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第五章
氷姫は機嫌良く歌わない②
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食事を終えたお父様がナプキンで口を拭う。
席を立つと、後ろにいた使用人がコートを羽織らせた。
「木崎さん」
私の後ろにいる木崎に話しかける。
「今週は会食続きなので、ご飯の用意は結構だ」
「承知いたしました」
私は、料理に目を落とす。
直接顔を見なくても、お父様がどんな顔をしているのかくらい想像がつく。
今年五十路を迎えるとは思えないほどの若々しい顔。その仏頂面が無ければもっと多くの人に愛されていたはずだ。
ふと、家族とは何かと考える。
親子の会話がない。
会話があるのは使用人とのみ。
そんな家族の形が一般的なら、こんな苦しい思いをしなくてもいいのだろうか。
お父様、お忙しいのでしょうね。
私、この前の全国共通模試で一位を取りました。この成績だと、大学は選びたい放題だと言われました。
生徒会も新たな形となり、生徒会長としてより良い学園づくりのために奮闘しております。
あ、生徒会に男子教諭が顧問として来たんです。あまり好きではないタイプです。なにか、嘘っぽいから。
そういえば、来週は‥。
「ですが旦那様。どうか来週の水曜日はお早めにお帰りになってくださいませ」
私はゆっくりと顔を上げた。
木崎の顔を見る。
木崎は真っ直ぐにお父様の顔を見つめていた。
私の思いを言葉にしてくれた。
恐る恐る、お父様の方を見る。
「・・・」
無言で食堂を出て行った。
一つ、息を吐く音が後ろからした。
私の視線を感じた彼女は、安心させるように微笑んだ。
「さぁお嬢様。早く召し上がらないと遅刻してしまいます」
年齢不詳のこの使用人は、笑うとずっと幼く見える。
「いただきます」
自分を理解してくれる人が近くにいるだけ、幸せなのかもしれない。
料理を口に運ぶ。ちゃんとソーセージと卵の味がした。
---
--
-
何かがおかしい。
学校の正門に着くなりそう感じた。
時刻は8.00。
いつもはこの時間は既に多くの生徒と教師が歩いている。
いつも開き切っている門は人一人通れるくらいには開いている。
私はポケットにあるスマホを取り出してカレンダーのアプリを起動させる。
今日は間違いなく登校日だ。
放課後のスケジュールもびっしりと書かれており、昨日は副会長の河合さんから今日の予定を確認された。
なのに、人の気配がまるでしなかった。
今にも雨が降りそうな曇天。
何匹ものカラスが不気味な鳴き声と共に宙を飛び交っている。
先帝高校のホームページを開く。
特に臨時休校になった案内もない。
「何か、嫌な予感がするわね」
私の予感は不思議と当たる。
引き返すべきかどうか迷ったが、この門の開き具合を考えると、誰かが鍵を開けて中に入ったのは間違いない。
門の鍵を持っているのは教員だけ。
何か問題があるなら生徒会長として放っておくわけにもいかない。
私は正門をくぐり、中に入ることにした。
---
--
-
「どうなってるの」
校内の電気はすべて消えており、あらゆる部屋の鍵は閉まっていた。
「一体、何が起こっているの」
流石にこのおかしな状況に不安を感じる。
私はスマホを開いて、生徒会のグループチャットを開いた。
しかし、手が止まる。
グループではなく、直接誰かとやりとりするべきか。
あり得ないことだが、もし私が知り得ない事で今日休校になっていたとしたら‥。
ガタン、と下の階から何かが落ちる音がした。
席を立つと、後ろにいた使用人がコートを羽織らせた。
「木崎さん」
私の後ろにいる木崎に話しかける。
「今週は会食続きなので、ご飯の用意は結構だ」
「承知いたしました」
私は、料理に目を落とす。
直接顔を見なくても、お父様がどんな顔をしているのかくらい想像がつく。
今年五十路を迎えるとは思えないほどの若々しい顔。その仏頂面が無ければもっと多くの人に愛されていたはずだ。
ふと、家族とは何かと考える。
親子の会話がない。
会話があるのは使用人とのみ。
そんな家族の形が一般的なら、こんな苦しい思いをしなくてもいいのだろうか。
お父様、お忙しいのでしょうね。
私、この前の全国共通模試で一位を取りました。この成績だと、大学は選びたい放題だと言われました。
生徒会も新たな形となり、生徒会長としてより良い学園づくりのために奮闘しております。
あ、生徒会に男子教諭が顧問として来たんです。あまり好きではないタイプです。なにか、嘘っぽいから。
そういえば、来週は‥。
「ですが旦那様。どうか来週の水曜日はお早めにお帰りになってくださいませ」
私はゆっくりと顔を上げた。
木崎の顔を見る。
木崎は真っ直ぐにお父様の顔を見つめていた。
私の思いを言葉にしてくれた。
恐る恐る、お父様の方を見る。
「・・・」
無言で食堂を出て行った。
一つ、息を吐く音が後ろからした。
私の視線を感じた彼女は、安心させるように微笑んだ。
「さぁお嬢様。早く召し上がらないと遅刻してしまいます」
年齢不詳のこの使用人は、笑うとずっと幼く見える。
「いただきます」
自分を理解してくれる人が近くにいるだけ、幸せなのかもしれない。
料理を口に運ぶ。ちゃんとソーセージと卵の味がした。
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何かがおかしい。
学校の正門に着くなりそう感じた。
時刻は8.00。
いつもはこの時間は既に多くの生徒と教師が歩いている。
いつも開き切っている門は人一人通れるくらいには開いている。
私はポケットにあるスマホを取り出してカレンダーのアプリを起動させる。
今日は間違いなく登校日だ。
放課後のスケジュールもびっしりと書かれており、昨日は副会長の河合さんから今日の予定を確認された。
なのに、人の気配がまるでしなかった。
今にも雨が降りそうな曇天。
何匹ものカラスが不気味な鳴き声と共に宙を飛び交っている。
先帝高校のホームページを開く。
特に臨時休校になった案内もない。
「何か、嫌な予感がするわね」
私の予感は不思議と当たる。
引き返すべきかどうか迷ったが、この門の開き具合を考えると、誰かが鍵を開けて中に入ったのは間違いない。
門の鍵を持っているのは教員だけ。
何か問題があるなら生徒会長として放っておくわけにもいかない。
私は正門をくぐり、中に入ることにした。
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「どうなってるの」
校内の電気はすべて消えており、あらゆる部屋の鍵は閉まっていた。
「一体、何が起こっているの」
流石にこのおかしな状況に不安を感じる。
私はスマホを開いて、生徒会のグループチャットを開いた。
しかし、手が止まる。
グループではなく、直接誰かとやりとりするべきか。
あり得ないことだが、もし私が知り得ない事で今日休校になっていたとしたら‥。
ガタン、と下の階から何かが落ちる音がした。
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