上 下
9 / 39
本編

9.底にある危機

しおりを挟む
 この後出てきた地下のモンスターは、軒並みさっきのオーガと同じかそれより厄介なくらいのヤツばかりだった。
 宙を飛ぶ火の玉、普通のよりデカくて目がらんらんと光る化け物狼、オーガより更に背の高いつるっぱげの一つ目巨人などなど。
 そのくせ、どれも魔石も落とさないし素材にもならない。こりゃ冒険者から敬遠されるわけだね。

「イヌイさん……こんなに凄かったなんて!」

 ま、そんなモンスター達も俺の前ではエンカウント即グッバイ。最初は俺より前に出ようとしていたアビも、その光景を何度も見て、メインはすっかり俺に任せてサポートに回るようになっていた。

「いやー、それほどでも。この剣の力だよ」

 一応謙遜はするけど、褒められて悪い気はしない。特に相手がこんな可愛い女の子だと。

「いいえ、もちろんその剣の切れ味はバツグンですけど、身のこなしも尋常じゃないです! なんですか、目に見えないほどのスピードって! これで冒険者登録したばかりなんて、今まで何をなさってたんですか?」

「いや俺はーーあ、えー、話すとちょっと長んだけどさ……」

 こんな感動している相手に、特に何も、とは答えづらいので、生まれてこのかた田舎で修行漬けだったことにしておく。これならこの世界の常識知らずなのも納得してくれるでしょ。

「私もスピードには自信がありましたけど、イヌイさんにはちょっと敵わないです。そこにあの剣の切れ味が加われば防御も回避も不可能になっちゃうし、一種のコンボということでしょうか。あんな夢みたいな極意を実現させたのは、何という流派なんですか?」

 やべ、そこはまだ考えてないところだ。適当に言ったツケがこんなに早く来るとは。 

「あー、えーと、自己流というか」

「自己流⁉︎ それであんなテクネを?」

「あ、いや、色々な所で習ってて……あ、そうそう! この前は赤剛赤石流の道場にも行って、マキノって人に手ほどきを受けたよ」

「赤剛石流のマキノ⁉︎ "青の侍"の第二十席じゃないですか! どうやって会ったんですか?」

「え、フツーにワウラの街で道場に行ったら出てきて……」

 "青の侍"ってなんだ? だいたい二十席って凄いのか分からんよ。

「元々お知り合いってことですかね……? だってそんな簡単に会える人じゃないから、国家級征伐から帰ってきたタイミングで約束されてたとか? とにかく、あれだけの武人とお付き合いがあるのなら、納得です」

 勘違いも甚だしいけど、なんとか誤魔化せたかな? 今がチャンス、早めに話を変えよっと。

「あ、あそこ! 階段じゃない? 結構早めに見つかったね」

「あ、いえ。あそこは別の場所に降りるルートみたいなんです。行きたい所へはもっと奥にある別の階段が繋がっています」

 複雑! ま、アビの気は逸らせられたから良しとしよう。

 ***

 そんなわけで階段を通り過ぎ、少し進むと上り階段があった。あれれ?
 そこを進むと、ホールに出た。ここ、見覚えあるような?

「え? ここ、最初のホールですよね。戻ってきちゃった? そんな、もう一つ階段があるはずなのに……」

 アビも同じことに気付いたようで、不思議がっている。
 どうやら調べた情報と齟齬があるらしい。でもここまでほぼ一本道で、他に下れそうなルートはなかった。
 ということは、やっぱりさっきの階段を行くしか選択肢はないのでは?

「仕方ありません。戻ってみましょう」

 が、案の定もう一度ぐるっとしてきただけで、迂回路はなし。こりゃいよいよかな。

「あの階段を下ってみるのはダメなの? 間違ってたら戻ればいいじゃない」

「いえ……あの階段は全然別の危険な所に繋がっている、いわば罠のようなもののはずなんです。それを知っていてあえてあそこを行くのは、ちょっと気が進まないというか」

 アビの心配ももっともだ。二の足を踏むのも分かる、
 でも、他に可能性はなくて、そして彼女は一人ではなく俺もいるのだからーー

「大丈夫、行ってみようよ。危ないと思ったらすぐ引き返そう、ね?」

「……分かりました。竜穴にいらずんば宝を得ず、ですよね」

 異世界格言、頂きました。意味もスッと通るやつで助かります。
 さて、鬼が出るか蛇が出るかーー

「オーガが出るかワームが出るか、エルフは度胸のドワーフ間抜け、です。行きましょう」

 立て続けに飛び出る異世界格言。最後だけ急にディスり挟んできたけど、これも意味は分かる。てか、エルフなのに結構口悪いのね。もしかしてアビってダークエルフなんじゃないの?

「オッケー、行こう。俺がついてるよ」

「おっけー、てなんですか? とにかく、行きましょう!」

 そこは通じないんかい! 感覚狂うねまったく。

 ***

 そうして、俺達は階段の前までやってきた。
 この先に待ち構えているのがなんであれ、わざわざ海を渡ってまで目的のためにがんばるアビのために、俺も全力でサポートしようと決意も新たにして、いざ。

「じゃあ、まず私からーーッ⁉︎」

 そうしてアビが最初の一段に足を置いた瞬間。
 階段はガラガラっと音を立て、ソッコーで崩れてしまった。

「キャアアアアアアア⁉︎?」

 運悪くそっちの足に体重が乗り切っており、アビはぽっかり空いた穴に落ちていく。

「アビ、掴まれ!」

 俺も全力で手を伸ばすが、ここで体を支えようと壁に手をついたのがいけなかった。

「ーーうおおおおお⁉︎」

 なんとその壁もズルッと崩れ、完全にバランスを狂わされた俺もアビを支えることができず、逆に引っ張られて一緒に落ちていってしまう。

 ***

 こんな初っ端から罠にハマるとは、我ながら情けない! ありがちっちゃありがちの展開なのに!
 自分の間抜けさ具合を呪いつつ、俺とアビは底の見えない暗がりへと消えていくのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生したけど平民でした!もふもふ達と楽しく暮らす予定です。

まゆら
ファンタジー
回収が出来ていないフラグがある中、一応完結しているというツッコミどころ満載な初めて書いたファンタジー小説です。 温かい気持ちでお読み頂けたら幸い至極であります。 異世界に転生したのはいいけど悪役令嬢とかヒロインとかになれなかった私。平民でチートもないらしい‥どうやったら楽しく異世界で暮らせますか? 魔力があるかはわかりませんが何故か神様から守護獣が遣わされたようです。 平民なんですがもしかして私って聖女候補? 脳筋美女と愛猫が繰り広げる行きあたりばったりファンタジー!なのか? 常に何処かで大食いバトルが開催中! 登場人物ほぼ甘党! ファンタジー要素薄め!?かもしれない? 母ミレディアが実は隣国出身の聖女だとわかったので、私も聖女にならないか?とお誘いがくるとか、こないとか‥ ◇◇◇◇ 現在、ジュビア王国とアーライ神国のお話を見やすくなるよう改稿しております。 しばらくは、桜庵のお話が中心となりますが影の薄いヒロインを忘れないで下さい! 転生もふもふのスピンオフ! アーライ神国のお話は、国外に追放された聖女は隣国で… 母ミレディアの娘時代のお話は、婚約破棄され国外追放になった姫は最強冒険者になり転生者の嫁になり溺愛される こちらもよろしくお願いします。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...