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第四章

可憐な少女は扉を開ける⑦

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「どうしたら、いいの」

真野先生が泣きそうな顔になりながら、懇願するように項垂れた。

「お願いだから、何でもするから、生徒達は巻き込まないで」

そっと私から離れ、真野先生は頭を下げる。
嫌だ、嫌だ、こんな男に先生が。

「ほう。何でも、ねぇ。素晴らしいな、真野先生。君の生徒を思う気持ちは本物だ。深い催眠下であっても、生徒の事を思うと解けてしまう。そんな君だから、めちゃくちゃにしたい」

男の邪な笑みが、時の映像の男と重なった。脳裏に甦り、私は「い、いやぁあぁあ!!!」と叫んだ。

今度は私が守るように真野先生を抱きしめた。
その衝撃でかけていた度が入っていない眼鏡が外れる。
目の前は、涙でぐちゃぐちゃだ。

「真野先生に手一本触れさせない!」

目の前の男は、そんな私を見て物珍しそうに観察していた。

「あなたの目的は何!」

「目的?」

その問いに、男は腕組みをしてブツブツと何か言っていた。

「一体何がしたいの!」

「目的、目的、俺の、目的‥」

そして、頭を掻きむしり、その場で激しく咳き込んだ。

「俺、俺の、目的?なんだ、いま、さら何を」

もしかして、今がチャンスなのではないか。
真野先生と目が合い、お互い頷く。

目の前の男は何故か取り乱している。
今が、ここから離れるチャンス。
高良さんと夢野さんは呆然と立っている。
彼女達を連れて逃げるのは不可能だ。
しかし、逃げてどうするのか。
分からない、でも、一刻も早くこの場を離れなければ。

ゆっくりと立ち上がり、私たちは気づかれないように扉へと向かった。

気づかれている様子はない。
扉まで、あと少し。
あと、数歩。
扉に、手が。

ガチャっと、希望の道へと続く筈のその扉が、誰かによって開かれた。

「おや?これは一体」

扉を開けたのは、木本だった。
木本英雄。
私が嫌いな教師の一人。

その後ろから顔を覗かせたのは、見知らぬ男。先帝高校の制服を着ていると言うことは、この学校の生徒。

「あらぁ。これはまた、面白い状況だ」

裸の女子高生二人と、取り乱している男性教諭を見ても驚く様子がない。
後ろの男性生徒が「あわ、あわ‥」と分かりやすく取り乱していた。その顔は真っ赤だ。

木本が私の顔を見てニタっと笑った。
ぞくっと悪寒が駆け巡る。
こいつの、このセクハラめいた笑みがとことん気持ち悪い。
そんな木本は、私たちを素通りし大門の元へと近づいていく。
男子高校生はその場から動けないでいるようだ。
嫌な予感がする。催眠なんてもの、信じていないけど、この木本もきっとまともじゃない。

「ま、真野先生」

今のうちです、と手を引いたが、びくともしなかった。
不思議に思い顔を見ると、ウットリとした顔で木本を見ていた。

「真野、先生?」

口はだらしなくあいており、目の奥の瞳は先ほどのようにトロンとしている。

おかしい。先生は、婚約者がいて、とても仲が良くて、他の男なんて目もくれないくらい幸せそうで‥。

私は怖くなり「真野先生!」と叫んだ。
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