48 / 568
三千世界・竜乱(2)
後編 第二話
しおりを挟む
土の都・ガイア 港
船が停泊すると、五人は桟橋を渡っていく。
「正面突破となると、最初から全力で行く必要があるか」
ゼルが呟く。
「アルマと戦うためにホシヒメは温存しておくべきだよ」
ノウンが答える。
「政府首都がこちらを警戒するのは明白だしな……だが、ここまで来れば退けない。ルクレツィア、ネロ。ホシヒメのための露払いをお願いできるか」
ルクレツィアは刀を少し抜いて不気味な笑みを浮かべる。ネロはどこから持ってきたのか卑猥な雑誌を読んでにやけていた。
「あーなんか、凶竜ってやべえ集団だな」
ゼルは真顔になってノウンへ向く。
「いや僕は違うからね!?と、ともかく。アルマの下へ辿り着くまでに出てくる雑魚は僕たちとルクレツィアたちで倒そう。ホシヒメもわかった?」
虚空を見つめて呆けていたホシヒメは驚いて飛び上がる。
「え、なにノウン」
「うん、話聞いてね?」
ホシヒメに呆れつつも、ノウンは一通り話直す。
「おっけーおっけー!任せてよ!なんか力が漲ってるからさ、あのおじさんだって倒しちゃうよ!」
満面の笑みで親指をグッと立てる。
「ほんとに大丈夫かな……」
かなりの強行軍に一抹の不安を覚えながら、一行は海岸沿いにアケリア交商道を目指していく。
アケリア交商道
政府首都の兵士が政府首都と遠霧の森の周辺に大量に駐留していた。
「思ったよりも数が多いな……これは中央突破は……っておい!?」
ゼルが岩影から様子を窺っていると、ルクレツィアが飛び出す。
「いやあ、殺してええんやろ?」
ルクレツィアは兵士が構え放つアサルトライフルの弾幕をさも当然のように刀で撃ち落としながら、次々と兵士を斬り倒していく。
「なんか予定と違うけど、まあいいや!行くよ、ホシヒメ、ネロ!」
ノウンが促し、四人で飛び出す。ルクレツィアは闘気を放ち、刀で自分の腹を刺す。すると傷口が結晶化し、ルクレツィアは竜化する。黒色のスリムな竜になったルクレツィアの体には、結晶の鋭いヒレが並んでいた。ルクレツィアは前足を地面に叩きつけると、四人の進む道を確保するように地面から結晶を隆起させる。ノウンがルクレツィアの方へ目を向けると、ルクレツィアは狂ったように笑いながら大群の兵士を相手にしていた。
「まあ、ルクレツィアらしいと言えばらしいけど……」
ノウンは前を向きながら呟いた。
政府首都アルマ
街の中は誰も居らず、建造物はすべて障壁が張られていた。
「都庁に向かうだけだね」
ホシヒメは上を見上げて引き締まった表情をする。
「ここから逃げたのが遠い昔のように感じるが、まだ二日しか経ってないのか。少し急ぎすぎたか?」
「そんなことないよ、ゼル。何が起きるかわからないから、早めに決着をつける。作戦としては大いにありだよ」
話していた二人に、ホシヒメが割り込む。
「何を企んでるのか、全部話してもらわないとねっ!ってことで、ゴー!」
騒ぎながら、ホシヒメは突っ込んでいく。
政府首都アルマ 行政都庁
ガラスの大きな自動ドアが開き、シャンデリアが照らすロビーへ出る。受付は空で、調度品の反射する光と穏やかな音楽が、虚しく館内に響き渡る。
「すごい」
ホシヒメは驚きの声を漏らす。ネロ以外の二人も、それに賛同するように驚嘆していた。
「さすが政府首都の行政都庁って感じだね」
「エレベーターが使えるか見に行くぞ」
受付を通り過ぎ、巨大な柱の合間を縫っていくと七つ並んだエレベーターの前に辿り着いた。上矢印のボタンを押すと、点灯する。
「意外だな。まさか機能してるとは」
「まあ、そうだろうな」
エレベーターに乗り込みながら、ネロはゼルの言葉に反応する。
「どういうことだ?」
「行政都庁は、四つの区画に別れてる。このエレベーターで行けるのは、その四つの区画の橋渡しになる場所までだ。つまり、待ち構えるならロビーじゃなくて、広いそこで戦えばいいってことさ」
