68 / 133
第四章
可憐な少女は扉を開ける⑥
しおりを挟む
「じゃあ、質問するわね?あなたの悩みを教えて頂戴」
私の、悩みは‥。
「会長が、最近、冷たくて」
「一ノ瀬さん?どう冷たいの?」
その語りかける言葉がいつもの優しい真野先生のもので、私は何故か酷く懐かしくなって、泣いてしまう。
そう、会長は冷たい。
最近は特に。
「私が、話しかけても、聞いてない感じで、上の空で‥」
「そう、でもそれは貴方が原因じゃないわ。だって彼女は‥彼女、は、そう、そう、彼女の悩みは」
急に真野先生の視線が泳ぎ出す。
何度か同じ言葉を続けて、そして、目が覚めたように‥
ガタっとスマホが落ちて、私はボーッとした頭で真野先生の慌てる声を聞いた。
「ちょ、ちょっと、これ、一体、何が」
真野先生は自身が裸であることに驚いている様子で、下に落ちている白衣を拾って隠した。
私は、少し残念な気持ちになるが、少しずつ意識がはっきりしてくる。
クックック、と小刻みに笑う声。
その男に真野先生がキツく睨み叫んでいる。
「大門先生、また、貴方の仕業ね」
唇をキュッと結び、ワナワナと震えている。
「真野先生‥」
私は、そんな真野先生の顔を初めて見た。同時に、自分もおかしな状況にあることに気がつく。
「は、離しなさい!」
先ほどよりも拘束する力が弱くなっていたので、高良さんの抑えている腕を簡単に振り解くことができた。
「真野先生!」
私は先生の胸に飛び込む形になる。
先生は私の名前を呼び、まるで子を守る母親のように、ぎゅっと私を抱きしめた。
その、安心感に、私はまた泣きそうになる。
この、包まれている感覚をずっと求めていた。
そう、あの男に、イタズラをされた後も。
母親は私の味方ではなく、あいつの味方だった。
パチパチと大袈裟な拍手が聞こえる。
「本当に、立派だよ真野先生」
拍手と同時に頷く大門入人は、ゆっくりとした足取りで私達に近づいてくる。
「近寄らないで!」
真野先生が大声を上げる。
そうか、私も、叫べば、もしかしたら誰か来てくれるかもしれない。
「だれか‥」
パン、と大きな音がした。
「いいのか?大声を出して」
目の前の男が不敵に笑う。
「真野。お前は既に分かっているだろうが、この場にいる人間は全員催眠下にある。河合可憐を除いてな。もっとも、お前もほぼ掛かっているみたいなもんだが」
「催、眠?」
何を言っているの。
真野先生が震えているのが分かる。いつもは優しげな先生の顔が、敵意を隠さず睨んでいるところを見ると、その震えは悔しさからくるものだと思った。
「俺がキーワードを言うと、お前は再び催眠状態に陥る。暗示のまま動くお前たち。今ならこの場の人間だけで済む出来事を、果たして第三者の介入を許してしまってもいいのかな」
俺は全く構わないが、と不敵に笑った。
私は何が何だか分からない。
私の、悩みは‥。
「会長が、最近、冷たくて」
「一ノ瀬さん?どう冷たいの?」
その語りかける言葉がいつもの優しい真野先生のもので、私は何故か酷く懐かしくなって、泣いてしまう。
そう、会長は冷たい。
最近は特に。
「私が、話しかけても、聞いてない感じで、上の空で‥」
「そう、でもそれは貴方が原因じゃないわ。だって彼女は‥彼女、は、そう、そう、彼女の悩みは」
急に真野先生の視線が泳ぎ出す。
何度か同じ言葉を続けて、そして、目が覚めたように‥
ガタっとスマホが落ちて、私はボーッとした頭で真野先生の慌てる声を聞いた。
「ちょ、ちょっと、これ、一体、何が」
真野先生は自身が裸であることに驚いている様子で、下に落ちている白衣を拾って隠した。
私は、少し残念な気持ちになるが、少しずつ意識がはっきりしてくる。
クックック、と小刻みに笑う声。
その男に真野先生がキツく睨み叫んでいる。
「大門先生、また、貴方の仕業ね」
唇をキュッと結び、ワナワナと震えている。
「真野先生‥」
私は、そんな真野先生の顔を初めて見た。同時に、自分もおかしな状況にあることに気がつく。
「は、離しなさい!」
先ほどよりも拘束する力が弱くなっていたので、高良さんの抑えている腕を簡単に振り解くことができた。
「真野先生!」
私は先生の胸に飛び込む形になる。
先生は私の名前を呼び、まるで子を守る母親のように、ぎゅっと私を抱きしめた。
その、安心感に、私はまた泣きそうになる。
この、包まれている感覚をずっと求めていた。
そう、あの男に、イタズラをされた後も。
母親は私の味方ではなく、あいつの味方だった。
パチパチと大袈裟な拍手が聞こえる。
「本当に、立派だよ真野先生」
拍手と同時に頷く大門入人は、ゆっくりとした足取りで私達に近づいてくる。
「近寄らないで!」
真野先生が大声を上げる。
そうか、私も、叫べば、もしかしたら誰か来てくれるかもしれない。
「だれか‥」
パン、と大きな音がした。
「いいのか?大声を出して」
目の前の男が不敵に笑う。
「真野。お前は既に分かっているだろうが、この場にいる人間は全員催眠下にある。河合可憐を除いてな。もっとも、お前もほぼ掛かっているみたいなもんだが」
「催、眠?」
何を言っているの。
真野先生が震えているのが分かる。いつもは優しげな先生の顔が、敵意を隠さず睨んでいるところを見ると、その震えは悔しさからくるものだと思った。
「俺がキーワードを言うと、お前は再び催眠状態に陥る。暗示のまま動くお前たち。今ならこの場の人間だけで済む出来事を、果たして第三者の介入を許してしまってもいいのかな」
俺は全く構わないが、と不敵に笑った。
私は何が何だか分からない。
0
お気に入りに追加
130
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる