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三千世界・竜乱(2)
後編 第十六話
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大灯台・外周
封印箱の面影は微塵もなく、余りにも大きな摩天楼が荘厳な雰囲気を持って鎮座している。
「入り口どこー!?」
ホシヒメが開口一番叫ぶ。大灯台の地表部分には、入り口らしきものはない。しかし、円形のフロアが地表に現れている。
「あれに乗るんとちゃうんか」
ルクレツィアが指差し、ネロが躊躇なくそれに乗る。すると、青い光を放ってフロアが降下し始める。
「うお!動いたぜ!乗れー!」
ネロのじたばたを合図に、四人は飛び乗る。
大灯台・地下層
どんどんフロアが下がっていき、陽の光が遠退くほどに視界が黒に潰されていく。
「ちょっと、これ見えなくなーい!?」
「俺に任せろ!」
ネロが自分の体に雷を這わせる。周囲が僅かに照らされる。内部は石造りのようで、所々苔むしている。足元は水浸しで、柱の上部は凍りついている。
「如何にもな景色だね」
ノウンが壁に手を当てつつ呟く。
「どうやって上に上がるかだが」
「簡単だよ、ゼル!」
「どういうことだ、ホシヒメ」
ホシヒメは迷いなく前進していく。ネロが焦り気味にそれに追随する。
「ちょちょちょ!どこに行くってんだ!」
「決まってるよ!悩む暇があったら歩く!んでもって仕掛けがあったらぶっ壊す!」
「なるほどな!いいノリだぜ!んなら……」
ネロが竜化して放電する。配置された雷球がふわふわと浮かび、地下層全体を照らし出す。
「よし!これでぶっ壊せるぜ!」
「おっけー!」
ホシヒメがフロアの四隅にある扉の内、南西の扉へ突撃し、扉を破壊する。ネロは竜化を解き、四人がホシヒメのあとに続く。
その部屋は奥行きが大きく、横幅が小さい。
「これもしかしてさ、死都と同じパターンじゃない?」
目の前に群がるモンスターと、奥に見える仕掛けらしき祭壇から感じるエネルギーは同じだった。
「みんな散開!他の部屋をお願い!」
ホシヒメの一声で、四人はばらける。
「よーし、肩慣らしってことだよね!せいっ!」
襲いかかってきた大剣を持つ獣人モンスターの牙を左パンチでへし折り、怯んだところを右腕で掴んで叩きつけ、消滅させる。空中に舞う大剣を手に取り、自分を軸にグルグル回転して周囲の同型モンスターを木っ端微塵にする。モンスターが全滅すると、室内が明るくなる。それに気付いたホシヒメは大剣を放り投げ、部屋から出る。他の四人もほぼ同時に終わったようで、全員が同じ場所に出た。中央に巨大な光が点っており、その先には新たなフロアが見える。
「これで先に行けるっちゅうことか」
「しかし高い塔だな。伝承では知っていたが、まさか実在するとは」
ゼルとルクレツィアが慎重に調べようとしていると、ホシヒメは躊躇なく突っ込む。
「ゴーゴー!」
ホシヒメはノウンを引っ張りながら、ネロと共にハイテンションで光へ入る。二人も仕方なく、それに従う。
大灯台・下層
光の先は、地下層と違って明るい、そして地下とは全く異なる構造をしていた。塔の内壁に沿って、延々と階段が続いている。
「ひょえ~!これ竜化して飛んでいった方が早くない?」
「いや……」
「ん?どったのノウン」
「ほら見て、ホシヒメ」
ノウンは階段を指差す。そこには赤く光る奇妙なモンスターがいる。続けて階段の先にある赤い障壁を指差す。
「たぶんあのモンスターとあのバリアは連動してるんじゃないかな。ホシヒメが何も考えずに突っ込んでたら頭を強打して落っこちてたよ」
「ほうほう!つまりはあのモンスターをぶん殴ればいいんだね!」
「まあ……そういうことなんだけどさ」
ホシヒメが駆け出すと、待っていたように騎士型のモンスターが2体突っ込んでくるが、槍を上手く躱されて抱え込まれ、2体を互いに激突させて砕け散る。なおも複数の騎士型モンスターが現れるが、ネロの雷で動きを止められ、ゼルのガンブレードをまともに受けて爆散する。赤い障壁の前にいる赤いモンスターの前に着くと、ホシヒメはすぐ戦闘を開始する。赤いモンスターは先程の騎士型モンスターに盾を持たせた、安易な強化版だった。モンスターもホシヒメを見るなり直ぐ様戦闘態勢に入り、凄まじい速度で切りかかる。しかし、ホシヒメの右腕に軽く往なされ、そのまま首を掴まれて左腕で雑な連打を受け砕け散る。赤い障壁は砕け、長い長い階段が姿を現す。
「よし、次へゴー!」
ホシヒメはすぐに走り出す。
大灯台・中層
階段を駆け上がるが、一行に頂上は見えない。
「うん!竜化しよう!」
ホシヒメはそう叫ぶと、竜化して灯台内部を飛び上がる。が、途中で黄色い障壁に激突して落ちる。竜化を解くと、目の前に黒い体に黄色のラインが入った猿のようなモンスターが座している。そのモンスターもホシヒメを見るなり飛びかかり、またも右腕の一撃で沈む。障壁が壊れ、またホシヒメは飛び上がる。
大灯台・上層
ホシヒメが限界まで飛び上がると、祭壇のようなフロアに辿り着く。竜化を解き、他の四人の到着を待つ。ほどなく四人が到着し、祭壇を見る。
「なんだろこれ」
ホシヒメの問いに、ゼルが答える。
「それこそお前の言うように、取り敢えず起動させればいいんじゃないのか」
「それもそっかぁ!えいっ!」
ホシヒメの右腕の一撃で祭壇は粉々になり、階段への道が現れる。
「だいぶ登った思ったけど、まだ上があるんか」
ルクレツィアが毒づく。
「いや、これで最後だろ、たぶん」
ネロの呟きと共に、一行は階段を上がる。
大灯台・最上層
階段を登り終えると、青空が広がる最上層へ出た。その中央に、アカツキが居た。
「アカツキ!ようやく辿り着いたよ!」
「やっと来たか。遅かったな。もうパーシュパタの封印は解かれ、俺の力となった」
「構わないよ。私は、君と、パーシュパタとも友達になるためにここまで来たんだから!」
「まだそんなことを抜かしているのか。俺は貴様と友達になど絶対にならない」
「いやいやいや!私とこんなにそっくりなんだもん、絶対にわかりあえるはずだって!」
「もう貴様と話しても何も得るものはない!構えろ!」
「行くよ!」
「来い!」
二人は一歩踏み出し、ホシヒメは光を纏った拳を放つ。完全に想定外の攻撃に、アカツキは一切対処が追い付かずに直撃を受けて凄まじく吹っ飛ぶ。
「ぐふっ……バカな、何が……」
「えへへ、これが私の思いだよ!どんなわからず屋にも、闘気の持つ全霊の力で私の思いを届けるの!」
「おのれ、この程度で……!」
アカツキの高速のパンチを平然と右腕で受け止め、満面の笑みを咲かす。
「ぐっ……貴様、なぜそんな……」
「ワクワクするんだよ、これから起こる全てのことにさあ!」
左腕でアカツキを怯ませ、右拳で胸に渾身のパンチを叩き込む。
「君の本当の使命はパーシュパタを復活させることなんでしょ?それが何かのせいで、Chaos社だっけ?そんなよくわかんないもののために戦うって言う風にねじ曲げられてる」
「なんだと!?」
「だって、今こうやって戦うのが何よりの証拠じゃん!本当なら、君はどっちかの使命を忘れてるはずだよ」
「……!そうだ、俺は……」
アカツキが立ち上がる。
「俺はパーシュパタの復活のために動いていたのに……どうしてここまで世界をボロボロに……」
「話してくれる?」
「ああ……」
アカツキは呼吸を整える。
「凶竜の王であるパーシュパタはアルメールの策略でアルマへの恨みを募らせ、そしてエリファスの事件に繋がった。
その戦いの末にパーシュパタは封印されてしまい、パーシュパタもアルマも、互いに非はないのに争い合い、殺し合ってしまった。
パーシュパタは元々、アルマに勝つために復活しようとしていた。しかしな、俺たち凶竜を使って知った真実から、アルメールへ攻撃するために復活しようとしていたんだ。だが……!?」
その瞬間、アカツキの左胸から闘気の刀が現れ、鮮やかな赤がホシヒメへ吹きかかる。
「だがエターナルオリジンから転送されたデータに貴様が侵され、メルギウスはアルメールの享楽の毒牙に晒され、この世界そのものがChaos社の実験場になった」
刀は引き抜かれ、アカツキが力なく倒れる。そして背後から、見慣れた竜人が現れる。崩れるアカツキをホシヒメは咄嗟に受け止める。
