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三千世界・終幕(5)
終章 第二話
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異界福岡・虚空の森林 陣原
キャリアーは海を越えて福岡の位相へ触れると、光に包まれて陣原の城の周りの湖に着水していた。一行は手近な地面に出る。
「んだ、ここは」
アカツキが周囲を見渡す。
「陣原ね。ちょうどいいわ、だいぶ近場だし」
セレナが続く。と、そこへ天空からラッパの音が響き渡る。
「来た……終末を告げる、至上の天使……」
アルバがぼんやりと口ずさむ。
「もう時間がないってわけね……急ぎましょ。私が案内するわ」
「ちょっと待て。ゼナはどこに行った」
レイヴンがそう言うと、全員が周囲を確認する。
「確かに……チッ、そういうことね。それならなおさら急がないと。行くわよ」
一行はセレナの案内に従い、アスファルトの道を進んでいく。そして中学校の前の道路に辿り着いたとき、どこからともなく巨大な二つの物体が行方を遮る。
「待っていた、DWH」
二つの物体の合間から現れたのは、背は高いが幼さの残る少女だった。
「我が名は左近衛陽花里。Chaos社の幹部だ」
自己紹介もそうそうに陽花里は巨大な物体――盾状のガントレットをマウントし、戦闘形態になる。レイヴンがそれを見て笑う。
「すごい仕組みだな、ハハッ、アリアにも見せてやりたいところだが――」
剣に変わったアーシャを肩に乗せ、アカツキを見る。そしてアカツキが前に出る。
「俺たちは先へ急ぐ。てめえはさっさと倒させて貰うぜ!」
先手を打ったアカツキの氷を纏った一撃を右のガントレットで防ぎ、スライドして光を放つパーツから今の衝撃に応じて光線が放たれる。アルバの鎖の防壁がそれを防ぎ、その影からレイヴンが高速で突っ込んでくる。陽花里は左のガントレットで地面を叩いてアスファルトを捲り上げ、それで攻撃を往なし、左のガントレットから更に極大の光線を放つ。融合竜化したセレナが剣閃でそれを両断し、流れ弾をノウンが防ぎ、ゼルが上空から切りかかる。右のガントレットを盾に突進し、ゼルは攻撃のタイミングを逸して防御する。吹き飛ばされるが、ロータの鎖で受け止められ、ネロが空中の陽花里目掛けて雷霆を放つ。陽花里はガントレットを盾にしたままネロ目掛けて突っ込み、再びアカツキと攻撃をぶつけあう。
「流石にてめえが強かろうがこの人数差はどうにもならねえだろ!諦めやがれ!」
「諦める?何をバカな……」
陽花里は凄まじい閃光を放ってアカツキを吹き飛ばす。すぐに起き上がるが、アカツキの体からは湯気が立っていた。その様を見たレイヴンはすぐに感づく。
「なるほどな、熱エネルギーを内包した光、それがあんたの攻撃って訳だ」
「(でもその程度なら……!)」
「ああ、アーシャ、お前の雷でぶち抜くとしようぜ」
剣がスパークし、レイヴンは陽花里目掛けて高速で突っ込む。陽花里は防御しようとするが、ガントレットをアルバとロータの鎖で絡め取られ、レイヴンの繰り出す突きを食らって大袈裟なほど吹き飛ぶ。
「仕方ない……異世界人ごときにこの力を使うとはな……!」
陽花里は閃光に包まれる。
「夜陰に紛れる虚弱を射抜き、我が名の下に悪しきを焦がし、世界を我が理想へと作り替えよ!我が名、〈閃光〉!」
光を打ち破って、黄金の輝きを放つ竜人が姿を現す。
「またこれかッ!?」
ゼルが嘆く。が、その横でレイヴンは大笑いしている。
「いいねえ、これくらい派手な方が盛り上がるってもんだ!」
その態度が気に食わなかったのか、閃光は左腕を開き、凄まじい光を放つ。周囲のアスファルトが溶け出す程の熱量が放たれ、傍を流れる川が蒸発する。ゼルが竜化して光弾で対抗し、それらが対消滅したところで竜化したノウンが蹴り込み、閃光は足を掴んで抱え込み、そこへ竜化したロータが上空から踵落としを叩き込む。叩き伏せられた閃光は続く融合竜化したレイヴンの衝撃波を受け、怯むも、構わず輝きを放とうとする。しかし、どこからか放たれた光の矢に射抜かれ、瞬時に塩になって砕け散る。一行は突然の出来事に驚く。そして矢の飛んできた方向に目を向けると、白馬に乗った骸骨騎士が空中に佇んでいた。