「この先、移動手段がちゃんとあるとは限らないってことか」
「それもねえだろうがな。あくまでも、この詔を集める贖罪の旅はホシヒメに力をつけさせるためにあるはずだぜ。ここで時間を食わせて、失敗するリスクを増やしてどうする」
エレベーターが動き始め、しばしの間重力を感じる。気味のいい機械音と共にエレベーターは停止し、ドアが開く。二枚のガラス張りの自動ドアを抜けると、四つの塔を連結する、円形のフロアへ出た。白と灰色で装飾されたそこは、雲1つない青を写し取っていた。
「真っ直ぐ行けばアルマの居る区画だぜ」
ネロがそう言うと、一行は歩き始める。丁度中央に達した辺りで、四人は立ち止まる。
「感じたことある気配がするんだけど」
ホシヒメが呟く。
「同感だ。それ以外のやつもあるが」
ゼルがガンブレードを引き抜く。同時に、三本のナイフが飛んでくる。刀身を盾に、ゼルはそれを受けきる。そして目の前から、見慣れた黒いコートの男が現れる。
「あー……メルギウスかぁ……」
ホシヒメは露骨にがっかりする。メルギウスはそれには一切触れず、仰々しく礼をした。
「ようこそ皆さん。政府首都アルマへ。ドランゴからここまで船と徒歩でこの速度とは……いやはや、若者の健脚には驚かされる」
「悪ぃ、メルギウス。今日はてめえの茶番に付き合ってる場合じゃないんだわ」
話を遮って、ネロが前に出る。
「おや、あなたがいるとは珍しい。誰かと思えば、デリヘルお兄さんじゃないですか」
「お前の相手はこの俺だ。ピターとマータの命、ちゃんと償ってもらうぜ」
メルギウスから薄ら笑いが消える。
「まだそんな昔のことを。凶竜は使命に従えば長命なのですから、苦しい記憶は忘れた方が生きやすいですよ」
「ふん、よく言うぜ。俺のことをわざわざ見つけ出して友達を殺しといてな」
ネロはホシヒメたちへ振り返る。
「先に行け。俺はこいつをぶちのめす」
「うん、わかった。気をつけてね」
三人は事情を察して、それ以上詮索せずに駆けた。
「なぜ俺がエターナルオリジンを守るなんていうことをやってたかわかるか」
「いいえ全く。私は過ぎたことは振り返らないし、私のせいで起きた如何な不利益も、私自身の使命に影響がないなら知らない」
「てめえが俺から全部奪ったからだよ。ルーやてめえのように、暗殺で飯を食う凶竜は少なくねえ。そして、凶竜はみんなそんなもんだと思ってるやつも居る。てめえはそういう凶竜を嫌ってる金持ちに依頼を受けて、ここに住んでた凶竜を皆殺しにしやがった。俺はあの二人が助けてくれたお陰で生き延びたが……」
「ふん、馬鹿馬鹿しいですねえ、あなたは。なんのために凶竜は使命を持って生まれてくるか、ご存じでないようですね」
「なんだと」
「全ての凶竜は、始祖凶竜パーシュパタを復活させるために存在しているのです」
ネロは呆然とする。
「帝都竜神アルメールは、この世界の大半が竜と魚類で構成されていることを知っていた。故に、竜神種が海を、川を開拓していく内、魚類の居場所がなくなることを懸念していた。そこで、パーシュパタを騙し討ちにし、その力を使って魚を竜王種へと変えた。だが、悪いのは竜王種やアルメールではない。その種族のバランスをアルメールから告げられたにも関わらず、己を一切省みない竜神種に否がある。討たれたパーシュパタは、自らの死の原因となった竜神種に復讐するため、地の底で復活の時を待っているのです」
「てめえの言いたいことはわかった。だがそれと、アルマに住む凶竜を皆殺しにしたのは別だろうが」
「いいえ、違いませんよ」
「違わねえだろうが!」
ネロは右手から電撃を放つ。メルギウスはナイフを投げて電撃の方向を変える。