「ゼロ君!?なんで……今アカツキとも分かり合えそうだったのに!」
ゼロは刀を納める。ホシヒメは闘気でアカツキの傷を塞ぐ。
「くっ……ゼロ、貴様……俺の中からパーシュパタが消えた……何をした……!」
「俺の糧としただけだ。アカツキ、貴様は俺の糧にするにも値しない。ホシヒメの仲間と共にこの戦いを見ているがいい」
「ふざけるな……」
立ち上がろうとするアカツキを、ホシヒメは止める。
「アカツキ」
「離せホシヒメ!俺はこいつを……うぐっ!?」
アカツキが動こうとするとゼロが繰り出す光の剣にそっくりな刃が先程の傷口だった場所から突き出る。
「アカツキ、私が戦うから」
「ホシヒメ……」
「任せてよ。私ゼロ君とは何回も戦ってるから!」
「くっ……」
アカツキは悔しさを滲ませつつ意識を失う。ホシヒメは横抱きにしてゼルのところへアカツキを運ぶ。
「ゼル、アカツキをお願い」
「一人で戦うのか」
「うん。だって、ゼロ君は私と戦いたいんだから」
「わかった。俺はお前が勝つとわかっている。だから何も言わない」
「任せてよ」
ホシヒメはノウンたちに目を向ける。
「もう誰が原因だとか、そんなことはどうでもいい。ホシヒメ、目の前にある戦いに、全力で挑むんだ」
「正直言えばウチがゼロ兄と戦いたいところやけど、たぶんウチは一太刀触れることすらできへん。ホシヒメ。ウチの分も頼んだで」
「俺はあんまり役に立ててねえけどよ、応援くらいはするぜ!全力で勝ちに行け、ホシヒメ!」
ホシヒメは大きく頷き、ゼロの前に戻る。
「クラエス。この世界を覆い尽くす黒の瘴気の正体を知っているか。これはChaos社が生み出した細菌兵器、E-ウィルスだ。俺はガイアやエリファスを通じ、この世界を巡った陰謀のすべてを知った。帝都竜神アルメールこそが、この世を狂乱に導いた張本人だとな」
「どういうこと?」
「メルギウスを誑かしたのも、E-ウィルスを持ち込んだのも、パーシュパタをアルマへ差し向けたのも、すべてアイツだ」
「そんな……」
「だが俺は、もはやそんなことはどうでもいい。俺に与えられた使命もな。俺は貴様を倒し、更なる力を手に入れる」
ゼロは刀を抜刀する。
「君の使命は……?」
「俺はこの大灯台の頂上に、貴様らを古代世界……即ちChaos社の総本山がある世界へ行かせるための次元門を開く」
「次元門……」
「だが、そんなものは俺と貴様の戦いに不要だ。クラエス、俺を殺す気で来い。友であることと、戦いへの手加減は別の問題だ」
「うん、わかってるよ。君とはわかり合ってる。でも私と戦い続けることが、君の意志だと言うのなら―――全力全霊で相手するよ!」
ゼロがほぼ無動作で空間の歪みを放ち、ホシヒメは寸前で躱す。光速でゼロに近付き、右腕で攻撃する。しかし当然のように刀の柄で弾かれ、反撃に肉厚の氷剣が放たれる。左腕で破壊し、続いてゼロの闘気を纏った拳が右頬に直撃し、吹き飛ぶ。ゼロはホシヒメの上に光速移動し、刀を振り下ろす。ホシヒメは咄嗟に跳ね起きて躱し、着地した一瞬の隙に右パンチを抉り込む。全く動じないゼロは刀を振り上げ、ホシヒメを打ち上げる。そこに続けて光の剣を連射し、ホシヒメは空中で右腕を振るい、跳ね返す。しかしホシヒメを取り囲むように生まれた光の剣が一気に突き刺さり、ホシヒメは落下し崩れる。光の剣の力で膝を折ったままのホシヒメにゼロは光の剣で取り囲み、次々に発射する。そして続けて刀を突き刺し、氷剣で突き飛ばし、闘気を纏った拳で打ち上げ空間の歪みを瞬時に放ってホシヒメを吹き飛ばす。続くゼロの刀の攻撃を体の自由を取り戻したホシヒメが右腕で受け止める。
「初めを思い出すな」
「あの時はゼロ君の方が強かったけどさ、今なら……!」
「それはどうかな」
ゼロが身を引くと、ホシヒメの頭上から無数の光の剣が降り注ぐ。ホシヒメは瞬時に躱し、ゼロへ突っ込む。拳を捩じ込むが刀に弾かれ、もう一度拳を捩じ込み、右腕の渾身の一撃でガードを突破し、刀と幾度か打ち合い、ゼロがホシヒメの腹に刀を突き刺そうとして止め、代わりに氷剣を突き立てようとするが、それを弾き返して右腕でゼロの首を掴み、叩き伏せる。そして竜の形の闘気を左腕に纏わせ、強烈なアッパーをゼロに叩き込む。吹き飛んだゼロは体勢を立て直す。
