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三千世界・終幕(5)
終章 第三話
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折那警察署
「これが警察署ね」
エリナとマイケルとミリルが車用門から入り、警察署を見上げる。入り口には蛇が纏わりついた骸骨が二体居り、三人を見つけると急にカタカタと顎を鳴らし始める。署の正面の自動ドアが開き、電灯が灯される。
「歓迎ムードみたいッスね」
「油断しちゃダメだよ、兄貴」
「わかってるッス。エリナの足手まといだけにはならないッスよ」
二人のやり取りに、エリナは微笑む。
「行きましょう、二人とも。時間が惜しいわ」
三人は署内へ入る。人の気配はなく、受付のカウンターの上には様々な道具が散乱している。
「突然誰もいなくなったみたいな感じね……」
エリナが周囲を警戒しつつ呟く。と、突然カウンターの下から入り口にいた骸骨が現れる。
「エリナ・シュクロウプ。戦乱の騎士が三階の議事室で待っている」
それだけ告げて、骸骨は床に落下する。
「そういうことらしいわ。上に行きましょう」
三人は階段を上がる。三階に辿り着くと、木製の廊下を歩き、突き当たりの大きな扉を開く。広い議事堂の壇の上には深紅の鎧に身を包んだ骸骨騎士、レッドライダーが立っていた。
「お主か、エリナ。王の下を離れ、愛に生きるか。それもよいじゃろう。人の命は短いからのう。悪魔化は竜化と違って命を削ることもない」
エリナはレッドライダーへ視線を向ける。
「そうだ。私は覚悟を決めた。マイクたちと共に生き、自分の罪の対価を払い続ける」
「そうか。ならば……これならどうかのう?」
レッドライダーが剣を勢いよく抜き、突如としてマイケルが苦しみ始める。
「マイク!?」
「兄貴!」
二人が駆け寄るが、マイケルは手で制する。
「近づいちゃダメッス!なんか……俺じゃない何かが……出てこようとしてるッス……!」
エリナはすぐにレッドライダーへ視線を戻す。
「レッドライダー!マイクに何をしたッ!?」
レッドライダーは剣を納める。
「知っておろう。儂は戦乱をもたらす。人間を互いに殺し合わせ、その四分の一を死滅させる」
「まさか……」
マイケルが急に静かになり、起き上がる。その顔に表情は無く、おもむろに槍を持つ。
「ミリルちゃん、下がって」
「で、でも」
食い下がろうとするミリルに、エリナは鋭い視線で威圧する。ミリルは気圧されたのか、エリナの後ろに下がる。エリナとマイケルが向かい合う。
「構えろ、エリナ」
マイケルは普段の明るさの欠片もない態度を取る。エリナは失望したように苦笑いを溢し、悪魔化する。
「甘いわ、マイク。今まで一回も私に勝ったこともないくせに」
片翼を広げ、剣を向ける。
「兄貴、エリナさん……」
ミリルの悲痛な声が聞こえ、エリナは覚悟を決めてマイケルへ突きを放つ。マイケルは軽々と斜め上に跳躍し、そこから急降下して反撃する。剣でその攻撃を受け止め、盾でアッパーし、紫電を纏った斬撃を放つ。マイケルは槍の柄でそれをガードするも、議事室の壁まで吹き飛ばされる。
「いつものマイクよりは切れがいいわね、でも」
エリナは間髪入れずに距離を詰め、高所から切り下ろす。マイケルは反応できず、槍で防御するも取り落とす。悪魔化を解き、盾から元に戻った左腕でマイケルの首を掴んで壁に叩きつける。
「あなたの中に闘争本能はない。マイク。あなたは優しい人よ、だから……」
渾身の力で床に叩きつける。
「元に戻れやアホンダラァ!!!!!!」
エリナの絶叫と共に土煙が上がるほどの衝撃が警察署全体を揺らす。その変わりようにミリルもレッドライダーも絶句する。
