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第五章

催眠学校⑥

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「お前のこの学校を変えたいという気持ちの根底にあるのは、自分が認められたいという承認欲求からくるものだからだ。同時に、この学校の大人と自分の父親を重ねているから、お前はこの学校の教育理念を変えたいんだろ?」

一ノ瀬は手を動かしたまま、表情が固まった。

「文武両道が出来て当たり前。それはお前の家庭環境によく似ている。母親が他界してからは、お前の父親は多くの習い事をさせた。お前は、求められたことが出来ないと捨てられるかもしれないと必死だった。結果、元々の才覚もあったのだろうがお前は完璧になった。しかし、今更父親に歯向かう勇気はないから、父の教育理念に酷似しているこの学校を改革しようと思ったんだろう」

目には涙を溜め、睨みは一層強くなる。しかし快楽も同時に絶頂期に来たようで「んっ、あ、い、いや‥い、イ、ク」と二度目の絶頂を迎えた。

「はぁー‥はぁ—‥」

大きく息を吐きながら、彼女は絶頂した後もまた手を伸ばし自慰行為を始める。

しかし、目には怒りの炎が未だ灯っていた。

一体、何なんだ。

なにがこいつをここまで踏みとどめている。

こいつは、自分の事しか考えない人間の筈。他人なんて二の次の筈。
支配されたくないというプライドが邪魔をしているのか?

しかし、自分の為だけにここまで催眠暗示に抗うことは無理だ。
何故なら、快楽も自分の為であり、それはプライドなんかよりよほど効果がある事は分かっている。

「おいおい、無理するな。何度も絶頂を繰り返して、もうまともに頭も回っていないだろう」

木本にGスポットを刺激され、身体がビクビクっと反応する。彼女は甘い吐息を漏らしながら話し始める。

「たし、かに。わたしは、自分のために何かを変えよう、と‥んっ。していたのかも——。で、も‥あぁ、あなたも、いっしょ」

俺も?
何が言いたい。
彼女は歯を食いしばる。口元の端から、血が流れる。

虚ろな表情は徐々に変化していき、いつもの凛々しい顔つきになる。

この女‥!

「あんたも、自分の為にこんなことをしてるんでしょ。改革だ、信念だと綺麗な言葉を並べようとも、あんた、自分の快楽の為にこうしているだけの変態じゃない!」

一ノ瀬は俺の下半身を見てそう言った。

俺は、視線の先に目を落とす。

「な、なんで」

俺は驚きの声をあげる。自分で自分の男性器を弄っていた。

「本当はみんなこんな事をやりたくない!みんなはあんたの性衝動を満たす為の人形でもない!意思を持った、人間だ!」

凛とした態度で生徒会長が立ち上がる。

木本を乱暴に押し倒す。

そして、落ちているマイクを手に取り、振り向きざまこう言った。

『目を覚ましなさい!!!』

キィーン、というハウリング音が再び体育館を覆う。

自慰行為を行なっていた体育館にいる人間達の目からは光が宿る。

生徒会長だ、生徒会長‥という惚けた声が聞こえる。

「もう、終わりよ。あなたが掛けた暗示は完全に解けた」

催眠から目を覚ました人間達は、叫び始める。

何だ、この状況は。

どうなっている。

何故、こんな事になっているんだ。

「皆さん、落ち着いてください。今から、何が起こったのかを‥」

いつの間にか制服を手に取り、裸体を隠しながら生徒会長は話し始める。

そんな時、体育館のドアが錆びついた音を立てながら開いた。

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