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三千世界・黒転(3)

後編 第九話

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 王都グランシデア トップスシティ
 レイヴンたちは闇に包まれた王都に入る。
「ど、どうなってるの!?」
 リータが驚きの声を上げる。
「間違いなくシュバルツシルトの仕業じゃな」
 ゼナの一言に、ミリルが続く。
「気を付けてください、この闇……私たちの活力を削いでいってるみたいです」
 エルデも呟く。
「確かに、とても息苦しく感じますね。倦怠感も……」
 レイヴンが前に出る。
「待ってろよ、ロータ。お前の思い、全部受け止めてやる……!」
 一行は闇の中を進み、大橋の手前まで来る。守衛室の近くに、倒れたオーレリアと横で座り込むアーシャが居た。
「大丈夫か、アーシャ」
 レイヴンが駆け寄ると、アーシャは虚ろな目でレイヴンを見上げる。
「ああ―――レイヴンさん。やっと来てくれた……」
「大丈夫じゃなさそうだな。ゼナ、どうすればいい」
 ゼナは近付く。
「ふむ、どうやらこの闇にやられてしまっておるようじゃな。普通の人間はシフルエネルギーは僅かにしか使えんが、この闇はその僅かなシフルエネルギーを塞ぐ」
「具体的に言ってくれ」
「心を動かせばよいのじゃ。例えばキスとかのう。気持ち悪いでも、ときめきでも何でもよい。感情に働きかければよいはずじゃ」
 そう聞いて、レイヴンは迷わずアーシャと唇を重ねる。
「まあ実際は闘気を渡せばそれでいいんじゃがな」
「ズコー」
 リータとマイケルとミリルがそのコメントに対して律儀に転ける。アーシャの目に活力が戻ると同時に、状況を把握したのかレイヴンを突き放す。
「わっ!わわっ!同意も無しにキスなんて最低です!蛮族!放蕩野郎!脳味噌下半身!」
「随分と言ってくれるじゃねえか、〝お嬢さん〟」
「お嬢さんではありません。でも……助けてくださってありがとうございます」
 アーシャはすぐにオーレリアを起こす。
「姉上!レイヴンさんが来ました!目を覚ましてください!」
 オーレリアは朦朧とした意識を取り戻し、ふらつきつつ立ち上がる。
「……。レイヴン様、わたくしたちはもう、貴方に出来ることは何もございませんわ。もはや次元門の鍵とすることも、恐らくこの闇の中ではお父様は死んでいるでしょうし……ぐうっ!」
 オーレリアは膝をつく。その様を見たミリルが反応する。
「どうやらオーレリア様の方は単なる外傷が原因のようですね」
「そうか。リータ、出来るか?」
 リータはレイヴンにグッとガッツポーズを取る。
「まっかせて!久しぶりの出番だね!じゃオーレリア様、じっとしててくださいね!」
 オーレリアは正座で待機し、リータが手早く複数の治癒魔法を使う。すぐにオーレリアの傷は癒え、活力を取り戻す。
「よしおっけー!」
「ふふ……お上手ですわね。この王国がもっと長く続いていたら、わたくしの専属にしておきたいくらいですわ」
「ありがとうございます!」
 元気のいいリータの声が闇の中に響く。
「よし、二人はどうする?俺たちはこのまま王城へ行くつもりなんだが」
 オーレリアが答える。
「わたくしは王国の外で待っておりますわ。既に戦う力は使い果たしておりますので」
 アーシャが続く。
「私はレイヴンさんについていきます。ウーウェ・カサトを預けてますし、それに初めてを奪われましたし」
 レイヴンは苦笑する。
「よし、行くぜ。オーレリア、くれぐれも気をつけろよ」
 大橋へ駆けていく一行に深く礼をしたあと、オーレリアは王城を見上げる。
「お父様、エール……どうか生きていて……!」

 グランシデア王城
 一行が城内へ入ると、白騎士の群れに遭遇する。
「雑魚に構うな!蹴散らしていけ!」
 レイヴンの号令に従い、リータとミリルを守りながら突き進む。立ちはだかる黒騎士も勢いのまま薙ぎ倒し、謁見の間の前に辿り着く。エリナが蒼い光を灯した黒騎士を二体従え、悪魔化して待っていた。
「久しぶりだな、エリナ。わかってたことだが、お前はシュバルツシルトの部下ってことだな」
「その通りだ。こうなることも初めからわかっていた。だがそれでいい」
 エリナは翼を広げる。
「ここで果てよ、レイヴン!」