「ごふっ……ギブギブ、ギブッスエリナ」
元に戻ったマイケルに、エリナは微笑む。
「こんなところで戦い合ってる場合じゃないわ。さ、立って」
エリナがマイケルに手を差し伸べ、マイケルは立ち上がる。二人でミリルのもとへ戻る。
「えっと……おかえり、兄貴、エリナさん」
少し引いているミリルに、エリナは微笑みかける。
「あはは……」
ただ愛想笑いをするミリルに、マイケルが口を開く。
「あれが素のエリナッス。昔、俺が学園でリンチされてた時に『くたばれボケども!』って言いながら全員ボコボコにしたことがあったッスねー」
「あは、あははは……」
ミリルが苦笑いする。
「さて」
三人はレッドライダーに視線を戻す。
「次はお前の番だ、レッドライダー」
エリナが剣を向ける。
「ふむ……儂らも知らんかったのう、お主はただの美しいおなごだと思っていたが」
レッドライダーは剣を抜く。
「雑魚をいがみ合わせるのはこの剣があれば十分じゃが……やはり儂自ら戦わねばならぬようじゃなあ」
そして壇上から飛び降りて、三人と向かい合う。
「戦いとは、血が流れ、敗者と、勝者と、そして血を啜るもの、その三者で成り立つ。じゃがしかし、この戦いにもはや血を啜るものは居らぬ」
エリナはその言葉を鼻で笑う。
「この戦いには勝者も敗者もない。ただ道を行くだけだ」
レッドライダーは兜のフェイスガードを下ろす。
「ハハッ、自分の道を進むか。それもよかろう。じゃがなエリナ、お主は我が王の計画の巨大さを、その恐ろしさを知らぬ」
エリナが悪魔化して飛び出し、紫電を纏った斬撃でレッドライダーと斬り合う。
「あの方がChaos社と何の関係があるッ!」
「知らぬが仏という言葉がお似合いじゃ、小娘!」
レッドライダーの剣圧でエリナが吹き飛ばされ、その隙を突いたマイケルの突進を容易に躱し、レッドライダーは石突きでマイケルの首を突き、更に蹴りを腹に入れ、切り上げで吹き飛ばす。
「まだまだッス!」
受け身を取ったマイケルがまたも猛進する。怒涛の突きをレッドライダーは軽く往なし、鞘で足を払い、剣で吹き飛ばす。盾を掲げて突進してきたエリナを受け止め、ガードを崩して再びレッドライダーは鍔迫り合いを繰り広げる。
「面白い、我が王の力なしで儂と打ち合うか。そこの小僧も中々悪くはないが……まだ幼いな、エリナ」
「くっ……」
「お主らでは力不足じゃあ!ここで死ぬがよいわ!」
エリナの剣が弾かれ、レッドライダーが止めを刺そうとした時、議事室の扉が開け放たれ、バロンとエリアルが現れて、レッドライダーは動きを止める。
「……その子達はまだ若い。ここは僕が相手になろう、レッドライダー」
バロンは躊躇うこと無く議事室を進む。
「あなたは……」
エリナがバロンを見て、驚きの表情を向ける。
「……ここは僕に任せてくれ。レイヴンから任された」
バロンはエリアルの方を見る。
「……彼らの治療を頼む、エリアル」
「わかったわ」
そしてレッドライダーに向き直る。
「……お前と再三戦うことになるとはな、レッドライダー」
「構わぬだろう。互いに戦いに喜びを感じる者同士、幾度戦おうと満たされぬわ」
レッドライダーは剣を持ち直す。
「じゃが、これはあくまでも余興。ブラジルの時のようにある程度力を発揮して戦うことはできない」
「……構わない。封印を解くだけだ」
二人は光速で接近し、レッドライダーの剣を左腕で弾き、右手で撃掌を叩き込む。鎧の腹の部分が赤熱し、レッドライダーは剣を振るが、バロンの動きに対して余りにも遅く、軽く弾き返され、フェイスガードにパンチを食らって吹き飛ぶ。
「……やはりな」
大きく後退したレッドライダーは体の細部にジャギが発生しており、鎧の腹の部分の赤熱も収まっていた。
