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第五章
催眠学校⑩
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「まぁでも、君に指示したのがボクである事にも変わらないし、そこは、申し訳なく思ってるよ。あ、巻き込んだ学校全体にね。君に指示したボクは、他者の憎しみに呼応してしまうヤツでね」
今度は少年のような調子で話し始める。
言葉を言い終えた瞬間、一瞬で江口に近づき、足を引っ掛けて倒した。
そして胸ぐらを掴み、怒号を浴びせる。
「だが、結局はお前が全て悪い!!モノのせいにするんじゃねぇ!全ては使う人間によるんだよ!」
何人もの人格が移り変わる様子に、江口は完全に萎縮したように見えた。
無理もない。側から見ているだけの僕ですら、足が震えている。
「まぁでも、どういうわけだか君のお陰で悪い私は消えたからね。そこは感謝するよ。さて、時間だよ」
江口の上に跨りながら、その何かは人差し指を額に当てた。
目を大きく見開き、首を横に振りながら、ブルブル、ガタガタと江口の全身が震える。
「や、やめろ」
「止めないよ。一つ、アプリで願いが叶った者は、死ぬ」
「い、いやだ!いやだ!死にたくない、死にたくない!」
必死に暴れるが、全く力が入っておらず、小さな背丈の何かは跨ったまま。
「たすけて‥入人‥くん」
あまりにひ弱なその声が耳に届く。
頭より、身体が先に動いた。
俺は、人差し指が額に触れるその瞬間、その何かに体当たりをした。
ズシンっという音がした、ような、そう、まるで、大きな岩に体当たりしたような。全長120cm程の小さな体からするとあり得ない重量感。あり得ない感触。
「あれ?何してんの?」
フードの、僅か少しの隙間から、妖しく光る、何か。
ゾワっと、全身が鳥肌を立つ。
僕の体は子供のように震える。
何か口を開こうとするも、震えてまともに話せない。
「へぇ‥。復讐されたのに、助けるんだぁ」
また幼子のような声を出した何かは、「人もまだ捨てたものじゃないかぁ」と感心したように頷いた。
「でも残念。規則だからね」
「裏切り者!また裏切った!僕は死なない!僕は死なない!絶対にまた——」
「五月蝿いよ」
人差し指が額に触れた。「あ‥」と江口は声を漏らす。
溢れ出す涙がピタッと止まる。
その何かが軽く後ろに飛び跳ねて江口から離れる。
ゆっくりと起き上がった江口のその表情は、俺がこの数ヶ月間何度も見たもの。
感情がなく、プログラムされた通りに行動する機械だった。
立ち上がった江口は、そのまま壇上を降りようとする。
「ま、待て、待てよ!」
俺は歩き始めた江口の肩を抑える。
「行くなよ!僕、お前に、まだ何も言ってないだろ!」
全力で止めるが、止まらない。江口の細い体とは思えないほどの力。
「やめときなよ。もう助からない。下手に止めようとすると、全身ぐちゃぐちゃになるよ」
その何かの冷ややかな声。
ミシミシ、と体の骨が軋む音で、僕は手を離した。
ゆっくりと、しかし着実に一歩一歩進んでいく。
死に向かって、歩き出す。
「江口!」
扉に着いた江口は、来た時と同じように身体をねじ込むようにして出て行く。
僕の声は、最初から最後まで届かなかった。
今度は少年のような調子で話し始める。
言葉を言い終えた瞬間、一瞬で江口に近づき、足を引っ掛けて倒した。
そして胸ぐらを掴み、怒号を浴びせる。
「だが、結局はお前が全て悪い!!モノのせいにするんじゃねぇ!全ては使う人間によるんだよ!」
何人もの人格が移り変わる様子に、江口は完全に萎縮したように見えた。
無理もない。側から見ているだけの僕ですら、足が震えている。
「まぁでも、どういうわけだか君のお陰で悪い私は消えたからね。そこは感謝するよ。さて、時間だよ」
江口の上に跨りながら、その何かは人差し指を額に当てた。
目を大きく見開き、首を横に振りながら、ブルブル、ガタガタと江口の全身が震える。
「や、やめろ」
「止めないよ。一つ、アプリで願いが叶った者は、死ぬ」
「い、いやだ!いやだ!死にたくない、死にたくない!」
必死に暴れるが、全く力が入っておらず、小さな背丈の何かは跨ったまま。
「たすけて‥入人‥くん」
あまりにひ弱なその声が耳に届く。
頭より、身体が先に動いた。
俺は、人差し指が額に触れるその瞬間、その何かに体当たりをした。
ズシンっという音がした、ような、そう、まるで、大きな岩に体当たりしたような。全長120cm程の小さな体からするとあり得ない重量感。あり得ない感触。
「あれ?何してんの?」
フードの、僅か少しの隙間から、妖しく光る、何か。
ゾワっと、全身が鳥肌を立つ。
僕の体は子供のように震える。
何か口を開こうとするも、震えてまともに話せない。
「へぇ‥。復讐されたのに、助けるんだぁ」
また幼子のような声を出した何かは、「人もまだ捨てたものじゃないかぁ」と感心したように頷いた。
「でも残念。規則だからね」
「裏切り者!また裏切った!僕は死なない!僕は死なない!絶対にまた——」
「五月蝿いよ」
人差し指が額に触れた。「あ‥」と江口は声を漏らす。
溢れ出す涙がピタッと止まる。
その何かが軽く後ろに飛び跳ねて江口から離れる。
ゆっくりと起き上がった江口のその表情は、俺がこの数ヶ月間何度も見たもの。
感情がなく、プログラムされた通りに行動する機械だった。
立ち上がった江口は、そのまま壇上を降りようとする。
「ま、待て、待てよ!」
俺は歩き始めた江口の肩を抑える。
「行くなよ!僕、お前に、まだ何も言ってないだろ!」
全力で止めるが、止まらない。江口の細い体とは思えないほどの力。
「やめときなよ。もう助からない。下手に止めようとすると、全身ぐちゃぐちゃになるよ」
その何かの冷ややかな声。
ミシミシ、と体の骨が軋む音で、僕は手を離した。
ゆっくりと、しかし着実に一歩一歩進んでいく。
死に向かって、歩き出す。
「江口!」
扉に着いた江口は、来た時と同じように身体をねじ込むようにして出て行く。
僕の声は、最初から最後まで届かなかった。
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