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第五章
氷姫は機嫌良く歌わない⑭
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『真野、そのまま互いが絶頂するまで続けてろ。その後は司令通りに一ノ瀬に暗示をかけるんだ』
『は、ぁい』
大門入人はその言葉だけ残した後、生徒会室から出ようとした。
逃げるな!この、クズ!悪魔!
声を荒げても聞こえる事はない。
この空間に残ったのは、二人で快楽を貪る女子高校生と養護教諭のみだった。
その女子高生の姿を見て、合唱コンクールを思い出す。
歌いたくないのに、クラスの空気が悪くなるから、歌えと言われたあの日。
無理やり強制されたあの日。
決して、機嫌良く歌う事はできなかった。
---
--
-
『父親の無関心——優等生を演じているのは父親に振り向いて貰いたいから——』
真野の言葉が脳裏にこびりつく。
いくら催眠アプリで記憶の改竄を試みても無駄だった。
ズキズキズキズキ
頭が割れるように痛い。
遠い記憶の、保存したはずの記憶が蘇る。
父親の顔色を伺っていた自分の姿が映る。
一位にならなくては。
誰よりも優れてなくては。
振り向いて貰えない。
「‥違う」
違うぞ、真野。
そのやり方では、決して、何も変わらない。
俺は‥僕は、ふらつく足で立ち上がった。
だめだ。
もうこれ以上、犠牲を出してはいけない。
不幸な者を出してはいけない。
ゆっくりと、生徒会室に向かって歩き出す。
二人の女性の嬌声が扉越しからも聞こえてきた。
扉に手をかけたその時、スマホが震えた。
You've Got Mail
You've Got Mail
振動しながら、何度も執拗に鳴る音。
痛む頭を手で押さえながら、僕はそのメールを見た。
【差出人:江口遊人】
もう、止めてくれ。
何をやめてほしいのかも分からず、ただ、自分の目には涙が溢れていた。
この学校に赴任してから、幾つもの涙を見てきた。
それを見るたび、心が揺れた。
もう、許してくれ。
しかし自分の手は、意思に反してその届いたメールを開く。
ページに飛び、読み込み中‥という案内が流れる。
数秒後、強烈な光が僕の目に飛び込んできた。
薄れる意識の中で、また聞いた声がする。
それは、間違いなく江口の声だった。
『逃げるなよ、入人くん。
ここまで来て、自分だけ逃げるな。
罪から、現実から。
最後までやり通せ』
その声を聞いた途端、自分が何を成すべきか分かった気がした。
『は、ぁい』
大門入人はその言葉だけ残した後、生徒会室から出ようとした。
逃げるな!この、クズ!悪魔!
声を荒げても聞こえる事はない。
この空間に残ったのは、二人で快楽を貪る女子高校生と養護教諭のみだった。
その女子高生の姿を見て、合唱コンクールを思い出す。
歌いたくないのに、クラスの空気が悪くなるから、歌えと言われたあの日。
無理やり強制されたあの日。
決して、機嫌良く歌う事はできなかった。
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『父親の無関心——優等生を演じているのは父親に振り向いて貰いたいから——』
真野の言葉が脳裏にこびりつく。
いくら催眠アプリで記憶の改竄を試みても無駄だった。
ズキズキズキズキ
頭が割れるように痛い。
遠い記憶の、保存したはずの記憶が蘇る。
父親の顔色を伺っていた自分の姿が映る。
一位にならなくては。
誰よりも優れてなくては。
振り向いて貰えない。
「‥違う」
違うぞ、真野。
そのやり方では、決して、何も変わらない。
俺は‥僕は、ふらつく足で立ち上がった。
だめだ。
もうこれ以上、犠牲を出してはいけない。
不幸な者を出してはいけない。
ゆっくりと、生徒会室に向かって歩き出す。
二人の女性の嬌声が扉越しからも聞こえてきた。
扉に手をかけたその時、スマホが震えた。
You've Got Mail
You've Got Mail
振動しながら、何度も執拗に鳴る音。
痛む頭を手で押さえながら、僕はそのメールを見た。
【差出人:江口遊人】
もう、止めてくれ。
何をやめてほしいのかも分からず、ただ、自分の目には涙が溢れていた。
この学校に赴任してから、幾つもの涙を見てきた。
それを見るたび、心が揺れた。
もう、許してくれ。
しかし自分の手は、意思に反してその届いたメールを開く。
ページに飛び、読み込み中‥という案内が流れる。
数秒後、強烈な光が僕の目に飛び込んできた。
薄れる意識の中で、また聞いた声がする。
それは、間違いなく江口の声だった。
『逃げるなよ、入人くん。
ここまで来て、自分だけ逃げるな。
罪から、現実から。
最後までやり通せ』
その声を聞いた途端、自分が何を成すべきか分かった気がした。
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