 グランシデア王城   謁見の間
 ロータが謁見の間に入ると、玉座にシュバルツシルトが座っており、更にその前にはエールが立っていた。
「よく来たわね、ロータ。私は力を求める貴方のスタンスに感動したわ」
 ロータは話を無視して近付く。シュバルツシルトもロータを無視して話し続ける。
「結末を見せてあげるわ。偉大なる決着のためにね」
 シュバルツシルトが指を鳴らす。凄まじい揺れが起こり、闇が消えていく。

 グランシデア王国領土・上空
 アルスヴァーグ氷山からリリュール、レーブル海までの広大な王国領を覆う闇が幻鏡の湖の真上に集中し、そして注がれる。

 グランシデア王城   謁見の間
 ロータはシュバルツシルトの前に立つ。
「力を……」
「力はあるわ。あの湖にね」
 シュバルツシルトの横には、巨大な黒い馬が現れる。
「来なさい、貴方の求める力をあげるわ」
 ロータは少し躊躇したが、意を決し、シュバルツシルトと共に黒馬に乗る。
「エール、後は彼と好きなだけ楽しみなさい」
 シュバルツシルトは王城の壁を破壊して去っていった。

 グランシデア王城
 闇は晴れ、両者の視界は正常に戻った。と同時にエリナとレイヴンの剣がぶつかり合う。二体の黒騎士のそれぞれエルデとセレナと交戦を始める。黒騎士は通常の個体と同じ大剣を持っているが、明らかに挙動が素早く、更には距離を離して蒼い光弾さえ放ってくる。エルデは容易に大剣の一閃を防ぎ、発勁を叩き込む。軽々とバトルアックスを振り上げ黒騎士の鎧を損傷させ、野球のバットのように振るって吹き飛ばす。飛んでいった黒騎士は王城の壁をぶち抜き、そのままマーナガルム峡谷へ落ちていった。もう一体の黒騎士がセレナへ剣を振り下ろすが、気だるげな動きで躱され、長剣の怒濤の連続突きを魔力の剣と共に叩き込まれ、縦回転から繰り出される連続踵落としからの蹴り上げ二連から切り下ろしで叩き落とされ、着地したセレナは強烈な突きを加え、更に長剣をブーメランのように飛ばし、黒騎士を引き寄せ、渾身のアッパーカットを叩き込んで粉砕する。
「どうやら相手にならないらしいな、あの程度じゃあ」
「私は所詮時間稼ぎだからな」
「えらく潔いじゃねえか。これ以上与えられた役目がねえってことか?」
 エリナとレイヴンは高速で打ち合う。しかし、エリナは悪魔化、レイヴンは生身であるにも関わらず、レイヴンが勝っていた。
「剣の腕が鈍ったんじゃねえのか?」
「さあな、前座に苦戦してはつまらんだろう」
「その通りだな。これで終わらせる!」
 レイヴンがエリナの剣を弾き飛ばし、一瞬で竜化して突きを放つ―――
「待つッス兄貴!」
 マイケルの叫びで止まる。
「二人で話がしたいッス」
 レイヴンは竜化を解き、剣を納める。
「俺たちは先に行く。後でついてこいよ」
 レイヴンたちは階段を上っていった。マイケルがエリナの前に立つ。
 エリナは意を決し、悪魔化を解く。
「マイク……」
「えーっと、一つだけ聞きたいことがあるッス」
「私が答えられることなら」
 マイケルはゆっくりと口を開く。
「俺たちの両親を殺したのは、本当は誰ッスか?」
「……」
「わかってるッス。そのこと自体はもう、俺もミリルも仕方ないと思ってるッス。でも、俺たちはエリナが自分一人でそのことを抱え込んでいた方が許せなかったッス。俺たちが居たのに、頼ってくれなかったことが、何より辛かったッス」
「マイク……でも、私は……もう多くの人を、犠牲に……騎士の仕事としても、シュバルツシルトの配下としても……」
「関係ないッス。大切なのは、生きて償うこと。それだけッス。エリナの心配してるその衝動だって、何か別の方法で抑えられるはずッスよ」
「でも……」
 戸惑うエリナの手を、マイケルは強く掴む。
「煮えきらないッスね!じゃあもう俺がエリナをここから連れてくッス!」
「え……あ、ちょっと……」
 そのまま、二人は謁見の間への階段を駆け上がる。
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