「やれやれ、役目のない演者に出てこられるとこっちとしても困るぜ」
「ホワイトライダー……!」
エリナがその骸骨騎士を見て呟く。
「ゼル、あの見た目……」
「ああ、おそらくブラックライダーと同じ勢力だろう」
ノウンとゼルが反応を示し、ホワイトライダーは弓を背に戻し、馬の手綱を握る。
「よく来たな、異世界人共。その女の言うとおり、俺の名前はホワイトライダー。黙示録の四騎士が一人、勝利の上の勝利を頂くもの……ところでお前らはここに、Chaos社を止めるために来たんだよな?悪いが今、総本山たるアガスティアタワーは閉鎖中だ。俺たちが鍵をかけたんでな」
レイヴンがホワイトライダーへ剣を向ける。
「お前はここで倒しとかないといけないって訳か?」
「いや、ここでは戦わん。ちゃんと戦う場所は用意してある」
ホワイトライダーは紙切れを投げてくる。それは折那の地図のようで、赤字で四つ丸が書き込まれていた。
「俺たちはそこにいる。ま、早くしねえとホシヒメだけでも動力にして卵が動き出すかもしれないぜ?」
ホワイトライダーは高笑いしながら飛び去っていった。
「中々遠い場所同士に配置したわね……」
セレナが地図を見る。
「それが敵の時間稼ぎの策ってことだろ。手分けしてぶん殴りに行こうぜ」
アカツキも地図を覗き込む。
「しかも律儀にどこで誰が待ってるか書いてるじゃねえか」
「よし、ここはお誂え向きに、ゆかりのある騎士と戦うことを優先しよう」
虚空の森林・アガスティアタワー前
「……この上にニルヴァーナがあるんだな」
バロンが塔の上を見上げる。
「正確には、セレスティアル・アークから接続されてるってだけだけどね」
「……さっきのラッパの音はなんだ?」
「この世界の終焉が近いってことよ。あいつがラッパを吹き鳴らすってことは、黒崎奈野花の勢力が最後の仕上げに入ろうとしてるの」
「……もはや一刻の猶予もないか」
アパートの入り口へ向かうと、そこには何重にも重ねられた障壁があった。
「……これは?」
「黙示録の四騎士がかけた防御障壁のようね。どうにかして四騎士を探しだして無力化するしか……」
二人が障壁の前で話し合っていると、坂の方から魔力の塊が飛んでくる。バロンはそれを弾き、そちらを見る。そこには、六人組が居た。先頭に立つロータが今の攻撃を仕掛けてきたようだ。
「……彼らが異世界人?」
「そうね、だいぶ見慣れたやつらだけど」
「……僕は全員初対面だな」
二人は六人組の前に立つ。
「……先制攻撃とは、ずいぶん殺気がこもっているな」
「当然……今度こそ逃がさない」
「……君とは初対面のような気がするが」
今にも攻撃を仕掛けそうなロータを、レイヴンが手で制する。
「何、兄様」
「そいつからは邪悪な意思を感じない」
アカツキが前に出る。
「だがこいつがバロンなんだろ?ならぶん殴らないといけねえだろ」
「ウチも加勢してええか?」
ルクレツィアも二人と並ぶ。
「おいゼル、リータ。あの青髪の子と話すぞ」
ゼルとリータは頷く。
「戦う準備しとく必要もねえか、アーシャ」
レイヴンの背の剣がアーシャに戻り、四人はエリアルのもとへ行く。それと同時に、アカツキが氷の礫を放つ。バロンは身動ぎせず闘気の鎧で全て打ち落とし、ロータの放つ鎖の戒めも引きちぎり、ルクレツィアの瞬速の斬撃も片腕で受け止める。
「ほう……?やるやないか」
「……戦う気がないものでね。防御に専念すればだいたいの攻撃は受けきれるさ」
「ならこいつはどうや!」
ルクレツィアは凄まじい速度で斬りつけるが、バロンはその一撃一撃に前腕を合わせて防御し、軽く弾き飛ばす。続いて攻撃してきたアカツキの拳を受け止め、腕を掴んで放り投げる。ロータが紫色の棘を飛ばし、それに遅れて殴りかかる。バロンは棘を破壊し、ロータの拳も受け止める。
「……僕が何か非礼をしたなら詫びよう」
「白々しい……いい加減にしろ!」
ロータは素早く次撃をぶつける。
「……幼さに見合わない素晴らしい業だ。だがまだ心は外見と変わらんな」
「何を……」
