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三千世界・竜乱(2)

前編 第十三話

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 エターナルオリジン・内部
 塔の前には守衛と思われる二体のセキュリティゴーレムが居たが、機能していないようだ。二人は扉を開け、エターナルオリジン内部へ入る。
「なあ、ノウン。今の話……」
 ゼルが言いにくそうに問う。
「どうしたの?」
「ルクレツィアって……何歳だ?」
「ああ、28だよ?」
「マジで?」
「マジで。ゼルより十歳上、僕より十二歳上」
「でもお前は幼馴染みって」
「うん。物心ついたときから遊んでるから幼馴染みでいいよね?」
「まあ……今さらなんでもいいか……」
 脇に抱えたホシヒメをそっと下ろし、その体を検める。
「切創が凄まじいな……手当てさえすれば死なんだろうが、余裕を持って詔を集めるのはほぼ不可能だな……」
「むしろあの攻撃とこの傷でよくあそこまで耐えられたよね……」
 二人がホシヒメの傷を一つ一つ見ていると、一人竜王種が近づいてきた。
「治療室へお連れしましょう」
 二人は頷く。
「では」
 竜王種は深く礼をすると、続々と白衣の竜王種が現れ、ホシヒメを担架に乗せて去っていった。
「俺たちは上へ行こう」

 エターナルオリジン
 ルクレツィアの神速の抜刀を弾き返し、空間の歪みに乗せた斬撃を重ねる。ルクレツィアは電撃を刀に乗せて放ち、空間の歪みの中にプラズマを起こして真空刃を対消滅させる。
「ほう、やるじゃないか。義兄妹の契りを交わしたときはこれだけで死にかけだったが」
「ウチも強うなっとるって言うたやろ」
「だがな、まだ速度も精度も甘いな」
「くっ……くくく……」
 ルクレツィアの額から冷や汗と血が流れる。
「決まった型に嵌まらない戦い方は俺のように決まった攻撃を繰り返す者よりトリッキーで読まれにくいが……貴様は自分の必殺技に慢心する癖があるのと受けのタイミングがなっていない」
「厳しいなぁ、ゼロ兄は……」
「当然だ。俺の妹でありたいのなら、兄である俺を越えんと精進するのが常道だ。弟にせよ、妹にせよ……兄や姉を越えられぬのなら死ぬしかない」
「へへ……こっちも全力で挑んどるんやけどなぁ」
 空間の歪みを連射し、ルクレツィアはそれを躱す。一気に肉薄し、電撃の抜刀を放つ。
「ふん、貴様なら暇潰しくらいにはなると思ったが」
 目にも止まらぬその抜刀を当然のように躱し、反撃でルクレツィアを切り伏せる。そして納刀する。
「俺に媚びるのだけ上達してどうする。自分の欲望だけを果たしたいのなら、もっと自分の欲望に真剣に向き合え。ただ現実逃避に使っているだけなら、その刀はあっという間に錆びるぞ」
「ぐっ……」
 ルクレツィアはふらつきながら起き上がる。
「クラエスよりはマシだが。まあいい。貴様自身、ホシヒメの旅に同行する理由に合法的に原初竜神と戦える、などと思っていそうだしな。全てが終わったあと、貴様は最後に残しておいてやる。義理とはいえ、肉親であることに変わりはない。万全の準備はさせてやる。せいぜい精進することだな」
 ゼロは一方的にそう告げると、身を翻して去っていった。
「やっぱかっこええなあ……ふぅ……」
 ルクレツィアは傍にあった手頃な瓦礫に腰かける。
「格が違うっちゅうんは、まさにああいうこっちゃろなあ」
 譫言のように呟いたあと、ルクレツィアは意識を失った。

