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本編
7.彼女の秘密
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「イヤァァァ!」
朝、俺を起こしたのはそんな絶叫だった。
ベッドを取られてソファで寝てたんだけど、結構硬くてあんまりよく眠れなかったのに、この目覚めは辛すぎる。
「あ、おはよー、アビちゃん。よく眠れーー」
「あ、あ、あなたは昨日の……! せ、せ、責任、取ってもらいますからね!」
布団を体に巻きつけながら、顔を真っ赤にしてもう一度叫ぶエルフ娘。
「えと、別になんもなかったよ? 君、部屋に着いた途端に寝ちゃったし」
「じゃあなんで裸なんですか私! おかしいじゃないですか! は、初めてだったのに……」
大丈夫、まだ初めてだから。つっても全然信じないので、マジで困ってしまった。
とりあえず朝ごはんを食べようと宿から出る時も、「昨夜はお楽しみでしたね!」的なことを受付で言われる始末。
うおいやめろ、「やっぱり!」みたいな目でアビゲイルに超睨まれるから。
朝食を食べさせてくれる食堂だかカフェだかみたいな店に腰を落ち着けると、アビゲイルは開口一番こう言った。
「とにかく、責任を取ってもらいます。今日から私とパーティを組んで、最終的にはある依頼を達成してもらいますから」
そういう持ってき方は予想してた。もしかして、もともとそういうつもりだった? ……違うか、本気でなんかあったと思い込んでる顔だよこれは。
「分かったよ。なんもしてないってのは本当だけど、そもそもそっちの話を聞こうとしてああなったんだし」
適当に注文しつつそう答えると、アビゲイルの顔はパッと明るくなった。
「あ、ありがとうございます……! 実は、自分じゃどうにもならない問題があって、しばらくヤケになってたんです。覚えてないんですけど、ご迷惑とかおかけしてしまってたりします? ごめんなさい」
素直な良い子じゃん。酔ってる時と大違い。
「いやまあ、お互い過去は忘れて仲良くしてやってこ。これからは運命を共にするパーティなんだし」
「う、運命を……共に……そんなぁ。あ、過去は忘れないですけど、よろしくお願いします」
「結構アレだね、いい度胸だよね君。とにかく、まずは何があったかから聞かせてくれるかな」
そうして、俺はアビゲイルーーアビと呼ぶことになった初めてのパーティメンバーの事情を聞いていった。
***
アビは元々、出身国のユーエスエイ帝国をホームにして活動する冒険者だったらしい。
B級まで昇格しただけあってそれなりの実力で知られてたんだけど、そんなある日、ある依頼が舞い込んだという。
それは、ユーエスエイ領各地で発生するようになった巨大なモンスター、通称「怪獣」の討伐と、そのための情報収集だった。
「まずは直接この目で確認しようと、怪獣が出現したという話を聞いてすぐ見にいったんですけど……倒せるとはとても思えないくらい大きすぎて……それで文献を当たったところ、ここジャーポネでも過去に怪獣が出現したことがあったっていう記録を見つけたんです」
怪獣。ジャーポネ。なんか馴染みがある。嫌いじゃないよ。
「それで、単身海を渡って来たんですが……怪獣が出たのは相当昔のことだけあって、まだあまり情報を掴めていません。こうしている間に、故国の民草に被害が出ていると思うと気が気じゃなくて」
それで呑んだくれてしまったと。よろしくないよ、酒に逃げるのはさ。
「じゃあ、俺も一緒に記録を探す? あんまりっつうか全然アテはないんだけど」
「いえ、実は一つだけ、手がかりになりそうなことが分かってるんです。でも、それは私一人の手には負えなくて。イヌイさんには、ある迷宮に一緒に行ってもらいたいのです」
にゃるほど? 迷宮とかダンジョンとか、異世界ファンダジーの王道として俺も興味はある。お互いwin-winじゃん。
「分かった、そこに行こう。でも、なんで他の人じゃダメだったの?」
「それはですね、その迷宮……かなり難度が高いのに、全然実入りがないんです。普通なら、何かしらの財宝が置かれてるとか倒したモンスターから素材が取れるとかのメリットがあるんですけど」
それがサッパリだから、誰も誘いに乗らなかったと。アビはこっちに知り合いもいないだろうしね。
目的の迷宮はこの街のすぐ近くだそうで、徒歩で行く半日かからないらしい。
なので、今日は一日準備に当てて、明日朝から出発することにする。迷宮攻略にはおそらく二、三日かかるのでは、という見込みだそうだ。
「じゃ、まずは先立つ物がないとね」
「それが、私はもうほとんどお金を使ってしまっていて……」
大丈夫、俺には前に村で手に入れた商業ギルド手形があるのだ。
朝飯を食べ終わった後、半信半疑のアビを連れて商業ギルド支部に行き、窓口で現金化してもらう。
と思ったらにわかに職員さんがバタバタし始め、俺達は奥の部屋に通されて、しばらく待たされることとなった。
「大変お待たせいたしました、当商業ギルド支部長のトードウと申します。お持ちになった手形は確かに承りましたが、なにぶん額が額なものでして、こちらでご確認いただきたく思います。では」
後から部屋に入ってきた偉めな感じの男がそう言うと、続いて職員さんがお盆に山盛りの金貨銀貨を持ってきた。
げ、手形見てもよく分からんかったけど、こんなになるの?
「わ、これならなんとか必要物資の購入分は足りそうですね。よかったー、ありがとうございます!」
そして、こんだけあってもなんとか間に合うってレベルなの、アビちゃん? 冒険者用のアイテムってどんだけ高いんだろうか。
商業ギルドを出て、アビちゃんの案内でいくつか店を回る。
魔術仕立ての飲み薬や毒消し草その他回復関係、松明など消耗品、食料に飲み水、武器防具といった装備品、エトセトラエトセトラ。
なるほど、こりゃ金がかかるわけだ。
仲間になるので、アイテムボックスがあることを伝えると、アビちゃんは大いに驚きつつ、とても喜んだ。
うんうん、こんなに人力で運ぶのは辛いからね。
そんなこんなで日も暮れて、明日への活力を備えるべく美味しいお店でいいものを食べた後、ぐっすり寝たのでした。
あとやっぱ、異世界料理は最高っす。特に、牛と山羊を足して割ったような味だったウギとかいう動物の骨付き肉焼き、好き。大好き。
帰ってきたらまた行こっと。
朝、俺を起こしたのはそんな絶叫だった。
ベッドを取られてソファで寝てたんだけど、結構硬くてあんまりよく眠れなかったのに、この目覚めは辛すぎる。
「あ、おはよー、アビちゃん。よく眠れーー」
「あ、あ、あなたは昨日の……! せ、せ、責任、取ってもらいますからね!」
布団を体に巻きつけながら、顔を真っ赤にしてもう一度叫ぶエルフ娘。
「えと、別になんもなかったよ? 君、部屋に着いた途端に寝ちゃったし」
「じゃあなんで裸なんですか私! おかしいじゃないですか! は、初めてだったのに……」
大丈夫、まだ初めてだから。つっても全然信じないので、マジで困ってしまった。
とりあえず朝ごはんを食べようと宿から出る時も、「昨夜はお楽しみでしたね!」的なことを受付で言われる始末。
うおいやめろ、「やっぱり!」みたいな目でアビゲイルに超睨まれるから。
朝食を食べさせてくれる食堂だかカフェだかみたいな店に腰を落ち着けると、アビゲイルは開口一番こう言った。
「とにかく、責任を取ってもらいます。今日から私とパーティを組んで、最終的にはある依頼を達成してもらいますから」
そういう持ってき方は予想してた。もしかして、もともとそういうつもりだった? ……違うか、本気でなんかあったと思い込んでる顔だよこれは。
「分かったよ。なんもしてないってのは本当だけど、そもそもそっちの話を聞こうとしてああなったんだし」
適当に注文しつつそう答えると、アビゲイルの顔はパッと明るくなった。
「あ、ありがとうございます……! 実は、自分じゃどうにもならない問題があって、しばらくヤケになってたんです。覚えてないんですけど、ご迷惑とかおかけしてしまってたりします? ごめんなさい」
素直な良い子じゃん。酔ってる時と大違い。
「いやまあ、お互い過去は忘れて仲良くしてやってこ。これからは運命を共にするパーティなんだし」
「う、運命を……共に……そんなぁ。あ、過去は忘れないですけど、よろしくお願いします」
「結構アレだね、いい度胸だよね君。とにかく、まずは何があったかから聞かせてくれるかな」
そうして、俺はアビゲイルーーアビと呼ぶことになった初めてのパーティメンバーの事情を聞いていった。
***
アビは元々、出身国のユーエスエイ帝国をホームにして活動する冒険者だったらしい。
B級まで昇格しただけあってそれなりの実力で知られてたんだけど、そんなある日、ある依頼が舞い込んだという。
それは、ユーエスエイ領各地で発生するようになった巨大なモンスター、通称「怪獣」の討伐と、そのための情報収集だった。
