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ミスター・ドラゴン

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「竜殺しなんてやるもんじゃない」
彼は疲れきった顔でそう言った。
「準備は大変だし命がけだし、首尾よく終えても呪いをかけられることだってある。そもそもドラゴン自体がそういるもんじゃない」
まさにその通りで、特に最近はめっきり減ったということだ。かつてはどの森もどの山も、そこの主と呼ぶべきドラゴンが棲み着いていたそうだが、今やそんなのはほとんど伝説まがいの話になっている。

「地方によって神獣だったり魔物だったり、単に古代の生き物の生き残りだったりで千差万別だから、毎度毎度扱いを変えにゃならん。これも大変なことだ。なんせちょっとしくじると、当のドラゴンだけじゃなく住民まで怒り出す」
そこまで言ったところで汗を腕で拭い、懐から取り出した鉄の水筒を呷る。中身は水ではないだろう。吐き出した息が明らかに酒精で満ちている。

「家族にも理解されん。わざわざ自分からそんな危ないことに突っ込んで行こうとするのはやめてくれと何度頼まれたことか。金だって馬鹿みたいにかかる。だが、俺はこれしかできんからな。やめられるものならやめてもいいが、そうもいかんのだ」
付き合いが長いわけでもない私に、こんなに愚痴を聞かせることは珍しかった。彼なりに思うところもあるのだろう。もちろん、今はひと仕事やりきって心が緩んでいるのもあるのは間違いない。

「さあ、もう行かねば。東の方から鳴き声が聞こえる。ありゃデカいぞ。黒竜かもしれん。だったら大仕事だ、やれやれ」
そう言って、ミスター・ドラゴンは先程仕留めたばかりの赤竜ンダドワカの死体から腰を上げて歩き出した。
彼以外の耳には、なんの鳴き声も聞こえなかったに違いない。なにせ今はこの辺りを十年以上にわたって荒らし回った災厄の獣が退治されたおかげで、そこら中が喜びの狂乱に満ちているのだから。

獲物の噂を聞いたと言ってふらりと現れたミスター・ドラゴンは、どこで調べたのかこの悪竜が山の魔力を受けた火の化身であると突き止めたのち、まず罠を仕掛けて奴を湖の水に沈めて弱らせ、次いでよく燃える酒を浴びせて火をつけた。
火は奴の好物であるから、ンダドワカは嬉々として己にまとわりつくそれを喰らった。が、獣の頭では、その酒が聖別されていたためにこの火が自らには毒であることまでは見抜けなかった。
腹の中から力を封じられ、もはや火を吐くことも飛ぶこともできず鱗がボロボロと剥がれ落ちていったところへ、古来竜殺しに用いられるという黒い鏃の矢が信じられないほどの大弓から放たれて、トドメを刺したのだった。

本当に鮮やかな手並みだった。
ミスター・ドラゴンが現れてからンダドワカが死ぬまでは実にあっという間だったが、我々はほとんど絶望しかけるほど苦しめられていた。あの日々から解き放たれたことがにわかには信じられない。そしてこんな竜がまだいるというのも、やはり信じられない。
しかし、彼がいると言うなら間違いはない。確かに竜はいるだろう。次の仕事が彼を待っている。
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