全然セックスとかしていない!もっと誰の体液かわからぬほど汚れあっていたというのに、なぁ?」
「残念ながらな。俺はお前の知ってる俺とは違う。お前が俺の人生の最初に色々かましやがったからな」
 アーシャが剣に変わり、レイヴンがそれを掴んで肩に乗せる。ペイルライダーとレイヴンは互いに笑みを溢す。
「まあ、平和にならねばまぐわいも出来んか。始めるとしよう、烏、そして鎖たちよ!」
「いいぜ、派手にやろうじゃねえか!」
 レイヴンが高速で突っ込み、強烈な突きを放つ。ペイルライダーが躱すが、そこにリータが鋭く切り込む。ペイルライダーはリータを踏み台に飛び上がり、上空からレイヴンへ切りかかる。更にそれ目掛けてロータがライダーキックをぶつけ、ガードしつつレイヴンと斬り合う。レイヴンの剣が変形し、先端に横向きに添えられた刃でペイルライダーを絡めとり、地面目掛けて叩きつける。ペイルライダーは受け身を取るが、踏み台にされていたリータの攻撃を不意に受ける。軽く防御され、よろめいたリータに鎌の一閃が放たれるが、レイヴンが剣を盾にして凌ぐ。そしてペイルライダーは後退する。
「さて、こんなものか」
 突然鎌を消したペイルライダーに、レイヴンは挑発するように左手で手招きする。
「どうした、もっと戦おうぜ」
「それはこちらも望むところなのだがな、余り消耗させても我が王に怒られるのでな」
 どこからともなく青白い馬が現れ、ペイルライダーはそれに跨がる。
「形式張った前菜の後にこそ、頬が落ちるほどの主食が待っているのだ。風情の問題だよ。ではさらば。爽やかなセックスライフを!はっはっは!」
 ペイルライダーは空へ駆けていった。
「割かし話が合いそうなんだがな、あいつとは」
 レイヴンのその言葉に、人の姿に戻ったアーシャがドン引きした表情を見せる。
「正気ですか」
「ん?まあ一応な。心配すんなって、お嬢さんは俺の守備範囲外さ」
「いえ私は別にあなたの変態性愛癖も受け入れますけど……」
 その会話にロータが割り込む。
「私も大丈夫……兄様になら何されてもいいよ……」
 リータも加わる。
「私も痛くないことならなんでもいいよ!」
 レイヴンは面倒くさそうに苦笑いを見せ、アーシャの肩を叩いて先へ進む。
「モテるってのはツラいねえ」
「自己陶酔ですか?」
 アーシャの言葉にレイヴンはまた苦笑いをする。
「皮肉に決まってんだろ」
「それなら良かった」
 四人は来た道を戻る。
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