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19.超巨大ボスを相手に総力戦を挑む
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これまでで最も広大だった第三階層も、いよいよ終わりが見えてきた。
現れる魔物は、その広大さに比例するように最初の大熊をはじめ大型のものが多くを占めた。
となると、そんな階層を支配するボスもまた、相応に巨大であると予想される。
「うーん、きっとここが、中ボスの部屋だよね」
「はい若様。この扉の紋章を見る限り、そのように思われますね」
「それにしたって、ちょおっと扉が大きすぎる気がするんニャけど」
第一階層のボス部屋の優に五倍はあるサイズの扉を前に、三人は少し尻込みする。押し開けるのすら苦労しそうな巨大さで、そんな部屋に鎮座するボスとは一体どれほどの大物なのか。考えるだに恐ろしい。
それでも、意を決したグライクは扉に手をかけた。すると、扉は自ずとゆっくり左右に開いていく。
「自動で開くなんて、どんな魔法なんだ? ……ま、手間は省けたね。さあみんな、準備はいい?」
「ニャン! ここまで来て、行かないでか!」
「どこであれ、若様の行くところ、このヤマトナもついて参ります!」
「ゴ!」
覚悟のこもった二人と一体の声を聞いたグライクは、一つ頷いて前へと足を進めた。
途端、ムワッと濃い匂いが鼻につく。むせ返るように強い生命の匂い。如何なる存在であればこれほどの存在感を放てるのかと、グライクは不思議にすら思った。
部屋の中は、前に通った草原のように、天井の代わりに広がる空から明るい光が降り注いでいた。所々に巨岩や大木が生えていて、その陰には暗い闇が落ちているが、全体的には迷宮の中と思えないほどに、あけっぴろげな空間である。
「……ボスはどこにいる? 見える?」
「……いやあ? どこかニャ?」
先頭のグライクにも、三人の中で最も目のいいファムファにも、ボスの姿が捉えられなかった。
「……います。既に、我々の前に」
唯一、体の器官に頼らない察知能力を修練により限界まで高めているヤマトナだけが、その存在を知覚していた。
「え? どこどこ? 見えてる?」
「……はい。そして向こうも、こちらを見ています。若様、どうかあくまでゆっくりと、上をご覧ください」
不可解なヤマトナの言葉に従い、グライクとファムファが、徐に視線を上げる。
そして、気づいた。
確かに、これまでの二人にもそれは見えていた。ただ、分からなかっただけなのだ。それが見えているということを。そのあまりの巨大さ故に--
「っ! 来ます!」
「うおおおわわわわわ!!!!」
「ど、どうするニャン!?」
第三階層のボス--鎌首をもたげていた超巨大長虫は、グライクたちを押しつぶさんとばかりに地面へと頭を落とした。
ボスワームの体長は目測で百メル以上。グライクの身長の五十倍以上の高さからの一撃は、落下地点にあった岩や木を跡形もなく粉砕してしまう。
危険極まりないボス。危険極まりない攻撃。危険極まりない戦い。かつてこの階層を突破した者がいないのは、こうした理由からである。
なんとかそれを交わして大岩の陰に逃げ込んだ四名は、土煙の中で自分たちを捜すボスワームから身を隠しつつ、その姿を観察しながら相談し合う。
「こんな奴相手に、どう戦ったらいいんだ……」
「当然ながら、正面からまともに行ってもダメでしょう。弱点を探すしか道はありません」
「うーん、そうは言ってもあんまりそれっぽいところもなさそうだニャ」
ボースワームの頭には鋭い牙に二本の角、八つの目がある。緑色の体は満遍なくぬらぬらの鱗に覆われていて、足はなく、蛇のようにずるずると這いずって動き回る。
その動きの中で太く硬い木や大岩を粉砕しており、体のどこかに柔らかいところがありそうにはない。
