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三千世界・竜乱(2)
後編 第一話
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セレスティアル・アーク 艦内
中世の屋敷のような黒楢の内装に、青い光が血管のように巡る。トラツグミはブーツで赤い絨毯を踏み締めながら、道なりに進んでいく。そして一つの部屋の前に立つと、扉を開く。その部屋は薄暗く、明人が一人でゲームをプレイしていた。
「明人様、時は来ました。ゼナ様からのゲート反応地点はヨーロッパ区、西部砂漠です。そして、バロンが穴井と遭遇、南アメリカ区、竜の国へ向かったようです。更に、竜世界からの次元接続先として、ロシア区が提示されております」
明人はコントローラーを置き、トラツグミへ向き直る。
「零さんは」
それ以外の目的はないという風に、低い声で呟く。
「白金零は……虚空の森林で気絶しているようです」
「あっそ。んじゃあまあ、俺も準備しよっかな」
「エネルギーの消費を抑え、ご自身のシフルに注ぎ込む感情の量的確保を優先してください」
「ういー」
―――……―――
王龍結界・殷々たる救済の冰獄
「ん……んぅ……?」
ホシヒメが目を醒ますと、そこは周囲が闇に包まれ、氷でできた遺跡だった。状況を把握しきれないところに、凄まじい威圧感の声が響く。
《聞け、竜の皇子。我が下へ来よ。貴様の戦いの手助けをしてやろう》
声は聞こえなくなった。
「(なんだろう、聞いたことないけど……体の全てを震わせるようなあの声。どこかで覚えが……)」
ホシヒメは首を傾げながらも、遺跡の中へ入っていった。遺跡内部の構造自体は単純なもので、道なりに進むだけで広場へ出た。巨大なクリスタルが吊られているが、その中に巨竜が封じられていた。
「あの……あなたが呼んでたんですか?」
ホシヒメは恐る恐る聞いてみる。
《その通りだ。我は王龍ボーラス。貴様たち竜の王、王龍を統べる王龍。絶対にして究極の存在、それが我だ》
「私を何のためにここに?」
《貴様は理想を抱いた。だが竜でありながら、人化を解く方法を知らん。故に九竜の残滓を使いながら、誤魔化して戦っている。それでは駄目だ。貴様には、その理想を遥かに越える意味がある。貴様に我の力をやろう。貴様の「力」を、解き放つためのな》
「えーっと、それってどういう……」
そこで記憶が途切れる。
―――……―――
エターナルオリジン・治療室
ホシヒメが目を思いっきり見開くと、白い天井があった。
「あ……れ……?ボーラスさんは……?」
籠手の外された右手の甲に、奇妙な痣があった。
「なんだろう、これ……」
不思議に思いながらも、ホシヒメは起き上がる。少しふらつきながら、治療室の扉を開く。通路に出ると、ゼルと遭遇した。
ゼルは不意に倒れそうになったホシヒメを支える。
「起きたのか、ホシヒメ」
「う、うん。あれからどれくらい経ったの?」
「一日と七時間くらいか。あの医者が言ってたより早かったな」
「そっか……私、ゼロ君に負けちゃったんだよね」
「ああ。だが……ルクレツィアが止めを見逃すように仕向けてくれた。感謝しておけよ」
ゼルの腕を支えに、ホシヒメは立ち上がる。
「行かなきゃ」
歩き出そうとするホシヒメの腕を、ゼルは掴む。
「待てホシヒメ。焦るな。何があった」
「誰かが呼んでる気がするんだよ。何か……遠くの誰かが」
「まあ落ち着け。どのみち、残りの詔を集めなきゃならん。その誰かは、そのあと探すぞ」
「そう……だね」
船内
ルクレツィアが行きと同じように船のシステムを起動し、椅子に座ってあくびをする。その後ろでネロとホシヒメは向かい合っていた。
「よう竜神のお姫様」
「おお、チャラい!よろしくね!」
「俺はネロってんだ。お前が集めてる詔の代わりに同行する」
「ほほーう!戦力が増えるのはいいことだね!」
「おう!意外にお前、ノリがいいみたいだな!うぇーい!」
「うぇーい!」
二人は拳を突き合わせて騒ぐ。
「うるせえな……」
