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本編

25.白医者

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 なんとか宿まで連れて帰ったズーニーは、思ったよりも重傷だった。
 あ、俺のせいじゃないよ? 全身にくまなく受けていたマリード戦のダメージが深かったのである。よくこんな状態で戦っていたなってくらいボロボロだ。
 うーん、これだとさすがに一緒にユーエスエイに旅立つのは無理だな。けど治るのをただ待ってるのはあまりに時間がかかる。

「治療師を探しましょう。この島にいるかは分かりませんが……」

 アビが言うには、回復系魔術を使える人は相当レアらしく、かなり高額のギャランティで有力者に雇われてる場合がほとんどだとか。
 見つかるかどうか分からんし、いても来てくれるか分からん、それに出発も遅れるが、もちろん仲間をほっぽり出すわけにはいかん。

「じゃ、手分けして探しにいくか。マナはズーニーについていてくれ。幽霊が来たんじゃみんな驚いちまうからな」

「しょーがないわね。任しときなさい」

 ここで、熱にうなされていた当のズーニーがガバリと起きてこう言う。

「これしきの傷、寝ておれば治るわ。先を急ぐなら置いて行け。我輩の力を持ってすれば、ユーエスエイなどひとっ飛びよ。さあ、グズグズするでない」

 強がっちゃってまぁ。いつもはあれだけど、こういうのは可愛く思えるね。

「いーんだよ、俺らが勝手にやることなんだから。それにズーニーの力が必要になるかもだし、一緒にいてくれなきゃ困るんだ。チャチャっと済ましてくるからよ、待っててくれやい」

 隣に立つアビも、笑顔で俺の言葉に頷いている。いい子だよホント。
 そんなわけで俺とアビは宿を出て、まずは街の中で情報収集することにした。一応宿の人にも聞いたけど、傷病はいつも薬草を採ってくるか寝て治すということで、お礼を言って終わりだった。
 さあ、地球なら病院とか治療施設を探すところだけど、そんなのがあるなら苦労しない。次に思いついたのは案内所とか冒険者ギルドとかの情報が集まる所。
 案内所より冒険者ギルドの方がすぐ見つかったので、そこへアビと連れ立って行く。第一情報を探してる段階の今は、まだ二手に分かれるべきじゃない。

「ごめんくださいなっと」

 レンガを積んで作られたギルドの建物に入ると、手前にはやっぱり定番の酒場、奥に受付カウンターがある。
 とりあえず受付かな。

「こんちは、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな」

「はい、どうぞ~。私が伺いますねぇ」

 白黒の毛が生えた耳の獣人ガールは、長閑なこの島らしいのんびり具合で応えてくれる。
 ちなみになんの獣人だろ……分かった、牛だな。ある種の特徴で分かるよね。

「この島に、回復魔法の使い手っています?」

 俺がそう言うと、受付嬢の顔色がさーっと青くなった。ふと気付くと、酒場にいる人達の雰囲気も変わっている。

「えーっと、どんな御用でしょうか~。内容によってはーー」

「逮捕ってことになるんですがね……!」 

 受付嬢の言葉を引き継いだのは、いつの間にか俺の背後に立っていた大男だった。
 こいつも牛の獣人か。やたらとイカツいので、獣人ってか地獄の獄卒、牛頭みたいだ。
 見た感じ、ここの警備役かな?

「いや、単に仲間が怪我でダウンしててさ、助けてほしいんだけど」

 素直にこっちの状況を伝えても、あまり雰囲気は変わらない。張り詰めた空気ってヤな感じ。
 牛頭さん(と呼ぶことにする)は金棒でポンポンと手を叩きながら、尋問を続ける。

「あー、そういう要件なら諦めた方がいいんではないかな。ほら、帰りな。それとも、どうしても治療師に会いたい理由でもあるのかな? うん?」

 目つき悪いぞ、この牛頭さん。それに仲間を助けるのに必要だっつってんだろがいや。

「どうしても必要なんだなーこれが。邪魔しないでくれるか?」

 俺と牛頭さんの間にピリピリした空気が流れる。なかなかの腕前っぽいが、仲間の為とあっちゃこっちも引けない。

「お待ちなさい、ゴズ。その方は本件と無関係のようです。私が対応しましょう」

 ここで割って入ってきたのは、髪をポニーテールにした女性だった。今の空気にも動じないとはいい度胸してるぜ。
 てか、ホントにゴズって名前であってるんかい。

「私はこのギルドのマスターを務めております、メズと申します。ゴスのご無礼、お許しください。ですが、今はそうするのも致し方ないだけの事情があるのです。その理由をお話しさせていただきますので、どうぞこちらへ」

 ここのトップってわけか。道理で堂々としてる。
 ゴズも殺気を収めて苦笑いを浮かべている。俺も肩をすくめて、これでチャラ。
 さて、気を取り直していくかね。

 ***

 ギルドマスターの執務室に案内された俺とアビは、テーブルを挟んでメズと向かい合う。
 一緒についてきたゴズもメズの後ろに立っている。まだ警護役がいるって思ってんのか?

「あなた達は島の住人ではないですね。もしそうなら、今のような状況にはなっていないはずですから」

「俺達はユーエスエイ本土に行く旅の途中で、島に来たのは数日前だ。ここの事情なんか知らん。さっきも言ったけど、仲間が怪我したんで治してもらいたいだけだ」

 メズは俺の言うことを信じているらしい。微笑みながら頷くので、こっちも素直に話の続きを待つ。

「今この島では、回復系魔術の使い手が次々と姿を消しているのです。残るは、森に住む"白医者"のみ。彼女はどうあっても守らねばなりません」

 ほう、なんか物騒な話が出てきたぞ。
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