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本編

26.白医者2

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 それからメズは、自分達冒険者ギルドが抱える事情を詳しく教えてくれた。
 まず、最近になってこの島に住む回復魔法の使い手が次々姿を消し始めた。彼らの家などに血痕やもみ合いの跡があった為、これは人為的なものだと思われる。
 元々これら治療師の数は少なかった為、残るは街の近くの森に住む一人だけ。彼女を保護すべく一時的な街への移住を要求したが、断られてしまい、現在ギルド職員及び依頼を受けた冒険者が近辺警備中。
 そうして犯人のアテもないところに俺達が現れ、回復魔法の使い手について話を持ち出した為、思いっきり警戒された、というわけだそうだ。

「そんな所に正面からのこのこ犯人が来るこたないでしょ。我々はシロですよシロ」

「ええ、そう思います。それに、私にはあなた達が無関係だと分かるのです。先ほどは奥にいて、ゴズを止めるのが遅れてしまいました。申し訳ありません」

 ふーん。ま、犯人じゃないって信じてくれるならいいけどさ。てか、俺達が違うって分かるのは、どういう理由なんだ?
 アビを見てみると、同じ疑問は感じつつも、心当たりはあるようだ。それとなく目線で説明を促すと、彼女からメズに聞いてくれる。

「判断の理由というのは、あなたはテレパシストなんでしょうか? あるいは『心眼』系のテクネの使い手とか? それとも……」

「残念ながらそれは明かせませんが、そのようなものと思ってくださって結構ですよ」

 顔はニコリと微笑みながら、しかしハッキリとした拒絶の態度で、メズは答えた。
 アビとしても必ずしも答えをもらえるとは思っていなかったようで、仕方ない、というように肩をすくめて俺を見る。
 そういう個人の能力ってのは、プライベート情報的なもんなのかもな。地球だって知らない人にズバズバ自分のこと教えたりしないし。
 さて、あちらの事情は分かったが、それをわざわざ俺達に話した理由はまだだ。そこんとこ、ヨロシク。

「それで、私達にどうしてほしいのですか?」

「冒険者ギルドからの指名依頼を発行します。森の治療師を守り、犯人を捕らえてください」

 そこで一度言葉を区切って、メズはニコリと微笑む。

「北の洞窟に潜んでいた邪悪な精霊を打ち破ったあなた方にならば、この依頼を果たしていただけると見込んでおります。いかがでしょう?」

 おお、そこまで分かっているのか。
 俺達が犯人じゃないと分かるっていうのは、正直なところ口ではなんとでも言えることであり、半信半疑だった。
 しかし、北の洞窟の話はまだ誰にもしていない。それを知っているなら、メズには真実を見抜く何かしらのチカラがあるってのは本当何なんだろう。

「じゃあ、報酬として回復術を俺の仲間にかけるようにしてくれ。できれば前払いで」
 
「はい、承りました」

 またニコリと微笑んで、メズが右手を差し出す。俺もまた右手を差し出して、ガッチリ握手する。交渉成立。やってやりましょう。

 ***

 そんなわけで、まずは治療師の所へ連れて行ってもらうことになった。
 ゴズ、メズ、マナ、俺の順で付かず離れずの距離を保ちながら森の獣道を行く。
 これは、不意のモンスターとの遭遇に対応しつつ、各人が一挙に罠などにハマらないようにする基本陣形だ。
 一番危険な先頭は、案内役のギルド側二人のうちゴズが受け持ってくれた。また、奇襲を真っ先に受けるし襲われた時に気付かれにくい一番後ろ、殿しんがりは俺が担当する。
 メズも立候補してくれたが、そこはある理由で断っている。向こうも分かっていて引き下がったのかもな。
 後ろからふと見ると、ゴズとメズ共に白い腕環を身に付けている。これまでは袖とかで隠れてて気付かなかった。ギルド職員の印は指環だし、なんだろな。

「敵だ。気を付けろ」

 と、先頭のゴズから声がかかる。そのゴスは得物の戦斧を構えて、既に戦闘態勢に入っている。
 ほどなくして木の上に現れたのは、鋭い牙と爪を持つ猫系のモンスター、ホワイトピューマだ。しなやかな体つきからして、スピードが最大の武器だな。
 まずアビが矢を放って先制攻撃する。それは見事太ももに突き刺さって機動力を奪うことに成功。痛みに怒りの咆哮を上げたモンスターは、木の枝を伝って近づいてくる。
 そして飛び降りて襲いかかってきたところを、ゴズの斧が迎え撃った。
 ズバンと景気のいい音がして、猫の首が転がる。それであっという間に決着がついた。
 いやいや、そんな正面から来たって無理だろ。やるなら、肉食動物らしく奇襲しないと。

「一発で決めるなんて、やるじゃん」

「ふん、こう見えてB級ライセンス持ちなんでな」

 俺の上から目線のコメントにややイラついた様子で答えるゴズ。ふーん、B級ね。俺がD級だってのは知ってるから、メズに頼られてるのもあってなおさら面白くないんだろうな。
 なんとなく不協和音を感じつつ、俺は森の更に奥へと向かうのだった。
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