「まずは直接この目で確認しようと、怪獣が出現したという話を聞いてすぐ見にいったんですけど……倒せるとはとても思えないくらい大きすぎて……それで文献を当たったところ、ここジャーポネでも過去に怪獣が出現したことがあったっていう記録を見つけたんです」
怪獣。ジャーポネ。なんか馴染みがある。嫌いじゃないよ。
「それで、単身海を渡って来たんですが……怪獣が出たのは相当昔のことだけあって、まだあまり情報を掴めていません。こうしている間に、故国の民草に被害が出ていると思うと気が気じゃなくて」
それで呑んだくれてしまったと。よろしくないよ、酒に逃げるのはさ。
「じゃあ、俺も一緒に記録を探す? あんまりっつうか全然アテはないんだけど」
「いえ、実は一つだけ、手がかりになりそうなことが分かってるんです。でも、それは私一人の手には負えなくて。イヌイさんには、ある迷宮に一緒に行ってもらいたいのです」
にゃるほど? 迷宮とかダンジョンとか、異世界ファンダジーの王道として俺も興味はある。お互いwin-winじゃん。
「分かった、そこに行こう。でも、なんで他の人じゃダメだったの?」
「それはですね、その迷宮……かなり難度が高いのに、全然実入りがないんです。普通なら、何かしらの財宝が置かれてるとか倒したモンスターから素材が取れるとかのメリットがあるんですけど」
それがサッパリだから、誰も誘いに乗らなかったと。アビはこっちに知り合いもいないだろうしね。
目的の迷宮はこの街のすぐ近くだそうで、徒歩で行く半日かからないらしい。
なので、今日は一日準備に当てて、明日朝から出発することにする。迷宮攻略にはおそらく二、三日かかるのでは、という見込みだそうだ。
「じゃ、まずは先立つ物がないとね」
「それが、私はもうほとんどお金を使ってしまっていて……」
大丈夫、俺には前に村で手に入れた商業ギルド手形があるのだ。
朝飯を食べ終わった後、半信半疑のアビを連れて商業ギルド支部に行き、窓口で現金化してもらう。
と思ったらにわかに職員さんがバタバタし始め、俺達は奥の部屋に通されて、しばらく待たされることとなった。
「大変お待たせいたしました、当商業ギルド支部長のトードウと申します。お持ちになった手形は確かに承りましたが、なにぶん額が額なものでして、こちらでご確認いただきたく思います。では」
後から部屋に入ってきた偉めな感じの男がそう言うと、続いて職員さんがお盆に山盛りの金貨銀貨を持ってきた。
げ、手形見てもよく分からんかったけど、こんなになるの?
「わ、これならなんとか必要物資の購入分は足りそうですね。よかったー、ありがとうございます!」
そして、こんだけあってもなんとか間に合うってレベルなの、アビちゃん? 冒険者用のアイテムってどんだけ高いんだろうか。
商業ギルドを出て、アビちゃんの案内でいくつか店を回る。
魔術仕立ての飲み薬や毒消し草その他回復関係、松明など消耗品、食料に飲み水、武器防具といった装備品、エトセトラエトセトラ。
なるほど、こりゃ金がかかるわけだ。
仲間になるので、アイテムボックスがあることを伝えると、アビちゃんは大いに驚きつつ、とても喜んだ。
うんうん、こんなに人力で運ぶのは辛いからね。
そんなこんなで日も暮れて、明日への活力を備えるべく美味しいお店でいいものを食べた後、ぐっすり寝たのでした。
あとやっぱ、異世界料理は最高っす。特に、牛と山羊を足して割ったような味だったウギとかいう動物の骨付き肉焼き、好き。大好き。
帰ってきたらまた行こっと。
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