91 / 568
三千世界・黒転(3)
後編 第七話
しおりを挟む
レーブル海岸
大地を揺るがす轟音の後、暴力的な衝撃波が続いて三人は叩き落とされる。
マームル湿地
レイヴンは背に乗せていたアリアとリータを、セレナはミリルを、ゼナはマイケルとアルバとエルデを抱えて着地する。
「なんだ今のは!?」
レイヴンを含め、一行は驚愕していた。
「あれは焦土核爆槍。シュバルツシルトの、軽い戯れの技じゃ。しかし……神都はおろか、クラレティアまで消えてなくなったじゃろうな」
「そんなバカな。そんなことが現実に可能なのか?」
「シュバルツシルトはわしらの常識の範疇を遥かに越えておる。どれだけ努力しようが、やつには勝てん」
「ですが、これで証明されましたね」
エルデが立ち上がる。
「何がだ?」
「シュバルツシルトは、幻鏡の湖に力を蓄えたいということですよ。もっとも、これはただのデモンストレーションで、他に奥の手があるのかもしれませんが」
「だが考えていても仕方ない。今はロータを追うぞ。あいつの力への渇望に火をつけたのは俺だ。なら、俺が止めないといけねえ」
グランシデア王城 謁見の間
扉が蹴り開けられ、シュバルツシルトが瀕死の騎士を投げ捨てる。ホルカンはその様に驚きはしないが、深く恐怖を覚えていた。
「俺の命を奪いに来たか」
「今日はいい天気ね」
「そうだな、そちが神都の雲を晴らしたからな」
「お母さんに会いたい?」
「もちろんだ。だが……そちは俺を殺すのだろう。妻から、国から、軍備から、何もかも、両親を失った俺に、そちは与えた。父と母に会うためと自分を騙して来たが……結局はそちのために踊る道化であったに過ぎない」
シュバルツシルトは間の抜けた顔をし、肩を竦める。
「随分と潔いわね。抵抗したところでどうにもなら―――」
その瞬間、シュバルツシルトの背に銃弾が当たる。先端が針になっており、薬品を打ち込むためのもののようだ。
「いかに強者と言えど、所詮は人間。そちもその毒薬で、眠るがよい」
しかし、シュバルツシルトは平然としている。
「なぜ倒れぬ!たった一滴皮膚に垂らすだけでも一週間は昏倒するのだぞ!?」
「いくつか勘違いがあるわね。まず、私は人じゃないわ。それと……そんな小細工、シフルの前では敵に塩を送っているだけよ?」
「なんだと……!」
「シフルというのは魔力と闘気の丁度中央。万物を構成する根源の力。如何なる毒も、銃弾も。シフルに変えてしまえば同じエネルギーよ。この世界も、次元門も、あなたも私も、全てただのシフルに過ぎない。問題は、不純物が多いかどうかよ」
ホルカンは意を決し、玉座から立つ。
「無抵抗で死ぬのもよくあるまい。せめて、オーレリアたちには俺が勇敢であったと伝えてくれぬか」
「そうね。見栄というのは大切だと思うし。伝えておいてあげるわ。でも、あなたは私の肩慣らしに付き合いなさいな」
ホルカンは自分よりも巨大な剣を抱え、シュバルツシルトへ叩き付ける。が、シュバルツシルトは一切動ぜず、剣が頭の形にひしゃげていた。
「娘共々、生身にしては優秀よ。グラナディアの子孫であることも含めて、だからこそあなたを傀儡に選んだのだけれどね」
シュバルツシルトはホルカンの三分の一ほどしかない細腕でホルカンを軽く持ち上げ、そして玉座へ放り投げる。玉座に叩きつけられたホルカンはすぐに起き上がろうとするが、瞬時に距離を詰めたシュバルツシルトの手刀で心臓を貫かれる。
「ふん……たかが心臓一つで死ぬと思うか……!」
「あら、私が窺い知れないところで何かしたようね。どうぞ、奥の手があるなら出しなさいな」
腕を引き抜きホルカンを蹴り飛ばす。ホルカンは左胸を抑え、尋常ならざる闘気を放つ。そして凄まじい力の渦に飲まれ、竜化する。その姿は竜世界のブロケードのように、筋骨隆々かつ巨大な竜人だった。
「ブラボー、ブラボー。黒鋼に近い形態になれるとはね」
「この命燃やし尽くし、そちを倒す!」
「ハッハッハ。勇ましい戦士は嫌いじゃないわ。ならば私も、あなたに送りましょう……終焉の安息をね!」
シュバルツシルトの手元に生み出された槍が光る。
「生きとし生ける者の安寧を、暴き責め立てる光に最後の審判を。我は願おう、零に還らぬことを。無限に到達せぬことを。我が名、〈常闇〉!」
長々と詠唱したシュバルツシルトは槍と融合し、ホルカンと似たような竜人へと変貌する。
「隠し玉のつもりであったが……そちは何がしたいのだ」
「何がしたいか、ねえ……友達を安らかに眠らせたい、それだけかしら」
常闇の足元からじわじわと黒い何かが滲み出し、城の床を侵食していく。
「構えて、ホルカン。一撃で殺してあげる」
「むう……!」
ホルカンが巨大な腕を振るい拳を放つが、常闇は咆哮と共に暗黒を生み出し、ホルカンを消滅させて城ごと飲み込む。シュバルツシルトは竜化を解き、砕けた玉座に座る。
「さあおいでなさい。決着をつけましょう」
壊れた扉から、エールが現れる。
大地を揺るがす轟音の後、暴力的な衝撃波が続いて三人は叩き落とされる。
マームル湿地
レイヴンは背に乗せていたアリアとリータを、セレナはミリルを、ゼナはマイケルとアルバとエルデを抱えて着地する。
「なんだ今のは!?」
レイヴンを含め、一行は驚愕していた。
「あれは焦土核爆槍。シュバルツシルトの、軽い戯れの技じゃ。しかし……神都はおろか、クラレティアまで消えてなくなったじゃろうな」
