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第五章
救いの手を払う者③
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あの事件から一ヶ月が経った。
得体の知れない不気味な何かがアフターケアは任せてと言っていたが、その意味は次の日分かった。
暗示をかけた人間たちの催眠アプリにまつわる記憶は全て消えていた。
学校だけではなく、コンビニ店員の山辺茜も例に漏れずアプリでの記憶は無くなっていた。
一変すると、何も無かったかのように日常が流れていた。しかし、この数ヶ月で大きく変わった事が幾つかある。
まず一つは、山辺茜。
彼女は彼氏からDVを受けていたが別れられずにいた。しかし、この前コンビニに行った際、晴れやかな笑顔で彼氏と別れたことを報告してきた。
「酷い話なんですけど、何だか突然、全く興味が無くなったんです。あの人は引き下がらなかったんですけど、翌月には居なくなっていました」と山辺茜は不思議そうに言った。
次に、一ノ瀬詩。
他人に興味を持たず、氷姫と呼ばれていた彼女だが、今は何かを変えようとしている。その何かは聞いていないので定かでは無いが、おそらく‥。
「それでは、今日の議題を終わります。お疲れ様でした」
一ノ瀬は立ち上がり、一番最初に生徒会室から出て行った。
僕はその後を追いかけ「一ノ瀬」と呼び止める。
「何か?」
相変わらず冷ややかな視線を送ってくる。僕の勘違いだったのだろうか。
「いや、何故僕に話を振ったのかなって」
一ノ瀬はため息をつきながら「顧問としての役割を自覚しているのかどうかを確認する為です」と当たり前のように言う。
「私達が優秀だからと言って何も考えない今までの顧問と同じなら、この後校長に解雇を求める、それだけのこと」
淡々と述べるその姿は、なるほど、改めて氷姫というあだ名は彼女のイメージとピッタリと合う。
「それで行くと、一応まだ顧問をやらせて貰えるのかな?帰るようだけど」
軽口を叩くと「私の気が変わらないうちは」と睨みつけてきた。
「勘違いしないで下さい。これからも役に立たないと判断すれば解雇するわ」
「普通君にその権限はないんだけどね。努力するよ」
「‥あとは、この学校の改革についても」
彼女はボソッと小声で話し始める。
「貴方が適当な覚悟で改革なんて言ってるのであれば、私は許しません」
「改革って、そんな情報どこから」
「校長が言っていました。あなたがこの学校を変えるつもりだと。不本意ながら、私と同じ考えだとも」
吐き捨てるようにそう言う彼女は、心底嫌そうだった。
「適当なんかじゃないよ。僕は僕の信念でこの学校を変えるつもりだ。君もそのつもりなら、手を取り合って頑張りたいけど‥難しそうだから、お互い頑張ろう」
僕は手を差し出すが彼女はまた鼻をすんっとならして無視をする。
「はっきり言って、私はあなたのことが嫌いでした」
「薄々勘づいていたよ」
そう言ったが、あれ?と疑問が残る。
嫌い、でした?
「愛想良く振る舞ってはいるけども、他人に心を開かない、何かを隠している感じ。本心を曝け出さない人間は信用できない。今のあなたもまだ心を閉ざしている気がするけれども、その信念だけは信用してみることにするわ」
最後までツンケンとした態度の彼女は歩き出した。
「それはどうも」と苦笑混じりで返事をした。
やっぱり、彼女の中でも小さな変化はあったようだ。
「うっ‥」
突然、一ノ瀬が立ち止まった。
壁に寄りかかり、倒れそうになる。
「一ノ瀬!」
「会長!」
僕が走り出すより早く、後ろにいた河合が先に一ノ瀬の元へ駆けつけた。
背中を摩り、心配そうに見つめる。
「大丈夫。少し気分が悪くなっただけ」
「何だか顔色も悪いようだけど」
僕がそう聞くと「あなたに言われたく無いわ」と言って立ち上がった。
「ですが会長、本当に顔色が良くないです」
「そうね‥。最近、何だか強い吐き気がするんだけど、今日病院に行くから、大丈夫」
強い吐き気。病院。
なんだ、何かが引っ掛かる。
「それじゃあ、また。大門先生」
最後は凛とした態度を取りながら、彼女と河合は去っていった。