「ま、まあゼル落ち着いて。賑やかなのはいいことだよ」
それを見てゼルとノウンが苦笑する。
「ノウン、次はどこへ行く?」
「次は……いよいよ政府首都、かな」
「遂に来たか……ガイアからアルマへの道のりは?」
「日程に余裕を持つなら、ガイアから直にアルマへ向かった方がいい。でも、それで負傷したら逆に時間がかかる。安全を取るなら、来た道を逆走するのがいいと思うな」
「あいつらにも案を聞くか……」
ゼルは立ち上がると、仮眠を取っていたルクレツィアと、二人で騒いでいたホシヒメとネロを集めた。
「んで、要は真正面から突っ込むかどうかって話やろ?ガイアからは徒歩でアケリア交商道を行った方が早いやん」
ルクレツィアが怠そうに言い放つ。
「いや、だからな……恐らく一番守りが堅いはずだと言いたいんだが……」
ゼルが尻切れ蜻蛉の返事をする。
「ちょっといいかな?」
ホシヒメが手を上げる。
「なんだ」
「私たちは、というか私は、自分が正しいって証明するためにあそこに行くんだよね?だったら、こそこそする必要はどこにもないと思うんだ。だから……」
ホシヒメは拳を突き合わす。
「真正面からぶち抜く!全部!」
ゼルは驚愕の表情のあと、肩をすくめる。
「もう終わったな。この面子で真面目な話し合いをしようと思った俺がバカだった」
ネロがルクレツィアにわざとらしくひそひそと聞く。
「なあルー、こいつらいっつもこんなテンションか?」
「ルーって呼ばんといてやキモいわ。まあ、この三日間で見た限りはこんな感じやな」
「やっぱ面白えなこいつら。ついてきて正解だったな」
「なあ、ネロ。1つ聞きたいんやけど」
「ん、なんだ?俺にチューしてくれるなら答えてやってもいいぜ?」
「死ね」
「いやいやいや、冗談だって」
「金を積めば股を開く女と戯れすぎた男の末路やな……自分がモテ男やと勘違いしとるわ。あのな、メルギウスはどこにおるか知っとるか?」
「メルギウス……ああ、あいつか。あいつは封印箱に行ったっきり連絡がないな」
「封印箱に?」
「お前なら知ってるだろ、封印箱の底には俺たちの始祖、パーシュパタが封じられてる。もしかしたら、パーシュパタの復活を狙ってるのかもしれん」
二人がこそこそしていると、ホシヒメが笑顔で突っ込んで来て、二人に腕を組む。
「二人でなんか面白い話してるの?」
ルクレツィアは苦笑いしながら腕を振りほどく。
「いんや。アンタが食い付きそうな話題やないで」
「そうなんだ。あんな風に話してるからなんか楽しいことなのかなーって思ったんだけど」
「ウチは寝るから、後は頼むわネロ」
ルクレツィアはそう言って、椅子に座って目を閉じた。
「まあそういうことだな。うっし、船を出すぜ!ゼル、ノウン!準備しとけよー!」
ネロの合図に、二人は手で答える。
「(ゼロ君……きっと君に追い付いて見せるから……!)」
ホシヒメは拳を握り締め、船は動き始めた。
???・終期次元領域
暗黒の中に浮かぶ球体越しにWorldAを見ていた狂竜王とエメルは先程の光景を見て立ち上がる。
「ボーラスがあの世界に干渉したのか……?バカな、彼はニヒロの封印が施されたままのはず」
エメルは手を眼前で合わせ、目を輝かせている。
「素晴らしいことですよ、アルヴァナ。王龍ボーラスが目覚めを感じたということはこの世界こそが正解、今回の宇宙、あなたの望みを果たせる世界ということだわ」
手を合わせたときの衝撃で今いるキューブに甚大なダメージが出たのを見ながら、狂竜王はエメルの方へ向く。
「君は強敵と戦いたいだけだろう」
「始源世界とここシャングリラには、あなたの味方しか居ないでしょう?私は強い敵と戦いたい。でもそれは、今叶えようとすると親友であるあなたを裏切ることになってしまいます。黙っていればいつかあなたに比肩するほど強い存在とたくさん戦えるはず。正解の宇宙なら、この私の乾きを満たす者が現れる」
「エメル。エデンへ向かおう。ボーラスが目覚めたのであれば、彼にはまだ眠っていてもらわねばならん」
どこからともなく巨大な黒馬が現れ、狂竜王はその背に乗る。