「違わない。何もね。凶竜というのは、パーシュパタのエネルギーを削って生まれてきている。使命を果たした場合に、生まれてくるよりも大きなエネルギーのリターンがあるから。しかし、君らのように使命を果たさぬ凶竜ばかりが蔓延っていてはパーシュパタはどうなる?」
「……!待てよ、まさかてめえ……!アカツキがぶっ壊れたのは、てめえの仕業か!?」
「おお、よくそこまで思考を跳躍できたねえ。正解だが。そう、私はChaos社と契約したのさ。ホシヒメ……竜神の皇女をあちらの世界に届ける代わりに、その計画の過程でパーシュパタを復活させられるようにね」
「てめえの……使命は……」
「私の使命ですか?それは異界の門を開くこと。始祖凶竜パーシュパタを使い、王龍ボーラスが封印されし世界へとこの世界を到達させること」
メルギウスは金の牙が並んだ棍棒を抜く。
「少しお喋りが過ぎましたかね。ともかく、あなたには死んでもらいましょう」
「ハッ、てめえに殺されるなんざ願い下げだぜ!」
帯電した槍を構え、二人は対峙する。ネロが接近し、先制の一突を放つ。メルギウスは大振りな棍棒を持っているとは思えない軽やかな動きで躱し、重い一撃をぶつける。金の牙が床を抉り、溢れた闘気が荒れ狂う。
「ちっ、んなそよ風で怯ませてるつもりかよ!」
ネロは空中を蹴り、メルギウスへ加速する。槍がメルギウスを掠り、反撃の一閃を槍を放棄して躱し、足で腕を絡めとり、そのまま体重をかけて押し倒す。メルギウスは力ずくでネロを放り投げ、ネロは飛ばされながら槍を回収する。
「クソッ、割とやるじゃねえか」
「私にその程度の攻撃が通用するとでも思っているのかな」
「ほざいてろ!」
ネロが踏み込み、雷を纏った槍を構えつつ加速する。メルギウスは棍棒を爆発させ、二本のダガーを取り出す。そしてダガーで槍を挟み込む。ダガーから涌き出る闘気と、迸る雷が火花を散らす。
「残念ですねえ……この程度ではお話になりません」
ネロは後転でダガーを蹴り飛ばし、次いで掌底を重ねる。それは両腕で止められ、右手、左手と拳を重ねられ、アッパーで吹き飛ぶ。体勢を立て直し、槍を投げつける。メルギウスは躱し、ダガーを引き抜き、バックジャンプしながらナイフを数本投げつける。拳圧でナイフを撃ち落とし、ネロは猛然と突進する。メルギウスの攻撃が当たる寸前に雷を足に纏わせて瞬間移動し槍を回収する。睨み殺すようなネロの視線を受けて、メルギウスは笑う。
「そんなに己の手で幕を下ろしたいか」
「何……?」
「ならば私が、終わらせてやる」
ダガーが独りでに浮遊し、メルギウスへ突き刺さる。
「光捨てし棘の王、絶望の闇に鮮烈なる火花を散らせ!竜化!」
メルギウスの体は白と黒と金の渦に呑まれて、一対の翼を持つ竜へと変貌する。
「ここで死ね、ネロ!」
全身に並んだ金の刺が輝きを纏って出力する。床に頭を叩きつけ、振り上げる。闘気の波が走り、ネロはそれを躱す。
「てめえがそう来るなら、俺だって!竜化!」
ネロは右手を握り締め、そこから蒼黒い光が迸る。蒼黒の竜には、所々仄暗く輝く青い棘が生えていた。翼はなく、宙に浮いている。
「止めを刺してやるよ、クソ野郎!」
雷球と闘気の波が激突し、激しく行政都庁を揺らす。
船が停泊すると、五人は桟橋を渡っていく。
「正面突破となると、最初から全力で行く必要があるか」
ゼルが呟く。
「アルマと戦うためにホシヒメは温存しておくべきだよ」
ノウンが答える。
「政府首都がこちらを警戒するのは明白だしな……だが、ここまで来れば退けない。ルクレツィア、ネロ。ホシヒメのための露払いをお願いできるか」
ルクレツィアは刀を少し抜いて不気味な笑みを浮かべる。ネロはどこから持ってきたのか卑猥な雑誌を読んでにやけていた。
「あーなんか、凶竜ってやべえ集団だな」
ゼルは真顔になってノウンへ向く。
「いや僕は違うからね!?と、ともかく。アルマの下へ辿り着くまでに出てくる雑魚は僕たちとルクレツィアたちで倒そう。ホシヒメもわかった?」