僕の目の前では、立ち去る彼女の映像と、僕の男性器を挿入している彼女の映像が交互に入れ替わっていた。
得体の知れない不気味な何かがアフターケアは任せてと言っていたが、その意味は次の日分かった。
暗示をかけた人間たちの催眠アプリにまつわる記憶は全て消えていた。
学校だけではなく、コンビニ店員の山辺茜も例に漏れずアプリでの記憶は無くなっていた。
一変すると、何も無かったかのように日常が流れていた。しかし、この数ヶ月で大きく変わった事が幾つかある。
まず一つは、山辺茜。
彼女は彼氏からDVを受けていたが別れられずにいた。しかし、この前コンビニに行った際、晴れやかな笑顔で彼氏と別れたことを報告してきた。
「酷い話なんですけど、何だか突然、全く興味が無くなったんです。あの人は引き下がらなかったんですけど、翌月には居なくなっていました」と山辺茜は不思議そうに言った。
次に、一ノ瀬詩。
他人に興味を持たず、氷姫と呼ばれていた彼女だが、今は何かを変えようとしている。その何かは聞いていないので定かでは無いが、おそらく‥。
「それでは、今日の議題を終わります。お疲れ様でした」
一ノ瀬は立ち上がり、一番最初に生徒会室から出て行った。
僕はその後を追いかけ「一ノ瀬」と呼び止める。
「何か?」
相変わらず冷ややかな視線を送ってくる。僕の勘違いだったのだろうか。
「いや、何故僕に話を振ったのかなって」
一ノ瀬はため息をつきながら「顧問としての役割を自覚しているのかどうかを確認する為です」と当たり前のように言う。
「私達が優秀だからと言って何も考えない今までの顧問と同じなら、この後校長に解雇を求める、それだけのこと」
淡々と述べるその姿は、なるほど、改めて氷姫というあだ名は彼女のイメージとピッタリと合う。
「それで行くと、一応まだ顧問をやらせて貰えるのかな?帰るようだけど」
軽口を叩くと「私の気が変わらないうちは」と睨みつけてきた。
「勘違いしないで下さい。これからも役に立たないと判断すれば解雇するわ」
「普通君にその権限はないんだけどね。努力するよ」
「‥あとは、この学校の改革についても」
彼女はボソッと小声で話し始める。
「貴方が適当な覚悟で改革なんて言ってるのであれば、私は許しません」
「改革って、そんな情報どこから」
「校長が言っていました。あなたがこの学校を変えるつもりだと。不本意ながら、私と同じ考えだとも」
吐き捨てるようにそう言う彼女は、心底嫌そうだった。
「適当なんかじゃないよ。僕は僕の信念でこの学校を変えるつもりだ。君もそのつもりなら、手を取り合って頑張りたいけど‥難しそうだから、お互い頑張ろう」
僕は手を差し出すが彼女はまた鼻をすんっとならして無視をする。
「はっきり言って、私はあなたのことが嫌いでした」
「薄々勘づいていたよ」
そう言ったが、あれ?と疑問が残る。
嫌い、でした?
「愛想良く振る舞ってはいるけども、他人に心を開かない、何かを隠している感じ。本心を曝け出さない人間は信用できない。今のあなたもまだ心を閉ざしている気がするけれども、その信念だけは信用してみることにするわ」
最後までツンケンとした態度の彼女は歩き出した。
「それはどうも」と苦笑混じりで返事をした。
やっぱり、彼女の中でも小さな変化はあったようだ。
「うっ‥」
突然、一ノ瀬が立ち止まった。
壁に寄りかかり、倒れそうになる。
「一ノ瀬!」
「会長!」
僕が走り出すより早く、後ろにいた河合が先に一ノ瀬の元へ駆けつけた。
背中を摩り、心配そうに見つめる。
「大丈夫。少し気分が悪くなっただけ」
「何だか顔色も悪いようだけど」
僕がそう聞くと「あなたに言われたく無いわ」と言って立ち上がった。
「ですが会長、本当に顔色が良くないです」
「そうね‥。最近、何だか強い吐き気がするんだけど、今日病院に行くから、大丈夫」
強い吐き気。病院。
なんだ、何かが引っ掛かる。
「それじゃあ、また。大門先生」
最後は凛とした態度を取りながら、彼女と河合は去っていった。
僕の目の前では、立ち去る彼女の映像と、僕の男性器を挿入している彼女の映像が交互に入れ替わっていた。
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