「そんなバカな。そんなことが現実に可能なのか?」
「シュバルツシルトはわしらの常識の範疇を遥かに越えておる。どれだけ努力しようが、やつには勝てん」
「ですが、これで証明されましたね」
エルデが立ち上がる。
「何がだ?」
「シュバルツシルトは、幻鏡の湖に力を蓄えたいということですよ。もっとも、これはただのデモンストレーションで、他に奥の手があるのかもしれませんが」
「だが考えていても仕方ない。今はロータを追うぞ。あいつの力への渇望に火をつけたのは俺だ。なら、俺が止めないといけねえ」
グランシデア王城 謁見の間
扉が蹴り開けられ、シュバルツシルトが瀕死の騎士を投げ捨てる。ホルカンはその様に驚きはしないが、深く恐怖を覚えていた。
「俺の命を奪いに来たか」
「今日はいい天気ね」
「そうだな、そちが神都の雲を晴らしたからな」
「お母さんに会いたい?」
「もちろんだ。だが……そちは俺を殺すのだろう。妻から、国から、軍備から、何もかも、両親を失った俺に、そちは与えた。父と母に会うためと自分を騙して来たが……結局はそちのために踊る道化であったに過ぎない」
シュバルツシルトは間の抜けた顔をし、肩を竦める。
「随分と潔いわね。抵抗したところでどうにもなら―――」
その瞬間、シュバルツシルトの背に銃弾が当たる。先端が針になっており、薬品を打ち込むためのもののようだ。
「いかに強者と言えど、所詮は人間。そちもその毒薬で、眠るがよい」
しかし、シュバルツシルトは平然としている。
「なぜ倒れぬ!たった一滴皮膚に垂らすだけでも一週間は昏倒するのだぞ!?」
「いくつか勘違いがあるわね。まず、私は人じゃないわ。それと……そんな小細工、シフルの前では敵に塩を送っているだけよ?」
「なんだと……!」
「シフルというのは魔力と闘気の丁度中央。万物を構成する根源の力。如何なる毒も、銃弾も。シフルに変えてしまえば同じエネルギーよ。この世界も、次元門も、あなたも私も、全てただのシフルに過ぎない。問題は、不純物が多いかどうかよ」
ホルカンは意を決し、玉座から立つ。
「無抵抗で死ぬのもよくあるまい。せめて、オーレリアたちには俺が勇敢であったと伝えてくれぬか」
「そうね。見栄というのは大切だと思うし。伝えておいてあげるわ。でも、あなたは私の肩慣らしに付き合いなさいな」
ホルカンは自分よりも巨大な剣を抱え、シュバルツシルトへ叩き付ける。が、シュバルツシルトは一切動ぜず、剣が頭の形にひしゃげていた。
「娘共々、生身にしては優秀よ。グラナディアの子孫であることも含めて、だからこそあなたを傀儡に選んだのだけれどね」
シュバルツシルトはホルカンの三分の一ほどしかない細腕でホルカンを軽く持ち上げ、そして玉座へ放り投げる。玉座に叩きつけられたホルカンはすぐに起き上がろうとするが、瞬時に距離を詰めたシュバルツシルトの手刀で心臓を貫かれる。
「ふん……たかが心臓一つで死ぬと思うか……!」
「あら、私が窺い知れないところで何かしたようね。どうぞ、奥の手があるなら出しなさいな」
腕を引き抜きホルカンを蹴り飛ばす。ホルカンは左胸を抑え、尋常ならざる闘気を放つ。そして凄まじい力の渦に飲まれ、竜化する。その姿は竜世界のブロケードのように、筋骨隆々かつ巨大な竜人だった。
「ブラボー、ブラボー。黒鋼に近い形態になれるとはね」
「この命燃やし尽くし、そちを倒す!」
「ハッハッハ。勇ましい戦士は嫌いじゃないわ。ならば私も、あなたに送りましょう……終焉の安息をね!」
シュバルツシルトの手元に生み出された槍が光る。
「生きとし生ける者の安寧を、暴き責め立てる光に最後の審判を。我は願おう、零に還らぬことを。無限に到達せぬことを。我が名、〈常闇〉!」
長々と詠唱したシュバルツシルトは槍と融合し、ホルカンと似たような竜人へと変貌する。
「隠し玉のつもりであったが……そちは何がしたいのだ」
「何がしたいか、ねえ……友達を安らかに眠らせたい、それだけかしら」
常闇の足元からじわじわと黒い何かが滲み出し、城の床を侵食していく。
「構えて、ホルカン。一撃で殺してあげる」
「むう……!」
ホルカンが巨大な腕を振るい拳を放つが、常闇は咆哮と共に暗黒を生み出し、ホルカンを消滅させて城ごと飲み込む。シュバルツシルトは竜化を解き、砕けた玉座に座る。
「さあおいでなさい。決着をつけましょう」
壊れた扉から、エールが現れる。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。
隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。
婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。
しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました
ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。
王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。
しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる