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第四章

権力者は思うがままに命ずる①

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最近、少し妙な事が起こっている。

「おはようございます」

「おはよう」

爽やかな笑顔と礼儀正しい挨拶。

「校長。今日も嬉しそうですね」

体育教師の馬場先生が私に向かって楽しそうにそう聞いてくる。

「ああ。彼らを見ていると、誇らしい気持ちになる」

先日、隣町の高校に赴く機会があった。その高校も県内トップの進学校という事を謳っている学校なのだが、礼儀正しく挨拶をしてくる生徒が大半の中でも、挨拶はおろか制服も正しく着こなしていない者がいた。

それに比べて我が校はどうか。
挨拶、着こなし。そんな事はできて当たり前。
皆が皆、生徒会を見本とし、それに倣って上を目指している。

それもこれも、先帝高校が掲げる【学校=競争社会】という学校理念に基づいた教育のおかげだ。

全てのものが平等な社会。比べない学校教育。馬鹿馬鹿しい。

自由な校風?生徒の自主性を重んじる?
そんな不確かなもので社会でやっていける訳がない。
教育とは、強制。それが私のポリシーだ。

私の教育理念に間違いはない。
それは、今まで社会に出た教え子たちが証明してくれている。

そう、例えば。

「今日も朝早くから生徒達への挨拶、頭が下がります」

「あぁ、おはよう」

恭しく頭を下げながら私に声をかけてきたのは、新任教師の大門入人。
彼は私が教師であった頃から目をつけていた逸材だ。

「何か起きた時に、私の顔を覚えられていなかったら話にならないからね」

「流石です」

またもや頭を下げる。

「おはようございます」

「‥あぁ、おはよう」

生徒会の高良美兎。
横にいるのは、友人の百合智永。

やっぱり、少しおかしい。

「校長、どうかしましたか?少し額に汗が」

「あ、いや、大丈夫だ」

私はハンカチで汗を拭いながら、女子生徒の姿を目で追う。

その、スカートの中に隠された、魅惑的な‥。

いかん、いかん。
私は、やはり最近どうかしている。

先日から、女子生徒が気になって仕方がない。

「クハッ」

笑い声がどこからか聞こえた気がした。

———
——


「それでは、本日もお疲れ様でした」

放課後のミーティングが終わり、私の挨拶で教員一同頭を下げる。
なんとも言えぬ至福の瞬間。

この学校で教鞭を取っていた頃から夢見ていた光景が、今まさに現実に起こっている。

元々私は、誰かの上に立つのが夢だった。
社会に役立つ人間を育成し、排出する。その最たるものが私にとって教育現場だ。

そう、私の一言で皆頭を下げる。
支配者の特権ではないか。

‥支配者?

何を、馬鹿な事を。
一瞬、この学校の私以外の全てが、奴隷のように‥。

そんな事を一瞬でも頭によぎった己を恥じた。

「校長、顔色が優れませんね」

教頭がコーヒー片手に近づいてくる。

「あぁ、少し疲れたみたいだ。少し、休むとしよう」

「そうして下さい。と言いたい所ですが」

教頭の言わんとする事が分かっていた私はそれを手で制した。
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