「そういえば、こんな話を聞いたことがあります。ああした形の竜種は東の方の国に多く棲むのですが、ある共通した弱点があるそうです。それは、逆鱗と言って、顎の下に一枚だけ逆さに生えた鱗があり、そこを突くとたちまち死に至るのだとか」
「お! それは試してみる価値がありそうだ。でかした、ヤマトナ!」
「お褒めにあずかり恐悦至極!」
喜び合うグライクとヤマトナの横で、しかしファムファだけは冷ややかに見ている。
「でもどうやってそんなのを見つけるニャ? 顎の下と言ったって、結構な数があるニャ」
「そこはあなたの仕事でしょう。野性の目の良さ、存分に発揮なさい」
「こんな距離から見えるわけないニャ!」
「なら近づけば良いではないですか。これだから獣頭は」
「なぬー!」
ヤマトナとファムファの言い争いの傍ら、グライクはマシンマルの金属の体に頭を押しつけて冷やしながら、静かに策を考え続ける。
手持ちの武器は、たとえ七死刀であってもダメージを与えられそうにない。武器の性能云々ではなく、近づくことすら困難で、そもそも当てられそうにないからだ。
第二階層のモンスターハウスで用いた焙烙玉は量が圧倒的に足りない。マシンマルを最大サイズにしたところで、やはり重量差も体格差も文字通り桁違いで通用しそうにない。
となるとやはり弱点を狙っての一点突破が残された道であるが、まずはその逆鱗とやらを見つけないと話にならない。
では、どうやって見つけるか--
「そうか。見つけなくてもいいんだ」
「若様?」
「どういうことニャ?」
グライクが自分の閃きを話そうとしたとき、ボスワームの目がついに三人を捉えて襲い掛かってきた。
「説明している暇はないみたいだ! 悪いけど、ファムファとヤマトナであいつを引きつけて! マシンマルはこっち!」
「ゴ・ゴ!」
「ず、ずるいニャ!」
「お任せください! 行くぞ獣娘!」
なんとか追撃を避けた三人は、バラバラに分かれて走り出す。続いて、ヤマトナとファムファはグライクの指示に従い、それぞれ鞭と投げナイフで攻撃を加えてボスワームの怒りを稼ぐ。
「待ってて、すぐに準備する……!」
そしてマシンマルを従えたグライクは一人、反撃のチャンスを生み出すべく、四次元袋を開くのだった。
現れる魔物は、その広大さに比例するように最初の大熊をはじめ大型のものが多くを占めた。
となると、そんな階層を支配するボスもまた、相応に巨大であると予想される。
「うーん、きっとここが、中ボスの部屋だよね」
「はい若様。この扉の紋章を見る限り、そのように思われますね」
「それにしたって、ちょおっと扉が大きすぎる気がするんニャけど」
第一階層のボス部屋の優に五倍はあるサイズの扉を前に、三人は少し尻込みする。押し開けるのすら苦労しそうな巨大さで、そんな部屋に鎮座するボスとは一体どれほどの大物なのか。考えるだに恐ろしい。
それでも、意を決したグライクは扉に手をかけた。すると、扉は自ずとゆっくり左右に開いていく。
「自動で開くなんて、どんな魔法なんだ? ……ま、手間は省けたね。さあみんな、準備はいい?」
「ニャン! ここまで来て、行かないでか!」
「どこであれ、若様の行くところ、このヤマトナもついて参ります!」
「ゴ!」
覚悟のこもった二人と一体の声を聞いたグライクは、一つ頷いて前へと足を進めた。
途端、ムワッと濃い匂いが鼻につく。むせ返るように強い生命の匂い。如何なる存在であればこれほどの存在感を放てるのかと、グライクは不思議にすら思った。
部屋の中は、前に通った草原のように、天井の代わりに広がる空から明るい光が降り注いでいた。所々に巨岩や大木が生えていて、その陰には暗い闇が落ちているが、全体的には迷宮の中と思えないほどに、あけっぴろげな空間である。
「……ボスはどこにいる? 見える?」
「……いやあ? どこかニャ?」
先頭のグライクにも、三人の中で最も目のいいファムファにも、ボスの姿が捉えられなかった。
「……います。既に、我々の前に」
唯一、体の器官に頼らない察知能力を修練により限界まで高めているヤマトナだけが、その存在を知覚していた。
「え? どこどこ? 見えてる?」
