上 下
21 / 39
本編

21.ザ・洞窟

しおりを挟む
 後から後から出てくる海系モンスターを、ズーニーは文字通り一人で叩きのめした。
 蟹、亀、蛸、その他あらゆる種族を、ごりごりの力押しで。
 ここまでのパワー系とは……見た目からしてそんな感じのフィジカルエリートではあるにしたって、なんかもうそういう問題じゃないレベルの馬鹿げた強さだ。
 彼女の攻撃が一撃必殺なのはもとより、モンスターからどんな攻撃を何回モロに喰らっても無傷だし、だいたい避けようともしない。自分には効かないって見抜いてるわけね。
 あと、一応腰に剣を提げてるんだけど、まだ一回も抜いてない。本来無手勝流で剣は飾りなのか、それとも本気になったら使うのか。
 見たところそんじょそこらの剣じゃなさそうだから、後者かな? うーん、底が知れん。

「ズーニーさん……冒険者ライセンスのランクはいくつなのですか?」

「ズーニー、で構わんぞ、アビよ。そうさな、確かA級だったはずだが……更新したのはだいぶ前のことだしな」

 A級ってえと、ワールドクラスと呼ばれるほんのひと握りのトップ・オブ・トップだ。その上のS級は名誉職みたいなもんなので、実力的には最高峰ってことになる。
 ちなみにアビはB級のプロフェッショナルで、俺はまだ登録したてなんでD級のアマチュア。

「そうですか。テクネを全く用いずにあれほどの戦闘力というのも、A級ならば納得ですね」

 この世界じゃ技巧、テクネが神聖視されてるんだけど、ズーニーはそんなの必要ないと言わんばかりの力押しで通してきている。そこにも、アビは自分とズーニーの力の差を感じて少しカルチャーショックを受けているようだ。
 でも、むしろこんなヤバいの基準にしちゃダメでしょ。

「ねーねー、この洞窟、どうしてモンスターこんなにいるの? 浜辺は平和なもんだったじゃない」

 マナが首を傾げて尋ねる。それもそうだよな、外に出てきてたらあんなピースフルなリゾートは成り立たん。

「分からんか? この洞窟には結界が張ってあったのだ。入り口を通る時にかき消してやったがな」

「え、ヤバくない? それじゃ外に溢れちゃうんじゃん。どうすんのよ」

 アレ、結界だったのか。ズーニーは結構簡単に話すけど、島にとってだいぶ危機なんじゃないのかこれ。

「案ずるな、ここまで一本道だ。出逢うモンスターを全て叩きのめしておるから、外に出たものはおらん。帰りにまた結界を貼り直してやろう」

「結界を張れるのですか⁉︎ では、入った後でまた張り直しておけばよかったのでは?」

「出る時に邪魔になるではないか。二度手間は好かん」

 うーん、結界についてはズーニーさんマターなんで、お任せだ。
 そうこうするうちに、明るい場所が見えてきた。天井から光が差し込んでいるようだ。
 その開けた空間まで行くと、その先は二手に分かれていた。おう、どっちに行けばいいんだ?

「ズーニー、これはどっち?」

 尋ねた瞬間、なんか変な空気を感じた。ズーニーの表情に変化はない。でも、なんか変なのだ。

「さて、どっちだったかな。二手に分かれてみるか」

 おいおい。知らないことはないんじゃなかったのかよ。

「私は、みんな一緒でいいのではないかと思います。はぐれたら困るでしょう」

「そうだよ。私も同感」

 しかし、アビとマナの意見をズーニーはしらっと否定する。

「この先はそんなに長くない。片方は行き止まり、片方は栄光の腕環の所へ繋がっておる。それは確かだ。行き止まりの方に当たったら、もう片方の帰りをここまで戻って待てば良い。さっきも言っただろう、我輩は二度手間を好かんのだ」

「分かった分かった、じゃあどう別れる?」

 正直どっちもどっちな感じだし、話が長引いてもアレなので、ズーニーの意見を採用する。アビとマナも俺に従ってくれるようだ。

「では、戦力を二等分し、A級の我輩とD級のイヌイでこちらに行こう。そちらは任せたぞ」

 と言ってズーニーは勝手に進んでいってしまう。待て待て、置いてくな。

「あー、アビとマナ、すまんがよろしく!」

 うーん、セクシー美女に振り回されるのって憧れてたけど、実際やるとなると案外大変だな。映画やアニメで見るので十分かも。

「ちょ、ちょっと、イヌイーー!」

 後ろからアビの抗議の声が聞こえてくるけど、あえてスルーで先を急ぐ。すぐに追いついてズーニーの横に並び、そのまましばらくいったところで声をかける。

「で、どういう狙いなんだ? なんか考えてるんだろ?」

「ふはは、さすがに分かるか?」

 ま、こんだけあからさまに強引な提案をするからには、二手に分かれること自体がズーニーの目的だって可能性も頭に浮かんでくるわな。
 さっき殺気を放って雑魚モンスターを遠ざけてあるので、アビ達だけでも危険はないはずだ。

「分かれ道の片方が行き止まり、というのは本当だ。そして、こちらの先に栄光の腕環がある。腕環の力は凄まじいぞ」

 おお、じゃあズーニーは本当のところ道が分かった上で、あえてアビ達を遠ざけたってことか。つまり、俺と二人で行くために。

「なんで俺達二人なんだ?」

「簡単な話だ。奴らは足手まといだからな」

 ズーニーは立ち止まり、俺の目を見て言う。その声に嘲りの色はない。事実として話しているだけだ。

「お主の実力はよくよく伝わっておるぞ、魔剣の主人よ。未だ使いこなせてはおらんようだが、ヤツの相手をするに不足はなかろう」

「ヤツ、って誰?」

 重ねて問うと、真顔のままで、ズーニーは答えた。

「腕環の守護者、あるいは、腕環に封印されし悪神だ。我輩の仇敵よ」

 ……ヤバそうね。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

王都のモウカハナは夜に咲く

咲村門
ファンタジー
貿易と商業が盛んなとある王国の都、その地下でひっそりと営業しているバー『モウカハナ』。 そこでは異世界の料理とお酒が振る舞われ、訪れた客はそれを肴に今夜も噂話で盛り上がる。 「あの異世界人、また街中でモメてたぞ。今度は家具が高いとかそんな理由で」 過去にこの国に訪れた異世界人は、豊富な知識と特殊な能力を持ち、この王国の歴史に残る有名人。 しかし最近現れたという異世界から来訪者は? レイシュやテンプラを楽しむ紳士たちは、今夜も噂話で盛り上がる。 噂話とお酒が織り成すまったりファンタジーです。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...