そして当然のように馬が空を駆ける。更に、エメルも何の躊躇いもなく空へ飛び出す。
中世の屋敷のような黒楢の内装に、青い光が血管のように巡る。トラツグミはブーツで赤い絨毯を踏み締めながら、道なりに進んでいく。そして一つの部屋の前に立つと、扉を開く。その部屋は薄暗く、明人が一人でゲームをプレイしていた。
「明人様、時は来ました。ゼナ様からのゲート反応地点はヨーロッパ区、西部砂漠です。そして、バロンが穴井と遭遇、南アメリカ区、竜の国へ向かったようです。更に、竜世界からの次元接続先として、ロシア区が提示されております」
明人はコントローラーを置き、トラツグミへ向き直る。
「零さんは」
それ以外の目的はないという風に、低い声で呟く。
「白金零は……虚空の森林で気絶しているようです」
「あっそ。んじゃあまあ、俺も準備しよっかな」
「エネルギーの消費を抑え、ご自身のシフルに注ぎ込む感情の量的確保を優先してください」
「ういー」
―――……―――
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「ん……んぅ……?」
ホシヒメが目を醒ますと、そこは周囲が闇に包まれ、氷でできた遺跡だった。状況を把握しきれないところに、凄まじい威圧感の声が響く。
《聞け、竜の皇子。我が下へ来よ。貴様の戦いの手助けをしてやろう》
声は聞こえなくなった。
「(なんだろう、聞いたことないけど……体の全てを震わせるようなあの声。どこかで覚えが……)」
ホシヒメは首を傾げながらも、遺跡の中へ入っていった。遺跡内部の構造自体は単純なもので、道なりに進むだけで広場へ出た。巨大なクリスタルが吊られているが、その中に巨竜が封じられていた。
「あの……あなたが呼んでたんですか?」
ホシヒメは恐る恐る聞いてみる。
《その通りだ。我は王龍ボーラス。貴様たち竜の王、王龍を統べる王龍。絶対にして究極の存在、それが我だ》
「私を何のためにここに?」
《貴様は理想を抱いた。だが竜でありながら、人化を解く方法を知らん。故に九竜の残滓を使いながら、誤魔化して戦っている。それでは駄目だ。貴様には、その理想を遥かに越える意味がある。貴様に我の力をやろう。貴様の「力」を、解き放つためのな》
「えーっと、それってどういう……」
そこで記憶が途切れる。
―――……―――
エターナルオリジン・治療室
ホシヒメが目を思いっきり見開くと、白い天井があった。
「あ……れ……?ボーラスさんは……?」
籠手の外された右手の甲に、奇妙な痣があった。
「なんだろう、これ……」
不思議に思いながらも、ホシヒメは起き上がる。少しふらつきながら、治療室の扉を開く。通路に出ると、ゼルと遭遇した。
ゼルは不意に倒れそうになったホシヒメを支える。
「起きたのか、ホシヒメ」
「う、うん。あれからどれくらい経ったの?」
「一日と七時間くらいか。あの医者が言ってたより早かったな」
「そっか……私、ゼロ君に負けちゃったんだよね」
「ああ。だが……ルクレツィアが止めを見逃すように仕向けてくれた。感謝しておけよ」
ゼルの腕を支えに、ホシヒメは立ち上がる。
「行かなきゃ」
歩き出そうとするホシヒメの腕を、ゼルは掴む。
「待てホシヒメ。焦るな。何があった」
「誰かが呼んでる気がするんだよ。何か……遠くの誰かが」
「まあ落ち着け。どのみち、残りの詔を集めなきゃならん。その誰かは、そのあと探すぞ」
「そう……だね」
船内
ルクレツィアが行きと同じように船のシステムを起動し、椅子に座ってあくびをする。その後ろでネロとホシヒメは向かい合っていた。
「よう竜神のお姫様」
「おお、チャラい!よろしくね!」
「俺はネロってんだ。お前が集めてる詔の代わりに同行する」
「ほほーう!戦力が増えるのはいいことだね!」
「おう!意外にお前、ノリがいいみたいだな!うぇーい!」
「うぇーい!」
二人は拳を突き合わせて騒ぐ。
「うるせえな……」
「ま、まあゼル落ち着いて。賑やかなのはいいことだよ」
それを見てゼルとノウンが苦笑する。
「ノウン、次はどこへ行く?」
「次は……いよいよ政府首都、かな」
