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プロローグ
二話
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王都ヴァルキル。その景色を見たとき、僕の中で人生最高の喜びを味わうことになった。
色とりどりの建物。祭りのように賑わう人々。奥に見える真っ白なお城。
どれもこれもリュカにとって、初めて目にする景色だった。
それだけに、感動も凄まじいものだった。
暫く魅入っていると、ヨルドさんに声を掛けられた。
「リュカ君。市街地には後からまた来れるから、今は我慢してくれ」
そう言われ、リュカは名残惜しく思いつつも、後から来れるということもあり、我慢して歩き始めた。
「さて、リュカ君。確認だ」
「えっ。またですか?」
市街地を歩いているなか、突然の言葉にリュカは思わず言った。
この確認は、馬車内での説明から何度も行ったことだ。既に、全て一言一句違わずに言えるほどだ。
「そう言うな。いざ本番となったら緊張するものだ。何度確認しても損はない」
当然だと言わんばかりの口振りだ。リュカはこれ以上何を言っても無駄だと理解し、渋々従った。
周りは多くの人で賑わっている。多少、大きな声を出しても聞かれることはない。
リュカはこの後、言う言葉をヨルドに言って聞かせた。
すべてを言い終えた後、リュカはヨルドの反応を待った。
ヨルドは満足そうに、にやりと笑った。
「正解だ。これに動作が加わればより完璧だったが、時間も無い。そこは王も分かってくださるだろう」
そう。僕は今からこの国の王。ヴァナシュリア王に謁見することになっているのだ。
僕は呼ばれるようなことなんて何一つしていない。
善いことも悪いことも、どちらともだ。
今は綺麗な景色を見ることによって緊張しないでいるけど、いざ王城に入れば、緊張で動けなくなるかもしれない。
リュカは再び心を落ち着かせるために、景色を見る。
遠くを見たいものだが、何かにぶつかっては大変だ。なるべく近くを見るようにして前方に気を付ける。
言うことの確認を終えてから会話は無くなり、ただ城に向かって歩を進めるだけとなった。
そのためすぐに城に着いた。
憂鬱な気分になりつつも、僕はヨルドさんの後ろから門を潜った。
やはりと言うべきか。城の中はさらにすごい景色だった。
掃除が行き届き、埃一つ無いのではと思わせる廊下。
赤い絨毯の敷かれた、左右に別れるかね折り階段。
階段の手前や通路の入り口などに配備されている槍を持った兵士。
リュカはまた魅入りそうになったが、なんとか自制した。
階段を上り始めたヨルドに走らず、けどなるべく早く歩いた。
長い通路を進み、二回目の階段を上り、三方向に分かれている通路を真っ直ぐ進んだ。
その先には、一つの大きな扉が佇んでいた。いかにも扉の先にはやばいものがあると思える雰囲気が扉だけで伝わってきた。
一気に緊張が込み上げてきた。心臓上り鼓動がばくばくと早くなる。
心無しか、息も荒くなってきた。前がよく見えないな。
「…………カ君……………リュカ君っ?」
自分を呼ぶ声に、はっ、と我に返った。
過度に緊張し過ぎた。扉の手前でこれじゃあ、中に入ったらどうなるんだ。
ふーっ、と息を吐き出し、心を落ち着かせる。
無理矢理笑みを形作らせ、前方を見た。
「……………っっ!」
僕は目を見開いた。
前方に見えたのは鳥の羽の付いた細長いものの乗った机とその後方に座る銀髪銀眼の男。左には膨大な量の本が収納された棚と、一つのドア。
そう。僕は既に王様の部屋へと入っていたのだ。
「えっ…………………あっ、うっ」
頭の中はもう、混乱の渦を巻きまくっている。
えっと、最初は何を言うんだったっけ。あ、ああそっか。確か、
「はっ、ははは初めまして。リュカ・アドモントといいい、いいます。どっ、どうか、お見知りおきをっ!」
自分でもわかった。失敗したな、と。
横目で見ると、ヨルドさんが、やってしまったなと言うようにため息をついている。
「ふむ。元気があって良いではないか。ヨルド。案内ご苦労であった」
「は、ははっ!」
ヴァナシュリア王はにこやかに笑った。僕の失敗を許してくれたのだろうか。でも、優しさで余計に恥ずかしさが込み上げてきたよ。
ヨルドさんはずっと居てくれるのだろうか。知ってる人がいる方が少しは落ち着くのだが。
そう思ったのも束の間、王様が合図をすると、ヨルドさんは一礼して部屋から退去してしまった。
二人だけになってしまった。どうしよう。
リュカは暑くもないのに冷や汗が出ているのが分かった。
「さて、リュカ君。早速だが、用件を済ませよう」
「はっ、はい!」
王様は真面目な顔をしながら言った。
僕はごくり、と息をのみ、王様が用件を言うのを待った。
「我が娘に─────」
娘に?何だろう。僕は何か失礼をしたのだろうか。いや、僕は王女様に一度も会ったことがない。
