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三千世界・独裁(4.5)
本編 第十一話
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ルーニア地方・相克の町
瞬撃の拳で、ラースは砕け散る。ラースが四散するのと同時に、ハートレス・シャドーの幻影も消える。しかしラースは残った金庫頭から体を再生し、ハートレスも影法師のように姿を為す。
「くッ……しつこい奴め……!」
「どうやら俺も選ばれたらしい、月香獣にな」
「なんだと」
「明人様の仰った通り……不死というのは、死という概念を剥奪された、人として最も苦痛な状態ってことだ」
「ふん……汝も延々と我に壊され続けるのは苦痛ということか?」
「いや……臨死体験などそう何度も出来ることではない。寧ろ感謝している。このまま最後の時まで、貴様と踊るとしよう!」
アガスティア地方・至天の戦域
テウザーが立ち止まる。
「どうしたの」
零が問う。
「零なる神よ、鬼神は捨て置かねばならぬ」
「なぜ」
「ラース・ジャンパーが彼女と戦っているが、ラースは月香獣と化している。その尋常ならざる耐久性は既に知っているはずだ」
「アーシア、貴方は?」
零はアーシアの方を向く。
「俺には詳しいことはわからねえ。何が今一番優先すべきか、アンタが決めてくれよ」
「……。止むを得ない。私の私情を優先させてもらう」
そうして、三人は北上していった。
アルカニア地方・白百合の墓場
一行がそこまで辿り着くと、そこには巨大な塔があった。二本の塔が絡み合い、天を衝くそれは、窓の類いが一切見られなかった。
「行こう」
零が先行し、二人が続く。
アルカニア地方 独裁の塔・頂上
「来たようだね」
ディクテイターが雪景色を眺めつつ呟く。
「そのようだな」
プロミネンスがその真横で答える。
「僕たちは何のためにここにいるんだと思う?」
「俺たちは、俺たちのためにここにいる。俺たちの理想の国を作るために」
「ふふっ、それを聞いて安心した。どんな犠牲を払っても僕たちは自分の目指した世界へ辿り着く。最後まで、君と一緒にいたいからね」
プロミネンスは跪き、ディクテイターの手を取る。そして、薬指に指輪を嵌める。
「本当のピンチになったとき、それが君の力になる」
「ジデル……」
プロミネンスは立ち上がり、中央のエレベーターを起動して降りていく。
独裁の塔・下層
零たちが塔へ入ると、いきなり広いフロアへ出る。そこに、無数の傷と、そこから蛆を溢すアルテミスがいた。
「てめえ、まだ生きていやがったか!」
アーシアがいきり立つが、アルテミスは自分の頬を撫でるだけだ。
「全く、嫌になるな。どいつもこいつも面倒ばかり……全て滅びればどんな苦しみも願いも無に帰るというにも関わらず……下らない、下らない……」
アルテミスはぼそぼそ喋り、矢で自分を突き刺す。
「下らない!意味もない人生を浪費する者共に、あのお方の崇高なる意志が汚されていいはずがない!」
アルテミスは光に包まれる。
「白金零!明人様のために、その身捧げよ!」
光の柱から、銀色の魔人が姿を現す。弓が左腕と一体化し、右腕は胴体を覆い隠す翼の盾となっている。弓を前腕部に沿わせ、刃のような弦を零へ向ける。テウザーが前へ出る。
「ここは俺がやろう。先を」
零は頷く。
「ちょっと待てよ!そいつは俺の獲物だぜ!」
アーシアは食い下がるが、テウザーは無言で圧力を掛ける。
「ちっ、しゃあねえな」
零と共にアーシアは先へ進む。
「律儀だな、俺になど目も暮れずに攻撃すればいいものを」
テウザーがアルテミスへ視線を向ける。