「……お前にしては動きのキレが悪い。子供騙しだな。一撃でも彼女たちの攻撃を食らっていればバレていただろう」
レッドライダーは笑い声を上げる。
「言ったはずじゃ。これは余興じゃとな。行け、楽園にて我が王が待っている」
そして消滅する。バロンはエリアルたちの下へ合流する。
「あんた、バロンって言われてたッスよね」
マイケルが少し警戒した面持ちで話しかける。
「……ああ、そうだ。君たちはレイヴンの仲間だな?僕はバロン・エウレカ。君たちが知っているバロン・クロザキとは別人だ。それで、この子はエリアルだ」
エリアルは礼をする。
「バロン、ちゃんとみんなの傷は癒しておいたわ」
「……うん、ありがとう。それで、そちらは?」
マイケルがまず口を開く。
「俺はマイケル・レイナードッス」
そして二人も続く。
「私はミリル・レイナードです。マイケルの妹です」
「私はエリナ。エリナ・シュクロウプ。狂竜王の配下だったが、訳あって離反した」
バロンは頷く。
「……よし。じゃあアガスティアタワーで他の仲間を待つか」
一行は議事室を後にした。
折那中学
セレナとアルバ、そしてエルデが折那中学の正門を破壊し、中へ入る。内部はここしか通るなと言わんばかりに机や椅子のバリケードで通路が塞がれており、三人は階段を上がって屋上への扉を開く。手摺に肘を乗せ、折那の街を眺めるホワイトライダーがそこにいた。
「これも因果というもんかねえ。多大な犠牲を払ってヴァナ・ファキナを打ち倒した異史の人間が、こうして正史で自分の親でもあり、世界を滅ぼした元凶とも言える者と共闘しているとはな」
ホワイトライダーは嫌味ったらしくそう告げて、振り返る。
「よう、セレナ、アルバ。んでついでにメイドさん。長旅ご苦労だったな。ペイルライダーはド変態だから加減がきかねえんじゃねえかと思ってたが、意外と大丈夫みてえだな」
セレナが魔力で作り上げた長剣を構える。
「残念ながら、無駄話をする暇はないわ、ホワイトライダー。速攻でケリをつける」
「残念なのはそっちだぜ?少なくとも俺は急いでないんでね」
「つまりは時間稼ぎにこういうことをしたのね」
ホワイトライダーは顎に手を当て、そして離してセレナたちへ向ける。
「そいつは違うな。時間稼ぎも必要じゃねえ。ただの雰囲気出しさ。ほら、ラスボス戦の前はぽっと出の四天王みたいなやつ出てくるだろ?そういうやつだ」
ホワイトライダーは自分の身長と同程度の大きさの弓を構える。
「行くぜ、お嬢ちゃんたち」
弓に一気に三本の光の矢がつがえられる。
「来たれ!世界を貫く三本の矢!ゴッドアロー!」
光の線が三人目掛けて発射され、そして三人はそれぞれの方向に躱す。セレナは高速で突進しつつ長剣での突きを放つ。ホワイトライダーは弓で剣を往なし、回転しつつバックステップして素早く矢を放つ。しかしそれはアルバの鎖の防壁で弾かれ、後ろからエルデがバトルアックスを振り下ろす。また弓で弾こうとするが、セレナより単純な腕力で勝るエルデの一撃に、ホワイトライダーは思わず怯む。そして続くエルデの拳で吹き飛ばされる。が、ホワイトライダーは上手く受け身を取って立ち上がる。
「まあこんなもんだろうな。少々手荒に行くぜ!」
弓が輝きを放ち、ホワイトライダーは怒涛の勢いで矢を連射する。アルバが鎖の防壁で凌ぎ、セレナは魔力の剣で打ち消しつつ突進する。ホワイトライダーは矢を止めセレナを弓の一撃で吹き飛ばし、続いてやってきたエルデも力を抜かずに打ち返す。
「やれやれ、手加減するってのも骨が折れ――」
ホワイトライダーの背後の手摺から少女が現れ、強烈なドロップキックでホワイトライダーは吹き飛ばされる。少女はトンファーを構え、正面を見据える。
「やっと起きたか、白金零」
ホワイトライダーがゆっくりと起き上がる。零は相変わらずの仏頂面だ。
