催眠学校〜今日から君はAV監督〜

本田 壱好

文字の大きさ
上 下
115 / 133
第五章

催眠学校⑪

しおりを挟む
「さぁて、帰ろうかな」

唄うように話すその何かは壇上から飛び降りる。小さな身体はふわっと浮き上がり、まるで重量を無視するかのようにゆっくりと着地した。

「じゃあね、大門入人」

とてつもない疲労感がのしかかってくる。
手も、足も、何も動かせない。
辛うじて、首だけその話す何かに向けた。

手を大きく振っている。
僕は、力を振り絞って口を開く。

「僕を‥殺さないのか?」

「え?なんで?」

単調な声。
疑問で聞いているのに、不思議と、聞かれたような感じがしない。

よく分からない感覚。この何かが現れてから、自分の感覚がまともじゃないような気すらしてきた。

「君、死にたいの?」

そう聞かれて、僕は考える。
死にたい?
僕は、死にたいのか?

「死にたいのなら、アプリを貸してあげるよ」

「‥それは‥勘弁だな‥」

乾いた笑いが漏れる。
もうそんな物とは二度と関わりたくない。

「じゃあ、生きなきゃね。それに、君は死んでる場合じゃないよ。まだまだやるべき事が沢山あるでしょ」

僕が、やるべきこと?

「君は今、罪の意識に苛まれてるのかもね。自分の意思じゃないとはいえ、この学校を無茶苦茶にしたんだから」

いや、自分の意思でもあるのかな?と自問自答し、「ま、いいか」と話を続ける。

「君はこれからこの学校を改革しなくちゃいけない。アプリの力ではなく、自分の力でね。罪の意識を消すことも出来るけど、そんな事望んじゃいないだろうし。いや、違うな‥そんな責任逃れみたいな選択は、選べないだろ?」

見え透いたように断言する何か。

「才能が殺されない学校。素敵だね。この学校の改革こそが、亡き江口遊人への償いにもなるんじゃない?」

亡き、という言葉に心臓を掴まれた思いだった。
江口への、償い。
そうか、そう、なのかも知れない。

悲しい気持ちがあるのに、どこかで嘆いても変わらないと切り替えている自分がいる。
そう思う自分は、催眠状態で操られているのか?

「だから、頑張ってよ。陰ながら見ているよ、大門入人」

立ち去ろうとするその何かに、最後に問いかけた。

「なんで、そんなに優しくしてくれる?キミは、何モノなんだ?」

一瞬立ち止まったが、あはっ、と少し笑って、何かは答える。

「今回の原因の一端はボクにもあるからね。優しくしているつもりはないよ。可哀想な大門入人。いつか、父親の呪縛から解放されたらいいね」

何モノなのかは答えてくれず、「アフターケアはやっておくから安心してねー」と、最後は少年のような調子で体育館を出て行った。

ピィィィィィィィィィィ!!!

どこからか、また、ホイッスルの、音が聞こえる。

意識が、遠のく。

消え行く意識の中で、次に目覚めた時には、全て夢であることを願った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...