上 下
119 / 568
三千世界・独裁(4.5)

本編 第一話

しおりを挟む
 アルカニア地方・狐姫の怨愛城
 玉座に座った少女の前に、頭を金庫で覆った大男と、影でできたような男と、豹の獣人と、短い黒髪の少女が跪いていた。
「白金零がルーミア地方に落ちたようです、ディクテイター」
 金庫頭の大男が言葉を発する。
「わかっているよ。僕の兵は優秀だからね」
 ディクテイターと呼ばれた少女は玉座の肘掛けに右肘を乗せ、頬杖をつく。
「零なる神のご登場となれば、三皇帝も黙っていないはずだ。早急に他の女神を使って僕を潰しに来ることだろう。だが準備は出来ている。この世界を焔に沈めようじゃないか」
 ディクテイターは不敵な笑みを浮かべ、跪く四人はその様をただ見つめていた。

 アーシア地方・静寂の海
 郷愁の森から続く浅瀬の道が一気に湖へと繋がり、深い青を眼前に湛えている。零は湖面を凍りつかせながら先へ進んでいく。

 アーシア地方・始源の大瀑布
 しばらく進むと巨大な穴に到着し、そこに大量の水が流れ落ちていた。穴の途中には大きな足場があり、多少の水溜まりはあるものの、乾いていた。零はそこに飛び降りる。
「ようこそアーシア地方へ!」
 勇ましい声が響き、流れ落ちる滝の向こうから長大な竜が現れる。
「お前が零なる神だろう!シュバルツシルトから話は聞いてるぞ!俺がアーシア・ルーオン、ここの主だ!」
 竜化を解いたアーシアが足場へ着地し、零へ近寄る。
「ふむふむ、確かにこりゃ絵に描いたような美人だな!で、ディクテイターを倒しに行くんだろ?俺も手を貸すぜ……まあ、力を示してもらうって条件付きだけどな」
 アーシアはそう言うとまた竜化し、水蒸気を噴射して空中へ舞う。
「始めようぜ!喧嘩をさあ!」
 アーシアは急降下して零へ尾を叩きつける。零は素早いサイドステップで躱し、キックで具足を叩きつける。アーシアの表皮には常に流水が張られており、その衝撃を逃がす。アーシアはすぐに丸まり、力を込めてタックルをぶつける。零はジャンプして躱し、刀に持ち替え、降下しつつ刃を突き立てる。アーシアは足場を滑るように動き、空中へ滞空し直す。
「確かに戦い方はちげえけど、その動きのキレはあの零と同じみてえだな!」
 口に溜め込んだ激流を放ち、更に水で出来た翼の出力を上げて反動を殺す。零は杖へ持ち替え、上空へ瞬間移動することで躱す。更にアーシアの下へ瞬間移動し、無数に分身させた杖を放つ。アーシアは尾の一振りで全て打ち落とすが、トンファーに持ち替えた零の追撃を食らい、怯む。続けて放たれた杭の一撃を受け、その冷気で流水の鎧が凍りつく。
「やるじゃねえか!」
 しかし、凍りついた流水の鎧は砕け散り、代わりにアーシアの体からは高熱の蒸気が立ち上る。アーシアが強く力むと、その蒸気は大爆発を起こす。
「プラウド・シュバリエ!」
 巨大な盾と細身の剣に持ち替えた零は、その盾で至近距離の爆発を防ぐ。更に盾で体当たりし、アーシアを持ち上げ、剣を顎から突き刺して鼻面を串刺しにする。蒸気の放出で剣はどこかへ飛んでいく。
「もらったぁ!」
 アーシアは間髪入れずに再び水蒸気爆発を起こし、零にガードさせ、続けてタックルで足場へ叩き落とす。更に突進するが、素手で受け止められる。
「なぁっ!?」
 アーシアの首へ強烈な掌底が叩き込まれ、冷気の爆発でアーシアの竜化が解ける。
「だっはっは!やるじゃねえか!気に入った!お前の力になるぜ!」
「ありがとう」
 零の淡白な反応に、アーシアはきょとんとする。
「どうした?お前テンション低いな?」
「ああ、気にしないで。これが普通だから」
「ふーん、そうか。ま、アルカニア地方に行くときに教えてくれよな!」
 アーシアは大瀑布の中に飛び込んでいった。
「まずは一つ」
 零はそう呟くと、瀑布の上へジャンプで戻る。

 ルーニア地方・ゼフィルス砂漠
 静寂の海を越え、次第に景色が黄土色へ変わっていく。砂漠を歩いていると、砂中から巨大な蛇が現れる。
「待て。我が名は熱砂天ケンダツバ。この先はルーニアの領域である。かような人間が何用か」
「シニューニャに用がある」
 ケンダツバは零をまじまじと見つめる。
「なるほど、汝が零か。ならば、この砂漠を西に進むがよい。さすれば、我らが王の居らす場所へ辿り着けよう」
 尾を振ると、砂漠に一本の直線が引かれる。
「ありがとう」
「礼には及ばぬ。我らも北の女神は気に入らぬのでな」
 ケンダツバは地中へ消えた。