「白金零……まさか本物に出会えるとはね」
セレナが驚きの声を漏らす。
「お知り合いで?」
エルデの問いに、セレナは首を横に振る。
「でも、Chaos社と関わり合いを持つものなら全員が知っているわ。杉原明人がその全霊をかけて越えようとした、完璧なる人類」
零はセレナたちへ視線を移す。
「あなたたちは?」
「私たちはChaos社を止めるためにここまで来た。黙示録の騎士の封印を解かないと先に進めないからこうやって戦ってる」
セレナが答え、ホワイトライダーが弓を納める。
「ま、そういうことだ。ここであんまりお前らの力を引き出させ過ぎると王に怒られちまう」
どこからどもなく白馬が現れ、ホワイトライダーはそれに跨がる。
「せいぜい終幕を楽しめよ!んじゃあなぁ~!」
ホワイトライダーは上機嫌に空中へ駆けて行った。
「白金零。私たちはあの塔に向かうけど、あなたはどうするの?」
「もちろん、私も行く。杉原君を止めること、それが私のなすべきこと」
「なら言うことはないわ。ついてきて」
セレナは手摺を越えて飛び降りる。アルバとエルデもそれに続き、最後に零が飛び降りる。
「これが警察署ね」
エリナとマイケルとミリルが車用門から入り、警察署を見上げる。入り口には蛇が纏わりついた骸骨が二体居り、三人を見つけると急にカタカタと顎を鳴らし始める。署の正面の自動ドアが開き、電灯が灯される。
「歓迎ムードみたいッスね」
「油断しちゃダメだよ、兄貴」
「わかってるッス。エリナの足手まといだけにはならないッスよ」
二人のやり取りに、エリナは微笑む。
「行きましょう、二人とも。時間が惜しいわ」
三人は署内へ入る。人の気配はなく、受付のカウンターの上には様々な道具が散乱している。
「突然誰もいなくなったみたいな感じね……」
エリナが周囲を警戒しつつ呟く。と、突然カウンターの下から入り口にいた骸骨が現れる。
「エリナ・シュクロウプ。戦乱の騎士が三階の議事室で待っている」
それだけ告げて、骸骨は床に落下する。
「そういうことらしいわ。上に行きましょう」
三人は階段を上がる。三階に辿り着くと、木製の廊下を歩き、突き当たりの大きな扉を開く。広い議事堂の壇の上には深紅の鎧に身を包んだ骸骨騎士、レッドライダーが立っていた。
「お主か、エリナ。王の下を離れ、愛に生きるか。それもよいじゃろう。人の命は短いからのう。悪魔化は竜化と違って命を削ることもない」
エリナはレッドライダーへ視線を向ける。
「そうだ。私は覚悟を決めた。マイクたちと共に生き、自分の罪の対価を払い続ける」
「そうか。ならば……これならどうかのう?」
レッドライダーが剣を勢いよく抜き、突如としてマイケルが苦しみ始める。
「マイク!?」
「兄貴!」
二人が駆け寄るが、マイケルは手で制する。
「近づいちゃダメッス!なんか……俺じゃない何かが……出てこようとしてるッス……!」
エリナはすぐにレッドライダーへ視線を戻す。
「レッドライダー!マイクに何をしたッ!?」
レッドライダーは剣を納める。
「知っておろう。儂は戦乱をもたらす。人間を互いに殺し合わせ、その四分の一を死滅させる」
「まさか……」
マイケルが急に静かになり、起き上がる。その顔に表情は無く、おもむろに槍を持つ。
「ミリルちゃん、下がって」
「で、でも」
食い下がろうとするミリルに、エリナは鋭い視線で威圧する。ミリルは気圧されたのか、エリナの後ろに下がる。エリナとマイケルが向かい合う。
「構えろ、エリナ」
マイケルは普段の明るさの欠片もない態度を取る。エリナは失望したように苦笑いを溢し、悪魔化する。
「甘いわ、マイク。今まで一回も私に勝ったこともないくせに」
片翼を広げ、剣を向ける。
「兄貴、エリナさん……」
ミリルの悲痛な声が聞こえ、エリナは覚悟を決めてマイケルへ突きを放つ。マイケルは軽々と斜め上に跳躍し、そこから急降下して反撃する。剣でその攻撃を受け止め、盾でアッパーし、紫電を纏った斬撃を放つ。マイケルは槍の柄でそれをガードするも、議事室の壁まで吹き飛ばされる。
「いつものマイクよりは切れがいいわね、でも」
エリナは間髪入れずに距離を詰め、高所から切り下ろす。マイケルは反応できず、槍で防御するも取り落とす。悪魔化を解き、盾から元に戻った左腕でマイケルの首を掴んで壁に叩きつける。
「あなたの中に闘争本能はない。マイク。あなたは優しい人よ、だから……」
渾身の力で床に叩きつける。
「元に戻れやアホンダラァ!!!!!!」
エリナの絶叫と共に土煙が上がるほどの衝撃が警察署全体を揺らす。その変わりようにミリルもレッドライダーも絶句する。
「ごふっ……ギブギブ、ギブッスエリナ」
元に戻ったマイケルに、エリナは微笑む。
「こんなところで戦い合ってる場合じゃないわ。さ、立って」
エリナがマイケルに手を差し伸べ、マイケルは立ち上がる。二人でミリルのもとへ戻る。
「えっと……おかえり、兄貴、エリナさん」
少し引いているミリルに、エリナは微笑みかける。
「あはは……」
ただ愛想笑いをするミリルに、マイケルが口を開く。
「あれが素のエリナッス。昔、俺が学園でリンチされてた時に『くたばれボケども!』って言いながら全員ボコボコにしたことがあったッスねー」
「あは、あははは……」
ミリルが苦笑いする。
「さて」
三人はレッドライダーに視線を戻す。
「次はお前の番だ、レッドライダー」
エリナが剣を向ける。
「ふむ……儂らも知らんかったのう、お主はただの美しいおなごだと思っていたが」
レッドライダーは剣を抜く。
「雑魚をいがみ合わせるのはこの剣があれば十分じゃが……やはり儂自ら戦わねばならぬようじゃなあ」
そして壇上から飛び降りて、三人と向かい合う。
「戦いとは、血が流れ、敗者と、勝者と、そして血を啜るもの、その三者で成り立つ。じゃがしかし、この戦いにもはや血を啜るものは居らぬ」
エリナはその言葉を鼻で笑う。
「この戦いには勝者も敗者もない。ただ道を行くだけだ」
レッドライダーは兜のフェイスガードを下ろす。
「ハハッ、自分の道を進むか。それもよかろう。じゃがなエリナ、お主は我が王の計画の巨大さを、その恐ろしさを知らぬ」
エリナが悪魔化して飛び出し、紫電を纏った斬撃でレッドライダーと斬り合う。
「あの方がChaos社と何の関係があるッ!」
「知らぬが仏という言葉がお似合いじゃ、小娘!」
レッドライダーの剣圧でエリナが吹き飛ばされ、その隙を突いたマイケルの突進を容易に躱し、レッドライダーは石突きでマイケルの首を突き、更に蹴りを腹に入れ、切り上げで吹き飛ばす。
「まだまだッス!」
受け身を取ったマイケルがまたも猛進する。怒涛の突きをレッドライダーは軽く往なし、鞘で足を払い、剣で吹き飛ばす。盾を掲げて突進してきたエリナを受け止め、ガードを崩して再びレッドライダーは鍔迫り合いを繰り広げる。
「面白い、我が王の力なしで儂と打ち合うか。そこの小僧も中々悪くはないが……まだ幼いな、エリナ」
「くっ……」
「お主らでは力不足じゃあ!ここで死ぬがよいわ!」
エリナの剣が弾かれ、レッドライダーが止めを刺そうとした時、議事室の扉が開け放たれ、バロンとエリアルが現れて、レッドライダーは動きを止める。
「……その子達はまだ若い。ここは僕が相手になろう、レッドライダー」
バロンは躊躇うこと無く議事室を進む。
「あなたは……」
エリナがバロンを見て、驚きの表情を向ける。
「……ここは僕に任せてくれ。レイヴンから任された」
バロンはエリアルの方を見る。
「……彼らの治療を頼む、エリアル」
「わかったわ」
そしてレッドライダーに向き直る。
「……お前と再三戦うことになるとはな、レッドライダー」
「構わぬだろう。互いに戦いに喜びを感じる者同士、幾度戦おうと満たされぬわ」
レッドライダーは剣を持ち直す。
「じゃが、これはあくまでも余興。ブラジルの時のようにある程度力を発揮して戦うことはできない」
「……構わない。封印を解くだけだ」
二人は光速で接近し、レッドライダーの剣を左腕で弾き、右手で撃掌を叩き込む。鎧の腹の部分が赤熱し、レッドライダーは剣を振るが、バロンの動きに対して余りにも遅く、軽く弾き返され、フェイスガードにパンチを食らって吹き飛ぶ。
「……やはりな」
大きく後退したレッドライダーは体の細部にジャギが発生しており、鎧の腹の部分の赤熱も収まっていた。
「……お前にしては動きのキレが悪い。子供騙しだな。一撃でも彼女たちの攻撃を食らっていればバレていただろう」
レッドライダーは笑い声を上げる。
「言ったはずじゃ。これは余興じゃとな。行け、楽園にて我が王が待っている」
そして消滅する。バロンはエリアルたちの下へ合流する。
「あんた、バロンって言われてたッスよね」
マイケルが少し警戒した面持ちで話しかける。
「……ああ、そうだ。君たちはレイヴンの仲間だな?僕はバロン・エウレカ。君たちが知っているバロン・クロザキとは別人だ。それで、この子はエリアルだ」
エリアルは礼をする。
「バロン、ちゃんとみんなの傷は癒しておいたわ」
「……うん、ありがとう。それで、そちらは?」
マイケルがまず口を開く。
「俺はマイケル・レイナードッス」
そして二人も続く。
「私はミリル・レイナードです。マイケルの妹です」
「私はエリナ。エリナ・シュクロウプ。狂竜王の配下だったが、訳あって離反した」
バロンは頷く。
「……よし。じゃあアガスティアタワーで他の仲間を待つか」
一行は議事室を後にした。
折那中学
セレナとアルバ、そしてエルデが折那中学の正門を破壊し、中へ入る。内部はここしか通るなと言わんばかりに机や椅子のバリケードで通路が塞がれており、三人は階段を上がって屋上への扉を開く。手摺に肘を乗せ、折那の街を眺めるホワイトライダーがそこにいた。
「これも因果というもんかねえ。多大な犠牲を払ってヴァナ・ファキナを打ち倒した異史の人間が、こうして正史で自分の親でもあり、世界を滅ぼした元凶とも言える者と共闘しているとはな」
ホワイトライダーは嫌味ったらしくそう告げて、振り返る。
「よう、セレナ、アルバ。んでついでにメイドさん。長旅ご苦労だったな。ペイルライダーはド変態だから加減がきかねえんじゃねえかと思ってたが、意外と大丈夫みてえだな」
セレナが魔力で作り上げた長剣を構える。
「残念ながら、無駄話をする暇はないわ、ホワイトライダー。速攻でケリをつける」
「残念なのはそっちだぜ?少なくとも俺は急いでないんでね」
「つまりは時間稼ぎにこういうことをしたのね」
ホワイトライダーは顎に手を当て、そして離してセレナたちへ向ける。
「そいつは違うな。時間稼ぎも必要じゃねえ。ただの雰囲気出しさ。ほら、ラスボス戦の前はぽっと出の四天王みたいなやつ出てくるだろ?そういうやつだ」
ホワイトライダーは自分の身長と同程度の大きさの弓を構える。
「行くぜ、お嬢ちゃんたち」
弓に一気に三本の光の矢がつがえられる。
「来たれ!世界を貫く三本の矢!ゴッドアロー!」
光の線が三人目掛けて発射され、そして三人はそれぞれの方向に躱す。セレナは高速で突進しつつ長剣での突きを放つ。ホワイトライダーは弓で剣を往なし、回転しつつバックステップして素早く矢を放つ。しかしそれはアルバの鎖の防壁で弾かれ、後ろからエルデがバトルアックスを振り下ろす。また弓で弾こうとするが、セレナより単純な腕力で勝るエルデの一撃に、ホワイトライダーは思わず怯む。そして続くエルデの拳で吹き飛ばされる。が、ホワイトライダーは上手く受け身を取って立ち上がる。
「まあこんなもんだろうな。少々手荒に行くぜ!」
弓が輝きを放ち、ホワイトライダーは怒涛の勢いで矢を連射する。アルバが鎖の防壁で凌ぎ、セレナは魔力の剣で打ち消しつつ突進する。ホワイトライダーは矢を止めセレナを弓の一撃で吹き飛ばし、続いてやってきたエルデも力を抜かずに打ち返す。
「やれやれ、手加減するってのも骨が折れ――」
ホワイトライダーの背後の手摺から少女が現れ、強烈なドロップキックでホワイトライダーは吹き飛ばされる。少女はトンファーを構え、正面を見据える。
「やっと起きたか、白金零」
ホワイトライダーがゆっくりと起き上がる。零は相変わらずの仏頂面だ。
「白金零……まさか本物に出会えるとはね」
セレナが驚きの声を漏らす。
「お知り合いで?」
エルデの問いに、セレナは首を横に振る。
「でも、Chaos社と関わり合いを持つものなら全員が知っているわ。杉原明人がその全霊をかけて越えようとした、完璧なる人類」
零はセレナたちへ視線を移す。
「あなたたちは?」
「私たちはChaos社を止めるためにここまで来た。黙示録の騎士の封印を解かないと先に進めないからこうやって戦ってる」
セレナが答え、ホワイトライダーが弓を納める。
「ま、そういうことだ。ここであんまりお前らの力を引き出させ過ぎると王に怒られちまう」
どこからどもなく白馬が現れ、ホワイトライダーはそれに跨がる。
「せいぜい終幕を楽しめよ!んじゃあなぁ~!」
ホワイトライダーは上機嫌に空中へ駆けて行った。
「白金零。私たちはあの塔に向かうけど、あなたはどうするの?」
「もちろん、私も行く。杉原君を止めること、それが私のなすべきこと」
「なら言うことはないわ。ついてきて」
セレナは手摺を越えて飛び降りる。アルバとエルデもそれに続き、最後に零が飛び降りる。
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にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。
「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」
そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・
頭の中を、凄まじい情報が巡った。
これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね?
ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。
だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。
ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。
ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」
そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。
フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ!
うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって?
そんなの知らん。
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