「ふん、流石に光となった闘気は俺でも手こずるか」
「それだけじゃないよ。私の右腕には、この世界の全部が、私たちの全部が入ってるんだから!」
「ならば……俺も本気で行こう!」
ゼロが闘気を放つ。
「俺たち竜王種は元々竜化しているようなものだが、だが俺は竜王種の限界を越える!」
闘気の輝きが蒼に代わり、ゼロが竜化する。ゼロの頭身はそのままに本物の翼が生え、蒼い闘気がジェット噴射のように体から噴出する。
「それが君の竜化……!」
「覚悟を決めろ、クラエス!」
後ろに飛び退いたゼロが身を引き、夥しい量の空間の歪みを放つ。それと共に弾幕もかくやと言わんばかりの凄まじい光の剣がホシヒメの退路を潰すように連射される。そしてゼロは二戦目の時のように二つの分身を生み出し、それが別々に動きながら、その弾幕を濃くしていく。
「(くぅっ……闘気から流れてくる殺意がすごい!)」
本体は接近してこず、分身と弾幕が乱れ飛ぶ。飛んできた光の剣の一本をやってくる分身の一体に突き刺し、そのままもう一体の分身と激突させる。ホシヒメが着地した瞬間、ゼロが突進と共にホシヒメを切り裂く。と同時に光の剣が突き刺さり、爆発する。ゼロの追撃の瞬間、ホシヒメは竜化する。だがそれは帝都での竜化と違い、竜王種のような竜人形態だった。そして追撃を真正面から受け止める。
「貴様もそうなれるとはな」
「なんか思い付きでさ。君が今さっき急にパンチとか使ってきたじゃん、そういうのと同じだよ」
ゼロはホシヒメを頭突きで離し、光の剣で追撃し、身を引いて闘気を集中させる。
「ここで塵と化せ」
そして渾身の抜刀を放つ。空間が切られたガラスのように切り刻まれ、そのあと光が切り裂かれた空間から乱れ飛ぶ。納刀と共に空間は元に戻る。
「これが終わりだ」
ホシヒメはふらついて、後ろに倒れる―――寸前でこらえる。
「へへへ……こんなに楽しいのにもう終わっちゃうなんて、納得できないよ」
「それでこそだ。何度でも切り刻んでやる」
「行くよ!どんな困難だって一発逆転!行くぜ超速トルネード!ぶち抜けマジドリル!せーのっ、〈ギガマキシマムドライバー〉!」
ホシヒメの右腕に凄まじい闘気が逆巻く。光へと変わるその闘気の渦に、ゼロは渾身の一太刀を叩きつける。
「ぬうっ……!」
「ぶち抜けえ!」
どんどん勢いを増していく闘気が、ゼロの刀を押し退けて行く。
「まだだ!」
ゼロの背から四つの翼腕を生やし、その一つ一つに刀を作り出す。そしてそれぞれから光の刃を放つ。が、ホシヒメの勢いを潰すことは出来ず、全ての刀が折られる。
「ちいっ!」
ゼロは翼腕を全て拳に纏わせ、ホシヒメと真正面からぶつかる。
「うりゃあああああああああッ!!!!!」
「おおおおおおおおおおッ!!!!!」
二人の闘気が衝突して凄まじい閃光を放つ。と同時に、天空に巨大な亜空間が生まれる。
閃光が収まると、互いの竜化が解けていた。ゼロは直ぐ様刀を生み出し、それを支えに立ち上がる。
「勝負はここからだ……と言いたいところだが」
ゼロは亜空間を見上げた後、周囲を見渡す。大灯台の縁から、無数のプレタモリオンが這い上がってくる。
「戦いの妨害をされるのは不愉快だ。貴様は仲間が無事でないと全力が出せんだろうからな」
「ゼロ君……」
「あの次元門は古代世界に繋がっている。この世界からE-ウィルスを取り除く方法も、あちらにしかあるまい。早く行け」
「ゼロ君はどうするの?」
「見てわからんか?貴様らが次元門を通りすぎるまで守ってやると言っているんだ」
「……。死んじゃダメだからね!」
ゼロはホシヒメの方を見ず、プレタモリオンを切り刻んでいく。ホシヒメはゼルたちのところへ戻る。
「みんな!あの次元門?とか言うのに入って古代世界まで行こう!」
四人は頷く。
「ゼル、アカツキをお願い!」
五人は次元門に飛び込むと同時に、ゼロが斬撃で次元門を閉じる。
「行ったか」
ゼロは周りを見る。
「雑魚がどれだけ集まろうが知ったことではないが……楽しませてもらおうか」
