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三千世界・黒転(3)

前編 第十話

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 クラレティア山脈  遺跡
 内装は未知の金属で作られており、淡い蒼光で照らされている。
「しかし、こんなところどう調べるんだろ―――」
 鋭い痛みが脳髄を走り、レイヴンは膝をつく。
「大丈夫……兄様……?」
 ロータが駆け寄り、その肩を支える。
「ああ、大丈夫だ。……。こっちだ」
 レイヴンは立ち上がると、一人で歩いていく。ロータとアーシャは不審に思ったものの、レイヴンについていった。そしてしばらく歩いた後、レイヴンは一つの部屋の前で立ち止まる。緑色の光を放つパネルがあり、レイヴンはそれを覗き込む。電子音と共に、緑色の光は青に変わり、扉が上に収納される。
「行くぞ」
 その部屋の中には、レイヴンがリータたち双子や、バロンやエリアル、ゼル、ホシヒメたちと写った写真が飾ってあり、デスクや夥しい量の書類などがあった。
「二人とも、適当に漁って気になるやつはここの机に置け」
「わかりました」
「わかった……」
 各々が書類を漁っていると、レイヴンは気になるパンフレットを見つける。
「『異史と正史について』……?取り敢えず読んでみるか」

 ―――……―――
 異史と正史について
 Chaos社では、時間と次元門についてかなりの労力を割いて研究してきた。
 そして一つの成果として、ある時間の一点から致命的な分断が起きたとき、今まで続いていた芯となるタイムラインから外れた、単なるイフではない、独自性を持った時間軸が発生する。私の研究から、世界のタイムラインには限界量があり、こうして一つの世界に独自性のある二つのタイムラインが発生すると、世界の崩壊が早まると判明している。言うなれば、器をタイムラインの総量、時間を器に注がれる水とすれば、単純に水の注がれる量が倍になるということで、時間が溢れ出すのが加速するのは自明の理である。
 そこで、異史を消滅させ、上手くそのタイムラインの全てを正史に移動させはできないだろうか。異史の人間は全て死に絶えるだろうが、これも人類のためだ、仕方あるまい。
 それにしても、この世界のシステムはなんなのだろうか。残命が予め決められ、こうして結末が突然訪れる。一体なんのために……今は関係のない話なので割愛する。
 ともかく、私は異史へ旅立つ。時の十二の要素を以て、異史を解体するのだ。
                  プロスパシア・シフル
 ―――……―――

「訳わかんねえな」
 デスクへ放り投げ、また書類を漁る。そしてまた、一つのパンフレットを見つける。
「『王龍について』?まあ、読むか」

 ―――……―――
 王龍について
 我が社の代表である、杉原明人に憑依している謎の存在、「ヴァナ・ファキナ」。トラツグミのチェックは厳しかったが、それでも有益な情報をいくつか手に入れることが出来た。
 まず、「ヴァナ・ファキナ」は王龍と呼ばれる種族である。彼曰く、この世界を含め、全ての世界は王龍をヒエラルキーの頂点とし、竜、獣、人、神と続くようだ。竜世界で見られた竜王種は獣である魚類から竜に進化した種族で、その仕組み上、短命だ。我々Chaos社幹部が非常時に行う「竜化」は言うなれば、この竜王種の進化を短期的に行っているようなものだ。竜化は体の大部分をシフルに変え、竜と同じ体内シフル量にすることで竜となるシステムだが、それに元々の肉体が耐えられず塩化する。
 が、竜は元より竜であるためシフルを自由に扱い、更にその竜を統べる王龍は体の全てが極めて純度の高いシフルで構成されており、一切のデメリットも無しに強大で破滅的な力を扱えると言うわけだ。
 王龍は概念から生まれたものか、あるいは竜が進化して王龍となるかの二種類があるようだが、「ヴァナ・ファキナ」曰く、彼自身はどちらにも当て嵌まらないらしい。杉原ではなく私に憑依してくれればもっと自由に研究できるのだが。
             Chaos社ロシア支部長・技術所長
                       来須 月香
 ―――……―――
「王龍……なるほどねえ。次元門なんてオカルトがある以上、こいつら実在する存在なんだろうな」
 レイヴンは合点がいったように頷いて、またデスクに放り投げようとしたとき、アーシャが目の前にいた。
「どうした、何かあったか」
「これを」
 アーシャが手渡したのは、謎の物体で出来た白い棒だった。レイヴンがそれを手に取ると、青い粒子が集まって画面を映し出す。
「なんだこれ」
「ピーディーエーと言うらしいです。記録媒体のようですけど、鍵がかかっていて」
「そうなのか?普通に使えるけどな」
 レイヴンはPDAを操作し、気になるファイルを開く。
「『次元門について』。これだな」

 ―――……―――
 次元門について
 次元間横断裂亜空門(通称:次元門)は、世界同士の狭間に存在する他動的空間領域で、純シフルによって満たされたトンネルのようなものだ。
 バロン・クロザキが作り上げたDAAは、エクスカリバーに込められた闘気を動力として、いくつかの世界の住所を特定し、そこまでの次元門を開ける装置で、これにより相互な干渉を可能としている。
 私自身は次元門の研究については素人だが、ここに次元門の特徴を述べる。
 まず一つ、繋げる世界同士の時間が同一でなく、その中間にある次元門自体も、異なる時間を進んでいる。
 二つ、次元門そのものに漂っている存在もいるため、急襲を受ける可能性がある。
 三つ、転送中の事故は予防困難であり、またそれによって座標がずれた場合、外部からは助けられない。
 DAAは膨大な闘気を活用しているために、安定して次元門を繋げられるが、それ以外の方法で無理矢理抉じ開けるのは……今後の研究を待つべきである。
 Chaos社ロシア支部長・技術所長
                       来須 月香

 ―――……―――
「だとよ。かなりヤバい代物だな」
 レイヴンの気の抜けた感想を、ロータが受ける。
「シフル……シフルって何……」
 アーシャが口を挟む。
「闘気が関係あるような表記ですよね。兄上が言っていたのですが、魔力と闘気は同質で、その変換の途中に魔力でも闘気でもない、無の状態が存在するらしいです。もしかすると、シフルって言うのはその無の状態の闘気のことなんじゃ」
「ふーん、まあそういうことかねえ」
 レイヴンはPDAをスリープさせると、立ち上がる。
「充分だろ、これくらい持って帰れば。理事長サマは特定の何かを持ってこいって言った訳じゃないしな」
 と、レイヴンが部屋から出ようとしたとき、突然周囲が明るくなる。そして各通路に隔壁が降り、特定の道しか進めなくなっていた。三人は警戒しつつも、他に手がないため道なりに進んだ。そして一際巨大な隔壁の先に進むと、開けた空間へ出た。
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