虚空を見つめて呆けていたホシヒメは驚いて飛び上がる。
「え、なにノウン」
「うん、話聞いてね?」
ホシヒメに呆れつつも、ノウンは一通り話直す。
「おっけーおっけー!任せてよ!なんか力が漲ってるからさ、あのおじさんだって倒しちゃうよ!」
満面の笑みで親指をグッと立てる。
「ほんとに大丈夫かな……」
かなりの強行軍に一抹の不安を覚えながら、一行は海岸沿いにアケリア交商道を目指していく。
アケリア交商道
政府首都の兵士が政府首都と遠霧の森の周辺に大量に駐留していた。
「思ったよりも数が多いな……これは中央突破は……っておい!?」
ゼルが岩影から様子を窺っていると、ルクレツィアが飛び出す。
「いやあ、殺してええんやろ?」
ルクレツィアは兵士が構え放つアサルトライフルの弾幕をさも当然のように刀で撃ち落としながら、次々と兵士を斬り倒していく。
「なんか予定と違うけど、まあいいや!行くよ、ホシヒメ、ネロ!」
ノウンが促し、四人で飛び出す。ルクレツィアは闘気を放ち、刀で自分の腹を刺す。すると傷口が結晶化し、ルクレツィアは竜化する。黒色のスリムな竜になったルクレツィアの体には、結晶の鋭いヒレが並んでいた。ルクレツィアは前足を地面に叩きつけると、四人の進む道を確保するように地面から結晶を隆起させる。ノウンがルクレツィアの方へ目を向けると、ルクレツィアは狂ったように笑いながら大群の兵士を相手にしていた。
「まあ、ルクレツィアらしいと言えばらしいけど……」
ノウンは前を向きながら呟いた。
政府首都アルマ
街の中は誰も居らず、建造物はすべて障壁が張られていた。
「都庁に向かうだけだね」
ホシヒメは上を見上げて引き締まった表情をする。
「ここから逃げたのが遠い昔のように感じるが、まだ二日しか経ってないのか。少し急ぎすぎたか?」
「そんなことないよ、ゼル。何が起きるかわからないから、早めに決着をつける。作戦としては大いにありだよ」
話していた二人に、ホシヒメが割り込む。
「何を企んでるのか、全部話してもらわないとねっ!ってことで、ゴー!」
騒ぎながら、ホシヒメは突っ込んでいく。
政府首都アルマ 行政都庁
ガラスの大きな自動ドアが開き、シャンデリアが照らすロビーへ出る。受付は空で、調度品の反射する光と穏やかな音楽が、虚しく館内に響き渡る。
「すごい」
ホシヒメは驚きの声を漏らす。ネロ以外の二人も、それに賛同するように驚嘆していた。
「さすが政府首都の行政都庁って感じだね」
「エレベーターが使えるか見に行くぞ」
受付を通り過ぎ、巨大な柱の合間を縫っていくと七つ並んだエレベーターの前に辿り着いた。上矢印のボタンを押すと、点灯する。
「意外だな。まさか機能してるとは」
「まあ、そうだろうな」
エレベーターに乗り込みながら、ネロはゼルの言葉に反応する。
「どういうことだ?」
「行政都庁は、四つの区画に別れてる。このエレベーターで行けるのは、その四つの区画の橋渡しになる場所までだ。つまり、待ち構えるならロビーじゃなくて、広いそこで戦えばいいってことさ」
「この先、移動手段がちゃんとあるとは限らないってことか」
「それもねえだろうがな。あくまでも、この詔を集める贖罪の旅はホシヒメに力をつけさせるためにあるはずだぜ。ここで時間を食わせて、失敗するリスクを増やしてどうする」
エレベーターが動き始め、しばしの間重力を感じる。気味のいい機械音と共にエレベーターは停止し、ドアが開く。二枚のガラス張りの自動ドアを抜けると、四つの塔を連結する、円形のフロアへ出た。白と灰色で装飾されたそこは、雲1つない青を写し取っていた。
「真っ直ぐ行けばアルマの居る区画だぜ」
ネロがそう言うと、一行は歩き始める。丁度中央に達した辺りで、四人は立ち止まる。
「感じたことある気配がするんだけど」