蒼い粒子がプレタモリオンを消し炭にして、空間の歪みが光に変わって粉々に引き裂く。それを俯瞰するように、灰色の蝶が舞っていた。
封印箱の面影は微塵もなく、余りにも大きな摩天楼が荘厳な雰囲気を持って鎮座している。
「入り口どこー!?」
ホシヒメが開口一番叫ぶ。大灯台の地表部分には、入り口らしきものはない。しかし、円形のフロアが地表に現れている。
「あれに乗るんとちゃうんか」
ルクレツィアが指差し、ネロが躊躇なくそれに乗る。すると、青い光を放ってフロアが降下し始める。
「うお!動いたぜ!乗れー!」
ネロのじたばたを合図に、四人は飛び乗る。
大灯台・地下層
どんどんフロアが下がっていき、陽の光が遠退くほどに視界が黒に潰されていく。
「ちょっと、これ見えなくなーい!?」
「俺に任せろ!」
ネロが自分の体に雷を這わせる。周囲が僅かに照らされる。内部は石造りのようで、所々苔むしている。足元は水浸しで、柱の上部は凍りついている。
「如何にもな景色だね」
ノウンが壁に手を当てつつ呟く。
「どうやって上に上がるかだが」
「簡単だよ、ゼル!」
「どういうことだ、ホシヒメ」
ホシヒメは迷いなく前進していく。ネロが焦り気味にそれに追随する。
「ちょちょちょ!どこに行くってんだ!」
「決まってるよ!悩む暇があったら歩く!んでもって仕掛けがあったらぶっ壊す!」
「なるほどな!いいノリだぜ!んなら……」
ネロが竜化して放電する。配置された雷球がふわふわと浮かび、地下層全体を照らし出す。
「よし!これでぶっ壊せるぜ!」
「おっけー!」
ホシヒメがフロアの四隅にある扉の内、南西の扉へ突撃し、扉を破壊する。ネロは竜化を解き、四人がホシヒメのあとに続く。
その部屋は奥行きが大きく、横幅が小さい。
「これもしかしてさ、死都と同じパターンじゃない?」
目の前に群がるモンスターと、奥に見える仕掛けらしき祭壇から感じるエネルギーは同じだった。
「みんな散開!他の部屋をお願い!」
ホシヒメの一声で、四人はばらける。
「よーし、肩慣らしってことだよね!せいっ!」
襲いかかってきた大剣を持つ獣人モンスターの牙を左パンチでへし折り、怯んだところを右腕で掴んで叩きつけ、消滅させる。空中に舞う大剣を手に取り、自分を軸にグルグル回転して周囲の同型モンスターを木っ端微塵にする。モンスターが全滅すると、室内が明るくなる。それに気付いたホシヒメは大剣を放り投げ、部屋から出る。他の四人もほぼ同時に終わったようで、全員が同じ場所に出た。中央に巨大な光が点っており、その先には新たなフロアが見える。
「これで先に行けるっちゅうことか」
「しかし高い塔だな。伝承では知っていたが、まさか実在するとは」
ゼルとルクレツィアが慎重に調べようとしていると、ホシヒメは躊躇なく突っ込む。
「ゴーゴー!」
ホシヒメはノウンを引っ張りながら、ネロと共にハイテンションで光へ入る。二人も仕方なく、それに従う。
大灯台・下層
光の先は、地下層と違って明るい、そして地下とは全く異なる構造をしていた。塔の内壁に沿って、延々と階段が続いている。
「ひょえ~!これ竜化して飛んでいった方が早くない?」
「いや……」
「ん?どったのノウン」
「ほら見て、ホシヒメ」
ノウンは階段を指差す。そこには赤く光る奇妙なモンスターがいる。続けて階段の先にある赤い障壁を指差す。
「たぶんあのモンスターとあのバリアは連動してるんじゃないかな。ホシヒメが何も考えずに突っ込んでたら頭を強打して落っこちてたよ」
「ほうほう!つまりはあのモンスターをぶん殴ればいいんだね!」
「まあ……そういうことなんだけどさ」
ホシヒメが駆け出すと、待っていたように騎士型のモンスターが2体突っ込んでくるが、槍を上手く躱されて抱え込まれ、2体を互いに激突させて砕け散る。なおも複数の騎士型モンスターが現れるが、ネロの雷で動きを止められ、ゼルのガンブレードをまともに受けて爆散する。赤い障壁の前にいる赤いモンスターの前に着くと、ホシヒメはすぐ戦闘を開始する。赤いモンスターは先程の騎士型モンスターに盾を持たせた、安易な強化版だった。モンスターもホシヒメを見るなり直ぐ様戦闘態勢に入り、凄まじい速度で切りかかる。しかし、ホシヒメの右腕に軽く往なされ、そのまま首を掴まれて左腕で雑な連打を受け砕け散る。赤い障壁は砕け、長い長い階段が姿を現す。