 エターナルオリジン・内部
 エレベーターが果てなく続くシャフトの中を延々と上っていく。
「いや、長くないか?」
「雲を貫く摩天楼だからね。地下にも同じ長さの施設が埋まってるとか」
「かれこれ二分くらいエレベーターに入ってるわけだが」
「ルクレツィアは大丈夫かな……」
「しかし驚いたな。年齢のこともそうだが、ゼロとルクレツィアが義兄妹なんてな」
「うん。ゼロが六歳の時に我流で生み出した剣術を見て、それまで体術を基本に戦ってたルクレツィアは一目惚れでね。それで刀を使い始めて、剣術を教えてもらおうとしたんだけど」
「したんだけど?」
「ゼロ……あの人は自分の妹になって技を盗めって言ったんだよ。妹や弟ならば兄や姉に打ち勝つことが存在意義だからって」
「理解できんな……肉親を越えることが正しいと言っているのか」
「うん。子なら親を倒すべきだっていつも言ってたね。なんだかんだでルクレツィアのことは大事に思ってるみたいだけどね」
「やつの戦い方は外野からは理解できなかったが、あれは盗める技術なのか?」
「まあ無理だよね。昨日ルクレツィアと戦ったときに知っただろうけど、ルクレツィアはあの手の特殊な攻撃はできない。手も足も出なかったことは事実だけど、努力で辿り着こうと思えば辿り着けるレベルだ。でもゼロのあれは……原初竜神と同レベルいや、それすら生温いのかもしれない。あんなに同時かつ、高速で空間を切り取って、それを固形にして、斬撃や真空刃をパッケージして発射するなんて」
「ホシヒメ以外でやつに勝ち目はないか。まあ、アカツキとやつは関係無さそうで安心したが」
「あんな風なこと言ってるけどゼロはホシヒメのことをよく知ってるし、結構好きなんだよ?毎年誕生日にはプレゼント送ってくるし。ホシヒメが着てるあの黄色いパーカーもそうだし、いつもつけてる髪飾りもそうだし」
「やっぱり理解できんな……」
 ゼルが首を捻ると、エレベーターが止まってドアが開く。足元からぼやけた光が発され、三角形の白い通路が続く。大扉の前に立つと、ハンドルが回り、三つの隔壁が段階的に開く。その先には、円形の広場があった。中央に光輝く柱があり、その前に男が一人いた。
「よう、待ってたぜ。竜王種のお偉いさんから事情は聞いてる。詔を貰いに来たんだろ?」
「お前がネロか」
 ネロは立ち上がると、ゼルたちへ近付く。
「つーことで、俺がその詔だ」
 二人は沈黙する。
「お前らは今から政府竜神とか帝都竜王と戦うんだろ?戦力は一人でも多い方がいい」
「ノウン、どう思う」
「どう思うも何も、彼自身が詔で、それが罷り通ってるのなら、僕たちはホシヒメのためにその提案を受けなきゃいけないでしょ」
 ネロは笑顔でノウンの肩と組む。
「話が早い坊主だな!んで、肝心の竜神のお姫様はどこだ」
「下の治療室にいる」
「ああ、治療室か。んなら、早く降りようぜ」

 エターナルオリジン・治療室
 ゼロは空間を引き裂いて、ホシヒメが治療を受けている処置室の前に立つ。横にルクレツィアを抱えて。
「貴様は俺が殺す。だがそれは、正しい勝利を掴んだときだけだ」
 ゼロは治療室の前に落ちていた髪飾りを拾い、ルクレツィアの髪へ差すと、傍にあった椅子へ座らせた。
「貴様もだ、ルクレツィア。貴様が俺を殺せるのは、正しい勝利を掴んだときだけだ」
 ゼロはルクレツィアの頬を手の甲で撫でると、身を翻し、刀で空間を引き裂いて消えた。そのあとすぐに、ゼルたちが辿り着く。
「ルクレツィア!?大丈夫か!?」
 ゼルが駆け寄ると、ルクレツィアは目を覚ます。
「なんや……アンタか。ゼロ兄がさっきまで傍に居てくれた気がしたんやけどな」
「手当ての跡があるな。ということは、ゼロはあのあと」
「せやろなあ、ゼロはウチがぶっ倒れた後に傷の手当てをしてここまで運んできてくれたっちゅうことやな。ところで、なんでネロが居るん」
 ルクレツィアがゼルの横から顔を出す。
「俺が詔だからだ」
「風俗の行きすぎで頭までイカれたんやな。わかった、もうアンタには何も聞かん」
「ちょっと待って!真面目!大真面目だぜ!?」
「わかったわかった。アンタは昔からそうやからな。んで、ここはどこかわかるか、ノウン?」
「ここは治療室だよ。エターナルオリジンの中」
 と、治療室から一人の竜王種が出てくる。深く礼をし、ゼルたちに話す。
「皇女殿下の容体は安定しております。本人の基本的な治癒力が高いのも相まって、明日には意識が回復するでしょう。ですが、万全を期すならば明後日まで戦闘を避けた方がよいかと」
「明後日か……残る詔はあと何個だ、ノウン」
「水都、死都、帝都、政府……四つだね」
「四つか……まあ、まだ時間に余裕はあるな」
 竜王種はゼルへ視線を向ける。
「殿下の眷属たるあなた方にも、休憩室を用意してありますので、案内いたします」
 四人はそれに従った。
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