ホシヒメが呟く。
「同感だ。それ以外のやつもあるが」
ゼルがガンブレードを引き抜く。同時に、三本のナイフが飛んでくる。刀身を盾に、ゼルはそれを受けきる。そして目の前から、見慣れた黒いコートの男が現れる。
「あー……メルギウスかぁ……」
ホシヒメは露骨にがっかりする。メルギウスはそれには一切触れず、仰々しく礼をした。
「ようこそ皆さん。政府首都アルマへ。ドランゴからここまで船と徒歩でこの速度とは……いやはや、若者の健脚には驚かされる」
「悪ぃ、メルギウス。今日はてめえの茶番に付き合ってる場合じゃないんだわ」
話を遮って、ネロが前に出る。
「おや、あなたがいるとは珍しい。誰かと思えば、デリヘルお兄さんじゃないですか」
「お前の相手はこの俺だ。ピターとマータの命、ちゃんと償ってもらうぜ」
メルギウスから薄ら笑いが消える。
「まだそんな昔のことを。凶竜は使命に従えば長命なのですから、苦しい記憶は忘れた方が生きやすいですよ」
「ふん、よく言うぜ。俺のことをわざわざ見つけ出して友達を殺しといてな」
ネロはホシヒメたちへ振り返る。
「先に行け。俺はこいつをぶちのめす」
「うん、わかった。気をつけてね」
三人は事情を察して、それ以上詮索せずに駆けた。
「なぜ俺がエターナルオリジンを守るなんていうことをやってたかわかるか」
「いいえ全く。私は過ぎたことは振り返らないし、私のせいで起きた如何な不利益も、私自身の使命に影響がないなら知らない」
「てめえが俺から全部奪ったからだよ。ルーやてめえのように、暗殺で飯を食う凶竜は少なくねえ。そして、凶竜はみんなそんなもんだと思ってるやつも居る。てめえはそういう凶竜を嫌ってる金持ちに依頼を受けて、ここに住んでた凶竜を皆殺しにしやがった。俺はあの二人が助けてくれたお陰で生き延びたが……」
「ふん、馬鹿馬鹿しいですねえ、あなたは。なんのために凶竜は使命を持って生まれてくるか、ご存じでないようですね」
「なんだと」
「全ての凶竜は、始祖凶竜パーシュパタを復活させるために存在しているのです」
ネロは呆然とする。
「帝都竜神アルメールは、この世界の大半が竜と魚類で構成されていることを知っていた。故に、竜神種が海を、川を開拓していく内、魚類の居場所がなくなることを懸念していた。そこで、パーシュパタを騙し討ちにし、その力を使って魚を竜王種へと変えた。だが、悪いのは竜王種やアルメールではない。その種族のバランスをアルメールから告げられたにも関わらず、己を一切省みない竜神種に否がある。討たれたパーシュパタは、自らの死の原因となった竜神種に復讐するため、地の底で復活の時を待っているのです」
「てめえの言いたいことはわかった。だがそれと、アルマに住む凶竜を皆殺しにしたのは別だろうが」
「いいえ、違いませんよ」
「違わねえだろうが!」
ネロは右手から電撃を放つ。メルギウスはナイフを投げて電撃の方向を変える。
「違わない。何もね。凶竜というのは、パーシュパタのエネルギーを削って生まれてきている。使命を果たした場合に、生まれてくるよりも大きなエネルギーのリターンがあるから。しかし、君らのように使命を果たさぬ凶竜ばかりが蔓延っていてはパーシュパタはどうなる?」
「……!待てよ、まさかてめえ……!アカツキがぶっ壊れたのは、てめえの仕業か!?」
「おお、よくそこまで思考を跳躍できたねえ。正解だが。そう、私はChaos社と契約したのさ。ホシヒメ……竜神の皇女をあちらの世界に届ける代わりに、その計画の過程でパーシュパタを復活させられるようにね」
「てめえの……使命は……」
「私の使命ですか?それは異界の門を開くこと。始祖凶竜パーシュパタを使い、王龍ボーラスが封印されし世界へとこの世界を到達させること」
メルギウスは金の牙が並んだ棍棒を抜く。
「少しお喋りが過ぎましたかね。ともかく、あなたには死んでもらいましょう」