「ディクテイターと零が激突すれば、必ず次元門は開く。私がここで倒せれば何の問題もないし、ディクテイターと戦っても目的は果たされる」
「自らの意思さえ、杉原に捧げたと?」
「当然だ。私の命はあの方のお力で保たれている。オセも、ラースも、シャドーも私も、六聖将は皆、あの方に命を救われた」
「なるほどな」
「私たちは今ここに生きている。自らの意思を放棄した愚物が蔓延る全ての世界を滅ぼすために」
アルテミスは腰を低める。
「行くぞ」
テウザーは薙刀を構える。
「いざ参る!」
両者が同時に言い放つ。
独裁の塔・上層
二人はただ高い塔を登っていき、何事もなく高層階まで到着する。
「しっかし何もねえな」
「あっちは私に来て欲しいみたいだから、わざわざ足止めしてないんでしょう」
長い一本道が終わり、道の脇に巨大な扉があった。零が近づくと開き、そこは二本の塔の丁度中央に作られた、頂上への連絡用の広場だった。プロミネンスがエレベーターシャフトの前に鎮座していた。
「やっと来たか。アウゲイアスなど無視していればいいものを。まあいい、さあ零。上に行け。悪いがアーシア、お前はここで留守番だ」
零はアーシアの方を向く。
「んあ?どうした、さっさと行けよ。こいつを倒して追いつくからさ」
「ごめん」
「どうして謝ンだよ。こいつはお前を一人で行かせるためだけにここにいんだろ?なら俺がここで待っときゃ、何の問題もねえわけだ」
零は前を向き、エレベーターで上へ行く。
「ただ待つのも暇だしよ、戦おうぜ」
アーシアはプロミネンスを誘う。プロミネンスはエレベーターが上がりきったのを確認して、鎧を脱ぐ。
「水の女神、お前にはここで我が王の糧になってもらおうか」
アルメールから黒い瘴気が放たれ、炎の剣を解き放つ。
「へえ、それがてめえの本性か」
「俺の名はアルメール。ジデルでもあり、プロミネンスでもあり、そのどちらでもない」
「ま、そんなこたぁどうでもいい」
アーシアは軽くステップを踏み、構える。
「遊ぼうぜ、派手にな」
瞬撃の拳で、ラースは砕け散る。ラースが四散するのと同時に、ハートレス・シャドーの幻影も消える。しかしラースは残った金庫頭から体を再生し、ハートレスも影法師のように姿を為す。
「くッ……しつこい奴め……!」
「どうやら俺も選ばれたらしい、月香獣にな」
「なんだと」
「明人様の仰った通り……不死というのは、死という概念を剥奪された、人として最も苦痛な状態ってことだ」
「ふん……汝も延々と我に壊され続けるのは苦痛ということか?」
「いや……臨死体験などそう何度も出来ることではない。寧ろ感謝している。このまま最後の時まで、貴様と踊るとしよう!」
アガスティア地方・至天の戦域
テウザーが立ち止まる。
「どうしたの」
零が問う。
「零なる神よ、鬼神は捨て置かねばならぬ」
「なぜ」
「ラース・ジャンパーが彼女と戦っているが、ラースは月香獣と化している。その尋常ならざる耐久性は既に知っているはずだ」
「アーシア、貴方は?」
零はアーシアの方を向く。
「俺には詳しいことはわからねえ。何が今一番優先すべきか、アンタが決めてくれよ」
「……。止むを得ない。私の私情を優先させてもらう」
そうして、三人は北上していった。
アルカニア地方・白百合の墓場
一行がそこまで辿り着くと、そこには巨大な塔があった。二本の塔が絡み合い、天を衝くそれは、窓の類いが一切見られなかった。
「行こう」
零が先行し、二人が続く。
アルカニア地方 独裁の塔・頂上
「来たようだね」
ディクテイターが雪景色を眺めつつ呟く。
「そのようだな」
プロミネンスがその真横で答える。
「僕たちは何のためにここにいるんだと思う?」
「俺たちは、俺たちのためにここにいる。俺たちの理想の国を作るために」