僕のこの思考は、次の王様の言葉によって打ち消された。
「──────恋を教えて欲しい!」
「……………………………は?」
色とりどりの建物。祭りのように賑わう人々。奥に見える真っ白なお城。
どれもこれもリュカにとって、初めて目にする景色だった。
それだけに、感動も凄まじいものだった。
暫く魅入っていると、ヨルドさんに声を掛けられた。
「リュカ君。市街地には後からまた来れるから、今は我慢してくれ」
そう言われ、リュカは名残惜しく思いつつも、後から来れるということもあり、我慢して歩き始めた。
「さて、リュカ君。確認だ」
「えっ。またですか?」
市街地を歩いているなか、突然の言葉にリュカは思わず言った。
この確認は、馬車内での説明から何度も行ったことだ。既に、全て一言一句違わずに言えるほどだ。
「そう言うな。いざ本番となったら緊張するものだ。何度確認しても損はない」
当然だと言わんばかりの口振りだ。リュカはこれ以上何を言っても無駄だと理解し、渋々従った。
周りは多くの人で賑わっている。多少、大きな声を出しても聞かれることはない。
リュカはこの後、言う言葉をヨルドに言って聞かせた。
すべてを言い終えた後、リュカはヨルドの反応を待った。
ヨルドは満足そうに、にやりと笑った。
「正解だ。これに動作が加わればより完璧だったが、時間も無い。そこは王も分かってくださるだろう」
そう。僕は今からこの国の王。ヴァナシュリア王に謁見することになっているのだ。
僕は呼ばれるようなことなんて何一つしていない。
善いことも悪いことも、どちらともだ。
今は綺麗な景色を見ることによって緊張しないでいるけど、いざ王城に入れば、緊張で動けなくなるかもしれない。
リュカは再び心を落ち着かせるために、景色を見る。
遠くを見たいものだが、何かにぶつかっては大変だ。なるべく近くを見るようにして前方に気を付ける。
言うことの確認を終えてから会話は無くなり、ただ城に向かって歩を進めるだけとなった。
そのためすぐに城に着いた。
憂鬱な気分になりつつも、僕はヨルドさんの後ろから門を潜った。
やはりと言うべきか。城の中はさらにすごい景色だった。
掃除が行き届き、埃一つ無いのではと思わせる廊下。
赤い絨毯の敷かれた、左右に別れるかね折り階段。
階段の手前や通路の入り口などに配備されている槍を持った兵士。
リュカはまた魅入りそうになったが、なんとか自制した。
階段を上り始めたヨルドに走らず、けどなるべく早く歩いた。
長い通路を進み、二回目の階段を上り、三方向に分かれている通路を真っ直ぐ進んだ。
その先には、一つの大きな扉が佇んでいた。いかにも扉の先にはやばいものがあると思える雰囲気が扉だけで伝わってきた。
一気に緊張が込み上げてきた。心臓上り鼓動がばくばくと早くなる。
心無しか、息も荒くなってきた。前がよく見えないな。
「…………カ君……………リュカ君っ?」
自分を呼ぶ声に、はっ、と我に返った。
過度に緊張し過ぎた。扉の手前でこれじゃあ、中に入ったらどうなるんだ。
ふーっ、と息を吐き出し、心を落ち着かせる。
無理矢理笑みを形作らせ、前方を見た。
「……………っっ!」
僕は目を見開いた。
前方に見えたのは鳥の羽の付いた細長いものの乗った机とその後方に座る銀髪銀眼の男。左には膨大な量の本が収納された棚と、一つのドア。
そう。僕は既に王様の部屋へと入っていたのだ。
「えっ…………………あっ、うっ」
頭の中はもう、混乱の渦を巻きまくっている。
えっと、最初は何を言うんだったっけ。あ、ああそっか。確か、
「はっ、ははは初めまして。リュカ・アドモントといいい、いいます。どっ、どうか、お見知りおきをっ!」
自分でもわかった。失敗したな、と。
横目で見ると、ヨルドさんが、やってしまったなと言うようにため息をついている。
「ふむ。元気があって良いではないか。ヨルド。案内ご苦労であった」
「は、ははっ!」
ヴァナシュリア王はにこやかに笑った。僕の失敗を許してくれたのだろうか。でも、優しさで余計に恥ずかしさが込み上げてきたよ。
ヨルドさんはずっと居てくれるのだろうか。知ってる人がいる方が少しは落ち着くのだが。
そう思ったのも束の間、王様が合図をすると、ヨルドさんは一礼して部屋から退去してしまった。
二人だけになってしまった。どうしよう。
リュカは暑くもないのに冷や汗が出ているのが分かった。
「さて、リュカ君。早速だが、用件を済ませよう」
「はっ、はい!」
王様は真面目な顔をしながら言った。
僕はごくり、と息をのみ、王様が用件を言うのを待った。
「我が娘に─────」
娘に?何だろう。僕は何か失礼をしたのだろうか。いや、僕は王女様に一度も会ったことがない。
僕のこの思考は、次の王様の言葉によって打ち消された。
「──────恋を教えて欲しい!」
「……………………………は?」
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