「ハッ、てめえに殺されるなんざ願い下げだぜ!」
帯電した槍を構え、二人は対峙する。ネロが接近し、先制の一突を放つ。メルギウスは大振りな棍棒を持っているとは思えない軽やかな動きで躱し、重い一撃をぶつける。金の牙が床を抉り、溢れた闘気が荒れ狂う。
「ちっ、んなそよ風で怯ませてるつもりかよ!」
ネロは空中を蹴り、メルギウスへ加速する。槍がメルギウスを掠り、反撃の一閃を槍を放棄して躱し、足で腕を絡めとり、そのまま体重をかけて押し倒す。メルギウスは力ずくでネロを放り投げ、ネロは飛ばされながら槍を回収する。
「クソッ、割とやるじゃねえか」
「私にその程度の攻撃が通用するとでも思っているのかな」
「ほざいてろ!」
ネロが踏み込み、雷を纏った槍を構えつつ加速する。メルギウスは棍棒を爆発させ、二本のダガーを取り出す。そしてダガーで槍を挟み込む。ダガーから涌き出る闘気と、迸る雷が火花を散らす。
「残念ですねえ……この程度ではお話になりません」
ネロは後転でダガーを蹴り飛ばし、次いで掌底を重ねる。それは両腕で止められ、右手、左手と拳を重ねられ、アッパーで吹き飛ぶ。体勢を立て直し、槍を投げつける。メルギウスは躱し、ダガーを引き抜き、バックジャンプしながらナイフを数本投げつける。拳圧でナイフを撃ち落とし、ネロは猛然と突進する。メルギウスの攻撃が当たる寸前に雷を足に纏わせて瞬間移動し槍を回収する。睨み殺すようなネロの視線を受けて、メルギウスは笑う。
「そんなに己の手で幕を下ろしたいか」
「何……?」
「ならば私が、終わらせてやる」
ダガーが独りでに浮遊し、メルギウスへ突き刺さる。
「光捨てし棘の王、絶望の闇に鮮烈なる火花を散らせ!竜化!」
メルギウスの体は白と黒と金の渦に呑まれて、一対の翼を持つ竜へと変貌する。
「ここで死ね、ネロ!」
全身に並んだ金の刺が輝きを纏って出力する。床に頭を叩きつけ、振り上げる。闘気の波が走り、ネロはそれを躱す。
「てめえがそう来るなら、俺だって!竜化!」
ネロは右手を握り締め、そこから蒼黒い光が迸る。蒼黒の竜には、所々仄暗く輝く青い棘が生えていた。翼はなく、宙に浮いている。
「止めを刺してやるよ、クソ野郎!」
雷球と闘気の波が激突し、激しく行政都庁を揺らす。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。
隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。
婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。
しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……
婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました
ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。
王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。
しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
ソードオブマジック 異世界無双の高校生
@UnderDog
ファンタジー
高校生が始める異世界転生。
人生をつまらなく生きる少年黄金黒(こがねくろ)が異世界へ転生してしまいます。
親友のともはると彼女の雪とともにする異世界生活。
大事な人を守る為に強くなるストーリーです!
是非読んでみてください!
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる