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第四章
可憐な少女は扉を開ける①
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憂鬱だ。
「つまり、角θを媒介変数として、次の式の双曲線を表すと—‐‐」
数学教師の大門入人が黒板に向かって式を展開させている。
クラスメイトの面々は、皆真面目に黒板の内容をノートに書き写している。
「ここまでで何か質問は」
振り返り、憎たらしいほど爽やかな笑顔で生徒たちへ問いかける。
「はいっ」と手を挙げるのは何人かの女子生徒達。
指名された女の子は嬉々とした表情で質問する。
彼女は確か成績優秀だった筈だけど。
当たり障りの無い質問をし、丁寧に大門入人が答えている。
憂鬱。
別に数学という教科が嫌いなわけではない。論理的思考が求められる分野は好きだ。
何が憂鬱って、その原因はハッキリしている。
「他に質問は?‥無いようなので、次のページに」
この、常に面を被っている男性教諭。
この男が、生理的に受け付けない。
取り繕ったような笑顔も、優しげな声も、女性に人気なところも。
「河合」と名前を呼ばれただけでも悪寒がする。
一度、同じ生徒会の高良さんにこう聞かれたことがある。
「ねぇ副会長。入人‥大門先生の事、やっぱり嫌?」
少し遠慮がちに、申し訳なさも含めて問いかけて来たその理由は、私が男性が苦手だという事を知っているからだろう。
「必要最低限のやり取りはしていますが」
そうですよね、と寂しげに言う彼女の顔を見ているとこちらまで申し訳なく思えてくる。
あれから、何故ここまで嫌悪感を抱くのかを考えていた。
男は嫌い。
小学生の時の、あの日以来、男は苦手で、基本的に受け付けない。
それでも最低限の関わりはする。別に、彼だけが特別嫌だと言うわけでは無い。
特に苦手な低身長の肥満体質でも無い。
では、なぜ?
頭を悩ませ考えたが、結局は一つの結論に帰結する。
会長が嫌っているからだ。
もう三年の付き合いになるので、会長が大門入人に接する態度から心底嫌っているのは分かった。
会長は、良くも悪くも裏表が無い人だ。
氷姫だなんてあだ名で冷たい人という印象を持たれているけど、本当は違う。
厳しい言葉をかける理由は、その人ならきっと乗り越えられると諦めていないからだ。
中には合わない生徒もいるだろう。しかしそんな気ままで生徒とは関わらない。
好きか嫌いか、合うか合わないか等という小さいレベルで生徒達と向き合っていないのだ。
それは生徒だけではなく教師も含めた事だと思っていた。
実際、今まではそうだった。
その会長が、大門入人にだけは嫌悪感を隠さない。
明らかに自分が嫌いだからと言う理由で、避けている。
何故だろう。そこは、いまいちピンと来ない。
なのに私は、会長が嫌っているからという理由で同様に嫌悪感を抱いている。
会長が嫌いな人間には必ず何かある。それほど私は会長に全幅の信頼を置いている。
「つまり、角θを媒介変数として、次の式の双曲線を表すと—‐‐」
数学教師の大門入人が黒板に向かって式を展開させている。
クラスメイトの面々は、皆真面目に黒板の内容をノートに書き写している。
「ここまでで何か質問は」
振り返り、憎たらしいほど爽やかな笑顔で生徒たちへ問いかける。
「はいっ」と手を挙げるのは何人かの女子生徒達。
指名された女の子は嬉々とした表情で質問する。
彼女は確か成績優秀だった筈だけど。
当たり障りの無い質問をし、丁寧に大門入人が答えている。
憂鬱。
別に数学という教科が嫌いなわけではない。論理的思考が求められる分野は好きだ。
何が憂鬱って、その原因はハッキリしている。
「他に質問は?‥無いようなので、次のページに」
この、常に面を被っている男性教諭。
この男が、生理的に受け付けない。
取り繕ったような笑顔も、優しげな声も、女性に人気なところも。
「河合」と名前を呼ばれただけでも悪寒がする。
一度、同じ生徒会の高良さんにこう聞かれたことがある。
「ねぇ副会長。入人‥大門先生の事、やっぱり嫌?」
少し遠慮がちに、申し訳なさも含めて問いかけて来たその理由は、私が男性が苦手だという事を知っているからだろう。
「必要最低限のやり取りはしていますが」
そうですよね、と寂しげに言う彼女の顔を見ているとこちらまで申し訳なく思えてくる。
あれから、何故ここまで嫌悪感を抱くのかを考えていた。
男は嫌い。
小学生の時の、あの日以来、男は苦手で、基本的に受け付けない。
それでも最低限の関わりはする。別に、彼だけが特別嫌だと言うわけでは無い。
特に苦手な低身長の肥満体質でも無い。
では、なぜ?
頭を悩ませ考えたが、結局は一つの結論に帰結する。
会長が嫌っているからだ。
もう三年の付き合いになるので、会長が大門入人に接する態度から心底嫌っているのは分かった。
会長は、良くも悪くも裏表が無い人だ。
氷姫だなんてあだ名で冷たい人という印象を持たれているけど、本当は違う。
厳しい言葉をかける理由は、その人ならきっと乗り越えられると諦めていないからだ。
中には合わない生徒もいるだろう。しかしそんな気ままで生徒とは関わらない。
好きか嫌いか、合うか合わないか等という小さいレベルで生徒達と向き合っていないのだ。
それは生徒だけではなく教師も含めた事だと思っていた。
実際、今まではそうだった。
その会長が、大門入人にだけは嫌悪感を隠さない。
明らかに自分が嫌いだからと言う理由で、避けている。
何故だろう。そこは、いまいちピンと来ない。
なのに私は、会長が嫌っているからという理由で同様に嫌悪感を抱いている。
会長が嫌いな人間には必ず何かある。それほど私は会長に全幅の信頼を置いている。
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