催眠学校〜今日から君はAV監督〜

第二章

解放③

「あれ、分かりにくかった？セックスの事を聞いてるんだけど」

ぞわっと体を震わせ、本能的に少しずつ距離を取る山辺茜は、何とか平静を装おうとして、ぎこちなく笑った。

「ま、またまたぁ。それ、セクハラですよ？」

「真剣に聞いてるんだよね。いつしたの？彼氏？」

「いい加減にしてください。そろそろ、洒落になってませんよ」

初めて見せる嫌悪感の眼差し。
いい、いいね。
これくらいじゃないと効果は試せない。

俺は催眠アプリを起動し、山辺茜の名前をタップしSTARTボタンを押した。

「ごめんごめん。本題はこっち。見てほしくてね」

「何ですか、これ」

丁度街灯の下で立ち止まり、彼女は画面を見る。

彼女の瞳に、様々な色が映し出される。
色を変え、グルグルグルグルと円運動を行う。

「‥‥‥」

それに魅入っている彼女の目が段々と細く、今にも瞼は閉じそうだ。


最後に一つ眩い光が画面から飛び出し、思わず目を閉じた。

次に目を開けた瞬間、彼女の瞳から光は失われて虚な表情で立っていた。

「山辺さん？」

目の前で手を振ってみても反応がない。
まるで人形だ。

このアプリは、本物だ。

俺は喜びからその場で飛び跳ねたかった。
しかし、本番はここからだ。

一つ深呼吸をして質問をする。

「あなたの名前を教えてください」

「‥山辺、茜」

いつもの彼女の、ハキハキとした口調からは想像も出来ない程の平坦な声。

これだけで、俺の下半身は痛みを覚える。

「山辺さん、あなたには恋人がいますね？」

「‥はい」

「その彼氏と最後にエッチしたのはいつですか？」

「さいご、に、エッチ‥あ、あ」

顔をしかめ、口をパクパクと動かしている。

ちっ。
まだ理性が抑制をかけているのか。これで、☆2。☆3ならどうなるのか。


待てよ。このランクの基準は本来持っている催眠へのかかりやすさと信頼度の表れから来るものと書いていたな。かかりやすいかどうかについては調べる術はないが。全く信頼されていなければ、いくらかかりやすくても☆2なんてつかないのではないか。
信頼度というものだけに焦点をあてると、☆2はそこそこ信頼されてるのでは？
その信頼はどの類のものなのか分からないが。
山辺茜とは知り合ってまだ日が浅い所から考えると、単純に、人畜無害な相手としての信頼なのかもしれないな。
人間として信頼しているわけではない。何でも相談できる存在でもない。
だったら、俺がそういう存在になればいい。

この催眠アプリが、ほんとに認識を変化させることができるなら。

俺は少し考え、質問を変える。

「あなたは大門入人の事をどう思っていますか」

「‥入人さん、格好良くて、真面目な人。でも、よくわからない」

そういうイメージが覆されたと言う事だろう。

「山辺さん、何でも相談できる人はいますか？」

「‥います。親友の、マミ」

催眠状態でありながらも少し表情が緩む。思い出すだけで気持ちが暖まる存在のかもしれない。

「他には？」

少し間が開き、あとは、いないと言い終える前に付け足した。

「入人さんも、あなたにとって何でも相談できる人ですよね？」

催眠アプリを再度開きSTARTボタンを押し見せる。

更に一段と表情が緩んだ。口元は少し開く。

「‥入人さん、なんでも、そうだん」

「そうです。彼はとても頼りになるので、彼には何もかも打ち明けたい。それがどんな恥ずかしいことでも」

「‥いりひとさん、うちあける、はずかしいこと」

催眠アプリを閉じる。
これで、催眠にかかったとは思うが、この後どうすれば。

ドン、と後ろから大きな音がしたり
街灯の裏には古い民家が立っている。襖か何か落ちたのだろう。

しかしその衝撃で、山辺茜はハッとした顔になり覚醒した。

「あ、れ？」

辺りを見渡し、状況を確認しようと試みる。そして俺を見つけ、「入人さん」と何かを言いかけたその時、すぐに変化が現れた。