催眠学校〜今日から君はAV監督〜

本田 壱好

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第三章

分岐点

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電話を切った後も、胃の中のムカムカが治ることは無い。

大きく息を吸い、ゆっくり息を吐く。
大丈夫、俺は大丈夫。
そう、暗示をかけていく。

‥よし。少し落ち着いてきた。

言いたい放題言われたが、確かに、あいつの言う事も一理ある。
俺は、親父から確かに逃げていた。
いつも一方的に喋り、俺の意見なんて聞いてもらった試しはない。

親父亡き後の会社なんぞ、知ったことではないとも思っていた。

‥しかし、別に路頭に迷えばいいなんて思った事もない。俺は、ある意味、親父の‥。

ピコン、とスマホがメッセージを受け取った事を知らせた。

「‥っ!」

送り主は、江口。
前回と同じように動画ファイルが添付されてある。

一体、今度は何だ。
添付ファイルを開いてみると、江口が映った。前回と同様に、真っ白な空間の中心に座っている。

『やぁ。入人くん。調子はどうだい』

変わらずヘラヘラと不気味に笑う。

『もうすぐ一ヶ月が経つが、いい作品は撮れてるかな?‥うん、うん。はぁ‥』

大きくため息をつき、首を左右に振る。

『全然ダメだね。百合路線と痴女路線。まぁ、悪くはないが、甘いよねぇ。もっと壊したらいいのにさぁ』

顔をカメラに近づけ、目を覆っている髪の隙間から怪しげな瞳が見えた。
何で、知っているんだ。

『どーせ、偽善に溢れた君のことだ。可哀想だの、まだ早いだの、理由をつけて後回しにしているんだろう。いいんだよ、そういうの。そこで、これだ』

江口は振り向き、ガサガサと、後ろから何かを取り出した。
なんだ、あれは。

『ベルさ。そのまんま、催眠ベル。これを二度鳴らすと、相手は催眠状態になる。送る事は出来ないから、この後ベルの音源を添付しておくよ』

そう言って江口はベルを二度鳴らす。

ちりりーん、ちりりーん。

何だ、この音色。
頭が、ボーッとする。
最高級の布団に包まれているかのような、安心感。心地よさ。

『さぁ。このベルの音源を相手に聞かせると一度だけ、どんな相手でも君の言う事を聞けるよ。焦ったい君へのプレゼント。どうぞ、有効的に使ってくれ。もっとぐちゃぐちゃに。学校なんて、クソダメだろ』

ちりりーん、ちりりーん。

あぁ、意識が、遠のく。
最後に聞こえてきた江口の声は、何か言っていた気がしたが、分からなかった。

~とある商店街にて~

深夜00時を回った商店街。
そこにはすっかり人気はなく、誰もこの通りを通る人物はいない。
しかし、そんな場所に一つの屋台が怪しげに光っていた。
その屋台に一人の人間が立ち寄る。
真っ暗闇から現れたその男に光が差し、黒から白へと変わった。

「やぁやぁ。どうですか、調子は」

屋台の中から、中性的な声が聞こえてくる。
問いかけられた人物は、含み笑いをしながら答えた。

「これからだ。これから、きっと、ぐちゃぐちゃになる」

「‥重ねますが、規約に触れる事だけはしてはいけませんよ?」

「あぁ」

暗闇の中から一人の不気味な笑い声だけが、誰もいない商店街に響き渡っていた。




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