催眠学校〜今日から君はAV監督〜

本田 壱好

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第五章

救いの手を払う者⑨

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「あれ、知らなかったの?源校長だよ」

「校長?」

「養護施設の施設長と源校長が旧知の中だったらしくてね。足立美空が熱弁した以上に、源校長も、当時の校長に詰め寄ったらしいよ。優れた人材を輩出するのが先帝高校の理念ならば、江口遊人はそれに該当するってね」

そんな、馬鹿な‥。

「そんな一職員の訴えで、特例を認める訳がない」

「何を言ってるんだい。現に夢野数理は合格したじゃないか。良くも悪くも、先帝高校は校長が白だと言えば白くなるんだろ」

確かに、そうかもしれない。

「もっとも、江口遊人を合格させた本当の目的は、源校長に現実を教える為だったらしいけどねー」

「どういうことだ」

「だから、源校長が掲げる理念など、所詮は机上の空論ということをさ。一芸に秀でた人材を認める。なるほど、元々そういう校風の学校ならば認められるだろう。江口遊人を皮切りに始めようとしたのかもしれないけど‥一つだけ異物が混じっていたら排除するだろう。元から上手くいくはずは無いよね。でも、敢えてそれを認め、失敗を経験させる事でより縛ろうと考えたんだろ。お前の考は上手くいかない。先帝高校の理念に準じて学校運営をしておけばいい、なんてね」

相変わらず、何の感情も籠っていない声。心なしか、僕はこの住職が嫌いになりそうだった。
僕は怒りが沸々と湧いてくる。

「江口は、大人の勝手な駆け引きに巻き込まれただけの犠牲者か?」

「おいおい!それは違うだろ」

青年のような口調から、一気に大人びたものに変わる。

「当時の校長は、確かに上手くいかないことを前提で江口遊人を採用した。でも、教師達は特別何もしていない。むしろ、江口遊人は気をかけられていたはずだ。それが良くなかったかもしれないが。でもまぁ、どちらかと言うと、君の問題だろう?
夢野数理は今学校である程度認められている。その理由をわかっている癖に、他人のせいにするなよ」

「‥っ」

唇を噛み締める。

その通りだ。性別や性格、生まれた環境の違い。それは確かにあるとしても、夢野のように、江口には手を差し伸べる人間が居なかった。
それは、僕の問題だ。
例えば、今の先帝高校のトップに立つ一ノ瀬が夢野を排除しようとすれば、明日からでも状況は一変するだろう。今夢野が認められているのは、一ノ瀬の存在が大きい。

僕は、一ノ瀬のように、手を差し伸ばさなかった。

「学校でも居場所が無く、施設にも居場所が無い。生きる希望がない。それは、こうなっても仕方ないよねぇ」

墓石を見ながら、また少年のような口調になり、笑った。

何が、可笑しいんだ。

「あ、ごめんごめん。ボク、笑うタイミングがおかしいんだよ。わざとじゃないから許してね」

「‥お前、何しに来た。わざわざそれを言うためにここに呼びに来たのか」

「やだなぁ、怖い顔しないでよ。ボクなりのアフターケアのつもりなのさ。ここには、江口遊人がいる。誰もお参りに来ないのは、あんまりだろ。君が大好きな責任の取り方は、ここにもあるんじゃない?」

ボクにも責任があるからね、とそいつは初めて寂しそうに呟いた。

「あとはさ、少し、引っかかっていることがあってね」

「引っかかっている?」

「うん。人間で言うと、魚の小骨が喉に引っかかっているような、いや、違うな、何て例えれば」

「なんだよ」

こいつと楽しく会話をするつもりはなく、僕は苛立ちを隠さず聞いた。

「せっかちだなぁ。いや、あのさぁ、一ノ瀬唄の事なんだけどね」

「一ノ瀬?」

その名前を聞いて、僕も嫌な予感が頭をよぎった。

「本当は本人に直接会って聞けばいいんだけど、ボクからは会えないからね。
すべての記憶を覚えている君に聞くんだけどさ、彼女との性行為の事は覚えてる?」

不意に聞かれたその質問に、僕は体育館での一ノ瀬との性行為の記憶が呼び起こされる。

「‥あぁ」

弱々しく僕が答えると、その何かは言いにくそうに聞いてきた。

「そうか、そうだよねぇ」

「なんだよ!」


僕は不安をぶつけるように怒鳴る。そいつは、ゆっくりと「あのさぁ、彼女‥」と言葉を一瞬区切り、僕の目を真っ直ぐ見つめ、聞いてきた。 



「彼女、だった?」


‥は?

風が葉を揺らす音も、蝉の鳴き声も、鳥のさえずりも、すべての音が止まった。

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