「よし、次へゴー!」
ホシヒメはすぐに走り出す。
大灯台・中層
階段を駆け上がるが、一行に頂上は見えない。
「うん!竜化しよう!」
ホシヒメはそう叫ぶと、竜化して灯台内部を飛び上がる。が、途中で黄色い障壁に激突して落ちる。竜化を解くと、目の前に黒い体に黄色のラインが入った猿のようなモンスターが座している。そのモンスターもホシヒメを見るなり飛びかかり、またも右腕の一撃で沈む。障壁が壊れ、またホシヒメは飛び上がる。
大灯台・上層
ホシヒメが限界まで飛び上がると、祭壇のようなフロアに辿り着く。竜化を解き、他の四人の到着を待つ。ほどなく四人が到着し、祭壇を見る。
「なんだろこれ」
ホシヒメの問いに、ゼルが答える。
「それこそお前の言うように、取り敢えず起動させればいいんじゃないのか」
「それもそっかぁ!えいっ!」
ホシヒメの右腕の一撃で祭壇は粉々になり、階段への道が現れる。
「だいぶ登った思ったけど、まだ上があるんか」
ルクレツィアが毒づく。
「いや、これで最後だろ、たぶん」
ネロの呟きと共に、一行は階段を上がる。
大灯台・最上層
階段を登り終えると、青空が広がる最上層へ出た。その中央に、アカツキが居た。
「アカツキ!ようやく辿り着いたよ!」
「やっと来たか。遅かったな。もうパーシュパタの封印は解かれ、俺の力となった」
「構わないよ。私は、君と、パーシュパタとも友達になるためにここまで来たんだから!」
「まだそんなことを抜かしているのか。俺は貴様と友達になど絶対にならない」
「いやいやいや!私とこんなにそっくりなんだもん、絶対にわかりあえるはずだって!」
「もう貴様と話しても何も得るものはない!構えろ!」
「行くよ!」
「来い!」
二人は一歩踏み出し、ホシヒメは光を纏った拳を放つ。完全に想定外の攻撃に、アカツキは一切対処が追い付かずに直撃を受けて凄まじく吹っ飛ぶ。
「ぐふっ……バカな、何が……」
「えへへ、これが私の思いだよ!どんなわからず屋にも、闘気の持つ全霊の力で私の思いを届けるの!」
「おのれ、この程度で……!」
アカツキの高速のパンチを平然と右腕で受け止め、満面の笑みを咲かす。
「ぐっ……貴様、なぜそんな……」
「ワクワクするんだよ、これから起こる全てのことにさあ!」
左腕でアカツキを怯ませ、右拳で胸に渾身のパンチを叩き込む。
「君の本当の使命はパーシュパタを復活させることなんでしょ?それが何かのせいで、Chaos社だっけ?そんなよくわかんないもののために戦うって言う風にねじ曲げられてる」
「なんだと!?」
「だって、今こうやって戦うのが何よりの証拠じゃん!本当なら、君はどっちかの使命を忘れてるはずだよ」
「……!そうだ、俺は……」
アカツキが立ち上がる。
「俺はパーシュパタの復活のために動いていたのに……どうしてここまで世界をボロボロに……」
「話してくれる?」
「ああ……」
アカツキは呼吸を整える。
「凶竜の王であるパーシュパタはアルメールの策略でアルマへの恨みを募らせ、そしてエリファスの事件に繋がった。
その戦いの末にパーシュパタは封印されてしまい、パーシュパタもアルマも、互いに非はないのに争い合い、殺し合ってしまった。
パーシュパタは元々、アルマに勝つために復活しようとしていた。しかしな、俺たち凶竜を使って知った真実から、アルメールへ攻撃するために復活しようとしていたんだ。だが……!?」
その瞬間、アカツキの左胸から闘気の刀が現れ、鮮やかな赤がホシヒメへ吹きかかる。
「だがエターナルオリジンから転送されたデータに貴様が侵され、メルギウスはアルメールの享楽の毒牙に晒され、この世界そのものがChaos社の実験場になった」
刀は引き抜かれ、アカツキが力なく倒れる。そして背後から、見慣れた竜人が現れる。崩れるアカツキをホシヒメは咄嗟に受け止める。
「ゼロ君!?なんで……今アカツキとも分かり合えそうだったのに!」
ゼロは刀を納める。ホシヒメは闘気でアカツキの傷を塞ぐ。
「くっ……ゼロ、貴様……俺の中からパーシュパタが消えた……何をした……!」
「俺の糧としただけだ。アカツキ、貴様は俺の糧にするにも値しない。ホシヒメの仲間と共にこの戦いを見ているがいい」
「ふざけるな……」
立ち上がろうとするアカツキを、ホシヒメは止める。
「アカツキ」
「離せホシヒメ!俺はこいつを……うぐっ!?」
アカツキが動こうとするとゼロが繰り出す光の剣にそっくりな刃が先程の傷口だった場所から突き出る。
「アカツキ、私が戦うから」
「ホシヒメ……」
「任せてよ。私ゼロ君とは何回も戦ってるから!」
「くっ……」
アカツキは悔しさを滲ませつつ意識を失う。ホシヒメは横抱きにしてゼルのところへアカツキを運ぶ。
「ゼル、アカツキをお願い」
「一人で戦うのか」
「うん。だって、ゼロ君は私と戦いたいんだから」
「わかった。俺はお前が勝つとわかっている。だから何も言わない」
「任せてよ」
ホシヒメはノウンたちに目を向ける。
「もう誰が原因だとか、そんなことはどうでもいい。ホシヒメ、目の前にある戦いに、全力で挑むんだ」
「正直言えばウチがゼロ兄と戦いたいところやけど、たぶんウチは一太刀触れることすらできへん。ホシヒメ。ウチの分も頼んだで」
「俺はあんまり役に立ててねえけどよ、応援くらいはするぜ!全力で勝ちに行け、ホシヒメ!」
ホシヒメは大きく頷き、ゼロの前に戻る。
「クラエス。この世界を覆い尽くす黒の瘴気の正体を知っているか。これはChaos社が生み出した細菌兵器、E-ウィルスだ。俺はガイアやエリファスを通じ、この世界を巡った陰謀のすべてを知った。帝都竜神アルメールこそが、この世を狂乱に導いた張本人だとな」
「どういうこと?」
「メルギウスを誑かしたのも、E-ウィルスを持ち込んだのも、パーシュパタをアルマへ差し向けたのも、すべてアイツだ」
「そんな……」
「だが俺は、もはやそんなことはどうでもいい。俺に与えられた使命もな。俺は貴様を倒し、更なる力を手に入れる」
ゼロは刀を抜刀する。
「君の使命は……?」
「俺はこの大灯台の頂上に、貴様らを古代世界……即ちChaos社の総本山がある世界へ行かせるための次元門を開く」
「次元門……」
「だが、そんなものは俺と貴様の戦いに不要だ。クラエス、俺を殺す気で来い。友であることと、戦いへの手加減は別の問題だ」
「うん、わかってるよ。君とはわかり合ってる。でも私と戦い続けることが、君の意志だと言うのなら―――全力全霊で相手するよ!」
ゼロがほぼ無動作で空間の歪みを放ち、ホシヒメは寸前で躱す。光速でゼロに近付き、右腕で攻撃する。しかし当然のように刀の柄で弾かれ、反撃に肉厚の氷剣が放たれる。左腕で破壊し、続いてゼロの闘気を纏った拳が右頬に直撃し、吹き飛ぶ。ゼロはホシヒメの上に光速移動し、刀を振り下ろす。ホシヒメは咄嗟に跳ね起きて躱し、着地した一瞬の隙に右パンチを抉り込む。全く動じないゼロは刀を振り上げ、ホシヒメを打ち上げる。そこに続けて光の剣を連射し、ホシヒメは空中で右腕を振るい、跳ね返す。しかしホシヒメを取り囲むように生まれた光の剣が一気に突き刺さり、ホシヒメは落下し崩れる。光の剣の力で膝を折ったままのホシヒメにゼロは光の剣で取り囲み、次々に発射する。そして続けて刀を突き刺し、氷剣で突き飛ばし、闘気を纏った拳で打ち上げ空間の歪みを瞬時に放ってホシヒメを吹き飛ばす。続くゼロの刀の攻撃を体の自由を取り戻したホシヒメが右腕で受け止める。
「初めを思い出すな」
「あの時はゼロ君の方が強かったけどさ、今なら……!」
「それはどうかな」
ゼロが身を引くと、ホシヒメの頭上から無数の光の剣が降り注ぐ。ホシヒメは瞬時に躱し、ゼロへ突っ込む。拳を捩じ込むが刀に弾かれ、もう一度拳を捩じ込み、右腕の渾身の一撃でガードを突破し、刀と幾度か打ち合い、ゼロがホシヒメの腹に刀を突き刺そうとして止め、代わりに氷剣を突き立てようとするが、それを弾き返して右腕でゼロの首を掴み、叩き伏せる。そして竜の形の闘気を左腕に纏わせ、強烈なアッパーをゼロに叩き込む。吹き飛んだゼロは体勢を立て直す。
「ふん、流石に光となった闘気は俺でも手こずるか」
「それだけじゃないよ。私の右腕には、この世界の全部が、私たちの全部が入ってるんだから!」
「ならば……俺も本気で行こう!」
ゼロが闘気を放つ。
「俺たち竜王種は元々竜化しているようなものだが、だが俺は竜王種の限界を越える!」
闘気の輝きが蒼に代わり、ゼロが竜化する。ゼロの頭身はそのままに本物の翼が生え、蒼い闘気がジェット噴射のように体から噴出する。
「それが君の竜化……!」
「覚悟を決めろ、クラエス!」
後ろに飛び退いたゼロが身を引き、夥しい量の空間の歪みを放つ。それと共に弾幕もかくやと言わんばかりの凄まじい光の剣がホシヒメの退路を潰すように連射される。そしてゼロは二戦目の時のように二つの分身を生み出し、それが別々に動きながら、その弾幕を濃くしていく。
「(くぅっ……闘気から流れてくる殺意がすごい!)」
本体は接近してこず、分身と弾幕が乱れ飛ぶ。飛んできた光の剣の一本をやってくる分身の一体に突き刺し、そのままもう一体の分身と激突させる。ホシヒメが着地した瞬間、ゼロが突進と共にホシヒメを切り裂く。と同時に光の剣が突き刺さり、爆発する。ゼロの追撃の瞬間、ホシヒメは竜化する。だがそれは帝都での竜化と違い、竜王種のような竜人形態だった。そして追撃を真正面から受け止める。
「貴様もそうなれるとはな」
「なんか思い付きでさ。君が今さっき急にパンチとか使ってきたじゃん、そういうのと同じだよ」
ゼロはホシヒメを頭突きで離し、光の剣で追撃し、身を引いて闘気を集中させる。
「ここで塵と化せ」
そして渾身の抜刀を放つ。空間が切られたガラスのように切り刻まれ、そのあと光が切り裂かれた空間から乱れ飛ぶ。納刀と共に空間は元に戻る。
「これが終わりだ」
ホシヒメはふらついて、後ろに倒れる―――寸前でこらえる。
「へへへ……こんなに楽しいのにもう終わっちゃうなんて、納得できないよ」
「それでこそだ。何度でも切り刻んでやる」
「行くよ!どんな困難だって一発逆転!行くぜ超速トルネード!ぶち抜けマジドリル!せーのっ、〈ギガマキシマムドライバー〉!」
ホシヒメの右腕に凄まじい闘気が逆巻く。光へと変わるその闘気の渦に、ゼロは渾身の一太刀を叩きつける。
「ぬうっ……!」
「ぶち抜けえ!」
どんどん勢いを増していく闘気が、ゼロの刀を押し退けて行く。
「まだだ!」
ゼロの背から四つの翼腕を生やし、その一つ一つに刀を作り出す。そしてそれぞれから光の刃を放つ。が、ホシヒメの勢いを潰すことは出来ず、全ての刀が折られる。
「ちいっ!」
ゼロは翼腕を全て拳に纏わせ、ホシヒメと真正面からぶつかる。
「うりゃあああああああああッ!!!!!」
「おおおおおおおおおおッ!!!!!」
二人の闘気が衝突して凄まじい閃光を放つ。と同時に、天空に巨大な亜空間が生まれる。
閃光が収まると、互いの竜化が解けていた。ゼロは直ぐ様刀を生み出し、それを支えに立ち上がる。
「勝負はここからだ……と言いたいところだが」
ゼロは亜空間を見上げた後、周囲を見渡す。大灯台の縁から、無数のプレタモリオンが這い上がってくる。
「戦いの妨害をされるのは不愉快だ。貴様は仲間が無事でないと全力が出せんだろうからな」
「ゼロ君……」
「あの次元門は古代世界に繋がっている。この世界からE-ウィルスを取り除く方法も、あちらにしかあるまい。早く行け」
「ゼロ君はどうするの?」
「見てわからんか?貴様らが次元門を通りすぎるまで守ってやると言っているんだ」
「……。死んじゃダメだからね!」
ゼロはホシヒメの方を見ず、プレタモリオンを切り刻んでいく。ホシヒメはゼルたちのところへ戻る。
「みんな!あの次元門?とか言うのに入って古代世界まで行こう!」
四人は頷く。
「ゼル、アカツキをお願い!」
五人は次元門に飛び込むと同時に、ゼロが斬撃で次元門を閉じる。
「行ったか」
ゼロは周りを見る。
「雑魚がどれだけ集まろうが知ったことではないが……楽しませてもらおうか」
蒼い粒子がプレタモリオンを消し炭にして、空間の歪みが光に変わって粉々に引き裂く。それを俯瞰するように、灰色の蝶が舞っていた。
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