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異世界生活1日目の話をしよう。10
しおりを挟むその後、あれから一気に食欲を失くしてしまった僕は、果実水だけをどうにか無理やり飲み干した。
自分の目立つらしい容姿の所為で、どうにも周りから向けられる視線の数々が気になってしまい、緊張で食事どころではなくなってしまったのだ。
そんなわけで、本当は果実水も飲む気分ではなかったのだけれど、エルさんやレニーさんからそれはもう過保護な程に、もう食べないのか?まさかどこか具合が悪いのか?と心配された挙げ句、治癒師(この世界でのお医者さんに当たる存在らしい)を呼びに行こうとするレニーさんを慌てて止め、気分的な問題ですから!と説得した故の結果だった。
そして食事を早々に終えた僕達は今、三人で宿屋へと足を運んでいる最中だ。
僕は相変わらずエルさんの服の背中部分を掴みながら、向かい来る人々の間隙を縫って歩く二人に、ぴたりと寄り添う様にして歩いていた。
僕達を挟んで両側には賑わいのある飲食店等がところ狭しと軒を連ねており、僕達がその中央の通りを歩けばその所々からお誘いの声が掛かるといった状態だ。
しかしながらその店々の間に点々と存在する宿屋の表看板にはどこも「満員」の文字が見受けられ、僕はふと、二人に気になったことを聞いてみた。
「あの…気になったんですけど、これまで見掛けた宿屋は全て満員でしたよね?もう陽も落ちてますし…今からお二人の宿屋に向かったところで、僕の分の部屋の空きなんてあるんでしょうか…?」
だってまさかこんなに宿屋が空いていないなんて思わなかったから、そんなところまで気が回らなかったんだ。
だけど下手したら僕は今日、野宿かもしれないなんて不安になってしまったから、思わず二人に聞かずにはいられなかった。
しかし、当の二人からは予想外の返答が返って来た。
「何言ってんだ?イクは俺達と一緒の部屋に泊まるに決まってんだろ。お前一人で泊まるなんて、それこそ誰かに襲ってくれって言ってるようなもんだぞ?」
ええ!?
二人が泊まる宿屋を紹介してくれるだけじゃなかったの!?
そもそも襲われるって、誰に!?
ひょっとして街中にも盗賊とか出るの!?
「…そうだな。店主には人数が一人増えたと言えばどうにかなるだろう。予備のベッドを運び入れて貰えば問題ないし…最悪、万が一空きのベッドが無かったとしてもイクは小柄だし、俺と一緒に寝れば問題ないだろう」
「は?なに言ってんだ?俺とだろ。お前なんかと一緒に寝かせたら、イクが危ねぇだろうが」
僕はエルさんの先程の言葉にすっかり怯えてしまい、無意識のうちにエルさんの左腕にしっかりとしがみついていたのだ。
そしてそんな僕を微笑ましい物を見るかの様に見下ろすエルさんと、僕達二人のやり取りが気に入らないレニーさんとの間で静かな戦いが繰り広げられていたことなど、当然僕が知る由もなく…僕は別のことを考えていた。
…そっか。
二人からしてみたら、僕は子供みたいな感覚なのだろう。
だから、別に一緒のベッドで寝ても気にならないんだな…。
なんだか恥ずかしい…とか、初対面なのに良いのかな?とか僕の方が気にしすぎなのかなぁ…?
「わぁ…俺、信用ないなぁ。ねぇ?イクは俺とエル、どっちのベッドで寝たい?」
二人がどことなく微妙な雰囲気を漂わせている間で、僕一人呑気にもやもやとあれこれ考えていたら、ふいにレニーさんから話を振られた。
「え?」
「俺にしとけ、イク。レニーと寝たら朝まで眠れなくなるぞ」
そんなことを、真剣な顔をして僕を説得する様にエルさんが言うものだから、僕はなんとなく迫力を感じてしまう。
朝まで眠れなく…?
なんで??
…あ、そっか。
「レニーさん…ひょっとして、寝相が悪いんですか?すごく寝相良さそうに見えるのになんだかちょっと意外ですね?」
「………は?いや…え?」
僕が笑ってレニーさんを見上げると、何故だか彼はポカンとした顔をしていた。
どうしたんだろう?
「でも眠れなくなるのはさすがに困るので…もし、宿屋のベッドが借りられなかったら…エルさんのところにお邪魔させて頂いても良いですか?」
そう言ってエルさんの方を向き直った僕に、レニーさんは何故だかがっくりと肩を落としたのだった。
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