「ふふっ、それを聞いて安心した。どんな犠牲を払っても僕たちは自分の目指した世界へ辿り着く。最後まで、君と一緒にいたいからね」
プロミネンスは跪き、ディクテイターの手を取る。そして、薬指に指輪を嵌める。
「本当のピンチになったとき、それが君の力になる」
「ジデル……」
プロミネンスは立ち上がり、中央のエレベーターを起動して降りていく。
独裁の塔・下層
零たちが塔へ入ると、いきなり広いフロアへ出る。そこに、無数の傷と、そこから蛆を溢すアルテミスがいた。
「てめえ、まだ生きていやがったか!」
アーシアがいきり立つが、アルテミスは自分の頬を撫でるだけだ。
「全く、嫌になるな。どいつもこいつも面倒ばかり……全て滅びればどんな苦しみも願いも無に帰るというにも関わらず……下らない、下らない……」
アルテミスはぼそぼそ喋り、矢で自分を突き刺す。
「下らない!意味もない人生を浪費する者共に、あのお方の崇高なる意志が汚されていいはずがない!」
アルテミスは光に包まれる。
「白金零!明人様のために、その身捧げよ!」
光の柱から、銀色の魔人が姿を現す。弓が左腕と一体化し、右腕は胴体を覆い隠す翼の盾となっている。弓を前腕部に沿わせ、刃のような弦を零へ向ける。テウザーが前へ出る。
「ここは俺がやろう。先を」
零は頷く。
「ちょっと待てよ!そいつは俺の獲物だぜ!」
アーシアは食い下がるが、テウザーは無言で圧力を掛ける。
「ちっ、しゃあねえな」
零と共にアーシアは先へ進む。
「律儀だな、俺になど目も暮れずに攻撃すればいいものを」
テウザーがアルテミスへ視線を向ける。
「ディクテイターと零が激突すれば、必ず次元門は開く。私がここで倒せれば何の問題もないし、ディクテイターと戦っても目的は果たされる」
「自らの意思さえ、杉原に捧げたと?」
「当然だ。私の命はあの方のお力で保たれている。オセも、ラースも、シャドーも私も、六聖将は皆、あの方に命を救われた」
「なるほどな」
「私たちは今ここに生きている。自らの意思を放棄した愚物が蔓延る全ての世界を滅ぼすために」
アルテミスは腰を低める。
「行くぞ」
テウザーは薙刀を構える。
「いざ参る!」
両者が同時に言い放つ。
独裁の塔・上層
二人はただ高い塔を登っていき、何事もなく高層階まで到着する。
「しっかし何もねえな」
「あっちは私に来て欲しいみたいだから、わざわざ足止めしてないんでしょう」
長い一本道が終わり、道の脇に巨大な扉があった。零が近づくと開き、そこは二本の塔の丁度中央に作られた、頂上への連絡用の広場だった。プロミネンスがエレベーターシャフトの前に鎮座していた。
「やっと来たか。アウゲイアスなど無視していればいいものを。まあいい、さあ零。上に行け。悪いがアーシア、お前はここで留守番だ」
零はアーシアの方を向く。
「んあ?どうした、さっさと行けよ。こいつを倒して追いつくからさ」
「ごめん」
「どうして謝ンだよ。こいつはお前を一人で行かせるためだけにここにいんだろ?なら俺がここで待っときゃ、何の問題もねえわけだ」
零は前を向き、エレベーターで上へ行く。
「ただ待つのも暇だしよ、戦おうぜ」
アーシアはプロミネンスを誘う。プロミネンスはエレベーターが上がりきったのを確認して、鎧を脱ぐ。
「水の女神、お前にはここで我が王の糧になってもらおうか」
アルメールから黒い瘴気が放たれ、炎の剣を解き放つ。
「へえ、それがてめえの本性か」
「俺の名はアルメール。ジデルでもあり、プロミネンスでもあり、そのどちらでもない」
「ま、そんなこたぁどうでもいい」
アーシアは軽くステップを踏み、構える。
「遊ぼうぜ、派手にな」
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