催眠学校〜今日から君はAV監督〜

本田 壱好

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第五章

氷姫は機嫌良く歌わない①

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夢を見た。

広い公園で大きなシートを広げている三人家族。

そこにいたのは、まだ小さい頃の私とお母様とお父様。

手作り料理を頬張る私をお母様が微笑ましげに見つめている。

そしてその隣にいるお父様の視線は私ではなくお母様に向けられていた。

場面が変わる。

手を繋いで歩く私とお母様。

私は、何かを見つけた。

ヒラヒラと浮かぶ、何か.
それをお母様の手を離して追いかける。

ヒラヒラ、ヒラヒラ。
どこまで行くの?その先に何があるの?

その浮かぶ何かは、私を案内する。
母様の叫び声。
私の体を、柔らかいものが包むのが分かった。

---
--
-

「いやぁぁああ!!!」

場面が、変わる。

チッ、チッ、チッという時計の秒針が進む音。

「どうされましたか!」

勢いよく扉が開き、使用人の木崎きさきが勢いよく中へ入ってきた。

「お嬢様?」

「‥何でもないわ」

全身が汗で濡れている。
本来なら、この醜態ともいえるこの姿を誰にも見られたくないのだが、この使用人の木崎にだけは見られても構わなかった。

「また、あの時の夢を?」

「‥ええ」

うたお嬢様、今からワタクシが申し上げる事をどうかお許し下さい」

木崎は恭しく頭を下げ、私の返事を待たずに続けた。

「やはり、カウンセリングをお受けになって下さい。お嬢様のその心的外傷は、一介の養護教諭には任せられません。私が懇意にしているカウンセラーなら、きっとお嬢様の——」

木崎、と私は名前を呼ぶ。
私はゆっくりと首を横に振った。

分かっているわ。
貴方が誰よりも私の心配をしてくれている事くらい。

「今の私には、どんな有能なカウンセラーよりも真野先生との面談が効果的で必要なの」

勿論、こんな言葉本人の前では絶対に言えない。

「‥承知いたしました」

知り合ってもう10年になる私専属の使用人は、澱みない動作で頭を下げた。

私が一度決めた事なら意地でも結論を変えない事を知っているのだろう。

そして私も、木崎が効果的や必要という言葉に弱いと言う事を知っている。

この、適度な距離で居られる関係性が心地いい。

「お嬢様、朝食の準備が出来ております」

「シャワーを浴びてから行くわ」

承知しました、と頭を下げて室内を出ていった。

広いこの空間にポツリといると、無性に寂しくなる。
悪夢を見た後は尚更だ。

「お母様‥」

その言葉は誰にも届かない。

---
--
-

螺旋階段を降りて一階の食堂へ向かう。

時刻は7.00。

いつもはこの時間帯は使用人以外誰もいないが、今日は違った。

一番奥のダイニングテーブルに座っている人物を見て、私は息を呑んだ。

「・・・」

カチャカチャ、とナイフとフォークを動かしながら朝食を摂っているのは、間違いなくお父様だった。

お嬢様、と若い使用人が椅子を引く。
私はその椅子に腰をかけ、並べられた朝食の前に固まった。

4日振りの姿。
綺麗に整えられた髪。汚れひとつないスーツとネクタイ。
私に一瞥もくれないお父様。
4日前と何ひとつ変わらない。

私は、フォークとナイフを手に取り、シェフが作った洋食料理を口に運ぶ。

いつもは美味しいこの料理も、今は味がしなかった。




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