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プロローグ
一話
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暑い日射しの照りつける昼頃。
午前の畑仕事を終え、雑草のたんまり入った押し車を押して家へと戻る。
「どうだリュカ?」
目の前を歩く父が背を向けながら聞く。だが、リュカには何がどうなのか分からず、首を傾げた。
「何が?」
「お前のことだよ」
おそらく口許をニヤつかせながら言っているのであろう父は、さらに続ける。
「嫁候補はいるのか?来年には十五歳だろ?」
「…………………はあっ?!」
この村では。いや、この大陸では十五歳になったら成人の儀を行うことになっている。
その時に伴侶となる女性が居るのならば、その時に婚姻の儀も結んでしまおうというのが、この村の考えなのだ。
しかし、あまりに突拍子すぎる質問にリュカは叫んだ。
驚きで思わず押し車から手を離すところだった。
「いやいやいや!いないって!」
普段、畑仕事をするか男友達と走り回っている僕に女っ気が無いことぐらい分かっているだろうに。
父さんは、かっかっかっ!と豪快に笑った。
「分からないぞ~?案外、見ててくれている女子も居るかもだぞー?」
いやいや、ないない。
僕のすむ村────アシキ村は、ヴァナシュリア王国の中にある人口が百人ちょっとという小さな村だ。大人の男女の人数は同じぐらいなのだが、子供の男女の人数は、男の方が多い。男の子が十二人に対して、女の子は六人しか居ない。
結婚できたとしても、男子の半分、六人があぶれることになるのだ。
正直、僕はその中の一人になるのだと思っている。
他の十二人に比べ、僕には突出して得意なことがないのだ。
テッタは力持ちだし、エイブは頭がいいし、フシャロンは気配りが上手だし。他の人達にも色々な長所がある。
対して僕には、目が少し良いことしか無いのだ。
少し遠くの景色を見ることができ、少し相手の動作がゆっくり見える。
ただそれだけだ。
景色が見えたところで説明することもできないし、動作がゆっくり見えたところで何もできない。
───────そう。何もできないのだ。
話をどうにかしてはぐらかし、僕は話題を逸らした。
家へと近づいてきた時、誰か鎧を着た人が家の玄関前に居るのが見えた。
「父さん。誰かが家の前に居るよ」
「なにっ?」
父さんは目を細める。それでも見えなかったのか、早歩きで家へと向かった。
家の前に居た人は、僕達の姿を確認すると、身分証なのか、紋章の付いた剣を腰から取って前に突き出した。
「突然の訪問申し訳ない。私はヨルド。ヴァナシュリア王国の、王都ヴァルキルの騎士だ」
ヨルドさんは、赤い髪に赤い目をした好青年の風貌をしている人だ。
王都の騎士ということもあり、全身から強者の感じが滲み出ている。
「初めまして、ヨルドさん。俺はこの家の主のリバル。こっちは息子のリュカです。で、王都の騎士様がこの家に何の用で?」
父さんは牽制するように言った。
しかし、ヨルドさんは父さんの質問を無視し、僕の方を見た。
「君はリュカ君というんだね」
「あ、は、はい」
ヨルドさんは困惑する僕の肩に手を置いた。
「悪いが、王都まで同行してもらいたい」
一瞬のことだった。
ヨルドさんがそう言った瞬間、父さんが間に割り込んだ。
「おいおい騎士様。俺の一人息子を理由も無しに連れてくなんて、どういうことだよ?」
「と、父さん……………」
父さんはヨルドさんを睨み付ける。
その体からは普段の父さんからは考えられない威圧感が迸っている。
しかし、ヨルドさんはその威圧を物ともせずに、涼しい顔で言った。
「すまないが、理由は言えない。ただ───」
彼は途中で言葉を切り、鎧の下から書状を取り出し、内容を見せた。
そこに書いてあることは文字を習って間もない僕には、分からないことが書かれていた。
ただ、最後に押印されている家紋には見覚えがあった。
これは──────ヴァナシュリア王家の家紋だ。
「これは王命だ」
ヨルドさんは、淡々と告げた。
午前の畑仕事を終え、雑草のたんまり入った押し車を押して家へと戻る。
「どうだリュカ?」
目の前を歩く父が背を向けながら聞く。だが、リュカには何がどうなのか分からず、首を傾げた。
「何が?」
「お前のことだよ」
おそらく口許をニヤつかせながら言っているのであろう父は、さらに続ける。
「嫁候補はいるのか?来年には十五歳だろ?」
「…………………はあっ?!」
この村では。いや、この大陸では十五歳になったら成人の儀を行うことになっている。
その時に伴侶となる女性が居るのならば、その時に婚姻の儀も結んでしまおうというのが、この村の考えなのだ。
しかし、あまりに突拍子すぎる質問にリュカは叫んだ。
驚きで思わず押し車から手を離すところだった。
「いやいやいや!いないって!」
普段、畑仕事をするか男友達と走り回っている僕に女っ気が無いことぐらい分かっているだろうに。
父さんは、かっかっかっ!と豪快に笑った。
「分からないぞ~?案外、見ててくれている女子も居るかもだぞー?」
いやいや、ないない。
僕のすむ村────アシキ村は、ヴァナシュリア王国の中にある人口が百人ちょっとという小さな村だ。大人の男女の人数は同じぐらいなのだが、子供の男女の人数は、男の方が多い。男の子が十二人に対して、女の子は六人しか居ない。
結婚できたとしても、男子の半分、六人があぶれることになるのだ。
正直、僕はその中の一人になるのだと思っている。
他の十二人に比べ、僕には突出して得意なことがないのだ。
テッタは力持ちだし、エイブは頭がいいし、フシャロンは気配りが上手だし。他の人達にも色々な長所がある。
対して僕には、目が少し良いことしか無いのだ。
少し遠くの景色を見ることができ、少し相手の動作がゆっくり見える。
ただそれだけだ。
景色が見えたところで説明することもできないし、動作がゆっくり見えたところで何もできない。
───────そう。何もできないのだ。
話をどうにかしてはぐらかし、僕は話題を逸らした。
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「父さん。誰かが家の前に居るよ」
「なにっ?」
父さんは目を細める。それでも見えなかったのか、早歩きで家へと向かった。
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「突然の訪問申し訳ない。私はヨルド。ヴァナシュリア王国の、王都ヴァルキルの騎士だ」
ヨルドさんは、赤い髪に赤い目をした好青年の風貌をしている人だ。
王都の騎士ということもあり、全身から強者の感じが滲み出ている。
「初めまして、ヨルドさん。俺はこの家の主のリバル。こっちは息子のリュカです。で、王都の騎士様がこの家に何の用で?」
父さんは牽制するように言った。
しかし、ヨルドさんは父さんの質問を無視し、僕の方を見た。
「君はリュカ君というんだね」
「あ、は、はい」
ヨルドさんは困惑する僕の肩に手を置いた。
「悪いが、王都まで同行してもらいたい」
一瞬のことだった。
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「おいおい騎士様。俺の一人息子を理由も無しに連れてくなんて、どういうことだよ?」
「と、父さん……………」
父さんはヨルドさんを睨み付ける。
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しかし、ヨルドさんはその威圧を物ともせずに、涼しい顔で言った。
「すまないが、理由は言えない。ただ───」
彼は途中で言葉を切り、鎧の下から書状を取り出し、内容を見せた。
そこに書いてあることは文字を習って間もない僕には、分からないことが書かれていた。
ただ、最後に押印されている家紋には見覚えがあった。
これは──────ヴァナシュリア王家の家紋だ。
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ヨルドさんは、淡々と告げた。
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