催眠学校〜今日から君はAV監督〜

第五章

エピローグ

深夜00時を回った商店街。

日中は人で溢れるこの場所も、今はすっかり人気はなく誰もここを彷徨かない。

しかし、今日は一人の男がその商店街をふらつく足取りで歩いていた。

その男は人生に絶望していた。

とある市立病院で長年勤務していたが、新しく入ってきた新人看護師が原因で彼は刑務所に入ることとなった。

今まで努力で勝ち取った地位も名誉も全てを失った。

もちろん、自分に非がない事を世間に懸命に訴えたが、誰も聞く耳を持たなかった。
やがて復讐をするだけの熱量もとっくの前に消え失せ、今、彼が向かう場所は自殺スポットとして有名な所だった。

そんな負のオーラを纏う彼に声をかける人物なんて居ない。

もし彼に声を掛けるとしたら、人間ではない何か。

「そこのキミ」

久しぶりに誰かに呼ばれ、彼は足を止める。

「こっちこっち」

呼ばれた方向に顔を向けると、暗い商店街の中で、一つの屋台が怪しげに光っていた。

「おいでよ。自殺願望者さん」

何故、自分が死のうとしていることが分かるのか。
男は不思議に思いながらその声の主の元へ足を進めた。

「キミ、最後に願いを叶えてあげようか？」

「ねが、い？」

男は掠れた声でそう聞くと、屋台にいる何かは楽しそうに続ける。

「どんな願いでも一つだけ叶えてあげるよ。ただし、それを叶えた後は死ぬけどね。それでもいいなら」

「お、おれの、願いは‥」

男の声は段々とハッキリしていき、目にも光が宿る。

「谷島美織やじまみおりに復讐することだ」

そう言葉を発すると、屋台にいる何かは呆れたように溜息をついた。

「結局、行き着くところは復讐か。つい先日、ボクもそれで後悔してね。‥まぁ、いいだろ。ヤル奴は、ヤラレる覚悟を持つべだというのが持論でね、ただし、やるならその谷島美織だけだ」

周りは巻き込むなよ、という声には圧があり、寒気がした。

「それでも願いを叶えたいのなら、今すぐルールを説明しよう」

「本当に、叶えてくれるんだな？」

「ルールさえ守れば」

「それで、いい。おしえてくれ」

死に行くだけの人間が、打って変わって生き生きしている。

「今度こそ、間違えずに使える人間だったらいいんだけど」

そう一人ごとのように呟いた何かは、「まぁ、無理かな！それが人間だしね」と最後は明るく言った。