 ルーニア地方・相克の町
 しばらく歩くと、水辺の周囲に集落が見えた。零はそこへ立ち寄り、大きな屋敷へ向かった。屋敷の扉を開くと、奥にある机の前に灰色の長髪の少女が座っていた。
「あなたがシニューニャ?」
 零がそう訪ねると、少女は鋭い視線を向ける。
「いや、違うわ。私はシニューニャ様の右腕、ラセツよ」
「じゃあ、どこへ?」
「この先にある獄砂の迷宮を越えて、宿命の血戦碑というところにいるわ」
 零はそれだけ聞くと、屋敷から出ようとする。
「ちょっと待ちなさいよ」
 ラセツが呼び止める。
「何」
「あんたが零よね?」
 零は頷く。
「あっそ。聞きたいのはそれだけよ。さっさと行きなさい」
 ラセツは机に突っ伏して寝る。零は屋敷を出て、その向こうへ歩く。

 ルーニア地方・獄砂の迷宮
 零は石造りの迷宮へ立ち入り、進んでいく。突き刺すような日射しを意にも介さず淡々と迷路の間違ったルートを潰していき、辿り着いた広場でまた巨大な蛇二体と遭遇する。
「来たようだ、零なる神が」
「そのようだ、マコラガ」
「キンナラ、彼女を試すのだ」
「そうしよう」
 二匹の蛇は延々と話し込んでおり、零はその脇を通りすぎていく。零が広場を抜ける寸前に二匹は気付き、出口を塞ぐように現れる。
「待て零なる神」
「我ら、迷宮の門番」
「キンナラ」
「マコラガ」
「我らの鬼神に会いたくば」
「我らを打倒せよ」
 二匹の蛇の頭が割れ、そこから人型の上半身が現れる。零もそれに答え、トンファーを構える。
「参る!」
 キンナラが焔を放ち、マコラガが槍を構えて突進する。零は焔を躱し、槍を蹴りでへし折る。ならばとマコラガは手から雷を放つ。次はキンナラが斧を持って襲いかかる。トンファーから杭を発射し、その冷気で雷を凍てつかせ、キンナラの顔面にトンファーを叩き込む。杭を発射した反動でキンナラから急速に離れ、空中で杭を発射して冷気でマコラガへ飛ぶ。そしてトンファーの一撃でマコラガは凍りつく。
「見事……!」
 キンナラが倒れながらも零を称える。零は特にこれと言ったリアクションをせず、先へ進む。

 ルーニア地方・宿命の血戦碑
 零が迷宮を越え、先へ進むと、巨大な岩が刺さった場所へ到着した。岩の前に一人、女性が佇んでいる。
「来たか。零なる神よ、汝を歓迎しよう」
 女性にしては異常に大柄な両腕を広げ、猛烈な覇気を放つ。
「あなたがシニューニャ?」
「いかにも。我がシニューニャ、このルーニア地方の女神。黒の女神から話しは聞いている、焔の独裁者を打ち倒すのだろう?」
 零は頷く。
「ならば力を示せ。我はこの世界の行く末がどうなろうと知ったことではないのでな」
 シニューニャが構えを取るのと同時に、零は飛沫と共に籠手と具足を身につける。
「私もここで止まるわけにはいかない」
 シニューニャの強烈な手刀による衝撃波で、砂が高く舞い上がり、陽を隠す。零は急降下しつつキックを放つが、容易に受け止められ、反撃の豪腕の勢いをすんでで往なす。続く拳を氷を盾にしてやり過ごし、姿勢を下げて拳を返す。シニューニャは闘気で零の拳を防ぎ、怯んだところへ殴打を複数加える。零は刀に持ち替え、追加のパンチを紙一重で避け、抜刀して切りつけつつ空中へ飛ぶ。更にトンファーへ持ち替え、上空へ冷気を噴射して即座に着地し、対空攻撃を準備していたシニューニャの隙をつき、素早くドロップキックを叩き込む。シニューニャは動ぜず、零の足を掴んで放り投げる。零はすぐに受け身を取り、追撃に備える。しかし、シニューニャはゆっくりと近づいてきて右手を差し出す。
「やはり零なる神で間違いないようだ。我が力、汝の御為に振るおう」
 零はその手を取り、軽く握手する。と、そこにマハアグニが駆け寄ってくる。
「おい白金!我が王から伝言だ!アガスティア地方へ行けってよ!」
 零は頷く。シニューニャは手を離す。
「では零なる神よ、戦いの時は呼ぶがよい」
 そしてまた、巨岩の前に戻っていく。零はもと来た道を引き返し、アガスティア地方へ向かう。

 アガスティア地方・至天の戦域
 再び中央の建物に入ると、また巨大なホログラム映像が浮かび上がる。今度はアガスティアレイヴンの横に座る、六つの頭を持つ悪魔が口を開く。
「まずは貴様一人でアルカニア地方へ行き、ディクテイターの計画を聞き出せ」
 零はただ見つめる。
「早く行け」
 それ以上言うことはないという風に、六首の悪魔は黙る。零は踵を返し、北へ向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...