上 下
101 / 133
第五章

氷姫は機嫌良く歌わない⑪

しおりを挟む
「文武両道、眉目秀麗、完璧超人。一番お前に相応しい肩書きは何だろうな。あぁ、氷姫という冷たさを揶揄した肩書きもあったな」

氷姫。自分が影でそう呼ばれていることは知っていた。
その肩書きは、チクリと心臓を刺している。

誰に対しても心開かない、冷たいお姫様。

そんなつもりは決してないのに。

「誰もが羨む存在。そんなお前が、どうしてカウンセラーに通っている。今までにも随分と多くの心療内科に通院しているようだが」

大門入人はポケットから一枚の紙を取り出し、上からなぞるように見ている。

どこで、そんな情報を。

「そのカウンセラー達も、僅か一度の面接で変えている。そりが合わなかったのかな?」

「‥あんたに教える義理はない」

「お前に教えてもらうつもりもない。お前じゃなくても、隣にいるじゃないか」

小刻みに笑い、隣にいる虚な表情の真野先生を指差した。

「真野、一ノ瀬の情報を」

「は、い」

眉間に皺を寄せ、何かに抗うように口を開き、閉じ、を繰り返している。
それを見た大門入人は機嫌悪そうに舌打ちをし、耳打ちをした。
ビクンっと体が一度大きく揺れ、真野先生は語り始めた。

「一ノ瀬詩。先帝高校の生徒会長。父親は大手企業会社一ノ瀬カンパニーの社長で、その御令嬢」

機械的に語る真野先生は、言葉を途切れさせずに続けた。

「母親は本児が小学1年生の時に交通事故により他界。本児が何かに気を取られて轢かれかけた所を母親に守られた形。母親が何より大切だった父親は娘のせいで母親が亡くなったと思い、以来本児に対して距離を置くようになる」

感情の無い言葉が耳に入ってくる。
私は、自然と涙が出た。

「母親の死、父親の無関心。心の拠り所がなくなった本児は、大きなトラウマを抱えながら今日まで生きる事となる。これは個人的見解に基づきますが、本児が生徒会長になり、優等生を演じているのは父親に振り向いて貰いたいからだと思われます」

真野先生は、この三年間私の秘密を唯一打ち明けた人。
二人だけの秘密。
誰にも言わないと、約束をしてくれた。

その先生が、私の秘密を機械的に話している。

暗示だとか、催眠だとか、そんなのは知らない。

その事実が、何より悲しかった。

「父、親」

消え入りそうな声でそう言ったのは、大門入人だった。

「お前、そう、だったのか」

情けない顔、或いは、慈しむような顔で私を見つめる。
直後両手で頭を抱え、「あぁぁあぁ」と苦しげにその場でうずくまった。

真野先生はその場から動かず、気にする素振りもない。

何で、こいつが苦しんでいるの?

「く、そ、頭が、割れる。痛い、痛い」

震える手でスマホを手に取り、操作をしている。

その画面はどこか見覚えがあった。
ぐるぐると回る色。
その画面を凝視した大門入人は、「おれは、かんとく、よくぼうの、かいほう」とブツブツと呟いてから、下を向いた。

「リセット、できた。この、頭の中をぐちゃぐちゃにする感覚、最高だな」

ゆっくりと立ち上がり、わたしを見下ろす。
その目はどこまでも冷たく、先ほどとは別人だった。

「真野、やれ」

スマホを受け取った真野先生は、私に例の画面を見せる。

「一ノ瀬さん。リラックスしてぇ‥」

トロける目。脳を揺らす何か。
しかし私は、そのスマホを払いのけた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...