「……はい。そして向こうも、こちらを見ています。若様、どうかあくまでゆっくりと、上をご覧ください」
不可解なヤマトナの言葉に従い、グライクとファムファが、徐に視線を上げる。
そして、気づいた。
確かに、これまでの二人にもそれは見えていた。ただ、分からなかっただけなのだ。それが見えているということを。そのあまりの巨大さ故に--
「っ! 来ます!」
「うおおおわわわわわ!!!!」
「ど、どうするニャン!?」
第三階層のボス--鎌首をもたげていた超巨大長虫は、グライクたちを押しつぶさんとばかりに地面へと頭を落とした。
ボスワームの体長は目測で百メル以上。グライクの身長の五十倍以上の高さからの一撃は、落下地点にあった岩や木を跡形もなく粉砕してしまう。
危険極まりないボス。危険極まりない攻撃。危険極まりない戦い。かつてこの階層を突破した者がいないのは、こうした理由からである。
なんとかそれを交わして大岩の陰に逃げ込んだ四名は、土煙の中で自分たちを捜すボスワームから身を隠しつつ、その姿を観察しながら相談し合う。
「こんな奴相手に、どう戦ったらいいんだ……」
「当然ながら、正面からまともに行ってもダメでしょう。弱点を探すしか道はありません」
「うーん、そうは言ってもあんまりそれっぽいところもなさそうだニャ」
ボースワームの頭には鋭い牙に二本の角、八つの目がある。緑色の体は満遍なくぬらぬらの鱗に覆われていて、足はなく、蛇のようにずるずると這いずって動き回る。
その動きの中で太く硬い木や大岩を粉砕しており、体のどこかに柔らかいところがありそうにはない。
「そういえば、こんな話を聞いたことがあります。ああした形の竜種は東の方の国に多く棲むのですが、ある共通した弱点があるそうです。それは、逆鱗と言って、顎の下に一枚だけ逆さに生えた鱗があり、そこを突くとたちまち死に至るのだとか」
「お! それは試してみる価値がありそうだ。でかした、ヤマトナ!」
「お褒めにあずかり恐悦至極!」
喜び合うグライクとヤマトナの横で、しかしファムファだけは冷ややかに見ている。
「でもどうやってそんなのを見つけるニャ? 顎の下と言ったって、結構な数があるニャ」
「そこはあなたの仕事でしょう。野性の目の良さ、存分に発揮なさい」
「こんな距離から見えるわけないニャ!」
「なら近づけば良いではないですか。これだから獣頭は」
「なぬー!」
ヤマトナとファムファの言い争いの傍ら、グライクはマシンマルの金属の体に頭を押しつけて冷やしながら、静かに策を考え続ける。
手持ちの武器は、たとえ七死刀であってもダメージを与えられそうにない。武器の性能云々ではなく、近づくことすら困難で、そもそも当てられそうにないからだ。
第二階層のモンスターハウスで用いた焙烙玉は量が圧倒的に足りない。マシンマルを最大サイズにしたところで、やはり重量差も体格差も文字通り桁違いで通用しそうにない。
となるとやはり弱点を狙っての一点突破が残された道であるが、まずはその逆鱗とやらを見つけないと話にならない。
では、どうやって見つけるか--
「そうか。見つけなくてもいいんだ」
「若様?」
「どういうことニャ?」
グライクが自分の閃きを話そうとしたとき、ボスワームの目がついに三人を捉えて襲い掛かってきた。
「説明している暇はないみたいだ! 悪いけど、ファムファとヤマトナであいつを引きつけて! マシンマルはこっち!」
「ゴ・ゴ!」
「ず、ずるいニャ!」
「お任せください! 行くぞ獣娘!」
なんとか追撃を避けた三人は、バラバラに分かれて走り出す。続いて、ヤマトナとファムファはグライクの指示に従い、それぞれ鞭と投げナイフで攻撃を加えてボスワームの怒りを稼ぐ。
「待ってて、すぐに準備する……!」
そしてマシンマルを従えたグライクは一人、反撃のチャンスを生み出すべく、四次元袋を開くのだった。
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