「遂に来たか……ガイアからアルマへの道のりは?」
「日程に余裕を持つなら、ガイアから直にアルマへ向かった方がいい。でも、それで負傷したら逆に時間がかかる。安全を取るなら、来た道を逆走するのがいいと思うな」
「あいつらにも案を聞くか……」
ゼルは立ち上がると、仮眠を取っていたルクレツィアと、二人で騒いでいたホシヒメとネロを集めた。
「んで、要は真正面から突っ込むかどうかって話やろ?ガイアからは徒歩でアケリア交商道を行った方が早いやん」
ルクレツィアが怠そうに言い放つ。
「いや、だからな……恐らく一番守りが堅いはずだと言いたいんだが……」
ゼルが尻切れ蜻蛉の返事をする。
「ちょっといいかな?」
ホシヒメが手を上げる。
「なんだ」
「私たちは、というか私は、自分が正しいって証明するためにあそこに行くんだよね?だったら、こそこそする必要はどこにもないと思うんだ。だから……」
ホシヒメは拳を突き合わす。
「真正面からぶち抜く!全部!」
ゼルは驚愕の表情のあと、肩をすくめる。
「もう終わったな。この面子で真面目な話し合いをしようと思った俺がバカだった」
ネロがルクレツィアにわざとらしくひそひそと聞く。
「なあルー、こいつらいっつもこんなテンションか?」
「ルーって呼ばんといてやキモいわ。まあ、この三日間で見た限りはこんな感じやな」
「やっぱ面白えなこいつら。ついてきて正解だったな」
「なあ、ネロ。1つ聞きたいんやけど」
「ん、なんだ?俺にチューしてくれるなら答えてやってもいいぜ?」
「死ね」
「いやいやいや、冗談だって」
「金を積めば股を開く女と戯れすぎた男の末路やな……自分がモテ男やと勘違いしとるわ。あのな、メルギウスはどこにおるか知っとるか?」
「メルギウス……ああ、あいつか。あいつは封印箱に行ったっきり連絡がないな」
「封印箱に?」
「お前なら知ってるだろ、封印箱の底には俺たちの始祖、パーシュパタが封じられてる。もしかしたら、パーシュパタの復活を狙ってるのかもしれん」
二人がこそこそしていると、ホシヒメが笑顔で突っ込んで来て、二人に腕を組む。
「二人でなんか面白い話してるの?」
ルクレツィアは苦笑いしながら腕を振りほどく。
「いんや。アンタが食い付きそうな話題やないで」
「そうなんだ。あんな風に話してるからなんか楽しいことなのかなーって思ったんだけど」
「ウチは寝るから、後は頼むわネロ」
ルクレツィアはそう言って、椅子に座って目を閉じた。
「まあそういうことだな。うっし、船を出すぜ!ゼル、ノウン!準備しとけよー!」
ネロの合図に、二人は手で答える。
「(ゼロ君……きっと君に追い付いて見せるから……!)」
ホシヒメは拳を握り締め、船は動き始めた。
???・終期次元領域
暗黒の中に浮かぶ球体越しにWorldAを見ていた狂竜王とエメルは先程の光景を見て立ち上がる。
「ボーラスがあの世界に干渉したのか……?バカな、彼はニヒロの封印が施されたままのはず」
エメルは手を眼前で合わせ、目を輝かせている。
「素晴らしいことですよ、アルヴァナ。王龍ボーラスが目覚めを感じたということはこの世界こそが正解、今回の宇宙、あなたの望みを果たせる世界ということだわ」
手を合わせたときの衝撃で今いるキューブに甚大なダメージが出たのを見ながら、狂竜王はエメルの方へ向く。
「君は強敵と戦いたいだけだろう」
「始源世界とここシャングリラには、あなたの味方しか居ないでしょう?私は強い敵と戦いたい。でもそれは、今叶えようとすると親友であるあなたを裏切ることになってしまいます。黙っていればいつかあなたに比肩するほど強い存在とたくさん戦えるはず。正解の宇宙なら、この私の乾きを満たす者が現れる」
「エメル。エデンへ向かおう。ボーラスが目覚めたのであれば、彼にはまだ眠っていてもらわねばならん」
どこからともなく巨大な黒馬が現れ、狂竜王はその背に乗る。
そして当然のように馬が空を駆ける。更に、エメルも何の躊躇いもなく空へ飛び出す。
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