バロンは防御せずにその拳を腹で受ける。
「……いや、守っていては僕が味方だと思って貰えないと思ってね。三人とも、いい力を持っている。だがそれを、同士討ちに使ってはもったいないだろう」
ロータはその態度に違和感を感じ、攻撃を止める。後ろからアカツキとルクレツィアも合流する。
「……わかってくれたか」
「話したときの不快感がない。よって別人」
ロータはそれだけ告げてレイヴンの横へ歩く。
「見た目がそっくりだとめんどくせえ事態になりやすいよな。同情するぜ」
「ウチらが先に仕掛けたけどな」
二人もバロンを通りすぎる。
「……はは、気難しいな」
バロンは振り返り、エリアルたちと合流する。
「お前さんはバロン。だが俺たちと関係あるのはクロザキってやつで、お前さんはエウレカっていう別人ってことか」
レイヴンの言葉に、バロンは頷く。
「……僕はバロン・エウレカ。君たちと同じ異世界人だ」
「俺はレイヴン。で、この金髪のちっこいのがアーシャ、こっちの黒髪のちっこいのがロータ」
アーシャはお辞儀をするが、ロータは腕を組んで顔を伏せている。
「ウチはルクレツィアや」
「俺はアカツキってんだ、よろしくなッ!」
二人の挨拶に、ゼルが続く。
「俺はゼル。こいつらの保護者だと思ってくれればいい」
「えー?ゼルは全然保護者なことやってないと思うんやけどなぁ?」
ルクレツィアが流し目で嫌味を言い放つと、ゼルはバロンへ視線を戻す。
「な?だいたいわかるだろ、レイヴン、バロン」
バロンとレイヴンはやれやれと言う風に頷く。
「俺たちは今、そこの障壁の解除のために黙示録の四騎士を倒しに行ってる。お前さんたちは警察署へ行ってくれないか。そこにレッドライダーとやらが居るらしい」
レイヴンの言葉に、バロンは頷く。
「……レッドライダーなら僕も知ってる。そこは任されよう」
「そこには俺らの仲間もいる。会ったら頼むぜ」
バロンは再び頷き、坂の方へ歩く。
「ところで、ゼナっていう耳が生えたちっこいやつ知らないか?」
レイヴンが尋ねるが、バロンは首を横に振る。
「……。そうか。じゃ、また後でな」
レイヴンは先へ進むゼルを追いかける。
キャリアーは海を越えて福岡の位相へ触れると、光に包まれて陣原の城の周りの湖に着水していた。一行は手近な地面に出る。
「んだ、ここは」
アカツキが周囲を見渡す。
「陣原ね。ちょうどいいわ、だいぶ近場だし」
セレナが続く。と、そこへ天空からラッパの音が響き渡る。
「来た……終末を告げる、至上の天使……」
アルバがぼんやりと口ずさむ。
「もう時間がないってわけね……急ぎましょ。私が案内するわ」
「ちょっと待て。ゼナはどこに行った」
レイヴンがそう言うと、全員が周囲を確認する。
「確かに……チッ、そういうことね。それならなおさら急がないと。行くわよ」
一行はセレナの案内に従い、アスファルトの道を進んでいく。そして中学校の前の道路に辿り着いたとき、どこからともなく巨大な二つの物体が行方を遮る。
「待っていた、DWH」
二つの物体の合間から現れたのは、背は高いが幼さの残る少女だった。
「我が名は左近衛陽花里。Chaos社の幹部だ」
自己紹介もそうそうに陽花里は巨大な物体――盾状のガントレットをマウントし、戦闘形態になる。レイヴンがそれを見て笑う。
「すごい仕組みだな、ハハッ、アリアにも見せてやりたいところだが――」
剣に変わったアーシャを肩に乗せ、アカツキを見る。そしてアカツキが前に出る。
「俺たちは先へ急ぐ。てめえはさっさと倒させて貰うぜ!」
先手を打ったアカツキの氷を纏った一撃を右のガントレットで防ぎ、スライドして光を放つパーツから今の衝撃に応じて光線が放たれる。アルバの鎖の防壁がそれを防ぎ、その影からレイヴンが高速で突っ込んでくる。陽花里は左のガントレットで地面を叩いてアスファルトを捲り上げ、それで攻撃を往なし、左のガントレットから更に極大の光線を放つ。融合竜化したセレナが剣閃でそれを両断し、流れ弾をノウンが防ぎ、ゼルが上空から切りかかる。右のガントレットを盾に突進し、ゼルは攻撃のタイミングを逸して防御する。吹き飛ばされるが、ロータの鎖で受け止められ、ネロが空中の陽花里目掛けて雷霆を放つ。陽花里はガントレットを盾にしたままネロ目掛けて突っ込み、再びアカツキと攻撃をぶつけあう。
「流石にてめえが強かろうがこの人数差はどうにもならねえだろ!諦めやがれ!」
「諦める?何をバカな……」
陽花里は凄まじい閃光を放ってアカツキを吹き飛ばす。すぐに起き上がるが、アカツキの体からは湯気が立っていた。その様を見たレイヴンはすぐに感づく。
「なるほどな、熱エネルギーを内包した光、それがあんたの攻撃って訳だ」
「(でもその程度なら……!)」
「ああ、アーシャ、お前の雷でぶち抜くとしようぜ」
剣がスパークし、レイヴンは陽花里目掛けて高速で突っ込む。陽花里は防御しようとするが、ガントレットをアルバとロータの鎖で絡め取られ、レイヴンの繰り出す突きを食らって大袈裟なほど吹き飛ぶ。
「仕方ない……異世界人ごときにこの力を使うとはな……!」
陽花里は閃光に包まれる。
「夜陰に紛れる虚弱を射抜き、我が名の下に悪しきを焦がし、世界を我が理想へと作り替えよ!我が名、〈閃光〉!」
光を打ち破って、黄金の輝きを放つ竜人が姿を現す。
「またこれかッ!?」
ゼルが嘆く。が、その横でレイヴンは大笑いしている。
「いいねえ、これくらい派手な方が盛り上がるってもんだ!」
その態度が気に食わなかったのか、閃光は左腕を開き、凄まじい光を放つ。周囲のアスファルトが溶け出す程の熱量が放たれ、傍を流れる川が蒸発する。ゼルが竜化して光弾で対抗し、それらが対消滅したところで竜化したノウンが蹴り込み、閃光は足を掴んで抱え込み、そこへ竜化したロータが上空から踵落としを叩き込む。叩き伏せられた閃光は続く融合竜化したレイヴンの衝撃波を受け、怯むも、構わず輝きを放とうとする。しかし、どこからか放たれた光の矢に射抜かれ、瞬時に塩になって砕け散る。一行は突然の出来事に驚く。そして矢の飛んできた方向に目を向けると、白馬に乗った骸骨騎士が空中に佇んでいた。
「やれやれ、役目のない演者に出てこられるとこっちとしても困るぜ」
「ホワイトライダー……!」
エリナがその骸骨騎士を見て呟く。
「ゼル、あの見た目……」
「ああ、おそらくブラックライダーと同じ勢力だろう」
ノウンとゼルが反応を示し、ホワイトライダーは弓を背に戻し、馬の手綱を握る。
「よく来たな、異世界人共。その女の言うとおり、俺の名前はホワイトライダー。黙示録の四騎士が一人、勝利の上の勝利を頂くもの……ところでお前らはここに、Chaos社を止めるために来たんだよな?悪いが今、総本山たるアガスティアタワーは閉鎖中だ。俺たちが鍵をかけたんでな」
レイヴンがホワイトライダーへ剣を向ける。
「お前はここで倒しとかないといけないって訳か?」
「いや、ここでは戦わん。ちゃんと戦う場所は用意してある」
ホワイトライダーは紙切れを投げてくる。それは折那の地図のようで、赤字で四つ丸が書き込まれていた。
「俺たちはそこにいる。ま、早くしねえとホシヒメだけでも動力にして卵が動き出すかもしれないぜ?」
ホワイトライダーは高笑いしながら飛び去っていった。
「中々遠い場所同士に配置したわね……」
セレナが地図を見る。
「それが敵の時間稼ぎの策ってことだろ。手分けしてぶん殴りに行こうぜ」
アカツキも地図を覗き込む。
「しかも律儀にどこで誰が待ってるか書いてるじゃねえか」
「よし、ここはお誂え向きに、ゆかりのある騎士と戦うことを優先しよう」
虚空の森林・アガスティアタワー前
「……この上にニルヴァーナがあるんだな」
バロンが塔の上を見上げる。
「正確には、セレスティアル・アークから接続されてるってだけだけどね」
「……さっきのラッパの音はなんだ?」
「この世界の終焉が近いってことよ。あいつがラッパを吹き鳴らすってことは、黒崎奈野花の勢力が最後の仕上げに入ろうとしてるの」
「……もはや一刻の猶予もないか」
アパートの入り口へ向かうと、そこには何重にも重ねられた障壁があった。
「……これは?」
「黙示録の四騎士がかけた防御障壁のようね。どうにかして四騎士を探しだして無力化するしか……」
二人が障壁の前で話し合っていると、坂の方から魔力の塊が飛んでくる。バロンはそれを弾き、そちらを見る。そこには、六人組が居た。先頭に立つロータが今の攻撃を仕掛けてきたようだ。
「……彼らが異世界人?」
「そうね、だいぶ見慣れたやつらだけど」
「……僕は全員初対面だな」
二人は六人組の前に立つ。
「……先制攻撃とは、ずいぶん殺気がこもっているな」
「当然……今度こそ逃がさない」
「……君とは初対面のような気がするが」
今にも攻撃を仕掛けそうなロータを、レイヴンが手で制する。
「何、兄様」
「そいつからは邪悪な意思を感じない」
アカツキが前に出る。
「だがこいつがバロンなんだろ?ならぶん殴らないといけねえだろ」
「ウチも加勢してええか?」
ルクレツィアも二人と並ぶ。
「おいゼル、リータ。あの青髪の子と話すぞ」
ゼルとリータは頷く。
「戦う準備しとく必要もねえか、アーシャ」
レイヴンの背の剣がアーシャに戻り、四人はエリアルのもとへ行く。それと同時に、アカツキが氷の礫を放つ。バロンは身動ぎせず闘気の鎧で全て打ち落とし、ロータの放つ鎖の戒めも引きちぎり、ルクレツィアの瞬速の斬撃も片腕で受け止める。
「ほう……?やるやないか」
「……戦う気がないものでね。防御に専念すればだいたいの攻撃は受けきれるさ」
「ならこいつはどうや!」
ルクレツィアは凄まじい速度で斬りつけるが、バロンはその一撃一撃に前腕を合わせて防御し、軽く弾き飛ばす。続いて攻撃してきたアカツキの拳を受け止め、腕を掴んで放り投げる。ロータが紫色の棘を飛ばし、それに遅れて殴りかかる。バロンは棘を破壊し、ロータの拳も受け止める。
「……僕が何か非礼をしたなら詫びよう」
「白々しい……いい加減にしろ!」
ロータは素早く次撃をぶつける。
「……幼さに見合わない素晴らしい業だ。だがまだ心は外見と変わらんな」
「何を……」
バロンは防御せずにその拳を腹で受ける。
「……いや、守っていては僕が味方だと思って貰えないと思ってね。三人とも、いい力を持っている。だがそれを、同士討ちに使ってはもったいないだろう」
ロータはその態度に違和感を感じ、攻撃を止める。後ろからアカツキとルクレツィアも合流する。
「……わかってくれたか」
「話したときの不快感がない。よって別人」
ロータはそれだけ告げてレイヴンの横へ歩く。
「見た目がそっくりだとめんどくせえ事態になりやすいよな。同情するぜ」
「ウチらが先に仕掛けたけどな」
二人もバロンを通りすぎる。
「……はは、気難しいな」
バロンは振り返り、エリアルたちと合流する。
「お前さんはバロン。だが俺たちと関係あるのはクロザキってやつで、お前さんはエウレカっていう別人ってことか」
レイヴンの言葉に、バロンは頷く。
「……僕はバロン・エウレカ。君たちと同じ異世界人だ」
「俺はレイヴン。で、この金髪のちっこいのがアーシャ、こっちの黒髪のちっこいのがロータ」
アーシャはお辞儀をするが、ロータは腕を組んで顔を伏せている。
「ウチはルクレツィアや」
「俺はアカツキってんだ、よろしくなッ!」
二人の挨拶に、ゼルが続く。
「俺はゼル。こいつらの保護者だと思ってくれればいい」
「えー?ゼルは全然保護者なことやってないと思うんやけどなぁ?」
ルクレツィアが流し目で嫌味を言い放つと、ゼルはバロンへ視線を戻す。
「な?だいたいわかるだろ、レイヴン、バロン」
バロンとレイヴンはやれやれと言う風に頷く。
「俺たちは今、そこの障壁の解除のために黙示録の四騎士を倒しに行ってる。お前さんたちは警察署へ行ってくれないか。そこにレッドライダーとやらが居るらしい」
レイヴンの言葉に、バロンは頷く。
「……レッドライダーなら僕も知ってる。そこは任されよう」
「そこには俺らの仲間もいる。会ったら頼むぜ」
バロンは再び頷き、坂の方へ歩く。
「ところで、ゼナっていう耳が生えたちっこいやつ知らないか?」
レイヴンが尋ねるが、バロンは首を横に振る。
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レイヴンは先へ進むゼルを追いかける。
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